第三百九十九話
二日目、二話目の更新となります。
前話を見ていない方はまずはそちらをお願いします。
第三百九十九話です。
ローズと組手をする時は自分の力のみでやると決めている。
理由としては単純にフェルム、ネア、キーラの力を借りたとしても彼女に通じないから。
魔術は通用せず、闇魔法の鎧は拳で打ち砕かれ、空を飛ぼうとすれば叩き落とされる———こんな未来は予知魔法を使わずとも目に見えてた。
いくら仲間が力を貸してくれても僕自身がローズと戦える力がないと意味がない。
「さっきのは結構効きましたよォ!!」
「減らず口は叩けるようだなァ!!」
先ほど林の中にぶっとばされるほどの一撃をもらい、また訓練場に戻った僕に再びローズは攻撃を仕掛け続ける。
「オラァ!!」
「ぬっ、うぅん!!」
繰り出された拳を両腕で受け止める。
地面を削りながら耐え、瞬時に接近してきたローズの蹴りを避ける。
「読めてますよォ!!」
反撃とばかりに掌に作り出した治癒爆裂弾を至近距離で直撃させようと突き出す。
だがローズは僕の爆裂弾に手を重ねあろうことか爆裂弾を握りつぶした。
「しゃらくせぇ」
「なっ!?」
なんて非常識なッ!!
手を引こうとするがローズはそのまま僕の手を引き寄せ、反対の手に拳を作る。
「ッまず!?」
「オラッ!!」
———腹部への強烈な一撃。
腹に拳がめり込み、意識が飛びかける———が、逆に右手を掴んでいる手を左手で掴み、ローズに蹴りを叩きこむ。
蹴りはローズの腕に防がれてしまった……けど!!
「ようやく貴女に防御させるようになれましたよ!!」
「フッ」
咄嗟に腹に回した弾力付与で防御したけどかなりの衝撃が通ってきたぞ!
やっぱりとんでもない力だなこの人は……!!
「おいおい、まだ終わってねぇぞ!!」
「ですよねぇ!!」
依然として掴まれたままの右手が振り回され、僕の身体が玩具のように宙を舞う。
ぶん投げられた、と認識した直後に魔力感知と弾力付与を同時に行い———今にも激突しようとしている木に魔力を籠めた拳をぶつけ、衝撃を和らげる。
「ふぅっ!!」
地面に着地し額を拭い周りを見ると、場所は訓練場から少し離れた林の中。
どうやら訓練場から一気にここまで投げ飛ばされてしまったようだ。
「っ来る!!」
悪寒を抱くと同時に背を向けるように走りだし、通りがかった木に治癒爆裂弾を張り付けていく。
くっつけてから数秒ほどで破裂した爆裂弾は衝撃波と魔力をまき散らし、近くにまで迫っていたであろうローズの反応を僕へ伝えてくる。
「ものともしてないですねぇ……!」
なんであの人、衝撃波に無反応なんだろうか。
迷いなく僕へと突き進んでくるし、次々と木に張り付けた爆裂弾を無視してきてる。少しくらい怯んでほしかったけれど……!!
「やっぱり貴女とは拳でやらなきゃ駄目だな!!」
爆裂弾の連鎖攻撃は無理と判断し、ローズを迎え撃つ。
衝撃波で舞い上がった砂煙からローズが飛び出し、拳を躱す。
「どうした? 手品は終わりか?」
「まだまだ!!」
治癒感知を広げ、目ではなく魔力から伝わる感覚でローズの動きを捉える!!
嵐を彷彿とさせる回し蹴りをギリギリで避け、抉り取るような掴みを避け、砲弾のように放たれた拳を真正面から防御する。
「ぐっ」
対応、できているけど……!!
まだまだついていくのでやっとだ!! だけど、まだ殴り倒されていない時点で僕は成長できている!!
そして!!
