第三百九十六話
三日目、三話目の更新となります。
まだ前話を見ていない方はまずはそちらをー。
先輩と模擬戦をしたわけだけど、結構白熱してしまった。
ウェルシーさんたちに余波がいかないように気を遣っていたが、それでも最後は城の人々も集まってしまいちょっとした騒ぎになってしまった。
僕自身、久しぶりの先輩との模擬戦にテンションが上がってしまったことがあるので反省しなくては。
最後は虚ろな目で手帳と魔具に何かを書き込んでいるウェルシーさんと彼女の部下の皆さんとその場で別れることになった。
「系統劣化なんてはじまりに過ぎなかった……研究しなくちゃ……研究しなくちゃ……ふ、ふふふ」
「うぇ、ウェルシー? 大丈夫かい?」
「スズネ様、ご心配なさらず。もう一周回って私、高揚してます。人間許容量を超えるともう平気になっちゃうんですね、初めて知りました」
「す、すみません……」
『こ、怖いな、こいつ……』
思わず謝ってしまうと、同化しているフェルムが引いたようにそう呟く。
同じく「フフフ」とマッドサイエンティストみたいな雰囲気を発するウェルシーさん率いる部下の皆さんが城に戻っていくのを見送る。
「それじゃ救命団に戻ろっか」
「そう、ですね。あ、帰りにアマコのところに寄っていいですか? ちょっと様子を確認したいので」
「構わないさ。むしろ行きたい」
行きたいんだ……。
こういうところも相変わらずだなぁ、と思いながら僕は先輩と一緒に城門へと向かう。
「キーラの訓練は大丈夫そうかな?」
「やっぱり初日は厳しかったようですね。朝とかどうでした?」
「かわいかった」
「僕はフェルムに聞きました」
「くぅーん」
本当は先輩に聞いたけど予想通りの答えが返ってきたので、フェルムに切り替える。
『表面上は大丈夫そうだったな。まあ、ボク達ほどじゃないし平気なんじゃないか?』
「それでもちゃんと見てやらなくちゃな」
ナックもそうだったけれど、あの年頃の子は色々と抱えがちだからな。
特にキーラはそれが顕著なのでそこらへんをサポートしなくちゃならない。
「僕もできるだけ見ておくけど、君も気にかけておいてほしい」
『分かってるよ。同じ闇魔法使いだ。甘やかさない程度に見ておく』
「先輩もお願いしますよ?」
「私はいつだって期待に応える女さ」
いや、そんな格好よくいわれても……。
謎のドヤ顔を見せる先輩に困惑していると、ようやく城門付近にまで到着し……ん?
「どしたのウサト君?」
「城門前に見覚えのある制服が……あれは、ルクヴィスのやつですよね?」
「あっ、確かにそうだね」
『なにが?』
フェルムは知らないのは無理ないけど、先輩と僕には印象の強い服装だ。
リングル王国の隣に位置する学園都市『ルクヴィス学園』
そこに通う学生たちの着ているローブを基調とした黒地の制服がアレなのだ。
……人数的には20人くらいかな?
「むむむ、私のケモミミ感知に反応が」
「どういうセンサーですか」
またもや頓珍漢なことを言い出した先輩をスルーすると、城門前に並んで待っていたルクヴィスの生徒たちにリングル王国の騎士……というよりアルクさんと何人かの騎士が声をかけているのが見える。
『これから君たちがここで過ごす宿舎へと案内します。分かっていると思いますが、問題を起こし次第即座にルクヴィスに帰っていただくことになります。自身の立場が自分だけのものではないことをよく理解し行動してください』
『『『はい!』』』
宿舎っていうと、彼らはしばらくここにいるってことになるのかな?
その様子を見ていると、こちらに気づいたのかアルクさんが手を振ってくる。
とりあえず彼らの元に近づいてみると、アルクさんはルクヴィスの学生たちに僕と先輩のことを紹介してくれた。
「こちらはリングル王国の“勇者”イヌカミ・スズネ殿と救命団“副団長”のウサト・ケン殿です。もしかすると皆さんは一度お会いしたことがあるかもしれませんね」
「……え、えーっと、どうも」
って、んん?
