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第三百八十二話

お待たせしました。

第三百八十二話です。


今回は三日に分けて三話ほど更新する予定です。

 魔王とこれからのことについて話しなぜか正気を疑われた後、一旦宿舎に戻り朝食や身支度など諸々の準備を済ませた僕は隊の皆のいる訓練場へと向かった。

 あらかじめコーガと隊の皆には集まるように伝えていたので、僕が到着する頃には既に隊の面々は訓練場に揃っていた。


「よし、コーガもいるな。センリ様もありがとうございました」

「ふふ、私も好きでやっているので」

「眠ぃ……」


 上機嫌な様子のセンリ様にお礼をいいながらコーガを見ると、あくびをしてすごく眠そうな様子だ。だけど、ちゃんと来てくれてよかった。


「で、私達を集めてどうしたのよ? 訓練?」

「いや、今日は話があってね」


 エルさんの声に彼女たちを見る。

 エルさん、ノノさん、ヴィーナさん、ケヴィンさん、ウォルさん、セインさん。

 一か月間訓練してきた彼らの姿を改めて見て僕は感慨深い気持ちになる。


「近いうちに僕はリングル王国に帰還することになる。それは皆知っているよね?」

「ええ……ッ」

「別れの時……か」

「ちくしょう、まだ教えてもらってないことがたくさんあるのによ……!」


 ケヴィンさん、ウォルさん、セインさんの男三人が男泣きしている。

 最初はぎくしゃくしていたけど、今となっては別れを惜しまれるくらい親しまれるようになるとは……。


「エルさん、この人たち……」

「ノノ、訓練って人を変えちゃうのよ……」

「私からすればお二人も結構変わっていると思いまぶふぅ!?」


 ヴィーナさんのわき腹を両隣からつついているエルさんとノノさん。

 彼女たちも見違えるほどに成長していたからなぁ。


「心を鬼にして訓練してきたけど……最終的に六人も残るだなんて思いもしなかった」


「えぇ、当初はもっと少ない予定だったのか……?」

「まさかコーガさんの部下も落とす想定だったんですか……?」


 後ろでコーガとセンリ様がひそひそと話しているが、話を続けよう。


「これからは君たちはコーガの元でこの都市のために働くことになる。魔物の領域の開拓から有事の際の救助活動、やるべきことが沢山出てくるはずだ」

「「「……」」」

「でも、厳しい訓練を乗り越えてきた皆ならきっと乗り越えられると僕は確信している」

「「「ハッ!」」」


 精神面もかなり鍛えたからな。

 大抵の障害も彼らなら乗り越えられることだろう。


「……。え、ウサトさん? 私は?」


 ここでヴィーナさんが自分を指さして歩み出てくる。


「ここはあれですよね? 私は立ち位置的に重要な悪魔ですから私もリングル王国に連れ帰ってくれるんですよね?」

「フッ……」


 彼女の言葉に微笑みながら僕は返事をする。


「ヴィーナさん。君の家はここだろう?」

「ひぃん……連れていって欲しいぃぃ……」


 さすがにヴィーナさんを連れていくのは無理だぞ。

 ただでさえ悪魔だし、リングル王国に彼女を連れ帰り———先輩と会わせた時なにが起こるか分からないからだ。

 下手をするととんでもない化学反応を起こしてしまう可能性だってある。

 そもそもこの人には魔王領に居てほしい。


「貴女は魔王に任せます……というのは建前で」

「たてまえぇ……?」

「封印される以前の生き方を変えたなら、もうちょっとここで自由に過ごしてみるべきです」


 僕がこれまで見てきた悪魔は仲間を仲間だなんて思わないような奴らばかりだったけど、ヴィーナさんだけは隊の皆をちゃんとした仲間と認識していた。

 彼女のこれまでの言動からして封印される以前とは変わっているはずだ。


「気にいっているんでしょう? ここが」

「それは……そうですが」

「なら猶更、ここを離れるべきではないでしょう。魔王が貴女に危険性がないと判断すればより自由に動けるようになりますしね」


 僕の言葉にヴィーナさんの視線が隊の5人へと向けられる。

 その視線にエルさんは腕を組んでそっぽを向く。


「……悪魔以上に恐ろしい奴がいるんだから今更でしょ」

「エルさん……」


 悪魔以上に恐ろしいやつって言葉が妙に気になったが、彼らもヴィーナさんが悪魔だということ関係なしに受け入れている。


「じゃ、そういうことだからコーガ、頼んだぜ」

「面倒なもん押し付けられちまったなぁ。まあ、ぼちぼちやっていくとするわ」


 変に肩肘張らない方がコーガらしいからそれでいいと思う。

 でもちょっと心配だから、アーミラさんにもそこはかとなく気に掛けるように頼んでおこうとは思う。


「魔物の領域への探索と言う任も終えたから今日で僕は指導を降りることになるわけだ」

「帰るまでなにするんだ?」

「街の手伝いをしようと思ってね」

「……」


 なんでそんな微妙な顔されなきゃならないんだ?

 僕はいったい街中で何をすると思われているのかな?



 とりあえず隊の皆に指導の任を降りることを話し、その場を後にした僕は早速ウルルさん達と合流し街のお手伝い……もとい、警備を手伝うことになった。

 ウルルさん達以外に参加するのは、アマコとネア。

 ナギさんも来ると思っていたけど「さすがに目立っちゃうから今日は遠慮しておく」という伝言をネアから伝えられたので、初日に参加するのは僕とフクロウ状態のネアとアマコになった。


