第三百七十三話
お待たせしてしまい本当に申し訳ありません。
三日に分けて三話ほど更新する予定です。
第三百七十三話、
今回はカンナギ視点でお送りします。
悪魔が魔王の力を取り込む。
考え得る最悪の状況でウサトと合流した私は彼とコーガと共に悪魔カイラと戦うことになった。
脱出組にはアマコがいるから心配はない……というより、あの子の予知魔法は今の弱体化した私の予知魔法よりも高精度だ。
「どちらかというと気を張らなきゃいけないのはこっちかな」
魔王の力を取り込んだカイラは元の姿が想像できないほどの変貌を遂げている。
3メートルを優に超える体躯。
今もなお肥大化し続ける肉体。
悪魔の肉体は魔物と同じく魔力で構成されていることから、大質量の魔力ともいえる魔王の力を取り込んだ影響は計り知れない。
「肉体的な強化なのは……」
「多分、僕のせいですね」
隣でカイラを警戒していたウサトがそう言葉にする。
「僕にはカイラの悪魔としての力は通用しない。そのことに奴はかなりプライドを傷つけられたはずです」
「なるほど。それで悪魔の力を強くするんじゃなくて肉体を強化したってことねぇ。……魔王の力でそんな方向に強化するとかやっぱり悪魔ってバカなのかしら?」
ネアの言いようは辛辣ではあるけど、まあ間違っていない。
魔王の恐ろしいところは扱う魔術の多さと奴自身の技術にある。
ただ大量の魔力を取り込んだだけじゃ、本体の魔王と同じ実力を持っていることにはならない。
「ま、どちらにしろ相手としてはとびきり厄介ってことだろ? なにせ魔王様の魔力の全部を肉体強化に回してんだ」
「ああ、とんでもない力だった。少なくとも正面からの直撃は僕も避けたいね」
防御に長けたウサトがここまで警戒するってことは相当だね。
「ウゥ、ぢゆばほう、ぢかぃぃ!!」
私達を敵と見定めたカイラが濁った声を上げる。
言葉は発しても理性はないようで、その目は完全に白目を剥いており正気ではない。
「ハハッ、よほど恨まれてんな!」
「はぁ……」
「そろそろ来そうだね。準備はいいかい?」
ベルトに差した鞘から刀を抜き放ちながら話しかけると、二人は言葉もなく戦闘態勢に移る。
ウサトはマントに青黒い炎を灯し、その両手に拘束の呪術を纏わせる。
コーガは全身を闇魔法の魔力で包み仮面の戦士へと変貌し、傍らに作り出した分身を大きな棍棒へと変形させる。
「……コーガはともかく、ウサトはやっぱり色々な意味でおかしいよなぁ」
治癒魔法使いって姿じゃないもん。
むしろ闇魔法使いって言われた方がしっくり……はこないな。
両肩に小さいフクロウとライオンを乗せているし。
『カンナギ。バカなこと呟いてないで私達も出し惜しみせずに行くぞ』
「……ああ」
目を閉じ、軽い深呼吸の後に見開く。
もう一人の私としての力が左目に現れたことを自覚しながら、刀を水平に構える。
瞬間、発動された火炎の魔術により刀を真っ赤な炎が包む。
「ナギさんも人のこと言えないと思います」
「そ、そうかな?」
「いや、なんかもう……全開な感じでやばいです」
……なにが!? なんで言い淀んだの!?
顔を逸らすウサトに追及しようとするがそれよりも先に私の予知がカイラの攻撃を察知する。
「ッ来るよ!!」
「ウゥゥ、ガァァァァ!!」
力任せに地面を蹴り、跳ねるような勢いでこちらに迫るカイラ。
私とコーガが左右に散り、ウサトは避けずに逆に前に踏み出す。
ッ、予知で見ていなければ慌てていたところだけど! 今の彼なら———!
「ぎゃああああああ!? なんで突っ込むのよ!?」
「治癒流し」
カイラの力任せに振り回される腕に対して魔力を纏わせた両手を添え、滑るように受け流した。
そこからさらに踏み込んだ彼は体勢を崩したカイラの目元に魔力弾をぶつけ視界を奪い———、
「ネア!」
「分かってるわよぉ!!」
拘束の呪術を纏わせた拳をカイラの腕と足の関節に叩き込み、その動きを一時的に妨害する。
「……とんでもないね」
ああいう技は私にはできない。
魔力回しという全身の魔力の流れを完全に自分のものにした彼が可能にする人並外れた魔力操作……。
「行くよ、コーガ!!」
「言われなくてもやってやるぜ!!」
ウサトが隙を作ったところで私とコーガが仕掛ける!
炎を発する黒刀を引くように構え、“戌走り”を用いた加速で一気にカイラへと斬りかかる。
「火炎・惑巳断ち!」
最早巨体といえるカイラの全身を切り刻むように放った炎の斬撃。
それに合わせるようにコーガが背中から作り出した鎌のような触手で切りつけ、最後に棍棒の一撃を叩きつける。
「ウゥゥゥゥ!! オ——」
「治癒爆裂弾」
雄たけびを上げ、さらに暴れまわろうとするカイラの胴体にいつの間にかくっつけられていた緑の魔力弾が爆発し、また呻く。
―――さすが!
