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第三百七十八話 

お待たせしました。


もしかしたら今年最後の更新になるかもしれません。

第十六章、開始です。

 魔物の領域では色々なことがあった。

 魔族とエルフのハーフ、ルーネとの出会い。

 朽ちた遺跡に隠された迷宮。

 アウルさんとの共闘。

 悪魔カイラとの戦い。

 そして、謎の存在に憑りつかれたシアとの邂逅。

 結果から言えば散々な成果だろう。

 表の目的の探索は達成したが、籠手を奪われ魔王の力も確保できず、シアを助けることもできなかった。

 それに悔しさを感じないと言えば嘘になるけど、まずは自分の役目を果たさなければならない。

 魔王領に帰還して、魔物の領域の探索の成果を報告すること。

 そのためにはまず無事にこの森を抜けなければならない。


 魔王領への帰還の道中は当然魔物の襲撃を受けた。

 未だ確認していない大型の魔物などその種類も豊富で、襲撃される度に新しく見る魔物が増えるくらいだ。

 そして今回は———、


「ガッ、アァァ!!」

「人型のオオカミか」

『ワーウルフです! ウサトさん!!』


 キーラの声に頷く。

 ワーウルフ……人型ではあるものの簡単な道具を用いる程度の知能しかなく、集団で襲い掛かってくる厄介さを併せ持つ魔物。

 今はそんなワーウルフの群れの襲撃を受けている


「数が多い! 非戦闘員を守りながら撃退する!!」

「ハッ」


 指示を出し戦闘を開始する。

 部下たちがハンナさんとアマコを守っていることを確認しながら目の前に迫る五体のワーウルフと相対する。


「オオカミ人間か。遭遇するのは初めてだな」

「ウルル……! ガァ!!」


 棍棒を振り上げ迫るワーウルフ。

 武器を用いる知能を持つ魔物だが、その攻撃は力一辺倒。

 いくらでも対処できる……!


「ッ」


 咄嗟に受けようとした右腕を下げる。

 籠手はもうない。

 両腕に弾力付与を施した魔力を纏わせ、振り下ろされる棍棒を受け流す。


「ふんっ」


 ぼよっ、という感触で攻撃を流し魔力回しで瞬時に右足へ魔力を移動させ、勢いをつけた回し蹴りを叩きこむ。

 魔物のわき腹に足がめり込み———弾力によりその体は大きく吹き飛ばされた。


「ガァァ!?」

「ッ!? オォ!!」


 次が来るか!

 吹き飛ばされた仲間を見て二体が攻撃を仕掛けてくる。

 先ほどと同じように弾力付与で受け流し、肉薄すると同時に顎に一撃を当て意識を奪う。———その直後に気絶させた一体に魔力をくっつけ、襲い掛かろうとする一体にぶつけてやる。


「ガァ!? ギィッ!?」


 ぶつけられた仲間の身体が自分から離れないことに気づき、地面に倒れながらもがくワーウルフ。


「動けないだろ?」


 拘束の呪術と弾力を調整した魔力弾。

 この組み合わされた二つで接着されたことで身動きを封じる。


「使い勝手としては悪くない」


 無駄な力を使わずに無力化。

 これを含めて魔力回しと併用させることでいくらでも応用が利きそうだ。


「え、ウサト。なによその腕に纏ってる魔力……」

「治癒コーティングだ」

「だっさ……」


 なにも聞こえんな……!!

 ネアの呟きをスルーしながら背後から飛びかかってきたワーウルフの攻撃を避け、振り向きざまに掌で額を軽く叩く。


「治癒目潰し」

「キャウ!?」


 腕から離れた魔力が粘性を以て魔物の顔にくっつき視界を奪う。

 当然、混乱した魔物が腕を大きく振るってこちらを遠ざけようとするが僕は冷静にその太い前足を軽くつかみ、そのまま投げ飛ばす。

 弧を描くように宙を舞った魔物は木へと背中から激突し———そのまま太い幹に張り付いた。


「ガッ、ウッ!? ァア!?」


 背中から木に張り付いた魔物は慌てたように四肢をばたつかせている。


「さっきもやってたけど、なにしたのよ。これ」

「投げる前に背中に魔力を張り付けた。君の拘束の呪術が付与されたものをね」


 まあ、拘束の呪術で魔物と魔力、そして木を固定することで身動きをとれなくさせただけだ。

 それほど難しいことはしていない。


「拘束の呪術と治癒コーティングの合わせ技……名付けるなら、治癒吸着拳だな」

「はぁ、貴方はまた変な技を……」


 普通に身体を拘束すれば生半可な拘束の呪術では破られるけど、壁とか地面などの手が届かない場所や、さっきのように仲間同士を身体ごと張り付けてしまえば気絶させるより楽に拘束することができるのだ。


