第四百話
お待たせしてしまい申し訳ありません。
第四百話です。
ローズとの訓練を終えた後、空いた時間がとれたというキリハをアマコの元へ連れていくことになった。
その際にナギさんもついていくことになったが……。
『は、離せネア、フェルム! 私もアマコのところに行きたい!! ケモミミが三人揃うところに行きたぁい!!』
『スズネ貴女、今日の当番でしょ?』
『サボったら怒られるのは分かってんだろ、全く』
『ひぃーん……』
……まあ、さりげなくついてこようとしていた先輩がネアとフェルムにがんじがらめにされていたけれどあまり気にしないようにしよう。
キリハがアマコと会うのも数か月ぶりだ。
一応、ルクヴィスとは隣国ではあるけれどそう気軽に会えるわけじゃないのでキリハとしても嬉しいはずだ。
「アマコはどこに住んでいるんだい?」
「サルラさんって人の果物屋。そこで手伝いをしているんだ」
「果物屋なんだ」
夕暮れに差し掛かったリングル王国の街並みをきょろきょろと見回すキリハ。
今日は街の方を見回っていたとは聞いているけれど、やっぱり気になるんだな。
「やっぱりルクヴィスとは違う?」
「あっちは学生ばかりで大人の方が少ないくらいだからね。まあ、それを含めてもこっちは獣人の私を奇異な目で見たりしないから……そこはちょっと驚いてる」
そりゃあ、ここでは獣人より恐ろしい顔の強面たちがいるからね。
「……その理由も今日分かったけど」
「キリハ、どうして今僕を見たのかな?」
なぜ目を逸らす?
「あんたさらに化け物具合に磨きがかかってない? ルクヴィスの時よりえげつないことになってるじゃないか」
「そりゃあ、僕も成長しているからね。そうせざるを得ない状況でもあったし」
「……そっか」
僕の話はルクヴィスでも有名なのかキリハはどこか神妙な様子で頷いた。
でもある意味で……僕や強面たちが目立てば目立つほど獣人を含む亜人がここで注目されなくなるなら、多少は派手にやる意味はあったというものだ。
「戦争を乗り越えて、魔王と戦って、そのあとは魔力回しっていう画期的な技術を広める……なんだかあんたの話を聞くたびに遠くに行っちゃった気分にさせられるけど、いざ会ってみると変わってなくて安心するよ」
「え、そうかな? 怪物じみてるとはよく言われるけど……」
「外見じゃなくて中身だよ」
……外見も人間なんだけど? 言葉の綾なのは分かっているけれども。
「つまり、あんたは相変わらず滅茶苦茶で騒がしいやつってこと」
「それ褒めてるの……?」
「ふふ、私もあながち間違っていないと思うな」
「ナギさんまで……」
疑問に思ってしまう僕にナギさんが微笑ましそうに頷く。
「君は予知魔法使いの私やアマコにさえ予測できないことをするからね。でもそんな無茶苦茶さが君のいいところだ」
ど、どんな褒められ方なんだ……。
じゃあ、今後も無茶苦茶なことをしてもいいっていうアレなのか……?
別に自覚してやっているわけじゃないんだけどなぁ。
「そういうナギさんはここでの生活に慣れてきましたか?」
隣を歩くキリハの反対側の隣にいるナギさんにそう尋ねてみると、彼女は少し悩むそぶりを見せてから苦笑する。
「思っていた以上に充実しているよ。なんというべきか……ここは生きやすい国だよ。本当に」
「ならよかったです。先輩に悪戯とかされてないかちょっと心配でしたから」
「い、悪戯はされてるかなぁ。……結構な頻度で」
これは一度先輩に説教しておくか。
いやでも、ナギさんが早く救命団に馴染めるようにあえて変態的なムーブをしている可能性もあるんだよな……。あの人、理性と欲望を混ぜ込んで実行することあるし。
「先輩もナギさんなら許されると思っているのかもしれないですね」
「いや……私がど突いたらスズネを粉砕しちゃうかもしれないから……」
「ふ、粉砕?」
自然と物騒なことを口にしたナギさんにキリハがぎょっとした顔になる。
力がありあまりすぎるからど突けないってすごいな……。
ナギさんが手加減できないとは考えられないけど……うっかり力が入ったら大変だもんな。
「まあ、先輩のこと関係なしになにかあったら僕かネアに言ってください。多分、ナギさん達のことではネアが色々と気を回しているでしょうし」
「うん、そうだね。私とキーラが初めての宿舎の生活で困っているのを助けてくれたりしてる」
口では色々いいつつも面倒見いいからな。
伊達に何百年も村娘やってないので家事もかなりできるし。
「か、カンナギ様はいつからここに住んでいらっしゃるのですか……?」
と、そんな会話をしていると僕を挟んだ隣にいるキリハが恐る恐るそんな質問を投げかけた。
……もしかして僕を挟んでいるのは畏れ多いとかそんな理由……?
