第三百八十四話
三日目三話目の更新となります。
前話を見ていない方はまずはそちらをー。
魔物の襲撃こそ受けたが、その後の手伝いは何事もなく終わりを迎えた。
人間アピールをするという目論見は完全に失敗してしまったけれど……まあ、ここの人たちの安全と僕の印象のどっちが重要かと言われれば考えるまでもなく前者だ。
なので僕が相変わらず怪物に見られることになるのは諦めるとして、この際開き直って思う存分に働いてやろうと考えた。
「ふんっ!!」
人間三人ぶんの胴回りを合わせたくらいの太さの丸太を地面に掘った穴に勢いよく突き立てる。
ズゥン、という音と共に垂直に立った丸太———外壁の骨組みとなるソレを立てた僕は、軽く吐息を吐き出しながら肩の力を抜く。
「ウサト!? こっち手伝ってくれ!!」
「お、重ぉ!?」
一息つく暇もなく近くで同じ作業をしていたヒルク君とエイゲ君に駆け寄り傾きかけた丸太を持ち上げる。
僕よりも一回り小さいサイズの丸太だけど魔族二人では持ち上がる重さじゃない。
「た、助かった」
「まったく、無茶して持ち上がるものじゃないから気を付けて」
「無茶しなくても持ち上がるお前はなんなんだよ……」
「鍛えているからね」
「いや、怖いわ」
別にこの二人と同じ作業になったことは意図したものではなく、力仕事ばかりの手伝いに向かっているから偶然一緒になってしまっているだけなんだけど……なんだかんだで打ち解けてきちゃったな。
「二人とも単純に筋肉が足りないんじゃない? コーガに頼んで君たちを隊に再入隊するように推薦してもいいけど……」
「ええええ、遠慮しておく!!」
「嫌だ……訓練は嫌だぁ……」
別に僕が訓練するわけじゃないんだけど。
うーん、ここに居る人たちは元魔王軍兵士だったからかなり鍛え上げられているけど、この二人は一般の魔族とほとんど変わらないんだよな。
「まあ……無理して身体を鍛える必要もないか」
戦う力ばかりを求めてきた魔族だけど、これからは別の分野を学ぶことも必要になってくるんだからな。
そういう意味ではこの世界で生きていくことを決めた僕にも同じことが言えるけど。
「お、おい、何笑ってるんだよ……?」
「俺達を地獄に突き落とす何かを考えている……?」
「いや、なんでそうなる」
僕が笑っているだけでそんなこと考えていると思われるの……? 最早理不尽では?
とりあえず誤解を解きつつ、持ち上げた丸太を三人で地面に突き刺した後に一旦二人から離れる。
休憩時間だし、僕も少し座って休もうか。
「ふぅー」
「とことん隠さなくなったわね」
僕の団服を羽織るように被っていたネアがそんなことを言ってくる。
いつの間に……? 日よけ代わりにかな?