よく見るとルクヴィスの生徒たちの中に見覚えのある顔がいるではないか。
一人は僕を見て苦笑して、もう一人は目を丸くして硬直している。
さすがにこの中で声をかけるわけにはいかないので、なぜ彼らがここにいるかアルクさんに尋ねてみることにする。
「アルクさん、彼らはルクヴィスの生徒ですよね?」
「はい。ルクヴィスの講義の一環として、他国の騎士団への見学を行っているのです。砕けていうなら体験入団とでも言えますね」
「なるほど職業体験みたいなものだね」
すると彼らはリングル王国の騎士団に入りたいからここにいるってことか。
「これらの行事はルクヴィスにおいて自らの進路を定める重要なもので、私も同じようにここで勤めるようになったこともあり、彼らを案内することを任されたんです」
「た、大変ですね……」
「ウサト殿に比べたらまだまだですよ」
いや、でも帰ってからまだそんなに過ぎてないのに引率は普通に大変そうだ。
「これから彼らを城外の宿舎へと案内しますが、途中まで一緒にこられますか?」
「え、いいんですか?」
僕たちがいると迷惑がかかってしまうかもしれないんだけど……。
それに対してアルクさんはいつも通りにっこりと微笑んで頷く。
「お二人はリングル王国では有名な方ですから彼らにもいい刺激になります。それに……お知り合いの方と積もる話もあるでしょうし、ね」
そっか、アルクさんはルクヴィスで僕たちの護衛をしていたから知っているんだな。
彼の厚意を素直に嬉しく思った僕は、彼の言葉に頷くのであった。
●
ルクヴィスからリングル王国にやってきた学生たち。
彼らがしばらく泊まることになるという宿舎へ向かう道のりを歩きながら、僕はルクヴィスからやってきた知り合い———キリハとハルファさんと久しぶりに話をすることになった。
「まさかこんなすぐに会うとは思わなかったよ」
ルクヴィスの生徒たちの一団からちょっと離れたところでイタチの獣人の女性、キリハがそう口にする。
後ろを見るとやはりキリハとハルファさん以外の学生たちが興味深そうにこちらを見ている。
「後ろは心配ないよ。てか、ここに来てるのはウサト達のことを知ってるやつらだから」
「なるほど……」
僕もナックの件でルクヴィスで色々と目立ってしまったからな。
名前は知らないけどなんとなく見覚えのある顔もある。
「ふふふ、やはり私のケモミミセンサーはあっていたようだね」
「先輩、ステイ」
「はっはっはっ……くぅーん」
今にもキリハに向かっていきそうな先輩の襟を掴む。
ばたばたともがいてすぐに大人しくする彼女にため息をつきながら、距離をとったキリハに話しかける。
「あ、相変わらずだね……まあ、英雄になっても全然変わってないことには安心したけど」
「キリハはどうしてリングル王国に?」
「端的に言うとあんた達の影響」
僕たち?
思わず自分を指さすとキリハは照れくさそうに笑った。
「リングル王国なら獣人のあたしも受け入れてもらえるかなって。実際、すんなりと希望が通って自分で驚いてるくらい」
「ならゆくゆくはリングル王国の騎士団に入るかもしれないってことか」
「それはあたしの今後の頑張り次第ってこと」
獣人としての身体能力にキリハ個人の風魔法を考えるとかなり強いんじゃないかと思う。
……まあ、僕個人が判断していいわけじゃないけどね。
そこまで考えているとふと先輩がキリハに声をかける。
「そういえば君の弟はここにはいないのかな?」
「キョウは私と違ってニルヴァルナ王国を選んだんだけど、期間がズレているから今はルクヴィスでサツキと一緒にいるよ」
「なるほど、ニルヴァルナか……キョウの性格的にあっていそうだね」
あそこも亜人に対して寛容……というか文字通りに力がものをいう国なのでキョウ的にもありなところだったのだろう。
実力主義というと、そういう意味ではハルファさん向きでもありそうなんだけど、当の本人は先ほどから無言なのが気になる。
「ハルファさん、どうかしましたか?」
「……はっ!?」
僕に声をかけられて我に返ったのか、はっとした表情を浮かべるハルファさん。
「いえ、ウサトさんがとんでもないことになっていたので今まで放心していました」
「と、とんでもないこと……?」
「そういえばウェルシーの部下の魔眼持ちの人が気絶してたね……」
ハルファさんから見てもとんでもないことになってるのか。
