第三百八十八話
今回は一話のみの更新となります。
第三百八十九話です。
いつの間にか『いいね機能』というものが実装されたとのことなので試しに受け付けられるようにしてみました。
人攫い共を捕まえてから三日が過ぎた。
その間に彼らの尋問を行うことになったわけだが……思いのほかあっさりと彼らから情報を引き出すことができてしまった。
まあ、人間特効みたいなネアの能力とハンナさんの魔法がある時点で隠し事なんてないに等しいのだけど、当の人攫い共がものすごく弱弱しい様子だったことも理由の一つだろう。
『ひっ、こ、ここに入ってきた方法なら教える……』
『なんでも喋る! だからあの怪物を連れてくるのはやめてくれ……!!』
『緑の光が……暗闇からやってくる……どこにも逃げられない……』
いや、なんかもうここまで影響を受けていると逆に申し訳なくなってきてしまう。
だけどその甲斐もあって手に入れた情報は僕たちにとっても魔族側にとっても有益なものだった。
「魔王様がお前のことを面白いと言う気持ちが分かった気がする」
「分からないでください」
尋問後、別室で肩を落としている僕にアーミラさんがかけた言葉にさらにげんなりとする。
この人も尋問に立ち会っていたわけだが、あまりの人攫い連中の反応にちょっと引いてしまっていた様子だった。
「むしろこいつが面白いことしない時なんてほとんどねーぞ」
僕の対面の席に座っていたコーガが愉快気にそう口にする。
「常に面白いことをしているわけじゃないんだけど」
「少なくともこの二か月は常にやべーことしてただろ」
さすがに常にってのは盛ってるだろ……!!
君はいったい僕のことをなんだと思っているんだ。
「お前の使い魔とハンナも張り切っていたな」
「悪女コンビの利害が一致すると大変なことになることを学びましたよ……」
どっちもえげつない尋問の仕方してたもんな。
僕には見えなかったけど多分、僕が彼らを捕まえた時の記憶の一部を幻影魔法として見せていたのだろう。
その際にネアは言葉巧みに彼らを追いつめていた。
『ほらほらぁ、怪物がやってきちゃいますよぉ』
『いつまでもだんまり決め込むと大変よ?』
『助けて? 何を思って私たちが貴方達を助けると思っているんですか?』
『まだ好き勝手にものを言える立場と思っているようね。これはお仕置きが必要かしら?』
『あらあら、この人泣いちゃいましたよ、ネアさん』
『泣いてどうなるわけでもないのにねぇ』
この間、二人はずっと笑顔である。
僕が後ろにいるのに水を得た魚のように追いつめる姿は本当に悪魔じみていた。
時折、僕を見て震えていたことに疑問が残るが……まあ、それは気にしないでおこう。
「だが必要な情報は得たな」
「ええ、あとの対応は上に任せるだけです」
魔王領へ秘密裏に潜り込む際に用意した組み立て式の橋。
人攫い連中を雇った奴隷商人の名前と身分。
彼らが攫った子供たちを引き渡すことになっている場所と時間。
それらの情報を僕はフーバードでリングル王国に伝えた。
「安心するのは大本の輩を捕縛してからだな。だが少なくとも今後、このようなことがないように警備を強化しなければ」
一見解決に思えるがまだまだ魔王領にはなんとかしなければならない課題が山積みなんだよな。
そう考えていると不意に僕たちのいる部屋の扉を誰かがノックする。
「どうした?」
ノックに対してアーミラさんが反応する。
多分、警備の人だろうけどどうしたのだろうか?