「これで不必要に相手を殴らずに済むわけだ」

「……そう考えると結構有用ね」


 時間が経てば魔力も消えるから安全面も考慮しているといってもいい。


「治癒コーティング。思っていた以上に応用できそうだ」

「あの、その技名を連呼しないでくれるかしら? 頭が悪くなりそうだわ……」


 本当に酷い云われようだ。

 どこらへんで頭が悪くなりそうなんだ……!!


「キーラ、魔力とは即ち……応用力だ」

『勉強になります!』

「キーラに変なこと教えないの! 貴方みたいになったらどうするのよ!!」


 まるで僕みたいになることを不名誉みたいな感じに言うのはやめてほしい。

 少しずつではあるけど、籠手を失ったことでできた穴を技術でカバーしていけている……ような気がする。

 だけど、あくまで防御手段ができただけで堅牢な籠手の防御力を補えたわけじゃない。

 治癒コーティングで満足しないで、より技術を磨いていくべきだろう。



 魔物を撃退しつつ森の中を進み、最後に高くそびえた崖をキーラのマントで空を飛んで乗り越え、さらに森を進んでいき、ようやく魔王領へと到着する。

 帰りの時間を含めると二週間くらいだろうか。

 かなりの時間をかけたというべきか、探索にしては短い時間なのかは分からないが、その密度はかなりのものだったと思う。


「じゃあ、ウサト君。私を背中に乗せて走ってください」

「最初の時と比べるとえらい反応の違いですね……」


 魔王領へ入ったことで、地形の把握と地図の作成の役目を終えたハンナさんがそんなことを言ってきた。

 帰りは行きよりは急がずに行くつもりだったので断ろうかと思ったが、よく考えてみるとハンナさんには結構な無理をさせてしまったので大人しく彼女を背負って歩くことになった。


「じゃあ、私も乗る」

『では私もいいですか……!?』


 ここで驚いたのはアマコもキーラも乗りたいと言ってきたことである。

 もしかして僕は馬車かなにかと勘違いされているのでは……?

 いや……まあ、全然構わないんだけどね?

 背負う人数が増えたとしてもブルリン以下の重さくらいしかないし。


「お前、いいのかそれで。背中、すげぇことになってるぞ」

「遺跡の中でもこんな感じだったから大丈夫」

「素直な疑問だけど、お前遺跡でなにやってたの?」


 コーガとそんなやり取りを交わしながら、マントを変形させ背中部分に三つの席を作らせる。

 そこにアマコ、ハンナさん、キーラの順番で座ったところで帰りの道を歩き始める。


「キーラちゃん」

「はい? なんですか?」


 ふと、背中で会話が聞こえてくる。


「ど、どうして私の両隣に仕切りが作られているんですか? これではアマコちゃんもキーラちゃんの顔も見れないのですが?」

「必要ですか?」

「えっ」

「いらないですよね?」

「は、はい……」


 もういろいろ駄目なのではこの人。

 キーラもハンナさんのちょっとやばい部分を知っているからか仄かに警戒してしまっているようだ。


「ウサト、ハンナさんって何かしたの?」

「いいか、アマコ。この人はまともそうに見えるけどごく限られた条件下で先輩化するんだ」

「……うわぁ」

「ウサト君。人聞きが悪いことは言わないでくれませんか?」


 事実じゃん。

 後ろから僕の団服のフードをひっぱってくるハンナさんに鬱陶しく思いながらため息をつく。


「戻ったら魔王に報告だな……はぁ」

「魔王様に対して本当に無礼だよな」


 溜息をつく僕にコーガはそう言って来るが、これは会うのが憂鬱だな……という意味が籠ったものであると同時に、任務を失敗してしまった不甲斐なさからくるものもある。

 僕は結局は魔王の力を回収することはできなかった。


「自分の任務を果たせないとか不甲斐ないばかりだよ」

「言ってもあくまでそれは今回の探索の目的の一つみたいなもんだろ。あくまで中心は魔物の領域の開拓に先立っての調査。それはちゃんと果たせたことだし、魔王様も文句はねぇと思うぞ」


