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第四十二話

 ブルリンの親のお墓を立てた僕達は、日が暗くなる頃には無事森から帰る事が出来た。一応、アマコの保護者のサルラさんに事情を説明しておいたけど、その際にアパッチョと呼ばれるトゲトゲの果物を抱えきれない位に貰ってしまった……。

 断るのも悪いと思って救命団の宿舎に持って帰ってアレクに渡したら今夜の夕食のデザートとして出てきた。流石救命団の料理担当且つ強面連中の中でもまともな奴だ。劇物作る奴と比べれば天と地ほどの差があるよ。


 そして今日、僕はローズと共に訓練場に居た。救命団印の訓練服の上には何時もの重りが取り付けられており何時でも訓練が出来るように準備体操をしている。対して、僕の前で静かに腕を組んでいるローズは、さっきからこちらを見て思案気な顔つきをしていた。


「久しぶりに訓練を付けてやろうとは思うが……こと治癒魔法に関しては私から言う事はねぇ」

「え?でもまだ多分、病とか複雑なものは治せないと思うんですけど……」

「そういうのは慣れて行ったら自ずとできるようになんだよ。どちらにしろ、今のお前じゃ無理だ」


 そうはっきりとできないと言われれば逆に諦めもつく。じゃあ、何をすればいいのか。ひたすらに筋トレでもしろとでも言うのか。昨日走って大体体の調子が戻ったけど、僕も相当体力も筋力もついた。


「体力的にも肉体的にも……及第点だがとりあえずは良しとする」


 訂正、ローズの前では僕もまだまだのようだ。

 この人は僕に何処までやらせたいのだろうか。


「じゃあ、何をすればいいんですか?」


 そう言うとローズは僕から少し離れて、腕を回しながら何かの準備運動を始める。なんだろうか、凄く嫌な予感がする。


「私が今からお前を殴る」

「………あはは、御冗談を」

「今からお前が反応できない速さで殴る。避けるか防げ」

「あんた僕の事嫌いでしょ!?第一アンタのパンチなんて食らったら僕爆散しちゃいますよ!?」


 脳裏にローズによって頭を砕かれた蛇の姿が思い浮かぶ。僕の力でも効かないと感じたあの鱗を容易く貫くあのパワーを喰らったら、普通の強度の人間は間違いなくデッドエンドだろう。


「お前は治癒魔法に頼りすぎなんだよ。まあ、そういう風に鍛えたのは私なんだが……次のステップに進む時が来たっつー訳だ」


 そんな理不尽なステップアップがあってたまるか!?脱兎の如く逃げようとするとすぐさまフードを掴まれそれを阻まれる。


「い、嫌だ―――!こ、殺される!アマコッこの未来は見えなかったのかァ―――!!」

「外に出るならお前は些か無防備過ぎだ、……今までは破れかぶれでもなんとかはなっていたが、傷に作用する呪いには治癒魔法は効かねぇ……回避を身につけろ」


 回避以前に避けられる自信すらないんだけど、何だ僕が反応できないレベルって、速さ=パワーじゃないのか、多分この人治癒魔法があるっていう理由で寸止めすらしないぞ。


「まあ、私も鬼じゃねぇ。最初は軽くやってやる」

「いや、そもそも部下殴ろうとする時点で駄目だろ。アンタ頭逝ってんじゃねぇの…………あ、ごめんなさい」

「そうか!お前は本気でやってほしいんだな!!私は嬉しいぞお前が訓練に熱心でなぁ!!」


 何で僕の口は意思と関係なく動いてしまったんだろう。ローズが僕を持ったその手を大きく振りかぶる、その挙動に対しカラカラと虚しく笑いながら、全力の治癒魔法を身に纏う。

 一瞬の浮遊感と共に10メートルくらい先の地面へ投げつけられるも、ギリギリ体を捻り着地すると同時に両腕で心臓とお腹と顔面を守る。


「だから防御するんじゃねぇよ」

「んな無茶―――――」


 瞬間、腕の隙間を縫うように人生最大の衝撃が僕の体を襲う。拳を撃ち込まれた箇所が穿たれたような激痛が走ると同時に、上下が逆転したように周囲が回転するように視界が移り変わり浮遊感が襲う。