「そこだァ!! 治癒目潰し・改ィ!!」
「!」
防御に構えていた拳を開き、あらかじめ作っておいたミニ治癒爆裂弾を破裂させる。
僅かに目を見開いたローズの意表をついた僕は、勢いのまま拳を叩きこむ。
拳そのものは手で止められてしまったが、ローズは不敵な笑みを浮かべたまま後ろへ下がった。
「ハッ、やるじゃねぇか」
「魔王にも効いた技ですからね」
治癒目潰しはあの魔王にも通用するほどだからな。
魔王にも嫌な顔をさせたし、僕の中ではかなり使える技だ。
「さっきの鎧みてぇな技も大したもんだ」
「弾力付与ですね。この技術である程度攻撃を和らげることができます」
斬撃には滅法弱いけれど、打撃とか落下の衝撃とかはこれである程度和らげられる。
魔力回しによる恩恵は移動だけじゃなく防御面にも影響を与えてきているってことだ、な。
立ち上がった僕をローズは面白そうな様子で見てくる。
「一種の才能だな。意味不明にポンポン得体の知れねぇことをしてくんのはな」
「僕としては貴女のデタラメな強さが得体がしれないですよ……」
弾力付与で防いでもかなり衝撃が通ってきているからな。
今でもまともに食らいたくない。
「貴女にぶん殴られるとルクヴィスに向かう前の訓練を思い出します」
「回避訓練のことか?」
「あれはマジで死ぬかと思いましたからね……」
攻撃を受けないために回避を身に付ける。
そのためにローズの拳を完全に避けるまで攻撃を受け続ける……というかなりやばい訓練だ。
「ハッ、今更恨み言か?」
「今となっては必要なことだったと逆に感謝したいくらいですよ」
そう言葉にし治癒コーティングを纏わせた両腕を構える。
僕の返事に小さく笑みを浮かべたローズは、だらん、と腕を下げる構えを見せ……右腕のブレと共に魔力弾を放ってきた。
「……ッ」
それらを見切り、当たりそうなものだけ叩き落とす。
いつかこのやり方で魔力弾を投げてみたいけれど、さすがに練習が必要だッ!?
「うお!?」
魔力弾以外に飛んできた礫を掴み取る。
いっって! 魔力弾に石ころが紛れ込んでた!?
弾丸さながらの速度と威力で飛んできたそれを地面に捨て、手を軽く振っていると目と鼻の先の距離に迫るローズの姿が視界に映りこむ。
「余所見するなよ」
「そりゃ来ますよね……!」
魔力弾と礫は目眩まし!! ローズは既に目の前にまで踏み込み、拳を放とうとしている。
目視じゃ反応できない! 治癒感知でローズの動きを先読みし、受け流す!!
「治癒流し!!」
「あん?」
ローズの拳が掌に流した魔力の上を滑り受け流される。
怪訝そうな顔をするローズにしてやった表情になる。
「アウルさんに教えてもらった技ですよ!!」
「……フッ、そうか」
一瞬だけ目を見開いたローズ。
だがその表情はすぐにいつもの好戦的な笑みへと変わった。
「ならその技の弱点を私が教えてやろう」
その言葉と同時に踏み込みと共に腕を振り上げたローズがハンマーの如く拳を振り下ろしてきた。
……ッ、上からの打撃!?
「ぬぐぅ!?」
治癒流しを解き、両腕で拳を受ける。
地面に罅が入るが、それでも耐えきる……!!
「まず受け流しにくい上からの打撃に弱ぇ」
ッ今度は腹!!
弾力付与を腹部に移動させ膝蹴りを和らげる。
「うぐっ」
「近すぎると使えねぇ。そして———」
後ずさりながら顔を上げると、先ほど同じように殴り掛かってくるローズ。
これはまだ受け流せる……!!
魔力を流した掌でローズの拳を受け流そうとする瞬間———掌の魔力が削れるような感覚の後に、手が弾かれ開いた胴体にローズの拳が直撃した。
「ぐふぉ!?」
衝撃が胴体を貫通し、僕の身体は後方へ吹き飛ぶ。
そのまま背中から叩きつけられ木が轟音と共に倒れ、ようやく止まったところで僕は起き上がる。
「ふぅー……」
土埃と木片を落としながら立ち上がった僕は、ローズを見る。
「……あの、これ弱点じゃなくないですか?」
「弱点だろうがよ。テメェの治癒流しは魔力回しで対抗できる。ま、ある程度の練度がなけりゃ意味ねぇだろうがな」
ローズがいまやったことは単純、僕の治癒流しと逆回転の魔力をぶつけてきただけだ。
言葉でいうだけなら簡単だけど、僕としてはローズが魔力回しを実践レベルで習得していたことにビビっていた。
「普通に魔力回し使ってますけど……」
「あん? 悪いか?」
「いや全然悪くないですけど!! むしろいいことですけど!!」
なんだろう。
僕の編み出した技術を師匠であるローズが使ってくれていることに嬉しいやら恥ずかしいやらで複雑な気分になってしまっている。
「せっかく弟子が編み出した技術なんだ。私が身に付けてもおかしくはないだろう?」
「……正直、嬉しくもあるんですけど。貴女、まだまだ強くなるんですか……?」
先輩とカズキの時は素直に嬉しかったんだけど、この状況でこれはちょっと怖いな。
戦闘力の時点で既にやばいのにさらに技術的に成長する余地があるとか流石すぎる。
この人、弱点とかあるのか? 本当に隙がないんだけど。
「……ん? 弱点?」
ふと、あることを思いつく。
ローズも魔力回しを習熟しているなら、できなくはないはずだ。
数秒ほど思考をまとめていると、僕の様子を伺っていたローズが挑戦的な笑みを向けてくる。
「さて、ここで終わりにするか?」
「まさか、丁度いま試したいことを思いついたのでもうちょっとだけ付き合ってもらいますよ!」
今度は僕から踏み込み、攻撃を仕掛ける!!
