第三百九十五話
二日目、二話目の更新です。
前話を見ていない方はまずはそちらをー。
第三百九十四話。
今回はスズネ視点です。
昨日は久しぶりにウサト君、カズキ君と一緒に話した。
この二か月間の話、系統劣化や勇者集傑祭や様々なことを語りあって楽しい時間を過ごしたわけだが、城に集まった目的である“魔力回し”と“系統劣化”のデータ取りはあまりできなかった。
肝心のウェルシーがキャパオーバーで気絶してしまったこともあるが、なにより系統劣化という新しい技術が彼女が想像していた以上に奥深いものだということもあったからだ。
なので、今日は昨日に引き続きウサト君と共に城に呼び出され、調査を引き続き行うことになった。
「で、なんでボクまでついてこなくちゃなんないんだよ」
城の訓練場に向かう最中、フェルムはそっぽを向いてそう呟く。
「今日は色々と技を試さなきゃいけないからね。それに、ほら……今は籠手もなくなっちゃったから」
腕輪のなくなった右手をぷらぷらとさせるウサト君にフェルムは目じりを微かに動かす。
そこに目ざとく気づいた私はスススッ、とフェルムの隣に移動し小声で話しかける。
「もしかして籠手がなくなってもっと頼りにされると思って喜んだ?」
「はぁ!? そんなわけないだろぶっ殺すぞ!!」
すごい勢いで反応されてしまった。
猫のように威嚇するフェルムをなだめる。
そんな私たちを見てウサト君は、ふっ、と安心したような笑みを浮かべる。
「おい、ウサト。今『仲がよさそうでよかった』みたいな顔して笑ったな」
「そんなことないよ」
「にやにやしながら言うな……!!」
げしげし、と後ろからウサト君の足を蹴るフェルム。
対してウサト君は微動だにせずに前に歩いていく。
「ぐ、うぅぅ!」
地団太を踏むフェルム。
そんな姿を見た私もほっこりするのであった。
●
「皆さん、今日も来てくださりありがとうございます」
訓練場に到着するとそこのはウェルシーと、彼女の部下である城に務める魔法研究者の面々が待っていた。
昨日はウェルシー一人だったんだけど、今日は随分と人数が多いんだね……。
「先日は私一人の調査で大丈夫かと思っていましたが、自身の認識の甘さを痛感しましたので……今日は万全を期して総出で、総出でッ、データをとります!! フフフっ、これで抜かりは———」
『ふぉぉ……この目で系統劣化を拝めるなんて楽しみすぎる……ん? ヴェリア、そんなに顔を青くしてどうした?』
『ウサト様の魔力がががが』
『ウェルシー様ァ!! ヴェリアが目を回して倒れましたァー!!』
不敵に笑っていたウェルシーさんの後ろで彼女の部下の一人が目を回しながら倒れる。
すぐにウサト君が駆け付け治癒魔法をかけているけど……。
『ま、魔眼持ちのヴェリアが倒れた!?』
『まさかそれだけの速さで体内で魔力を循環させているとでも……!?』
「……」
「うぇ、ウェルシー?」
「ま、ままままだ大丈夫です」
めっちゃ声が震えているが……?
しかし魔力回しは私もそれなりに習得しているけど、ウサト君のそれは私以上ということなのか?