魔力回しは無意識にできるようにはなっているけど、どれだけできているかは自分でも分からない。
「魔力回しという技術はルクヴィスでも教えられるようになりました」
「ウサトが開発したってことも含めてね」
「えぇ……」
早速魔力回しが広まっているのはいいことだけれど僕の名前まで出されているとは……。
むず痒いし、恐れ多いしでなんとも形容しがたい気持ちになってしまう。
「魔力回し自体は私からすれば、より相手の動きを読みやすくなっただけの技術でした」
「読みやすくなった? 魔力の流れが速くなれば普通は分かりにくくなるものじゃないか?」
「いえ、魔力回しの本質は流れを速くすることではなく、魔力運用の最適化にあります。思考から魔力を反映させる速度、精度、基礎そのものを高めることができるのです」
「そうだったんだ……」
使っている僕本人が全然知らなかった。
漠然と色々と上がっているなぁって認識だったから。
「なので魔力回しを習得した者は、魔力が読みやすいんです。言うなれば意思が魔力により反映されやすくなっているわけですからね」
魔視を持ち、且つ自身で戦うハルファさんだからこそ分かる見解だな。
でもある意味で彼にとって戦いやすくなったであろう僕に対してなんで呆然としていたのだろう。
「それじゃあ、ハルファさんから僕の魔力はどのように見えますか?」
「魔力の流れが速すぎてほぼ認識できません」
「え?」
「常に高速で体内を循環し、一見して緩やかに流れて見えるほどです。正直、自身の正気を疑いましたよ。ははは」
……そこまで、か。
鍛えてきた甲斐があったな。
「あともう一つ驚いたのは」
「うん?」
「ウサトさんの身体を覆うように別の魔力が存在していることです。黒い、水のような透き通った魔力———まるで噂に聞く闇魔法のようでした」
「「……あっ」」
僕と先輩は同時に声を漏らす。
それは闇魔法のようだった、というより闇魔法そのものだ。
「フェルム」
『……なんだよ』
「同化を解除してくれないかな?」
『……チッ、分かったよ』
「ウサト? いったい誰と話しているんだ?」
「ウサトさん?」
なぜか舌打ちしたフェルムは僕と同化を解く。
影から姿を現したフェルムに先輩、リングル王国の騎士を除いた学生たちが驚きを露わにする。
「ま、魔族!?」
「心配いらないよ。この子は救命団に所属する仲間だから」
「……フェルムだ」
どこか不貞腐れた様子で自らの魔法で作り出したフードを被ったフェルムは、僕の後ろに隠れるように移動する。
アルクさんや先輩が無反応なのを見て学生たちも落ち着きを取り戻してくれたようだ。
「ごめんね。また同化していいよ」
「……ああ」
すぐにフェルムが同化したことを確認し、もう一度二人に向き直る。
「なんというか、全然不思議じゃないって思っちゃうのが理不尽だね……」
「二人分の魔力が見えた理由がこれですか……」
キリハもハルファさんも驚きはしても敵意とかは持っていないようで安心した。
……そろそろ僕たちも街の方へ向かうか。
「アルクさん、僕たちはここで分かれます」
「了解です」
「キリハ、ハルファさん。ここにはナックもアマコもいるので時間が空いたら是非会いにいってあげてください」
「ああ、アマコもナックもどんなところに住んでいるか気になっていたからね」
とりあえずキリハとハルファさんに別れを告げ、僕たちは街の方へと移動する。
「キリハとハルファのことアマコとナックに伝えないとね」
「ええ、二人も喜ぶと思います」
特にナックはキリハのところで世話になっていただろうし、すぐにでも会いたそうだ。
「しかしフェルム、どうしてさっきからずっとウサト君と同化しっぱなしだったんだい? その辺、すごく気になるのだけど」
『……い、移動が楽だからだよ。それ以外に理由はないからなっ』
確かに同化すれば歩く必要ないから楽なんだろうなぁ。
僕としても気にしていなかったから別に構わないんだけど、そう言われた先輩がにやにやしているのが気になる。
「ふーん、そっかぁ」
『……ふんっ!』
「あぶなぁ!?」
僕の身体からにやにや顔の先輩に向かって闇魔法の拳が飛び出してくる。
それを慌てて避ける先輩を横目で見て僕は軽いため息をつきながら、このごろタクシー扱いされがちだなぁとくだらないことを考えるのであった。
久しぶりにキリハとハルファが登場しました。
次回は日記回。
更新は明日の18時を予定しております。




