第三百九十話
二日目二話目の更新となります。
第三百九十話です。
コーガたちとの別れを済ませヴェルハザルを出発した僕たちは来た時と同じように馬で移動し魔王領の国境にあたる大河へと向かった。
道中は行きの時よりも舗装されていたので移動もスムーズに目的地へと到着することができた。
そして、ここで僕たちはセンリ様……ニルヴァルナ一行と別れることになる。
「この二か月とても充実した日々を送らせていただきました」
「いえ、こちらこそ色々と手伝ってくださりありがとうございました」
センリ様が差し出した握手に応じる。
都市に来たときはとんでもない人だと……いや、今もとんでもない人だけど、幾分か落ち着いた今は理知的な印象に見えるようになった。
……まあ、コーガが絡むとちょっと暴走しちゃうけれど、それも愛嬌というのだろう。
「それでウサトさん、一つ折り入ってお話があるのですが……」
「……なぜ握手を強めるのですか?」
突然逃がさないように握手を強めてくるセンリ様に頬を引きつらせる。
「実は私には妹、第三王女がいるのですが———」
「え、いや、それは……」
デジャブ!?
また本人の了解なしにお見合いを進められるパターン!?
思わず強張ってしまう僕を見てセンリ様はくすくすと笑みをこぼす。
「冗談です。妹はいますがまだ5歳です」
「し、心臓に悪いからやめてください」
「いつかの仕返しです」
それを出されるとなにも言えなくなる……。
安堵に胸を撫でおろしていると、センリ様の後ろにいるヘレナさん達も僕と同じような表情をしていた。
「センリ様、聞いている私たちもハラハラしたのでやめてください……」
「えへっ」
茶目っ気のある笑みを浮かべる彼女に肩を落とすヘレナさん。
そんなやり取りに苦笑しながら今度はヘレナさんに声をかける。
「ヘレナさんもありがとうございました」
「お礼を言いたいのはこちらの方ですよ。君とコーガさんのおかげでセンリ様の暴走が最小限に留められたんですから」
あれで最小限……?
もしかして、誰彼構わず婚約決闘を仕掛けるつもりだったのだろうか。
それはそれで恐ろしい話だと思う。
「センリ様はこの後どうなさるおつもりなんですか? その、コーガについてとか」
「勿論、お父様に報告するつもりです」
その内容によっては大変なことになりそうなんだけど。
いくらか心を許したとはいえ、さすがに問答無用で事を進められるとコーガが可哀そうと思い、一応諫めようと試みる。
「それは———」
「皆まで言わなくとも大丈夫です」
しかし、僕の声を遮った彼女が笑みを浮かべる。
それはなんというか……これまでの闘争心を感じられるようなものとは違う、朗らかな笑みだった。
「私はもう自分の想いを見つけたので、これからは時間をかけて親睦を深めていこうと思います」
「! それなら、大丈夫そうですね」
「ええ、これからが本当の婚約決闘です!!」
その決め台詞はちょっと分からないがコーガはこれからが大変そうだ。
でもその上で僕はセンリ様を応援したい心境になった。
「今度は是非、ニルヴァルナ王国へお越しください。貴方ほどの戦士なら大歓迎です」
「僕としてもニルヴァルナの国風には興味があるので、その時はどうかよろしくお願いします」
「はい。では、またお会いすることを心待ちにしております」
センリ様と言葉を交わし、それから彼女とニルヴァルナ王国の戦士たちを見送る。
肉体派な人々が多いニルヴァルナ王国。
どんな訓練をしているか非常に気になるのでいつか機会があれば行ってみたいな。
●
そして、夜も遅くなったので大河近くの監視塔で野営を行うことになった僕たちは、いつものように焚火を囲んで休憩していた。
その際にナギさんが夕食を振舞ってくれるということなので、僕たちも手伝いつつ夕食の完成を待っていた。
一応、アルクさん達が見張りを行ってくれているが、僕自身も微弱な治癒魔法の波動を周囲に放ち、治癒感知を行っているし、なにより予知魔法持ちが二人もいるので奇襲を受ける可能性はほぼないだろう。
「よし、完成だ」
鍋にいれられたスープをかきまぜたナギさんが、一人ずつよそったスープを配ってくれる。
野草と携帯用の干し肉で調理したスープ。
香草などもいれられているので風味もよく、味付けもほどよく胃から全身に染みわたるようだ。
「甘味と酸味もあって美味しいですね」
「いくつかの種類の木の実をすり潰していれたんだ。ちゃんと味になってくれているようでホッとしてるよ」
少し照れくさそうにするナギさんだが、本当に美味しい。
見張りをしてくれているアルクさんにも後で持って行ってあげよう。
「これは私の姉……姉さんが得意としていた料理だったんだ」
「私のご先祖様?」
アマコの言葉にナギさんが頷く。
自身の手の器にいれられたスープを見つめた彼女は、昔を思い出すように微笑んだ。
「姉さんはおっちょこちょいで抜けてるところがある人だったけど、優しい人でね。結局最後に会った時まで心配かけさせちゃったな……」
「お母さんみたいな人だったんだね」
「そうだね。本当にカノコさんみたいな人だったんだよ。……目を離したらすぐにいなくなるところとか、は、はは」
割と実感を込めたように半笑いになるナギさん。
だけど、ナギさんにとってはお姉さんは大事な家族だったのはよく伝わってくる。……そう考えると、その子孫であるアマコやカノコさんと一緒に行動していたのはナギさんにとっても不思議な感覚だったんだろうなとは思う。
「ま、私としては調理当番が増えてくれそうでいいんだけどね」