「アルクさん、クルミアさん。今日はよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


 警備といってもそれほど堅苦しいものではなく、街の中を見回って困った人がいたら手伝ったりするのが主な目的らしい。

 時々、事前に手伝ってほしいという要望もあるらしいけど、今日のおおまかな目的は街を回って人助けだ。


「この面々を見ていると書状渡しの旅を思い出しますね」

「ブルリンは厩舎で眠ってますけど……ええ、そうですね」


 アルクさんの言葉に僕は頷く。

 ウルルさんは興味深そうに僕の隣に並ぶように移動してくる。


「書状渡しっていうとウサト君がサマリアールとかミアラークとか行った時の旅だよね?」

「はい。大体……二か月か三か月くらいでしょうか。本当に色々なことが起こった旅でしたよ。……クルミアさんは先輩と一緒でしたよね?」

「ええ、こちらもウサト殿と同じ感想です」


 先輩と一緒に旅をしていたんだから、そりゃそうだろうなぁ。

 ……旅は大変だったけれど、そこで得た経験や縁は今でも生き続けている。


「なにが一番大変だった?」

「全部です」

「全部なの!?」


 悪い意味で甲乙つけがたいというか……。

 ルクヴィスもサマリアールもミアラークも獣人の国もなにかしら起こっていたからなぁ。

 ネアが邪龍を蘇らせちゃった件は後々に影響を及ぼすって意味では一番大変とも言えるけど……。


「ね、ねえ、それよりどうするのよ? 道を歩いているだけじゃ意味ないわよ?」


 なにかしら予感したのか、若干声を震わせたネアが露骨に話題を逸らそうとする。

 ここで過去のことを蒸し返すつもりもないのでその提案に乗り、話題を変える。


「アルクさん、これから向かう場所は決まっていますか?」

「ウサト殿の手が借りられるということなので街の開発を行っている区域に向かっていますね」

「開発……というと、建物や道を作ったりしている場所ですか?」

「その通りです」


 訓練の一環でその場所は何度も通っていたからな。

 確かにあそこはいくら手があっても足りないだろう。


「ウサト殿の治癒魔法ならば街で困っている方の役にも立てるでしょうし、やれることはたくさんありますよ」

「なるほど……とりあえず、治癒感知は常に広げといてもいいですね」


 有言実行とばかりに僕は系統劣化で弱めた魔力を自分を中心に放射状に放つ。


「なんかウサト君の近くやすらぐね」

「今、治癒魔法の放射を始めましたからね」

「でもなんか普通の治癒魔法を受けているというより、なんかふわぁってしている感じがする」


 ソナーよろしく魔力を一定間隔で周りに放っていると、周囲の人の位置などが分かる。

 有効範囲は約10メートル且つ、魔力自体はすぐに霧散してしまうけど街中を歩く分には十分な範囲だ。


「ウサト殿は今魔力を使って大丈夫なんですか?」

「系統劣化は魔力の消費を抑えるのにも役立ちますからね」

「もう治癒魔法どころか魔法使いとは別のことをしているように思えてきますよ……」