「もう隠す必要もないからなぁ」
「……確かにね。もう修正不可能でしょうし」
手伝いを始めてから三日。
街の様々な場所を転々としながら僕は手伝いを行っていた。
今やっているように力仕事ばかりだけれど、もう人間アピールとか考えることもないので思い切りやらせてもらっている。
「しっかし、なんか日の光もよく差すようになったし、本当に暑くなってきたわねー」
「魔王の力が取り除かれたからかもしれないね」
元より魔王領に太陽の光が差し込まなかったのは厚い雲で覆われていたからだ。
それがこの地に埋まっていた魔王の力が原因なら、この環境の変化も頷ける。
「お疲れーウサト君!」
「ウルルさん」
相変わらずの元気な様子でやってきたのはウルルさんだ。
手拭いと水筒を彼女から受け取り、ようやく一息つける。
「力仕事はお手の物だね!」
「むしろこの人はそれしか無理でしょ」
「そんなことないでしょー。ウサト君だって治癒魔法使いなんだからっ」
じろりと睨みながら言うネアに距離を詰めながらウルルさんがそう言う。
治癒専門のウルルさんがいてくれるから僕が現場で力仕事ができるので、ネアのいうこともあながち間違いでもない。
「あれれ、なんでウサト君の団服被ってるのー? 私もいれてよー」
「ちょ、暑苦しいから入ってくるんじゃないわよ! 貴女は自分のがあるでしょ!?」
うりうりー、とネアに絡んでいくウルルさんに苦笑いする。
本当に距離の詰め方がすごいな。
この強引さは僕にはないものだ。
「ウルルさんが来てくれて本当に助かっています」
治癒魔法使いが僕一人だけじゃ大変だったからな。
ウルルさんが治癒魔法に専念してくれたおかげで隊の訓練もできたわけだし、本当に感謝してる。
「ウサト君、それはこっちの台詞だよ」
「え?」
「私をここに連れてきてくれてありがとうってことだよ」
きょとんとする僕におかしそうに笑ったウルルさんは続けて言葉を発する。
「私さ、治癒魔法使いとしてずっと診療所で仕事してきたから、外の国のこととかほとんど知らなかったんだ。それで満足してたし、お兄ちゃんが心配で診療所を離れようと考えもしなかったしね」
「そうだったんですか」
オルガさんのことを過保護なくらいに心配していたな。
「でも今はお兄ちゃんはいい関係を築けそうな人と出会った。ナック君なんて少し見ない間に診療所を手伝ってくれるくらいに成長していた……」
「フッ、ナックも日々頑張っていますからね」
ルクヴィスの頃より精神的にも肉体的にも成長しているからな。
最近身長もちょっと伸びたような気がする。
「だから私も変わってみようかなーって、ここに来る決意を密かに固めていたわけなんだ」
「変われそうですか?」
「分かんない。でもここでの生活は楽しいよ」
それは良かった。
少なくとも僕が見ていた範囲ではウルルさんはずっと笑顔だった。
「あとウサト君がどんどんローズさんに似ていく過程を見るのも楽しいよ」
「え、嘘でしょ……?」
「嘘じゃないよ。訓練している時の姿とかローズさんにそっくりだもん」
唖然とするネアにそう語るウルルさん。
師匠に似ていると言われて嬉しくないわけではないが、僕としてはまだまだだと思ってる。
「……ん?」
ウルルさんと話していると、ふと空からこちらに近づく影に気づく。
……キーラ?
闇魔法のマントを着てものすごい勢いでこちらにやってきた彼女は地面に降りると同時に僕に詰め寄ってきた。
「き、キーラ!? どうした!?」
「う、ウサトさんっ!!」
彼女を受け止め、表情を確認するとなにやら様子がおかしい。
キーラがここまで動揺しているだなんて……なにかあったのか?
「あ、あの! ウサトさん!! ラムが……ラムがっ!」
「まずは落ち着いてくれ。話はちゃんと聞くから」
取り乱しているキーラを落ち着かせるため、治癒魔法を籠めた手を肩に置く。
治癒の波動で幾分か落ち着きを取り戻したキーラは、涙声のまま僕に声を上げた。
「ラムが……一緒に遊んでいた子と一緒に攫われたって!!」
———ラムが攫われた。
その言葉を聞くと同時に僕はキーラを抱え、闇魔法のマントを身に着ける。
詳しい事情を訊くのは後だ。
まずはその場を跳躍する勢いで高く空へと急上昇し、都市全体を見下ろせる位置で止まる。
「ウサトさん、わ、私も空から探しましたけど……」
「キーラ、耳を塞いでて」
キーラが両手で耳を塞いだことを確認し大きく息を吸う。
これ以上になく肺に空気を取り込んだ僕は、一気に声を吐き出し———相棒の名を叫ぶ。
「ブルリィィィィィン!!!!」
僕の声が都市に響き渡り、その後に一瞬の静寂が訪れる。
しかしその直後に———、
『グルァァァァ!!!』
宿舎の方から頼もしい雄たけびが返ってきたことを確認し、僕達は地上へと降りる。
元居た場所に降りると、状況を把握したネアがすぐに話しかける。
「キーラ、ラムは攫われたって言っていたけど、どこで攫われたの?」
「外壁の傍です」
「傍って言うと外側?」
「いえ、それが内側なんです。いつのまにか外壁に穴のようなものが作られていたらしく……多分そこから……」
計画的なものか……?
