第三百七十五話
三日目、三話目の更新となります。
前話を読んでいない方はまずはそちらをー。
第三百七十五話です。
魔王の力を無理やり消費させるという方法で暴走したカイラを無力化させることに成功した。
延々と回復し続ける厄介な敵な上に力そのものもかなりあったので、なんとかすることができて本当によかった。
「みんな、大丈夫?」
『私は全然平気です!』
「こっちもだ。結構楽しかった」
ルーネはなんというか……無邪気だな。
怖い思いもさせてしまったはずだけど、ここらへんは魔物はびこる森で暮らしてきた彼女の精神的な強さが出たと見るべきだろう。
それで、ネアの方は……。
「ええ、私も全然平気よ。当然よね? もう慣れっこよ」
キーラとルーネの手前弱音を吐きたくないらしく二人から見えない位置で僕の頬を翼ではたいてきている。
これは後々結構な量の血を要求されるかもしれないので覚悟しておかなきゃな。
「ナギさんはお怪我はありませんか?」
「ん、心配はないよ。それこそ君の方が……その得体の知れない動きをしてて大丈夫だったのかな?」
滅茶苦茶オブラートに包まれて心配されたんですけど。
ナギさんもこれといって怪我もしていないし……後は、コーガだな。
「……コーガ、君のことは忘れない」
「いや、死んでねーよ。勝手に殺すな」
こちらにやってきていたコーガを一度振り向いてから前を向く。
「安心してくれ。センリ様にはちゃんと君の想いを伝えておくから」
「俺の想いを捏造すんなや」
こいつがあの程度で傷を負うことはないのは分かっているので元気なのは分かっていた。
でも一応治癒魔法はかけておこう。
気づいてないけどルーネが火をつけちゃったのは事実だし。
「さて、ようやく大人しくできたところで……ウサト、この悪魔になにか聞きたいことはあるかな?」
「……そうですね」
一番に聞きたいことはある。
横目で未だに動けないでいるアウルさん達を見て、縛り付けられているカイラを見下ろす。
「アウルさんに魔術を施したのは誰だ?」
「……ハッ、知らねぇよ。俺達の御同輩なんじゃねぇのか?」
「顔も知らないのか? あの双子の闇魔法使いもお前が率いているんじゃないのか?」
僕の質問にカイラが小ばかにするように鼻を鳴らす。
「それこそ興味ねぇよ。別にあの役立たず共も俺が見つけたわけじゃなく、勝手に寄越されたただの手駒だ」
身元の分からない存在を手下として扱っていた……?
いくらなんでも適当すぎだろ。
どちらにしろ、この様子じゃ詳しい情報までは聞き出せないだろう。
だけど依然として魔王の力の断片がカイラに埋め込まれている今、また暴れださないか不安ではある。
「コーガの分身で縛り続けるか?」
「ヴィーナに任せたら? 悪魔のことなら悪魔が一番よく知っているんじゃない?」
「……たしかに」
少々不安はあるけど先に遺跡を脱出したヴィーナさんに意見を仰ぐのが最適な気がする。
彼女ならなにかしらカイラを無力化する方法を知っているかもしれないし。
「ウサト、シアが!」
「!」
肩のルーネの声にシアを見れば彼女を覆っていた光の膜が点滅しながら消えていくのが見える。
カイラを無力化したことで解けたのか……? いや、それよりも―――ッ。
光の膜が消えたことで地面に落ちる彼女の下に駆け付け、受け止める。
「っ、とりあえず治癒魔法だな」
「シア! 大丈夫か!! シア!!」
「……ん」
ルーネが懸命にシアの名を呼ぶと、彼女が瞼を上げる。
意識が戻ったのか?