「さ、様なんてつけなくてもいいよ。年もそう変わらないと思うし」
「年もそう変わりないなんて……とんでもない時代に生まれてしまった……!」
「えぇ……」
ナギさんは獣人では英雄的な存在だからなぁ。
キリハからすれば偉人にあったくらいの衝撃的な出来事だったんだろう。
「私がリングル王国に住み始めたのは結構最近なんだ」
「その前はどこに……?」
「ヒノモトでアマコのお母さんと会っていたんだ」
「むべっ」
アマコのお母さん、という言葉に一瞬息詰まるキリハ。
なにがどうしたのかよく分からないけど、僕から質問してみるか。
「キリハはナギさんのことどれくらい知っているの?」
「あ、え、か、カンナギ様はねっ! うちの隠れ里でも語り継がれるくらいには有名なんだよ! 銅像もちゃんとある!!」
「がはっ!?」
今度は隣でナギさんがダメージを受ける。
それに気づかずキリハは目を輝かせながら僕に話してくる。
「カンナギ流の開祖で!」
「ぐはぁ!?」
「獣人文化の基礎を作り上げた立役者!!」
「ごはっ!?」
「伝説では最も美しく強いと称えられた気高き戦士で!!」
「ひぎぃ!?」
「実際会ったら本当に綺麗な人で———」
「ストップ、そこまでにしてあげて」
ナギさん、もうメンタル的にボロボロだから。
羞恥心とか諸々のダメージを受けたナギさんは僕の肩を掴みながらグロッキーになっている。
「ウサトぉ、なんでこんな話になっちゃってんだろぅ……!!」
「僕も何年後かにえげつない怪物として語り継がれるかもしれないと思うと他人事とは思えませんね……ははっ」
「お揃いだねぇ……!!」
なんというか僕もナギさんのことを言えないというか、風評被害じみた噂が出回っていそうだ。
少なくとも救命団の強面連中は人攫い呼ばわりされてるし。
どこか遠い国では魔王みたいな姿で伝わってそう。
「ナギさんがここにいることは知っていたの?」
「いや、風の噂でカンナギさ……さんが蘇ったって聞いて……まさかリングル王国にいるなんて夢にも思わなかったよ」
「げ、厳密には封印から解放されたんだけどね」
噂では蘇ったってことになっているんだ……。
ここで僕の肩にしがみついていたナギさんが回復し、口を開く。
「私はヒサゴ……先代勇者に事情があって最近まで封印されててね。紆余曲折あってウサト達に助けられて今は救命団の一員として身を置かせてもらっているんだ」
「そ、そういうことでしたか……」
説明すると結構複雑なんだけどね。
さすがに遺跡のことを話すとこんがらがっちゃうだろうし僕もナギさんも話さないけど。
「そろそろアマコのいる店だね」
街中の果物屋に近づくとお店から、ひょこっ、とアマコが顔を出す。
既に街中で見かけていたのか彼女はキリハに向かって軽く手を振っていた。
●
アマコのいる果物屋に到着した僕たちはすぐに果物屋の店主であり、アマコの保護者であるサルラさんにお店の奥へと案内された。
「サルラさん、店番は……」
「店番なんていいよいいよ。あんたの友達が来てんならそっちの方が優先さ。それにウサト様もいるんだ。店の前で立たせるわけにもいかないさ」
豪快にそう言ってくれた彼女は明るい笑みを僕たちに向けた後に店の方へと向かっていく。
その後ろ姿を見送ったキリハは穏やかな笑みを浮かべる。
「優しい人なんだね」
「うん。私にとってもう一人のお母さんみたいな人」
アマコがリングル王国に来てからずっと面倒を見てくれている人らしいからね。
ここはアマコにとっても家みたいなものなんだろうな。
「学園関係でここに来ているのはなんとなく分かるけど、キョウは来なかったの?」
「キョウはニルヴァルナ王国に希望を出していたからね。今はルクヴィスでサツキと一緒に留守番だよ」
「あー、キョウならニルヴァルナはあってそう」
ニルヴァルナとなるとかなり鍛えられそうだな。
あそこは亜人差別云々より、力を示せば認められるような感じだからそういう意味では獣人も進路として選びやすいんだろう。
「リングル王国に来て驚いたでしょ?」
「すっごい驚いた」
「ここの人たちは慣れちゃってるけど最初に見たときは衝撃的だよね」
「うんうん」
「ルクヴィスなんて序の口だったでしょ?」
「マジでやばい」
なんだろう、なにについて驚いているとかまっったく言葉として出てないけど、これ絶対僕のこと言ってるよね?