少なくとも勢いに任せたものじゃない。
子供たちが遊ぶ場所を把握した上で行動に移したように思える。
「黒い布を顔に巻いた人たちと言っていました。ロゼだけは物陰に隠れていて助かったらしいけど……ラムと一緒にいた子供たちが連れ去られて……っ」
キーラは片方だけ残された靴を強く握りしめる。
多分、その場に残されていたラムのものだろう。
「ロゼは今どうしてる?」
「グレフと一緒にいます。もう警備隊の方に伝えて、すぐに捜索隊が出てくれるそうです……」
既に動いてくれているか……。
でも安心はできないな。
「ウサト、相手は多分……」
「ああ」
計画的な犯行。
攫いやすい魔族の子供を狙ったこと。
顔を隠していたこと。
まだ断定はできないが、相手は奴隷商人、またはそれに引き渡す輩の可能性が高い。
魔王の力が弱っている時を見計らって仕掛けてきたのか? 子供数人を一気に攫うとなるとそれなりの数がいるかもしれない、が。
「いい度胸だ」
覚悟はしていた。
そんな輩も出てくると。
実際、僕もこの世界に来て間もない頃に盗賊とも遭遇しているけど……今回は僕も頭にきた。
「魔族と人間が歩み寄れる土台ができてきているんだ。それを、こんな形で台無しにするわけにはいかない」
「グルァァァ!!」
僕の背後から砂煙と共に現れたブルリンがやる気満々と言った様子で鼻を鳴らす。
僕の声に応じここまで走ってきてくれたブルリンの頭を撫でつけながら、静かに怒りに燃える。
「……逃げられると思うなよ」
きっと、今子供たちを攫った輩はこう思っていることだろう。
魔族と人間の関係はまだあやふやなものだから魔王領さえ出れば安全だろう。
子供さえ引き渡してしまえば、こっちのものだ。
「相手が人間だろうが関係ない。地獄の果てでも追いかけてやる」
例え、魔王領から逃げおおせたとしても僕は国を越えて追いかける。
必要とあればこれまでの旅で知り合った人たちを頼って追いつめる。
昼夜問わず探し続け———自分たちが怒らせた存在がなんなのか分からせてやる。
「ブルリン、ラムの匂いは追えるか?」
「グルァ!!」
「よし。……ウルルさん。魔王に僕が動くこと、あと僕の魔力を追跡するように伝えてください」
「分かった!!」
あの人ならそれくらいのことはできるだろう。
本当はアマコとナギさんも呼びたいけど、今は時間が惜しい。
その場を駆けだしたウルルさんを見送ってから僕はマントを広げる。
「キーラ、君の家族を助けに行こう」
「! はい!!」
勢いよくマントに飛び込んだキーラとフクロウになって肩にとまったネアを確認し、僕はブルリンと共にその場を駆けだす。
子供を攫うということは計画的な犯行のはずだ。
なら、まずはどこかしらに拠点を構えていると見ていい。
「僕がどうして悪魔に恐れられるか、教えてやる……」
「自分で言っちゃうのね……。だけど、今は貴方と同じ気持ちよ……!!」
「グルァ!!」
やる気満々なネアに頷きながら僕は前を睨みつける。
絶対に助け出す。
だから、それまで諦めないで待っていてくれ……!!
冷静に見えますが内心かなりブチギているウサトでした。
次回はホラー回……ラムの視点を予定しております。
今回の更新は以上となります。