 多分、後に僕は語るだろう。

 これ以上の衝撃を受けることは無かったって………。








「は!?」


 起き上がると其処は訓練場の木の下だった。木陰が僕を優しく包み込んでいる……良い心地だ。そうだローズとの(一方的な)ぶつかり稽古は無かったんだね。

 訓練のし過ぎかな。なんて悪夢を見てしまったんだ。最近、払拭されてきたローズの印象が大分悪くなってしまった。いけないな、僕は……ウルルさんも言っていたじゃないか、あの人は傷つきやすい人だって僕が何時までも怖がっていたら駄目だな、うん。


「起きたか、じゃあもう一度やるぞ」


 ………現実逃避はやめよう。

 さっきまでは現実で、僕が思っていたこともウルルさんが言っていたこともありもしない妄言だったんだ。現実と向き合おう。

 そうすれば、少しだけ楽になる筈だから。


「………はい」


 うん……体の異常がないからって夢と片づけちゃ駄目なのは分かってる。流石ローズ、ケアもばっちりな師匠の鑑だね。全く、僕には勿体ない師匠だ。

 僕には勿体ないから誰かに代わって欲しいよ。


「安心しろ、さっきは加減した。体に異常はねぇだろ?」

「……ありがとうございます」


 今までずっと思ってたけどあんた本当に化物だ。












 結局その日、ローズの拳を受け続けた。何度かは避けられそうな感じにはなったけど、その度にローズが拳のスピードを速め僕を訓練場の端から端まで殴り飛ばした。これで手加減しているのが恐怖しかないけど、でも……耐久力は上がった。


 それが二日も三日も過ぎれば、もう否が応にも上がったよ。もう僕、並大抵の攻撃なら耐えられそうな気がする。元の世界で考えるならミサイル受けてもへっちゃらな気がする。


 だってさ、僕だって身長170あるんだよ?体重もそれなりにあるし……そんな僕を訓練場の端から端、またはそれを飛び越える程の飛距離までぶっ飛ばす拳を喰らってればどんな威力の攻撃も怖くなくなるわ。もう後半なんて回避に意識向けた瞬間にクリティカルヒットとか……あの人訓練の趣旨忘れているんじゃないですかね。


 ―――そんなこんなで、ローズとの訓練から四日が過ぎた頃、僕は身体を休める為の休みを貰い城へ赴いていた。休みを貰えたのは、なにやらローズに野暮用ができたようで、一日訓練が空いたからだ。

 休みを貰えた僕は城にやっては来たけど、特にこれといった用はないので、なんとなく気になった人の所へ足を運んでみた。


「でさ、団長ってば酷いんだよ。僕を殴り飛ばして」

『……何でここに居るんだ?』

「いや、どうしてるかなって」


 檻の前で愚痴を零す僕を睨み付けているのは黒騎士。前のように素顔を晒さずもわっとした黒色の鎧に身を包んで牢屋の隅で座り込んでいる。

 ……彼女はあれから大人しくしているようだが、王国の人達は黒騎士の処遇を決めあぐねている、というらしい。危険ならば始末、という過激な意見も出ているようだがロイド様が頑なに許可を出さないでいるらしい。

 ロイド様の判断は甘いとも言えるようだが、個人的には賛成だ。あまり死刑とかそういうのは平和なこの国ではやって欲しくない。

 それに黒騎士に怪我を負わされた人もいるだろうが、その大部分は僕と救命団の強面共が回収し治した。犬上先輩とカズキとの戦闘が長かったのが幸いしたのかもしれない。


「お前、これからどうするの?」

『……別に……ここに居るだけだ』

「それでいいの?」

『そんなのボクが決める事じゃないだろ。お前らが決める事だ』


 確かにそうだけど、本当にどうなってしまうのだろうか。まあ、僕が捕獲してしまった奴だから幾分か責任があるのが、気に掛ける理由だけど。それで死刑とかになったら凄く嫌だ。


『お前は……』

「ん?」

『……なんでもない、早く出てけ』

「……はぁ、分かりましたよっと」


 言われるがままに立ち上がり檻を後にする。

 一度、ローズに相談してみるのもアリ?でもローズも黒騎士について何か事を進めている様子だったし、僕は何かをする必要はないのかもしれない。


 考えを巡らしながら城の中を移動していると、城の外で剣の素振りをしている影を見つける。あれは多分カズキだ。剣を素振りしている彼に少し顔を出しておこうと思い、城の外へ移動する。

