第三百八十話
二話目二日目の更新です。
前話を見ていない方はまずはそちらをー。
ローズの部下の皆さんの遺体を棺に納めた後、まずはキーラを保護者であるグレフさんの元へ送り届けた。
キーラは二週間もの間、危険な旅に同行していたので彼女が無事に帰ってきてグレフさんも安心した様子だった。
キーラを送り届けた後はアマコとネアをナギさんとハンナさんが泊まる訓練所近くの宿舎に送り届け、僕はリングル王国から派遣された人員が泊まる宿舎へと向かった。
「ブルリンは……まあ、寝てるな。知ってた」
「フグゥー」
厩舎を確認するなり藁の上でボールみたいに丸まっているブルリン。
そんな彼に苦笑していると、宿舎の扉が開かれクリーム色の髪色の少女が顔を出してくる。
「あ! おかえりなさい! ウサト君!!」
「あ、はい。ただいま帰りました」
「待ってたよー! ささっ、中に入って入って!」
笑顔のウルルさんに手を引かれ、宿舎の中へと入る。
ここに来て最初だけ僕が利用していた部屋はまだ空いているようなので、そこで荷物を置き着替えてからウルルさんのいる居間へと降りる。
居間にはウルルさんだけじゃなく、アルクさんと彼の同僚のクルミアさんもいた。
「あれ? 他の皆さんは?」
アルクさんは夕食の準備をして厨房にいるようだけど、テーブルにはクルミアさんとウルルさんの二人しかいない。
僕の疑問にクルミアさんが答えてくれる。
「見回りですよ。ウサト殿が探索に出ている間に、都市の警備も手伝うことになったので」
「え、そうだったんですか。僕が出た後にか……」
警備を手伝うことになるって……それだけ受け入れられているってことでいいんだよね。
「ふふふー、他にも街の手伝いとかもしてね。いっぱい仲良くなったんだ」
「こちらは大変でしたけどねぇ。ウルルさん、スズネさんと同じくらい行動力が凄いんですもん」
「ははは」
ウルルさんも伊達に救命団員じゃないからな。
二人の会話に笑っていると、ウルルさんが僕を見て小さく首を傾げる。
「大変な旅だったんだね」
「え?」
「君がそこまで疲れているなんて相当だよ」
……もしかして顔に出てる? 魔王はしょうがないと思ったけど、まさかウルルさんに見抜かれるとは。
思わず自分の頬に手を当てていると、ウルルさんが得意げに笑いながら顎に指を当てる。
「伊達に診療所勤めじゃないよ? 私に見抜けない患者はいないのです」
「オルガさんが貴女に頭が上がらない理由がよく分かります」
「えへへ」
よく考えればその通りだ。
彼女は僕以上に患者を診ているんだから、そりゃ分かるか。
「あまり無茶しちゃ駄目だよ? 私、ウサト君がしょっちゅう気絶してるの知ってるんだから」
「はい……」
なんだろう、あまりない叱られ方だから普通にくるものがある。
素直に反省しよう。
無茶をしているのは事実だし。
「しばらくは安静にしますよ。魔王にも言われてしまいましたからね」
「魔王にも言われたんですか……?」
クルミアさんが意外そうな顔をする。
そりゃ一般の魔王のイメージは怖いものだからなぁ。
「お待たせしました」
と、ここでアルクさんが料理を持ってきてくれる。
肉と野菜を煮込んだシチューにサラダなどなど、書状渡しの頃から慣れ親しんだアルクさんの料理がテーブルに並ぶ。
……アマコたちも呼べばよかったかな?