拳、蹴りをあっさりと捌いていくローズを視界に収める。
「どうしたぁ! 思いついたんじゃねぇのか!!」
「今見せてやりますよ!! 治癒残像拳!!」
至近距離で身体に纏った弾力付与の魔力を脱ぎ捨てローズの視界を遮る。
治癒残像拳の応用———至近距離での目晦ましを利用して、そのままローズに拳を叩きこむ。
「甘ぇ!!」
———が、当然ローズに防御されるが、本当の目的は果たした。
「弱点がなければ、見つければいい……!! 治癒診断!!」
接触した腕から僕の魔力をローズの魔力流しに合わせて送り込む。
それはカズキや先輩に施した魔力回しによって相手の状態を調べる技術。普通ならどこが治癒魔法を必要としているか分かる技だが、視点を変えれば相手の弱点を見つけることができるともいえる。
ローズも僕の魔力に気づいたのか怪訝な顔をする。
「……!!」
追撃をもらわないように後ろに下がった僕は把握したローズの状態に頬を引きつらせる。
……初めて使ったけどこの技の欠点を見つけてしまったぜ。
「おい、なにかしたか?」
「け、健康でなによりです」
これ、治癒魔法使い相手に使っても意味ないわ。
健康も健康、むしろ魔力回しの恩恵で強くなってるしさらなる絶望がプラスされただけだわ。
よく考えれば分かる事実に今さら気づいてしまった僕は、そのままローズの蹴りに吹き飛ばされるのであった。
●
「つくづくテメェは変な方向に向かっていくな」
あの後、結果的に蹴り飛ばされたり殴り返されたりした僕は、訓練場から少し離れた林の中で座り込みながら組手の反省会のようなものを行っていた。
まあ、反省会といってもローズが僕の駄目なところを指摘するだけなのが……。
「で、さっきのはなんだ? 私の弱点でも探そうとしたのか?」
「弱点というより、肉体的に脆い部分って表現の方があっているかもしれません」
てか、僕のやろうとしていたことを理解しているのか。
顎に手を当てたローズは数秒ほど考えこみ、顔を上げる。
「……面白ぇ視点だな。なるほど、目に見えねぇ傷を見つける技ってことか」
「というより、それがこの技の本来の用途でしょうね」
治療すべき箇所を把握するのはかなり重要だ。
全身に治癒魔法を流せば関係ない、という考えも出てくるかもしれないけど、魔力の消費を最小限に抑えたり患者にどこが悪いのかを伝えたりすることができるのがこの技の利点だろう。
……戦闘中で使う時は治癒力の少ない系統劣化の魔力を流しこむんだけどね。
「よくもまあポンポンと思いつくもんだ」
「小手先の技ばかりですけどね。ははは……あいたっ!?」
額にデコピンをぶつけられ悶絶する。
ひ、ひさしぶりに食らったけどいきなりなんなんだ……?