 すぐ近くまで来ると風を切る音を立てながら素振りし息を切らしているカズキの姿が視界に映る。


「フンッ!」


 カズキも頑張っているようだ。邪魔をしちゃ悪いと思いながら木陰に移動すると其処には素振りしているカズキをニコニコしながら眺めてるセリア様が居た。


「あら、ウサト様」

「こんにちわ、セリア様、カズキは何時からこれを?」

「一刻ほど前からですね。そろそろ体力の方が心配になってきます……やっぱり魔王軍との戦いが響いているのでしょうか……あれ以来訓練に一層気合いが入っているようにも思えます」

「あれ、何か違和感が……訓練って身を削るものじゃないんですか?」

「……あの、大丈夫ですか?眼が怖いのですが……」


 目?僕の目がどうしたのだろうか。何故か青い顔で苦笑いしているセリア様に疑問を抱きつつもカズキの方を見る。鉄製の剣を素振りしている姿は滅茶苦茶様になっているあたり、カズキも頑張っているんだろうなぁ……。


「―――あれ?ウサト……?」


 カズキがセリア様の隣にいる僕に気付いた。素振りしていた剣を鞘に戻した彼は、近くに置いていた布を手に取り汗を拭いながらこちらへ駆けてきた。


「久しぶりじゃないか!」

「ちょっと僕も訓練で忙しかったからね」


 あれを訓練と言ってもいいか分からないけど。


「犬上先輩から聴いたぞ、この国に住んでいる獣人の子の為に獣人の国へ行こうとしてるって」

「そこらへんはロイド様に判断してもらわなくちゃ駄目なんだよなぁ。でも、できることなら助けてあげたいなって思ってる」

「そのことなのですが……」


 セリア様が何か言いたげな表情で僕とカズキを見る。ロイド様の娘である彼女なら、そういう色々な事について知っているかもしれない。


「ウサト様が獣人の国へ行きたいという願いは、恐らくではありますが叶います」

「………ちょ、ちょっと待ってください。そんな簡単な。もうちょっと悩んだりするでしょう」


 まだ一週間くらいしか経っていないのにそんな段階まで決定しているのか。いや、あまりにも早すぎるな、多分何かあるぞコレは。


「お父様は他の国と協力して魔王軍という一つの脅威と戦う為に書状を送ろうとしています。カズキ様とイヌカミ様、ウサト様が来られる前の戦いでは残念ながら、協力は得られませんでしたが……先の戦いでは少し事情が違うのです」

「事情が違う……?」

「魔王軍を撃退することには成功いたしましたが、蓋を開けてみればカズキ様とイヌカミ様の力をもってしても辛勝という結果でした。加えて本来の死傷者は計り知れないほどに多かった筈」

「俺もウサトに助けられていなかったらあの場で……」


 其処でカズキはしまったとばかりに口を押さえた。何がどうしたのだろうか、隣にいるセリア様の事を気にしているあたり、まさかセリア様に死にかけた事を言っていない?

 ……まあ、それより考えるべきは、ロイド様が送ろうとしている書状についてだ。アマコの話が嘘ではなかったならば、前の戦いは負ける運命にあった戦いだと言ってもいいだろう。

 周囲の国々に魔王軍の危険性を訴えれば手を貸してくれるかもしれないな。


「………でも獣人さんの居る国とか難しいだろうなぁ……多分、人間の事嫌っているだろうし、アマコのお母さんを助けられればそれでいいんだけど……」 

「まだ決まってはいませんが、各国に書状を送る事に変わりはありません。ウサト様にも苦労を掛けてしまうかもしれませんが……」

「僕もこの国にお世話になっている身ですから、それくらいの苦労へっちゃらですよ」


 ローズとの訓練に比べたら格段に楽だろうし。……あれ、何か僕の判断基準がローズとの訓練になっているような気が……あながち、間違った基準じゃないからいいか。


「まあ、詳しい事はロイド様から来るだろうからそれまで訓練でもしながら待っていますよ。じゃ、僕はそろそろ帰りますね」

「えー、もう帰っちゃうのかよー」

「フフフ、カズキ様、ウサト様も忙しいのでしょう」


 これといって今日は忙しい訳ではないけど、カズキが訓練している姿を見て、僕も何かやらなくちゃいけない気持ちになった。ただ獣人の国へアマコのお母さんを治しに行くという役目が、各国への協力を求めるものに変わるとは露にも思わなかった。