あっちではハンナさんとネアが夕食を作っているけれど。
「やっぱりアルクさんの料理は美味しいです」
「ははは、腕を振るった甲斐があるというものです」
この人がいなければ書状渡しの旅はもっと暗いものになっていたかもしれないな。
そう思いながら料理に舌鼓を打っていると、対面の席に座るアルクさんが口を開いた。
「魔物の領域への探索、大変だったでしょう」
「ははは、それはもう……。でも色々な魔物が見れて結構楽しかったです」
「魔物ですか……訊いてもよろしいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ」
僕は魔物の領域で遭遇した魔物について話した。
フーバードにべノムモンキー、遺跡で遭遇した巨大な海竜。
任務の内容に触れない程度に説明していくと、話に興味を持ってくれたクルミアさんが感心したように腕を組んだ。
「巨大な魔物ですか」
「邪龍くらいの大きさはありましたね。恐らく、あれがヌシというやつだったんでしょう」
「どうやって撃退したんですか?」
「……」
ジェット機みたいに空をぶっ飛んで、魔力弾をミサイルみたいにぶっ放して怯ませた……だなんて言ったらドン引きされるのは分かるので、ここは濁しておこう。
「ちょっと怯ませてその隙に脱出しました」
「……なるほど」
「……。いや、なるほどじゃないよねアルク君? 今、明らかに会話が飛んだんだけど」
濁したつもりがアルクさんには察せられてしまったぜ……。
でもあの水龍には悪いことしちゃったなぁ。
仕方ないとはいえ縄張りを荒らしてしまったし、カイラとの戦いに巻き込んで気絶させちゃったからな。
「フーバードやベノムモンキーとかは僕たちの知っている姿とは全然違っていましたね」
「え、どういう感じで?」
「凶暴だったり身体が大きくなっていたり」
「ちょ、ちょっと私は想像したくないかなぁ」
フーバードが見た目が可愛らしい青いハトなので、それを聞いたウルルさんは頬を引きつらせる。
「でっかい牛の魔物とも遭遇しましたね」
「へぇ、どれくらい大きいの?」
「ブルリンの三倍くらいです」
「でっっっっか!!?」
完全に普通の牛の大きさを超えているからなぁ。
それでも邪龍と比べるとまだまだ小さいレベルだけど。
「名前がなかったようなのでツインホーンブルと名付けました。略してツイブルです」
「そ、そうなんだ」
「……やっぱりスズネさんと同レベル……」
聞こえてますよクルミアさん。
ジト目で見る僕にクルミアさんは慌てて手を横に振る。
「か、環境に適合して大型化した魔物に、今は絶滅したと思われた魔物……これ、スズネさんが知ったら大変なことになりそうですねぇ」
「ええ、リングル王国に帰り次第自慢するつもりです」
「大変なことになりそうって今私言いましたよね……?」
きっと悔しがるようだけど絶対に話しておきたい。
なんなら次に魔物の領域に行く機会があったのなら先輩も連れて行きたいのである。
絶対楽しそうだ。
「魔物の領域の探索から帰還しましたが、ウサト殿はまた探索隊の指導に戻るのですか?」
「……うーん」
アルクさんの質問に少し思い悩む。
もう僕が隊の指導をする必要はない気がする。
訓練のやり方は教えたし、僕がいなくなっても彼らは鍛錬を続けてくれるのは分かっている。
「僕たちはもうすぐここを離れる身です。最後にある程度の指導はするでしょうが……あとはコーガに任せます」
「ウサト君、彼に任せて大丈夫? 彼って結構……」
「ちゃらんぽらんなところもありますが、ちゃんとやってくれますよ。彼も今の魔王領と同じで変わろうとしていますから」
まあ、なんというか……友達だと思っている。
あっちはどう思っているか分からないし、今更面と向かって言う気はないけど。
「なので帰還する日にちまでは、こちらの仕事を手伝おうかなと」
「じゃあさ、ウサト君も一緒にやろうよ!」
「一緒にって……なにをですか?」
警備の件のこと?
首を傾げる僕にウルルさんが笑みを浮かべる。
「魔族の皆のお手伝い!」
「あ、さっき言っていた」
「うん!」
……いいかもしれない。
僕のここでの役目はほぼ終わった。
リングル王国帰還までの日程はまだあるし、なにより僕はこの一か月ずっと部下たちの訓練ばかりで街の人々とほとんど関わっていなかった。
「多分、ここの人たちの僕の印象は。街を駆けまわる変な人でしょうね」
「変な人どころじゃないと思うけど、あながち間違ってはいないと思うよ」
「さすがにリングル王国のようにはいきませんからねぇ」
自覚はある。
訓練のために手加減はしなかったが。
魔王軍の元兵士の皆さんには怖がられ、一般の人には変な人と認識されたまま帰還するのは僕の本意ではない。
むしろ戦争時代の兵士の皆さんの印象を未だに変えられていないどころか、悪化している節さえある。
「ならばここは人間アピールして誤解を解けばいいのでは?」
「えぇと、ウサト殿? 人間アピールと言っている時点で誤解もなにもないのでは?」
「お手伝い、やらせていただきましょう……!!」
「やった!」
やるからには本気でいかないとな。
まだ復興が始まって間もないここではやるべきことは沢山あるはず。
微力ながらも役立てていこう。
「フッ、出張救命団、街の便利屋さん編……ということですね……!!」
「楽しいことになりそうだね!」
「ええ!」
ウルルさんに頷く。
リングル王国帰還までの方針も固まった。
後、考えるべきことは……いや……あるな。
「ネロさん、か」
ネロさんはローズの部下たちの死に深く関わっている。
そんな彼に棺に納められた彼らのことを話すべきかどうか……。
ウサト、人間アピールをすることを決意(?)
次回の更新は明日の18時を予定しております。