幸い、魔眼を持つ研究員はすぐに目を覚ましたわけだけど、今彼女は信じられない生き物を見るような目でウサト君を見ている。
「えーっと、とりあえず僕たちは系統劣化を見せていけばいいんですね?」
「ええ、どんな形でも構いません。なんでしたらお二人で模擬戦などをしていただいても構いませんよ? 勿論、系統劣化を使うことが条件ですが」
「了解です。先輩もそれでいいですか?」
「もちろん構わないさ」
訓練用の木刀を手にし頷く。
……ウサト君と模擬戦をするのは久しぶりだ。
この二か月で私も基礎力も底上げしたし、その力試しにもウサト君は絶好の相手だ。
「ボクはどうする? 同化するか?」
「いや、最初は僕だけでやるよ」
「なら、観戦でもしてる。必要なら呼べよ」
「うん、ありがとう」
フェルムが私たちから離れ、木陰に座る。
私とウサト君は訓練場の中央付近にまで移動し、ウェルシー率いる研究員たちが観察しやすい位置にそれぞれ移動する。
よく見れば何人かは測定用かなにかの魔具を持っているようだ。
「ウサト様、スズネ様、こちらは準備が整いましたのでいつでも初めて大丈夫ですよー」
「ああ! ……よし、ふっ!!」
全身に魔力を纏わせ、系統劣化と共に雷獣モード0を発動させる。
白い電気を薄く纏った私は、木刀を居合をするように構える。これまでの雷獣モードほどの速さはないけれど、無駄がないという点ではこちらも有用なモードだ。
対してウサト君は両手に浮かべた魔力を肘あたりにまで纏わせ軽く構えた。
「それも新しい技かい?」
「治癒コーティングです」
恐らく、失った籠手に代わるウサト君の新しい技。
名前からしてそのままの腕に魔力を纏わせる技と見てもいいだろう。
漠然とそう予測し、木刀に添えた右手に軽く力を込めていると不意にウサト君から薄い緑の魔力の波動が放出される。
「治癒の魔力を散布しているんだね」
「ええ、普通でやると魔力消費が多いのでそのための解決方法として系統劣化を開発しました」
一定の間隔で周囲に放出される魔力の粒子。
それらは空気中に散らばり、ウサト君の感知範囲をどんどん広げていく。
これから戦おうとしているのに精神的に安らぐ気分になってしまうのはちょっと恐ろしいな。ウサト君の魔法を知らない状況なら不気味とすら思えてしまう。
「ふんっ!!」
踏み込んだのはウサト君。
一歩で私の目前にまで接近した彼は掌底を繰り出してくるが———それよりも速く私が抜き放った木刀が白雷を発しながら彼の胴体へと迫る。
「っ!!」
驚異的な反応速度で攻撃を避けられた……!
今度は私が踏み込んで無理やりウサト君を私の魔力感知範囲内にまで引きずり込む!!
「っ、なる、ほど!!」
私の系統劣化による魔力感知は攻防一体の特殊なもの。
魔力感知範囲内に足を踏み入れればオートで電撃が相手の動きを阻害し、私は好き勝手に攻撃できるえげつないものだ。
少なくとも私がここまで近づけば逃げる術はない!
「そら!」
「治癒流し」
———はずなのだが私が叩きつけた木剣は、ぬるり、という奇妙な手ごたえでウサト君の掌を滑った。
「なにぃ!?」
「一旦距離をとりますねぇ!!」
私が驚いている間にウサト君が後ろ手に隠していた左手をこちらに突き出す。
瞬間、彼の掌に作り出されていた球体———爆発する魔力弾が破裂し、私とウサト君の身体は同時に吹き飛ばされる。
「っ、無理やり距離を離してきたね……!!」
咄嗟に作ったものだから衝撃波こそ少ないけれど、ウサト君が魔力感知範囲内から出てしまった。
「近づいたら強制的に動きを止められるのがえぐいですね……」
「ウサト君こそ普通に反応しておいてよく言うよね」
大抵は電撃で動きが鈍るはずなのに普通に耐えて対処された。
模擬戦だから、とある程度手加減はしていたけど、もしかするとそれすらも今のウサト君には必要ないかもしれない。
「じゃあ、今度は私から行くよ!!」
踏み込みと共にウサト君へと突撃。
鋭敏化された反射のままに肉薄する彼に木刀を繰り出そうとし———、柄に感じる妙な抵抗に意識が乱される。
「ッ、な、なに!?」
「治癒吸着拳」
よく見れば左手と木刀の間に緑色の魔力がねっとりとくっついている!? 粘着性はそれほどじゃないけど、抜刀を邪魔され———、
「ぬぅん!」
「わっ!?」
眼前をウサト君が突き出した手が通過する。
あっぶな、魔力感知がなかったら今ので捕まっていた!!