『治癒魔法使い殿に用件があるという子供が……』
「ウサトにか?」
「僕は何も聞いていませんけど……キーラかな?」
だとすれば少し手っ取り早いけど……。
部屋に通すようにお願いすると、入ってきたのはキーラではなくアマコであった。
「ウサトいる?」
「お、アマコだったか。一人で来たの?」
「途中までカンナギと一緒だったけど、彼女は魔王と話があるらしいから私だけこっちに来たの」
そういうことか。
まあ、アマコも来てくれたことだしネアを連れ戻して次の予定に向かうとするか。
「今からキーラに会いに行くんだけど君も一緒に来る?」
「別に構わないよ。ラムの様子でも見に行くの?」
「それもあるけど、キーラにも話があってね」
「話?」
首を傾げるアマコに僕は丁度いいと思い、この場にいるアーミラさんとコーガにも魔王にキーラを救命団に預ける提案をされたことを説明する。
説明を聞き終えた三人は驚きながらも納得したような顔をする。
「あの娘をリングル王国に……か。なるほど、確かに今の魔王領は不安定な部分もあるから、お前たちに預けた方が安全か」
「まー、キーラの闇魔法は珍しいタイプだよな。悪魔連中が狙うかもしれないって懸念するのも分かるわ」
コーガの攻撃的な闇魔法と比較してもかなり違っているからな。
でもコーガ自身、最近になって分身するという不思議な能力に目覚めているのであまり人のことを言えないと思う。
「コーガもやろうと思えば飛べるんじゃないか?」
「そりゃできるけどよ、俺の魔法で作った翼で飛んでもただ滑空してるだけなんだよ。キーラの魔法は翼とか関係なしに浮遊してるから珍しいんだろ」
「……確かに」
キーラの闇魔法は飛ぶというより浮遊しているって感じだ。
別に羽ばたいているわけでもなく、謎の原理で浮いているのでそういう部分込みで魔王は評価しているのかもしれない。
「そういうことだから僕達は行くよ」
「おう、後のことは任せとけ。主にアーミラがやってくれるだろうけど」
おい人任せ。
かはは、と笑っているコーガがちらりとアーミラさんを見ると、わりかし怒りっぽい彼女がにやにやとしている。
「お、おい、なんだよその笑み。不気味なんだが……?」
「くくく、そろそろだな」
「は? なにがそろそ———」
瞬間、ばばーん、と擬音が付きそうな勢いで扉が開け放たれ、長い三つ編みの髪が印象的な少女———センリ様が部屋へ飛び込んでくる。
「コーガさんが真面目にお仕事をなさると聞きまして!?」
「げぇ!? センリ!?」
「事前に彼女を呼び出しておいた」
「接点ないだろうがお前ら!!」
……あっ。
そういえば今日の早朝訓練でアーミラさんがセンリ様と話してみたい、的なことを言っていたので紹介したんだけど、まさか……このために?
「あ、だからアーミラさん、ここに来る前にセンリ様と話したいって言ってたのか」
「ああ、思いのほか打ち解けられてな」
「ええ、一度手合わせして仲良くなりました!」
肉体言語で友人関係になったとかそういう感じ……?
なんか凄いな、と驚いていると必死な様子のコーガが僕を指さしてきた。
「まさかのお前!? テメェ、ウサト!! 責任を以てお前も手伝———」
「あ、あー!! アマコ!! 遅れると悪いからすぐに行くよ!!」
とりあえず僕に飛び火する前にアマコと共に外に出て扉を閉める。
その後にコーガの怨嗟の声が聞こえてきたけれど……うん、まあ、この際彼には頑張って欲しいと思う。
「次はどうするのウサト?」
「別室で悪だくみしてるネアを迎えにいく」
現在進行形で人攫い達に更なる尋問を行うための計画を練っているネアとハンナさんという悪女コンビのいる部屋へと歩いていく。
その際に、僕の隣を歩いていたアマコがこちらを見上げてくる。
「キーラがリングル王国に来るって本当なの?」
「僕としてはキーラの意思が最優先だから、最終的にはあの子が決めることになるよ」
フェルムの時と同じだが、まずは当人の意思が大事だ。
ここにはキーラの家族であるグレフさん達がいるので無理やり引き剥がすようなことはできないからな。
「でもキーラは救命団でもうまくやっていけそう……」
「なんだかんだで打ち解けれそうではあるね」
まだ子供だけれど伊達にグレフさんと旅をしていたわけではない。
多分、旅の経験で言えば僕以上に知識があると思う。
「問題はスズネだね」
「……。ネアもそうだけど、みんななんか先輩のこと危ない人だと思ってる?」
「危ない人ではないけど変な人だとは思ってる」
滅茶苦茶アマコの言葉が鋭いんですけど。
「ウサトはスズネのことどう思ってるの?」
「どう思ってる……?」
ちょっと話の流れが変わったな。
悩む僕にこちらを見上げたアマコが続けて言葉を口にする。