「使えるもんはなんでも使え。小手先のなにが悪い、手段を選んで死ぬ方が間抜けだろ」
「……ははっ、そうですね。確かに、その通りです」
僕の編み出した技も無駄じゃないってことか。
ローズの言葉で改めてそう認識し、肩の力を抜く。
「これって魔力回しの新しい技術、ですよね」
「恐らく治癒魔法限定だろうがな。他の攻撃系統の魔法じゃ意味がねぇだろうよ」
他の魔法だと普通に相手にダメージを与えるだけだろうしな。
相手を癒すだけの無害な治癒魔法だからこそできる芸当だ。
しかし……治癒魔法限定、か。
その上これは僕と同じく魔力回しを使える相手でないと効果が出ない。
「……これってフェルムの同化とちょっと似てるよな」
この技は僕の治癒の魔力を対象に送り込むもの。
治癒魔法が集中する箇所を感知して肉体的に脆い部分を探し出すことができる……が、ここで一つ疑問が頭に浮かんだ。
「魔力を感じ取る感覚は一体どこに由来しているんだろう」
肌で感じ取っているのかもしれないし、頭に浮かんでいるのかもしれないが実際のところは僕にも分からない。
単純に魔力そのものを感じ取っているって可能性すらありえる。
「どうした?」
「……いえ、またウェルシーさんに相談したいことができただけです」
「必要があればこっちに来させてもいいぞ」
ウェルシーさんを?
でも城勤めの彼女をここに呼び出していいんだろうか?
「あいつとしても願ってもねぇ申し出のはずだ。研究する機会が増えるわけだからな」
「そう、ですか」
ローズが言うんだし、ウェルシーさんにそう伝えてみるか。
「場合によってはまたウェルシーさんを困らせることになりそうですけどね……」
「下手に遠慮なんてする必要はねぇぞ? 研究職ってのは困らせていたほうが充実しているもんだ。それが未知に由来するものなら垂涎ものだろうよ」
「なるほど……」
嬉しい悲鳴ってやつなんだな。
じゃあ遠慮なくどんどんやっていいってことか。
……よし、頑張っていこう。
「話は変わりますが、キーラの訓練は大丈夫そうですか?」
「甘ったれたところはあるが根性はそこそこだ」
「団長から見ての“そこそこ”は結構なもんじゃないですか」
駄目なら駄目とはっきり言うのがこの人だからな。
そういう意味でキーラには光るものがあったということなのだろう。
僕から見ても訓練についていけているし、ここでもやっていけそうだ。
「分かっていると思うが、お前が次に行くであろうカームへリオにはキーラを連れていくなよ?」
「はい。それは分かっています」
多分、キーラはついていきたがるだろうけど、あの子の魔法は目立ちすぎるしなにより勇者信仰の篤いカームへリオに連れていくには危険すぎる。
「連れていくならフェルムにしておけ」
「え? いや、カームへリオですよ?」
「あいつの同化能力ならバレずに済むだろ」
「……フェルムはなんと?」
この人のことだからフェルムに確認はとっていると思うけど……。
僕の質問にローズは呆れたため息を零した。
「事前に聞いといたがあいつ悩むそぶりすら見せずに即答しやがったぞ」
「あー……」
なんかその時の光景が想像できる。
確かにフェルムの能力なら周りにバレそうもないし、いざという時に力になってくれる。
「お前は私の似なくてもいい部分まで似ちまったからな。ある程度、止める奴が必要だ」
「師匠冥利に尽きますねいだぁ!?」
げんこつをされ地面でもだえ苦しむ。
じょ、冗談で言ったのに……!!
「はぁ……指導は終わりだ。戻っていいぞ」
「ありがとうございました!」
「おう」
立ち上がり頭を下げた僕に手をひらひらと振ったローズ。
彼女に背を向けながら訓練場のある方向へと歩いていく。
「そういえば、なんか訓練場がにぎやかだった気が……」
救命団員以外に誰か来ていたのかな?
ローズとの手合わせに集中しすぎて周りを見ていなかったからなぁ。
そう思いながら林を抜けて訓練場に足を踏み入れると———、
「申し訳ありませんでしたァァァ!! カンナギ様ァァァ!!」
「わ、分かったから、ど、土下座はやめてぇぇ……」
「えぇ……」
いつか見た綺麗な土下座をしているキリハと、そんな彼女に土下座されおろおろしているナギさん。
そして、その近くでざわついているハルファさんと学生たちの姿という混沌とした光景を目にした僕は、あまりの状況に呆気にとられた声を漏らすのであった。
“魔力回し”を広めた張本人が、対“魔力回し”の技を開発してしまったお話でした。
というより、感想欄で既に勘づいている方がいて驚きました。
今回の更新は以上となります。