くっ、さっき彼に攻撃した瞬間にくっつけられていたか!! 魔力はすぐに電撃で弾き飛ばせるけど、ここは一旦後ろに下がって……ッ!
「って、今度は足ぃ!?」
ウサト君の手に意識が向いた瞬間にはいつのまにか私の足に緑の魔力がくっついており、思わずつんのめりそうになってしまう。
ウサト君の挙動を少しでも見逃すとなにかしている……!!
だけどこちらも伊達に勇者をやってない! 無理やり流れを持っていく!!
「ふんっ!!」
「む!!」
前のめりのまま柄を突き出し、ウサト君の追撃を潰す。
そのまま距離を離さずに居合を構え、間髪いれずに抜刀を放つ。
「治癒崩し」
「ひん!?」
突然私の身体を穏やかな魔力の波のようなものが通過し、頭が混乱する。
な、なにをされた!? いや当然治癒魔法か! ……なんでここで強めの治癒魔法が!???
「はい、まずは一撃です」
「あいてっ」
思考停止し動きを一瞬止めた私の頭に、ぽんっ、と軽い手刀が振り下ろされる。
頭を押さえてウサト君を見ると、彼はいつかの意趣返しと言わんばかりの笑みを浮かべていた。
「ようやくルクヴィスの“鬼ごっこ”のお返しができましたね」
「む、むぬぬ……」
急に治癒魔法の波動が強くなったせいで強制的に調子を崩されてしまった。
“治癒魔法だから無害”っていう潜在的な意識を突いてくるとは……分かっていてもくらってしまうような技だね……!
「ねぇ! ねぇウサトくぅん!! 君の繰り出す技が徹底的に私メタなんだけれどぉ!!」
「貴女に通用するのは初見くらいなので今のうちに楽しんでもらおうかと」
「存分に楽しんでいるよ!! ありがとうねぇ!!」
繰り出される技の全てが初見殺し。
治癒崩しに至っては多分、剣士メタといっていいくらいにえげつない。
それにあの治癒コーティングって技……弾力付与で粘性を持たせた魔力で相手の動きを阻害する技と見てもいいだろう。
この場にネアがいれば拘束の呪術と組み合わされ、よりえげつない技になっていたはずだ。
「なんというか、手癖が悪くなったよね」
「ネロさんにも言われましたよ」
「……ネロ・アージェンス?」
「あっちにいる間に手合わせをお願いしていました」
ちゃっかり魔族側の最強の剣士と訓練してきてる……。
つまり並大抵の動きと斬撃は既に彼にとっては慣れたものとみてもいい。
ならば……。
「君相手では雷獣モード0は相性が悪いようだ」
「先輩がその気になればそのままでも戦えるでしょう?」
系統劣化状態を解いた私にウサト君は苦笑する。
確かにそのまま続けることもできるけれど、カウンター重視のモード0では相性が悪いのは事実だ。
それに……私もウサト君の先ほどの技に対策はできるけれど、彼も私の雷獣モード0の対策を戦闘中に編み出してくるのは目に見えている。
「……順調にデータはとれてるかな?」
ちらり、と周囲でデータをとっているウェルシー達を見る。
『『『……』』』
絶句。
皆一様に言葉を失っている。
……そもそも系統劣化だけじゃなく、魔力に弾力を持たせる技術すらも普通じゃないことを忘れていたな。
カズキ君とウサト君を見ているとつい忘れてしまうな。
「次はモード2で行くけど構わないかな?」
「はい。こちらも……フェルム」
「ん? ああ」
彼に呼ばれたフェルムが、どぷん、と自身の影に沈み込み、ウサト君の足元から登り全身を覆っていく。
今は団服を着ていないのでライダースーツのように彼の首から下を覆ったような姿に変わったウサト君は、調子を確かめるように軽くストレッチをしながら、私へ向き直る。
『久しぶりだけど全然いけるからな。遠慮はいらないぞ』
「うん、頼りにしてる。……先輩、こっちは準備オッケーです」
「じゃあ、第二ラウンドだね。ウェルシー、周りの皆ももうちょっと離れているといいかも」
ウサト君も私もそれなりの力で戦うとなれば広く場所をとらなきゃいけないからね。
ウェルシーたちが距離をとったことを確認した私とウサト君は改めて向かい合う。
さて魔力感知で私の動きは感知されてしまうが、こちらもこの二か月遊んでいたわけじゃない。
まずは彼の動きを見て対処していこう。
そう考え、受けの姿勢で構えようとした瞬間———ウサト君の両手が無造作にこちらへ向けられる。
「えっ」
放たれるは、ノーモーションでの衝撃波。
雷獣モード2のスピードでそれらを避けるが、彼は正確にこちらへ手を向け連続で衝撃波を放ってくる。
「技名とかもう言わないのかな!?」
「成長したので通常技になりました」
「納ッッ得!!」
そういうのかっこいいなぁ!!