「でも一番の驚きはカンナギがいたことでしょ?」
「うんうん、正直今でも信じられないくらい」
「そ、そんな大袈裟な……」
強く頷くキリハにナギさんがおろおろする。
その様子を傍から見て微笑ましく思っていると、ふと疑問が浮かぶ。
「そういえば、君はどうしてナギさんに土下座してたの?」
「え!? あ、いや、そ、それは……」
僕とローズの手合わせが終わった後、どういうわけかキリハがナギさんに土下座していたんだよな。
険悪とかそういう雰囲気じゃないけど、なにがあったのか気になってたんだ。
「キリハ、また土下座したの?」
「そんな頻度で土下座してないよっ!」
そういえばルクヴィスに来た時、キリハに土下座されたことがあったな。
すっごい遠い昔に思えてくる。
しみじみとそう思っていると悩むそぶりを見せたアマコが口を開く。
「もしかしてカンナギを私の母さんと間違えたとか?」
「うっ」
「ぐはぁッ」
「え、嘘じゃん」
呻くキリハに胸を押さえて崩れ落ちるナギさんにさすがのアマコも唖然とする。
え、ナギさんをカノコさんと間違えたの?
……いやでも、ありえない話じゃない……のか?
「私、そんな老けてるように見えるのかなぁ……」
「少なくとも私よりは」
「うわぁぁぁ……」
「アマコも追い打ちをかけない。ナギさんは僕たちとほぼ同い年ですし全然老けてないですから……!!」
なんでここで追い打ちをかけにいくんだこの子狐は。
カノコさんに娘認定されたから遠慮がなくなっているのか。
さっきからメンタルばっかり攻撃されてるナギさんを慰める。
「ウサトはどんな感じ?」
「どんな感じって?」
「今日、街が騒がしかったからなにかやらかしたのかなって」
「判断おかしくない?」
僕がなにかしたら街がざわつくのかよ。
……確かに今日はやらかしてたわ。
「団長と手合わせしてただけだよ」
「え、見に行けばよかった」
「フッ、僕の新技を見なかったのは損かもしれないな」
「どんな技? 回転する治癒魔法とか?」
「相手の弱点を見つける治癒魔法だ」
と、軽く説明するとカップにいれられたお茶を口にしたアマコがほっと一息つく。
「そうなんだ。またすごい技だね」
「アマコ!? なんだか慣れすぎじゃない!?」
特に驚きもしないアマコにキリハがツッコミをいれた。
「だってウサトだもん。こんなことでいちいち驚いてたらリングル王国でやっていけないよ?」
「騎士になるよりここの住人になるほうが難易度高くない!?」
なんだかここの人たちが他の国から見てすごい認識のされ方をしているのだけど。
でも救命団の訓練風景を毎日見ていることを鍛えられているというのなら、確かにリングル王国民は強者だらけといってもいいのかもしれない。
「あ、ナギさん」
「ん? なにかな?」
「僕、帰りに城に行く用があるので先に帰ってもらってもいいですか?」
「ああ、別に構わないよ」
不意に城に向かう用事を思い出した。
気になったのか怪訝そうな様子でアマコがこちらを見る。
「城になにしに行くの?」
「ウェルシーさんに会いに。僕の魔力回しの研究を今しているんだけど、団長の許可をもらって救命団でもできるようになったことを伝えようと」
「……研究中に研究する項目が増えそう」
「分かる」
予知魔法持ちの二人がそう言うと違うな。
というより、実は治癒診断以外にももう一つ確かめたいことがあるんだよな。
「アマコ、魔力回しってやってる?」
「え、そこそこやってるけど」
「じゃあ、手を出して」
「ん」
迷いなく差し出されたアマコの手に僕も手を乗せる。
彼女の魔力回しの流れに乗せこちらの治癒の魔力を流す。
そしてここから———、
「ウサト」
「うん?」
「これはさすがにおかしすぎる。ウェルシーさんかわいそう」
そこまで言うか。
ちょっと明かすのが憚られるけど、ちゃんと言わなくちゃな。
……いきなり明かすんじゃなくて、この後事前に伝えとくか。
次回もやらかすウサトでした。
次回の更新は明日の18時を予定しております。