「……」
周りと自分の状況を見て何かを確認した彼女は、僕に気づくと安堵の笑顔を浮かべた。
なぜか、その無防備さに僕は違和感を抱いてしまった。
「ウサト、来てくれたんだな……」
「ああ、君は大丈夫? 身体に異常とかは?」
首から下を包む黒色のローブ。
以前と比べ赤色が少なくなった黒髪に、綺麗な黒色の瞳。
近くで見ると分かるその端正な顔立ちも以前と変わりなく、おかしいところも見られない。
間違いなく目の前の人物はシア本人……なのだが、どうにも不思議な感覚がまとわりついてくる。
「もう平気だ。ウサト、本当にありがとう」
籠手に包まれた右手を握ろうとするシアにざわつくような悪寒に苛まれ、彼女の身体を起こす。
「立てる?」
「……ああ。うん、立てるよ」
「シア!」
微笑む彼女に肩にいるルーネが必死な様子で声をかける。
ここでようやく彼女はルーネの存在に気づいたのか、驚いた表情を浮かべた。
「えぇ! 猫が喋ってる!!」
「猫じゃないわたしだ、ルーネだ! こ、この姿じゃ分からないよな!」
嬉し気な様子で僕の肩から飛び降り、本来の姿である子供へと戻るルーネ。
そんなルーネを見てシアは少し首を傾げながら額に指を当てる。
「……」
「……シア?」
不安そうに見上げるルーネに額から指を離した彼女は柔らかく微笑む。
「ルーネだったんだ! びっくりした! 森からここまで来たのか!?」
「! ぶ、無事だったか!? あんな白いところに閉じ込められて!!」
「ああ、心配はないよ。まだ頭がボーっとするけど……ウサトたちが助けにきてくれたからな」
安堵したのかシアの様子は以前よりも安定しているように見える。
前はどこかせわしなくヒサゴさんの記憶に怯えていた印象だったのに。
『ウサトさん。シアさんの様子、ちょっとおかしくないですか?』
「……君もそう思うか?」
耳元で小さな声で話しかけてくるキーラに僕も頷く。
この子は以前、最後にシアと会っていたはずだ。
だとすればこの子の言葉を無視するのは駄目だ。
「私は以前、シアと会った時のことは知らないけど。こんな場所で出会ったにしては元気すぎるとは思うわね」
「……あまり疑いたくはないんだけど、警戒はしておくべきかもしれない」
気になるところはあるけど、一応は魔王の力を押さえられたしシアも保護できた。
全体的な調査はまだまだだがそろそろ帰還してもいい頃合いだろう。
彼女を連れてカイラを見張っているコーガとナギさんの元へ移動し、ナギさんに目配せをする。
「はじめまして……かな? 私はカンナギ。私のことは分かるかな?」
さりげなくナギさんがシアに話しかけた。
ヒサゴさんの記憶を持つシアにナギさんを会わせることが彼女を呼んだ理由の一つなので、二人のやり取りに耳を傾ける。
「あ、はじめまして。え、えーと、ヒサゴの記憶で見た獣人の人、だよな?」
「……。うん、その通りだ。やっぱりあいつの記憶があるんだね。前は取り乱していたって聞いたけど、今は大丈夫なのかい?」
「ああ。今は声も聞こえなくなっているし心配はないよ」
この遺跡に来てなにかあったのか?
記憶のせいで混乱することがないのはいいことだと思うけど、結局謎は謎のままだな。
一人考えていると、不意にシアと向き合っていたナギさんが刀の柄に触れながらこちらへ振り返る。
「ッ!」
同時に先ほどから張り巡らせていた治癒感知に反応。
すぐにカイラが拘束されている空間を睨みつけると、奴が分身の拘束を抜け出している光景が映り込む。
「ハッ、ハハ!!」
「ッ、カイラ!!」
「拘束の呪術をすり抜け……いえ、術式を乱された!?」
事前に聞いていたカイラの魔術か!?
予知魔法で察知したナギさんが即座にカイラの身体に刀を突き立てるが、それでもなお、カイラは止まらない。
「ウサト! カイラの狙いはシアだ!!」
「治癒飛拳!!」
治癒感知で動きを読み、出が早い治癒飛拳でカイラの身体を吹っ飛ばす―――が、奴は無理に身体を再生しながら異様な速さでシアへと迫る。
魔王の魔力がまだ残っていても恐るべき執念だ……ッ!
「シアに手を出すな!」
「どけぇ! ガキがァ!!」
「あう!?」
カイラに殴られ、地面へ叩きつけられようとしたルーネを慌てて受け止め、シアの方を見るが彼女の隣に立ったカイラはその鋭利な爪を彼女の首元へと突き付けていた。
人質!? いや、奴は……!
「俺はなァ、ここで消滅しても、ここでテメェを消せればそれで……いいんだよ……!!」
「シア!!」
「……」
恐怖で声が出ないのか、俯いたまま動かないシア。
ッ、奴はシアを人質にするつもりがない。
僕への仕返しで彼女の命が危険に晒される前に———ッ、誰かが近づいてくる!?