「なんだかんだでそういう話を聞いたことがなかったから」
「うーん……」
なんだろう、傍にいてくれると元気になる存在っていうのかな。
すごく言葉で表しにくい……。
数秒ほど考え込み、唸りながらもなんとか答える。
「本人には言わないけど……尊敬してるし凄い人だと思ってる。……本人には言わないけど」
「二回言うんだ……」
だってこんなこと恥ずかしくて本人に言えるわけないだろ。
そういう時、あの人茶化してくるか普通に照れるのどっちかの反応をしてきそうだ。
「さて、ここだ」
ネアのいる部屋へ到着したのでノックしてから扉を開ける。
すると———、
「ふふふ、ここはデビルウサトでさらに怖がらせて吐かせるのはどうかしら?」
「うふふ、いいですねぇ。まだ白状してないであろう悪事たくさん働いているであろうおバカさん達なので、この際余罪を恐怖の叫び声といっしょにいっぱい吐かせちゃいましょうねぇ」
「「ふふふふふふ」」
「「……」」
一旦扉を閉めてアマコと顔を見合わせてからため息をつく。
なんというか、あの二人がこちら側でよかったと思った。
……でも今からあのコンビの悪だくみに割って入らなくちゃいけないのかぁ。
●
悪だくみをしていたネアを連れて、キーラ達の住む家へと向かう僕達。
事前に向かうことは伝えていたので、すぐにラムとロゼが出迎えてくれて僕たちはキーラとグレフさんと話し合うことになった。
「———と、いうわけです」
「魔王様からの提案か。キーラ、お前はどうしたいんだ?」
すぐに今回のことについて説明するとグレフさんは頷きながらキーラに訊く。
まあ、すぐに答えは出るとは思えないし少し間を置いて———、
「行きます」
「え?」
「行きます」
そ、即答……?
もうテーブルに身を乗り出さんばかりの勢いで答えたキーラに驚く僕だが、アマコとネアは分かっていたとばかりの様子だ。
「まー、そうよね」
「予知で見る必要もないね」
分かってないのは僕だけだった……?
いや、でもリングル王国だよ?
隣国とはいえ魔王領から離れているし……そんなすぐに決断とか出せるの凄くないか……?
「私、リングル王国に行きたいです!!」
「しばらくグレフさんとは離れ離れになるけど大丈夫?」
「平気です!」
平気て。
ちょっと不安になったのでグレフさんを見ると彼は苦笑しながらも頷く。
「キーラ自身が選んだことというのもあるが、俺としてはお前達に預けることに反対する理由がないからな」
「そう、なんですか?」
「そりゃあ、そこらの輩にはしないぞ? お前だから任せているんだ」
グレフさんからの信頼の言葉に少しむず痒い気持ちになる。
「むしろ、お前のいる組織は大陸一安全な場所といってもいいかもしれないな。ははは」
「いえ………あぁ、かもしれませんね。ははは」
否定しようかと思ったけれど救命団にいるローズを筆頭としたメンツを思い浮かべてあながち間違いでもないことに気づいてしまう。
キーラが帰るのに合わせてナギさんも来てくれるんだよな……。
「でも心配なのが、この子一人で大丈夫かってことなんだよな」
「ああ、それならご心配なく。救命団宿舎にはネアとフェルムもいますから、その点は大丈夫です。あとは同年代の子もいますしね」
あと先輩も。
フェルムはちょっとだらしないところはあるけれど、ネアは結構世話焼きなところがあるので任せてもいいだろう。
「しょうがないわねぇ。私が面倒を見てあげるわ」
「満更でもないくせに」
「なにかいったかしら?」
ぼそりと呟くアマコをジト目で睨むネア。
……しかし、キーラがリングル王国に来るのか。
今まで魔王領しか知らなかったこの子が初めて外の世界を知る機会になるわけだし、僕からも色々と気にかけておかなきゃな。
「キーラ、頑張って来いよ」
「うん、一番の弟子になってくる……!!」
「お、おう……?」
当の本人もやる気十分なのがすごい。
「……リングル王国、か」
もうすぐ二か月間の滞在期間も終わり、僕たちはリングル王国へ帰ることになる。
この短時間で籠手を失ったりはしてしまったが、その分技術的な面で得るものも多かった。だが、それだけじゃ駄目なのは分かっている。
課題は尽きないが、これまで通りに前に進んでいこう。
実は尋問中、後ろで見張っていたウサトが時折悪魔に見えるような幻影を見せていたハンナさんでした。
今回の更新は以上となります。
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活動報告にてコミカライズ版『治癒魔法の間違った使い方』第十巻の活動報告を書かせていただきました。
第十巻の発売日は今月、3月26日を予定しております。