衝撃波を切り払い、こちらも電撃を放つ。
それに対して彼は背中、足、腰から魔力の衝撃波をスラスターのように放出することで高速移動を行い回避する。
「魔力の消費が少なくなるってここまで恐ろしいことだとは思わなかったよ……!!」
系統劣化という技術を得て、彼の技は一段階昇華したといってもいい。
これまで“技”として使っていた魔力の暴発が今の彼にとってはノーモーションで繰り出せるものへと変わってしまっている。
「魔王を倒しても君はまだまだ進化し続けるということか……!!」
私も系統劣化を得て成長したと思い込んでいたけど、まだまだのようだ!!
「だけど、こちらも負けていられないな!!」
強い電撃を纏いウサト君の背後をとり、木刀を振るう。
確実に直撃する一撃。
そう確信し叩きつけた木刀は———ぐしゃりとウサト君の身体を突き抜けからぶった。
「なぁぁ!?」
『おいなんだよその技!?』
「治癒残像拳」
これは、ウサト君を模した魔力の塊!?
本体の彼は既に私から数メートル離れた場所で両手で何かを溜めるそぶりを見せ———、
「治癒ッ」
「え、ウサト君それやばくない?」
「爆裂双波ァ!!」
「やばぁぁ!!?」
———躊躇なく治癒爆裂波を両手で放ってきた。
咄嗟に木刀に全力の電撃を纏わせ衝撃波を切り裂いたが、危なかったという意味でドキドキが止まらない。
「さっきの技、残像拳って言ってたよね……!!」
察するに弾力付与で硬度を持たせた魔力を脱皮するように脱ぎ放つことで身代わりの術じみたことを可能とする技と見た!!
ならば対処は簡単!!
ウサト君本体から目を離さずに見極めればいいだけのこ———、んんん!?
「え、なにその動き……?」
彼の動きが不規則に停止と加速を繰り返していくごとに治癒魔法の人型の残滓が残像のようにその場に留まっている。
『お前魔王領でなにしてきたんだよ!!?』
「訓練!!」
『訓練で分身しだすやつがどこにいるんだバカ!!』
「あ、あはは……」
もう滅茶苦茶すぎて逆に笑えてくる。
系統劣化という技術ばかりに目がいってしまうけど、真に目を向けるべきはウサト君本人の柔軟な発想力とそれを可能にする肉体にあるんだ。
だから私達勇者とは全く異なった成長をするし、これほどまでに相対して楽しい……!!
「ははは!!」
乾いた笑いはすぐに喜びへと変わり、私は身に纏う電撃をさらに強める。
「ウサト君、雷系の私をさしおいて残像を作るなんてずるいなぁ!!」
「フッ、これが治癒魔法の力です」
『どこが治癒だよ』
彼から目を離してしまった二か月間の内容が、気になってしまうくらいに彼は成長している。
その成長を目の当たりにしながら、私は内心の高揚を隠さずに彼との模擬戦を楽しんだ。
系統劣化の恩恵によりフェルム同化時の加速拳、破裂掌が通常技と化すウサトでした。
やっぱり直接的な戦闘力ではフェルムと同化した時が強いですね。
次回の更新は明日の18時を予定しております。