「ウサト、これは……」
ナギさんも予知魔法で察知したのか困惑の表情を浮かべている。
当然だ、カイラの背後に音もなく近づいてきているのは僕たちの味方じゃない。
なんなら戦っている時からこの広間で身動きがとれないままでいたはずの人物だ。
「ハハハ! せめてテメェの絶望に沈むその姿を拝んでや―――」
シアにその爪を突き立てようとしたその時、カイラの胸を何者かの手が貫いた。
「……は?」
血に塗れ、魔王の力の断片ごと心臓を掴み取ったそいつ―――僕がここまで運んできた闇魔法使いの双子の妹は、しっかりとした意思のある瞳で恍惚の笑みを浮かべていた。
「あぁ、ずっとこうしてやりたかったぁ」
魔王の力を抜き取るようにカイラから腕を引き抜いた彼女は、カイラの身体を僕たちの前に放り投げるように捨てた後に、自身の手の中にある魔王の力を見て微笑んだ。
「が、あ、ど、どうして……」
「どうしてって……最初から死んだふりをしてただけに決まっているじゃん。あっ、でも死んでいたのは事実だから操り人形のフリ? ふひひ、ま、もうどーでもいい話だけど」
彼女は次に僕達———いや、僕の方を見る。
「あまり驚いていないっぽいね」
「薄々、自我があるんじゃないかと思っていた」
「だろーね。私、あんたのせいで死体のマネできてなかったもん」
双子の妹の方が動いていることに驚きはあまりない。
解せないのは彼女が同じ勢力であるはずのカイラに攻撃したことだ。
「さ、再生、しない!?」
血を吐きながら地面に倒れたカイラが穴の空いた胸を押さえながらもがき苦しむ。
僕は咄嗟に系統強化の治癒魔法を彼にかける。
このままでは情報も引き出せないし、むざむざ見殺しにするつもりもなかった。
「治らない……!?」
「ッ、触れるなぁ!!」
「っ」
苦しみながらも手を払われてしまったけど……系統強化で癒せないということは、カイラはもう……。
徐々に消滅していくカイラを双子の妹の方は愉快そうに眺めている。
「魔王の力という不純物と一体化した悪魔は不滅ではなくなるねぇ。本当に言ったとおりになった」
「誰の、言った通りだ?」
「……くく」
ナギさんの問いかけに笑みを零しながら彼女はすぐ傍で、カイラから解放されたシアに———魔王の力の断片を差し出した。
「はい。どうぞ、ご主人サマ」
「「「!?」」」
差し出された魔王の力が籠められた水晶。
それに対してシアは豹変することもなく普通に水晶を手に取り、先ほどと変わらない表情と声色のまま、友人に話しかけるように彼女に話しかけた。
「ご苦労様、エスタ。大変だっただろ?」
「いやいや、生前と比べたら天国。ここまでの道中は別の意味で地獄……ま、面白い地獄だったけれど」
「面白い地獄……? んー、まあ、それは後で聞く。それより、もうお姉さんはいいの?」
アウルさん達が未だに倒れている場所にいるエスタと呼ばれる彼女の姉。
動けない彼女を見て、エスタはどこかつまらなそうにする。
「もういいかなー……。魂のない伽藍洞の癖に、いつまでたっても私を見張ろうとするし。そろそろ鬱陶しくなってきた」
僕たちの視線に気づいたのかシアがこちらを見て残念そうに肩を竦めた。
「あーあ、もっと話したかったのに。時代に取り残された悪魔って本当に面倒だな。君もそう思わないか? ウサト」
「僕たちの知っているシアじゃないな」
シアがこれまで演技をしていた、という可能性もある。
だけど不思議とそんなことはありえないと僕は考えた。
根拠も何もない。
彼女は本当にヒサゴさんの記憶に怯えていたし、助けを求めていた。
「お前は、誰だ」
「……。ふふ」
彼女は笑った。
未だにシアと重なる笑顔で、彼女は無防備に僕の目の前にまで近づいてきた。
目と鼻の先の距離。
手を伸ばせば届くほどの距離に立った彼女は僕の瞳と目を合わすように見上げながら———、
「さあ、私は誰でしょう?」
――楽し気にそう囁いた。
まだまだえぐい謎を隠しているシアのお話。
そして、実はウサトの行動に演技崩されまくりの妹さんでした。
今回の更新は以上となります。