 ちょっと引いた様子のクルミアさんに我ながら苦笑する。

 個人的にはこの系統劣化をもっと習得しやすいようにしたいけれど、結構それが難しいんだよな。


「……ん?」


 僕の魔力感知範囲内に路地からこちらを伺う5人の子供たちを察知する。

 ここに住んでいる子供なのは一目瞭然だけど、そのうちの2人の子供は僕が知っている子だった。


「ラム、ロゼ」

「あ、ウサトお兄ちゃん!」

「こんにちはー」


 グレフさんの保護している双子の魔族の子供、ラムとロゼ。

 路地を出てこちらに駆けよってくる二人を見て、僕とネアとアマコはアルクさんに断りをいれてから一旦その場を離れる———が、なぜかウルルさんもついてきた。


「なぜウルルさんも?」

「ふんふん」


 興奮しないでください。

 目をきらきらさせているウルルさんが若干先輩と化していることに注意しつつ、こちらにやってきた二人と視線を合わせるように地面に膝をつく。

 路地の方からこちらを伺っている他の子たちを見てから話しかけてみる。


「友達と一緒に遊んでいたのかい?」

「うん!」

「お姉ちゃんも呼んでくる?」


 子供だけで遊ぶ、というのは少し心配になるけどグレフさんが許しているのなら大丈夫なのだろう。

 それに、ここは彼が住んでいる場所からそう遠くないのも理由の一つだろう。


「ウサトお兄ちゃんはどうしたの? 普通に歩いてるけど?」

「それはね、僕もたまには歩きたい時があるからだよ?」


「ぷっ」


 アマコ、後で覚悟しておけよ。

 しかし、なんで僕は常に走っていると思われているんだ? マグロかなにかだと思われているのか?


「あまり遠くにいかないように気を付けるんだぞ? グレフさんに心配かけさせたくないだろ?」

「うん。だから近くで遊ぶようにしてるんだ」

「偉いぞ」


 血のつながりはないけれど、ちゃんとグレフさんのことを信頼しているのがすごく分かるな。

 そこまで注意する必要がないと感じた僕は、その場を離れようとして……ふと、なにか渡そうかなと思う。

 ならば、と思い僕は掌の中に弾力付与を練り込んだ魔力弾を五つ作り出し、それをラムとロゼに渡す。


「はい、どうぞ」

「えっ、なに、これ? スライム?」

「やわらかーい」

「うん。治癒スライムだよ。時間が経つと消えちゃうけどね」


 とりあえず弾力弾、もとい治癒スライムを渡してみる。

 やや魔力の濃度を高めた濃い緑色の魔力を弾力付与で加工したそれを手にした二人は、ぱぁぁぁ、と表情を明るくさせる。


「ありがとうウサトお兄ちゃん!」

「いいんだ。あの子たちにも渡してあげるといい」

「うん!」

「じゃあねー!」


 上機嫌に友達の元へと駆けていく二人を手を振って見送る。

 そんな僕にウルルさんが声をかけてくる。


「ウサト君って子供慣れしてる?」

「いつも傍にいますからね」

「ねえ、ウサト。それ私のこと言ってる? ウサト?」


 じろりと僕を見上げながらぽこぽこ殴りつけてくるアマコに愉悦。

 さっき笑った仕返しだぜ……!!


