閑話 わたしが傍に
二日目、二話目の更新です。
今回はルーネ視点でお送りします。
シアが光に包まれていく光景を見て、いてもたってもいられなくなった。
シアの中にいるシアじゃないやつ。
そいつがシアを苦しめていて、なにかしようとしている。
本当はそいつをぶっ飛ばしてシアを助けたかったけれど、わたしにそれをできる力はない。
「みんな、ごめん」
だからわたしはシアの傍にいることを選んだ。
ウサト達には本当に悪いことをしたと思ってる。
一緒にシアを探してくれて助けようとしてくれたのに、結局わたしは自分勝手に行動して迷惑をかけてしまった。
でも……それでも、わたしはシアのことが心配だった。
「わわっ」
光の輪に包まれた瞬間、わたしは別の場所にいた。
石造りの大きな建物。
さきほどまでいた遺跡に比べると狭いところだけど、その場所に一瞬で移動したわたしは混乱しながらも周りを見る。
「ふぅ、もう大変だった……」
「シア……」
すぐ近くにいたシアは背伸びをしていた。
声をかけたわたしを一瞥した後に、糸を操っていた魔族の女に話しかける。
「やっぱり厄介だね、彼は」
「あの場で再起不能にすればよかったでしょ?」
「いやいや無理でしょ。あれ見ただろ? 物質を問答無用で消滅させる光魔法を素手ではじき返したんだぞ? 人間技じゃない」
たしかにウサトは人じゃない動きをするな。
でも苦々しい顔で言っているあたり本当っぽい。
「籠手を奪えば少しは動揺してくれると思ったら無反応で反撃しようとしてくるんだぞ? あの時滅茶苦茶肝が冷えたんだからな……!」
ウサトから奪ったこて? と呼ばれる腕輪みたいなものを眺めてシアは肩を落とす。
「それにカンナギと元軍団長のコーガもいる。あの状況で戦っていたら負けていたのはこっちだよ」
「人質とっているなら優勢に戦えるんじゃ? どうせその体が死んでも大丈夫なんでしょ?」
「あ、それ嘘」
「はぁ!?」
……!? 嘘……だったのか?
あれだけシアのことをどうでもいいと言っていたのに……。
「この身体が死んだら本当の本当に困る。なにもかも台無し。余裕ぶってたけど内心すごく焦ってたんだよなぁ」
「はぁ……行き当たりばったりすぎるでしょ」
「人命優先の救命団と、カンナギが相手なら殺される心配はなかったけどね。唯一の不確定要素はコーガだったけれど、彼はエスタが押さえてくれていたからな。そこは助かった。さすがは私の一番の手駒だぜ」
「そりゃどーも」
そこまで言葉にしてシアはもう一度背を伸ばす。
「ウサトのことは面倒だけれど、これからの計画を考えるとどうあっても関わる運命にあるんだよなー」
「私はアレと関わるのはゴメンよ。本当に酷い目にあったんだから」
「具体的には?」
「……。言いたくない」
シアの言葉にエスタは血の気のない顔に疲れを滲ませながら額を抑える。
そんな奴に苦笑しながらシアは頬に手を当てる。
「彼は勇者と違って立場に縛られず必要だと思った場所に行ける。最悪なのが所属しているのがリングル王国だってことだ。……あの国がウサトに対して助力を惜しむことはないだろう」
「奴の次の行先は予測できる?」
「できる、けど……あー、これがまた面倒なことになりそうで。まあ……このことは後でいいや」
話を切り上げたシアは近くで縛られたまま床に転がっている―――アウルへと視線を落とす。
かろうじて意識があるのか虚ろな瞳のまま口元を僅かに動かしている彼女に満足そうに微笑みながらシアはエスタに話しかける。
「この子を部屋に運んでおいて。後で私が弄るから」
「心を消すのか?」
「怖いこと言うなよ。それじゃ意味ないだろ。元の精神が残っているからウサトに対する武器になるんだよ」
「……っ」
短い間だけど、一緒に遺跡を進んだ仲間だ。
そんな人が酷い目に遭わされようとしているのにわたしに止める力はない……。
生まれ育った森の中でさえ感じることのなかった焦燥がわたしの身体を苛む。
ッ、それでもわたしはシアを……シアの傍にいなくちゃ……。
「さて、と」
アウルを連れて行ったエスタを見送ったシアがようやくわたしへ意識を向ける。
シアの優しげではない、冷たいそれに怖くなりながら睨み返すと、どういうわけか奴は笑みを深めた。
「こちら側に来るのは予想外……とまでは言わないけど、私は君のことを歓迎するよ。ルーネ」
「わたしは、悪いことは手伝わないぞ」
「それで構わない。ちょうど世話係が欲しかったんだ」
せわ、がかり?
なんだ、わたしになにをさせるつもりなんだ。
わたしの疑問を無視してシアは指を2本立てる。
「決まりごとは二つ。一つ目はこの建物から出ないこと。下手に逃げようだなんて思わないことだよ? その時は君の命はないものだと思っておいてね?」
「……二つ目は?」
そこでシアはわたしと視線を合わせるように床に膝をついた。
シアは顔をわたしの耳元にまで近づけ、囁くような声で———、
「私のことを明かしてはならない」
そう、言葉にすると同時にシアの身体が脱力し、わたしに倒れかかってきた。
慌ててシアを抱きしめるように受け止めると「ううん……」という柔らかな声と共に彼女が顔を上げた。
「……あ、あれ? オレ、なんでこんなところに……」
「……シア?」
「え、ルーネ? 君がオレをここに?」
今までなにがあったのか分かっていないシアにわたしはこみ上げる涙を抑えられなかった。
シアだ。
冷たい目じゃない、温かくて優しいシアだ。
涙で朧気になる視界のまま、わたしはシアに抱き着いた。
「シアァァァ!!」
「ぬぐわっ!? 力強ぉ!? な、中身出ちゃうぅぅ!?」
思わず力の限りに抱きしめてしまった。
腕を解くとシアは戸惑ったまま周りとわたしの顔を交互に見る。
「いいいいったいどうしたんだ!? え、寝る前まで森にいたよなオレたち!? まったく状況が分からないんだが!?」
ここでようやく世話係という言葉の意味が分かってしまった。
わたしは、シアの中にいる悪い奴が眠っている間の世話係……。
苦しむシアに寄り添うことはできるけど、彼女を苦しめている原因をなんとかすることはできない。
―――でも、それを選んだのはわたしだ。
もう後戻りはできない。
自分勝手な行動でシアを傍で支えることを選んだ。
―――だけど、シアを助けようとしているのはわたし一人じゃない。
短い間しか一緒にいなかったけど分かる。
あいつは、ウサトはきっとシアを助けにきてくれる。
「わたしも、頑張るから……!!」
わたしの役目は、それまでシアを支えて守ることだ。
結構綱渡りなことをしていたシア(?)でした。
次回の更新は明日の18時を予定しております。