 役目自体は果たした、か。

 まあ客観的に見たら探索は成功しているようなものだな。


「ウサト君って常識がない癖に変に律義ですよね」


 背中の椅子に座っているハンナさんが会話に入ってくる。


「コーガ君みたいにちゃらんぽらんじゃないだけマシですけど、さすがに落ち込んでいる姿を見ると面倒くさいです」

「「ひどい言われようだ……」」


 僕とコーガが同じ呟きをする。

 でも、確かにハンナさんの言う通り僕も変に思いつめすぎているかもしれない。


「ま、魔王の頼まれごともこれで最後だろうし、二か月の任期も終えて僕もリングル王国に帰ることになるな」

「お前がいなくなると静かになるな。物理的に」

「ウサト君って結構街を騒がせてましたもんね」


 まるで人を騒音の原因みたいにいうのをやめてほしい。

 ここでひょこりと身を乗り出すように顔を出してきたアマコが自慢気な様子で話し出す。


「リングル王国ではいつものこと」

「じゃあ、あっちはウサトがいない間静かなのか?」

「ううん。ウサトの同僚もいるし、今はスズネが救命団入りしてる」

「マジかよ……」

「因みにカンナギも救命団入りが確定してる」

「あ、あはは……」


 やや照れた様子のナギさんにいよいよコーガが頬を引きつらせる。


「過剰戦力じゃね? どこ目指してんのお前んとこの組織」


 別に戦うための組織じゃないんだけどなぁ。

 一応、コーガにも今の救命団の在り方について説明しておくか。


「戦争をしていた頃の救命団の役割は戦争中の怪我人の確保・治療だったけれど、戦争が終わった今、救命団は災害とかの有事の際に出動することが主な目的になった感じだね」

「へぇー」

「まあ、普段は診療所みたいなことはしているけど……城下町の方でウルルさんとそのお兄さんが経営している診療所があるから、滅多に人は来ない」


 有事の際に出動し、人命救助を行う。

 今の救命団は消防とか自衛隊みたいな位置にあるかもしれないな。


「そうなのか。色々変わったんだなー」

「……いや、なに他人事みたいに言っているんだよ」

「へ?」


 きょとん、とするコーガに僕はため息をつく。


「ここにいる隊員たちもこれから魔族の人たちのために働いていくんだろ?」


 そのための部隊だ。

 コーガだけに聞かせるわけじゃなく、後ろに視線を送って6人の部下たちを見る。


「今回の探索で君たちの役割が終わったわけじゃない。むしろこれからが本番だ。魔物の領域という場所を開拓していく上で君たちの頑張りが不可欠。そのために僕も訓練したし、魔王もこれから君たちのことを頼りにすると思う」


 あの魔王のことだ。

 僕に隊の訓練を許可したのもそういう考えもあってのことだろう。

 そして僕自身、彼らの成長が魔族にとっていいことになると思い、厳しくしてきた。


「コーガも隊長なんだからしっかりやれよな」

「……はぁ、しゃーねぇなぁ」


 がしがしと頭をかき頷いたコーガ。

 最初に会った時は戦いばかり求めていたけど、なんだかんだでこいつも変わってきているということだな。


「お前には支えてくれる人もいるんだし」

「……。おい待てテメェ。なにさらっとセンリと俺のことをくっつけようとしてんだオイ」

「誰もセンリ様のことだなんて言ってないんだけど?」

「くっ……!!」


 ちょっとからかったけどセンリ様の存在もコーガにいい影響を与えてくれていると思うんだよな。

 普通に似た者同士だと思うし、思惑とか関係なしにいい関係を築けそうだ。


「そういうお前は……いや、やめとくわ。お前、俺以上にやばいもんな……」

「……。ねえ、ちょっと待って。煽ろうとして我に返ってやめるのやめてくれない? まるで僕が本当にマズい状況にいるみたいじゃん」

「……」


 なんで僕の背中を見てから目を逸らすんだ?

 今までにないコーガの反応に冗談でもなんでもないことを感じ取り普通に焦るのであった。

防御中心から変な方向に戦い方が変わろうとしているウサトでした。


今回の更新は以上となります。

もしかしたら次話は早めに更新できるかもしれません。

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― 新着の感想 ―
[一言] スズネの眼光 先輩と化したハンナ
[一言] 篭手奪ったせいでむしろ悪辣な変異しだしてるじゃん…
[一言] 防御できない?有名なセリフがある攻撃は最大の防御と!!しかも治癒してるから実質、最大の防御だ!!!
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