「しかし……ヒノモトでは子供に怖がられてしまったがここでは違うってことが証明されたな」

「あの時のウサトは自業自得だと思う」

「斧で薪割りするどころか薪ごと地面割った化物って事実は変わらないけどね」


 相変わらずのツッコミだぜ。

 子狐と子フクロウの生意気なツッコミに一気に現実に引き戻されながらため息をつく。


「ウサト君、因みにあれってどれくらいで消えるの?」

「え、そうですね……。手荒に扱わなければ一時間か二時間くらいはもつんじゃないですか?」


 さすがに半日まではもたないな。

 そこまで意識して作ったわけでもないし。

 そう考えていると、もの欲しそうに僕を見るウルルさんの視線に気づく。


「……どうぞ」

「ありがとうウサト君……!!」

「いえ、いいんです」

「わぁ、同じ魔法のはずなのに私と全然違う!」


 ……。やっぱ治癒スライムって需要あるのか……?

 リングル王国に帰ったら城に許可取って売り出してみるか? いや待て、粘着性の治癒魔力弾を患部に貼り付ける……まさか、治癒湿布が可能……?


「ネア、どこか疲れている部分はあるか?」

「え? 疲れている部分? んー、あ、昨日遅くまで読書していたから目が疲れているわね」

「よし、これを目に張り付けろ」

「正気?」


 なんで一日に二回も正気を疑われなくちゃならないんだ。

 口ではぶつくさといいつつも、ネアはフクロウ状態のままスライム状の魔力弾を瞼の上からくっつける。

 見た目は目元を覆ったフクロウという珍妙な姿になってしまったが……。


「どう?」

「うあ”ぁぁー……」


 おじさんみたいな声が出てるけど大丈夫かな?

 数秒ほど唸ったネアは、目元に魔力をくっつけたまま口を開く。


「これは、売れるわね」


 ものすごく段階を飛ばした感想が返ってきたけど効果はあるようだ。


「粘着力はあるけどそれほど強くないのがいいわね。治癒魔法の適度な波動が目を中心にゆっくりと広がっていくから普通にいいわね、これ」


 うー、あー、と目元に魔力弾くっつけたまま堪能しているネア。

 どうやらしばらくは外すつもりはないようだ。


「リングル王国帰ったら事業起こしましょ。経営とかその他諸々は私とスズネに任せて貴方は魔力弾を生産するだけでいいわ」

「ははっ、そうなったら面白いなぁ」

「……サマリアールに魔力を保存する魔具を発注するのもアリね……」


 すごいマジな顔しているんだけど。

 なんか面倒な話になりそうだし、ここは話題を変えよう。


「アマコ。ハンナさんはどうしてた?」


 ぶつぶつと何かを口にしているネアからアマコへと視線を移す。

 我関せずと歩いていた彼女は口元に手を当てる。


「ハンナさんは昨日報告書を出し終えて、今日は遅れての休みをとれたんだって」

「なら、そっとしておくべきだな」

「うん、趣味の花壇の手入れをしているようだしその方がいいと思う」


 花壇の手入れかぁ。

 あ、だから魔物の領域に居たとき皆に見えないところで袋に土を詰めてキーラに渡していたのか。

 なんかバレてほしくなかったっぽいからあえて言わなかったけど。


「ハンナさんにはかなり助けられたし苦労もさせただろうから、リングル王国に帰ったら花の種でも送ろうかな」

「うん。まだ魔王領じゃそれほど多くの花の種が手に入らないようだからね」


 復興しつつはあるがまだまだ時間がかかるからな。


「見えてきましたよ」

「おっ」


 アルクさんの声に前を向く。

 気づけば建物の並ぶ道は大きく様変わりし、荒く整地された道に未完成の建物や木材などが並べられた街並みが視界に広がる。

 元は戦いの場として作られた魔王都市ヴェルハザルは今や多くの魔族の方々を受け入れる街へと変わり始めている。

 城塞は壊され、人々が住むためにその領域を大きく広げているその光景を目にしながら僕は今一度気合をいれる。

ヴィーナと先輩が出会ったら大変なことになるので魔王領に留守番です。


次回の更新は明日の18時を予定しております。

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先輩+ドM悪魔=何らかの永久機関.....ッ!?やめてくれ作者、その概念は俺に聞く                                やめてくれ
治癒スライム…お湯に溶かしたら治癒魔法風呂にならないかなぁ…
[良い点] 最近肩こりがしんどいから治癒スライム湿布?がメチャクチャ欲しすぎる
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