 だけど、魔王軍との戦いの為に重要な役割を担う事は分かる。ここはいわば最前線、魔王が支配する領土から最も近い国、だからこそ他国の助けがいるのだが―――。


 多分だけど、魔王の侵略による脅威をまだ知らないんだ。

 今、この国は異世界召喚における序盤の序盤―――魔王という脅威を忘れてしまった世界の人々がその恐怖と脅威を知っていく段階。

 カズキと犬上先輩と……アマコが居なければ魔王の脅威を知らしめる狼煙となっていたかもしれない。


「……さて、カズキ様、先程の言葉について詳しく聞かせて貰っても?」

「は、はははは……ごめん」


 背後から聞こえる二人の問答を聴き苦笑しながらも、僕の足は自然と救命団の訓練場の方へ向いた。









 今日、あの治癒魔法使い、ウサトがやってきた。

 アイツはボクに愚痴のようなものを延々と零した後、あっさりと帰っていってしまった。何がしたかったんだろう、ボクが逃げないか様子を見に来たのだろうか。

 逃げても王国からも魔王軍からも追われてしまうような面倒臭い事態になっちゃうから、逃げる気なんてないんだけど。


 かといって死刑ともなると、うーんってなる。

 魔力を封じる拘束でもされればなす術なく無効化されてしまうけど、なんだかむざむざ殺されるのは癪に障る。始末されそうだったら、治癒魔法持ちが来るまでに王様位は憂さ晴らしに殺そうかな。


『………とは考えて見るものの……』


 ―――ここに居る奴らはなんなんだろうか。拷問もしないし警備も甘々。閉じ込める気があるのか?それなりに厳重なのが凄い苛々する。出て欲しいのか出て欲しくないのかそこらへんはちゃんとして欲しい。


 思えば一番おかしいのはウサトだ。

 ボクの怪我を治し、さっきもわざわざ会いに来たし、頭のおかしい人間としか言えない行動を取っている。


「これから、どうする、か……」


 甲冑を解いて肌を外気に晒す。暖かくも寒くもない牢屋の空気を心地よく感じながら、背後の壁に背を預け考える。

 魔王軍に戻っても退屈な日常が戻って来るだけ、かといって此処に居ても牢屋に閉じ込められているだけ。別にそれでもいいが、ウサトがいちいち会いに来るのが何か嫌だ。ああやって接してくる奴がいなかったから、今日で少し苦手になった。


「……?」


 牢屋の前にある階段の上から誰かが階段を降りる音が聞こえる。警備に当たっている騎士だろうか?いや、何時もの奴らは鎧を着ているから独特の金属音が聞こえる筈だ。でも聞こえてくるのは足音だけ。


魔法で甲冑を形作り頭部を覆い隠し、階段の奥を睨み付ける。

 ――――見えたのは暗闇に映える白色のコートと、それを着た翠髪の女。誰だ、と思うが片目の傷から先ほどウサトが愚痴っていた団長と呼ばれる人物と特徴が合致する。第三軍団長が警戒していた人間であり、ウサト以外の治癒魔法使い。


「よぉ」

『………』


 救命団、団長ローズ。


「ロイド様に頼まれて来てみれば……随分とまあ……無口な奴だ」

『何しに来た』


 近くに備え付けられた警備兵が使う木椅子を掴み牢屋の前に移動させ、乱暴に座ったローズは口角を歪ませボクを見た。

 正真正銘ウサトの上官と分かるほどの眼力。


「お前には二つの選択肢をやる」

『……』

「一つは此処で一生過ごすか……。それでも構わねぇが、ロイド様は私にもう一つの代替案を持ちかけた」


 立てた二つの指を一つ折り曲げ、立てた人差し指をこちらに見せつける。一体、何が言いたい。殺すのか、このボクを……。


『殺すなら殺せ』

「おいおい、早まんなよ、せっかちな奴だな。よっと」


 気軽に立ち上がった目の前の女は、懐から取り出した鍵で檻の扉を開け檻の中へ入って来た。ツカツカと座り込むこちらの前に立ったローズは私を見下ろし……。


「ロイド様が出した代替案、非常に面倒臭ぇ話だが―――お前の性根を私が叩き潰して真人間ならぬ真魔人にするっつーもんだ」



『………………は?お前等バカじゃないッグハァ!?』



 瞬間、頭部に凄まじい衝撃が走り甲冑が一瞬の内に消え去る。反射的に涙が込み上げてくるのを感じながら上を向くと、手を手刀の形にしたローズがこちらを見て感心するように見下ろしているのが見える。