「今までがアレクだけだったからねー。宿舎側の人数も増えてきたし、作れる人も多くなった方がいいよねー」
「あ、あまり期待してほしくないんだが……私はどちらかというと正式な料理というものはよく知らないから……」
ネアとウルルさんにナギさんはやや狼狽える。
確かに宿舎が一つ増え、団員も増えてきたことでいつも救命団の調理を担当しているアレクの負担も大きくなりそうなんだよな。
かといって他の強面共は……一部の野郎共は絶対に厨房には立たせちゃいけないし、僕も野菜を切ったり魚を捌いたりはできるけど調理はからっきしだ。
「でもまあ、先輩は確実に料理上手だと思いますよ」
「なんだかんだでなんでもできるよね、スズネって。性格はちょっと変だけど」
才色兼備で眉目秀麗……本当の性格を出さなければ非の打ちどころのない完璧超人だ。
まあ、僕にとってはむしろ素の先輩の方が『犬上鈴音』って感じがするから、今では完璧な方に違和感を抱いてしまうけれど。
「とうとう明日にはリングル王国につくんですね……」
そう考えていると隣で静かにしていたキーラがスープのいれられたお皿に視線を落としながらそう呟いていた。
その呟きを耳にしたウルルさんは、弾んだ声で彼女に声をかける。
「キーラちゃん、リングル王国楽しみ?」
「はいっ。私、魔王領の中しか知らなかったので!! 外の世界を知れることがうれしいんです!!」
ウルルさんの声に嬉しそうに頷くキーラ。
リングル王国の町並みは魔王領とは異なった雰囲気があるから、キーラもそれに驚くかもしれないな。
「それにフェルムさんと会うのも楽しみです!!」
「ああ、フェルムも喜ぶだろうね」
あの子が一番キーラに親身になっていたからなぁ。
……なんか僕がキーラを救命団に勧誘したと勘違いされて出合頭に殴りかかられそうだけど。
「……うーん」
しかし、フェルムと先輩はうまくやれているだろうか。
確実に先輩は元気だろうけど、フェルムがどうなっているかは本当によく分からない。
「帰ったらナック君に会うのも楽しみだよね、ウサト君っ」
「ええ、あの子がオルガさんの元で多くのことを学んでいるでしょうしね」
診療所の手伝い、といえば単純に聞こえるがその実は人を癒す治癒魔法のエキスパートであるオルガさんの傍で彼の技を見ることだといえる。
彼がオルガさんの傍でなにを見て、なにを学んだのかそれを聞くのが今から楽しみだ。
「その時はキーラにもナックのことを紹介しなくちゃな」
「ええ、私も楽しみです。ええ、本当に」
同じくらいの年だからなぁ。
二人とも喧嘩をするような性格ではないのは分かっているし、ナックも魔族であるフェルムにも普通に接しているのでそこらへんも大丈夫だろう。
「……ネア。キーラってもしかしてナックに対抗心抱いてる?」
「一番弟子でいたいっていう独占欲かしらねー。ま、年相応でかわいいじゃない」
「ウサトに言った方がいい?」
「こういうのは本人に知られたくないものだから、言わなくてもいいわ。別に喧嘩しているわけじゃないんだし」
なにやらアマコとネアが小声で話しているけど。
ちょうど焚火の弾ける音であまり聞こえなかったが……うん、特に追及するほどでもないな。
一度背を伸ばしてから、後ろで丸くなって眠っているブルリンの身体に背中を預け、一息つく。
「先輩は元気だろうけど、カズキには心配をかけさせちゃっているだろうからな」
先輩は救命団に入団したけれど、カズキは変わらず城に住んでいる。
きっと彼にも心配させちゃっているだろうから、リングル王国に戻ったらすぐに会いにいかなくちゃな。
土産話もたくさんあるし。
「しかし、リングル王国に帰ってもやることがたくさんだ」
まずは城への報告と魔王領でハンナさんが作成してくれた書類の写しを提出すること。
次にキーラのことをローズに話すこと。
それと合わせてローズの部下の亡骸を遺族の元に返すこと。
オルガさんの手伝いを願い出たナックの様子を確認すること。
多分、思考を整理すればもっとあるだろうが帰り次第やらなければならないことはこれくらいだろう。
「……あとはウェルシーさんに魔法について教えてもらうことだな」
「え、本当にやるつもりだったの……? もう忘れていると思っていたわ」
訓練に関係することだから忘れるなんてことはない。
驚きの表情を浮かべるネアに僕は真面目に返答する。
「悪魔勢力がいる限り、いくら準備をしても足りないからな」
「本当に敵に回したくない類の厄介さよね」
「追い詰めなくても変なことしだすの相手からしたら未知数過ぎて怖いよね」
「一緒に行動するようになってから、アマコの『目が離せない』って言葉の意味を二重で理解するようになったな……」
ネア、アマコ、ナギさんの順番で言われちょっと凹む。
変なことをしている自覚はあるし、結果的にそれが意味のないことになるかもしれないのは分かっているけど、その失敗が新たなアイディアへと繋がっていくことも僕はよく知っている。
「でもまあ、久しぶりのリングル王国だから仕事のことを忘れて日常を過ごそうと思ってる」
「さすがにね。王様も許してくれる……というか、貴方普通に働き過ぎだと思うから無理にでも休ませると思うわよ」
そ、そこまで……?
日常を過ごすといっても救命団の日常と言う意味でバリバリ訓練とかする予定だったんだけど……まさかそれもダメ……?
リングル王国でもやることがたくさんあるウサトでした。
今回の更新は以上となります。
次回はなるべくはやく更新したいと思います。