「成程、本当に治癒魔法が効くんだな……けどまあ、どちらにしろ今は邪魔だな」


 痛みは問題ないが頭がぐわんぐわんしている状態で鎧を持ち上げられる。何だこの女、ヤバイ、魔族でもこんな粗暴な奴はあまりいなかったぞ。ウサトよりも強力な治癒魔法を纏っているせいか一瞬にして掴まれた鎧が胸部の鎧ごと霧散した。掴むものが無くなったローズはそのまま服の襟を掴み上げると、一瞬の内に首に何かがパチンと嵌められる。

 首に違和感を感じると同時に、身体の中心から流れるほとんどの魔力が止まり、鎧が全て消えてしまった。


「ちょ、やめ……」


 魔力を封じる魔道具。希少な道具の筈なのだがあまりにも気軽につけられたせいで、若干パニックになったボクは、目の前の女に怯える様に身じろぎする。


「正直に言うとお前に拒否権はねぇ。今この国はテメェに構っているほど暇じゃねーんだ。なので勝手に連れて行くとする」

「あ、う、嘘……」

「今日から救命団の下っ端としてその性根を叩き潰してやるから覚悟しておけ」


 急展開過ぎてついていけない。というかこの国は甘くなんて無かった。軽々と自分を担いで上へ上がっていくローズにこれまで抱く事の無かった恐怖という感情を抱いた。













「ブルリーン!もう一周だ!」

「グルァァァァ!!」


 訓練場に戻った僕はブルリンと共にひたすら走っていた。何時もは治癒魔法を使って走っているが今度は治癒魔法を使わないまま走るという試みをしてみた。

 特にこれといった理由はない、でも色々試していくのもトレーニングの醍醐味だという事を僕は最近知ったのだ。

 治癒魔法を使わないで走ると体に疲労が溜まっていくのが分かる。ローズが及第点と言った意味が分かった気がする、そして治癒魔法に頼り過ぎと言ったことも……。

 僕は治癒魔法無しでも動けるようにならなくてはいけないのだ。もし、RPGよろしく魔法を封じて来る魔物とか敵が現れたら頼れるのは自ずと自分の肉体だけになる。


「……成程ォ、団長はこれに気付いて欲しくて僕を殴り飛ばしていたんだなぁ!」


 治癒魔法も大事だ。でも救命団は体作りが基本……今まで基本通りにこなしていたトレーニングが最良の訓練だということに今気づ――――


「ちげーよバカ」

「げはぁ!?」


 走る僕を何時の間にか現れたローズが横から蹴っ飛ばした。三回転して起き上がった僕にローズはバカを見る目で僕を見た後に嘆息する。


「今日は休めって言っただろうが」

「いや、まあ……何か自然に動いちゃって……ん?」


 ローズの肩に誰かが担ぎ上げられている。ぐでーんと動かないけど息をしているあたり生きている、どうやら今日の夕飯とかではないだろうが。……いや夕飯だったら怖いんだけど。

 それにしても見覚えのある銀髪だな……なんというか城の地下に幽閉している黒騎士の中身さんと同じ………。


 僕が首を傾げている事に気付いたのか、目の前の鬼畜は肩に担いでいる銀髪の少女を無造作に草が生い茂る地面に落とした。落とされた少女は顔を青くさせ困惑するように周囲と、僕の顔を見て絶句する。

 そして僕も絶句する。


「な、なんて人を連れてきているんですかアンタ!?この子黒騎士の中身の子じゃないですか!?」

「魔族なんて面白れぇじゃねーか、こいつらは結構頑丈だから鍛え甲斐がある」

「いやいやいや」

「魔力を封じてるから碌な事はできねぇ。まあ一応、この私自らが見張ってやる」

「なら安心ですね」


 何だ、そういうことは早く言ってくださいよ。もう無駄に驚いちゃったじゃないですか。呆然と僕とローズのやり取りを見ている彼女を見る。


「……どういうこと、これは……ボクは、どうなる……」

「とりあえず、今日から日記書く?」


 多分、数日中は日記に現実逃避したくなる事になるから。



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― 新着の感想 ―
[一言] 日記。 別名、ジャ⚪︎ニカ復讐帳
[良い点] 仲間ができた主人公歓喜 これで自分へのしごきが半減するかもしれない
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