ウサトが作ってくれた隙を突きさらに斬撃を与える。
「おらおらおらぁ!!」
コーガが分身を変形させた棍棒でカイラを滅多打ちにし、それでも無理やり動き出そうとする奴をウサトが治癒爆裂弾で無理やり怯ませてしまう。
……私は予知魔法で連携を合わせているけど、なんだかんだでこの二人はとてつもなく連携が噛み合ってしまっているように見える。
多分、ライバルであり似た者同士だからなんだろうな。
「コーガァ!! 分身!!」
「おうよ!!」
コーガによって雑にぶん投げられた闇魔法の分身を受け取るウサト。
彼に対してカイラの突き出した腕が迫り直撃———したように見えるが、当たったのは彼が作り出した治癒魔法の残像。
「治癒残像拳……!」
「ガァァ!!」
「やかましい!! 治癒爆裂飛拳!!」
また攻撃を繰り出そうとするカイラに高速で打ち出した爆発する魔力弾を直撃させたウサト。
見る度に技が増えていっているなぁ!! いや、またなにかしようとしてる!?
「ネア、ルーネ! 奴の動きを止める!!」
「ええ!」
「任せろ」
鋭利な三日月のような形状に変形させたコーガの分身に紫色の魔術の文様と青黒い炎が浮かび上がる。
それを大きく振りかぶった彼はカイラめがけてそれをぶん投げた。
「拘束しろ!」
カイラに直撃する直前に人型に戻った分身はそのままカイラの身体に纏わりつくように変形し、そのまま奴の上半身を拘束の呪術と炎の闇魔法で動きを止めてしまった。
「そいつは執念深く無駄に強くてしつこいからそう簡単に外せないぞ!」
「一言多すぎねぇかお前!!」
「ナギさん!!」
ウサトの声に頷き、刀を構え上半身の身動きを封じられたカイラに向かう。
すれ違いざまに両足の膝を横薙ぎに斬り、機動力を削ぐ!!
「コーガァ!! やるぞォ!!」
「おうよ!!」
そして完全に動きを止めたところでもう愉快すぎる顔で闇魔法を纏った二人が突っ込んでくる。
コーガの振り上げた腕が膨張し、ウサトの右の籠手の肘から青黒い炎が噴出し———同時にカイラへと直撃した。
コーガの魔力の暴発による棘。
ウサトの謎の炎の加速による拳。
それらを受けたカイラはその巨体を大きく吹き飛ばされ、地面へ叩きつけられた。
「……弱い相手じゃないんだけどなぁ」
相手は腐っても魔王の力を取り込んだ悪魔。
それを肉体強化に回しているんだから普通だったらアレから一撃もらう時点で致命的だろう。
「え、なに今の? 今、貴方治癒魔法じゃない意味不明な加速しなかった?」
「わたしの魔法。名付けて“こくえんかそくけん”だ。ふふん」
「……。ルーネ。自覚はないようだけど、貴女ウサトに洗脳されてるの」
「かつてないほどに優しい声で説得しようとするな」
コーガの分身を手元に戻しているウサトを見て、改めて実感する。
そもそもウサトはあの魔王と相対している。
あいつと比べたら大抵の相手に臆することはないだろう。
……私としても彼がいることで戦闘が大分楽に進められているのを実感している。
「ある程度はダメージを与えたわけだけど……どうなるか……」
依然として警戒したままカイラを見る。
……ん? 跳ねるように立ち上がった奴の身体が煙を発しながら再生している……?
「ッ、そういうことか」
「ナギさん、なにか気づきましたか?」
「悪魔の不死性だ」
悪魔は基本的に不死だ。
いくら瀕死の重傷を負おうとも時間が経てば再生する。
再生する上でそれなりの力は必要だけど今のカイラには魔王の力という大質量のエネルギーがある。
「ギュ、グ、ガァァ!!」
「悪魔は不死。どんな傷を負わせたとしても魔王の力がそれを癒してしまう。いや、それどころかなまじ肉体が負荷に耐えられ続けてしまうからどのような無茶な強化だってできてしまう」
地面をのたうち回りながら力を求めてさらなる姿に変貌しようとしているカイラ。
その姿は最早人型を保っているのが奇跡とも言えるほどだ。
大きく肥大化した両腕に逆に貧弱そうな下半身、上半身の衣服はボロボロに破れ、元の面影も分からないほどに変わり果てていた。
「ウッ、ウゥゥアアァァ!!」
——ッ。
「コーガ!! ウサトの近くに!!」
「は!? おい、なんで……分かったよ!!」
「え、僕?」
数秒後の予知を目にした私はすぐにウサトの傍に移動する。
瞬間、カイラの身体の節々から魔力の光が溢れ出る。ただの光じゃなく、触れるだけで破壊をもたらせる危険な攻撃。
それらを遺跡中にまき散らしながら———奴はその口からこちら目掛けて大質量の閃光を放った。
「ウサト! 君の技なら防げる!!」
「了解!!」
私の言葉を信じてくれた彼は迷いなく前に踏み出す。
彼は手元に引き寄せていたコーガの分身を盾のように変形させながら、地面に突き刺す。
「やるぞ、コーガ!」
「は、なに!?」
「決まっているだろ! 治癒ガードだ!!」
「常人に理解できないお前の脳内で自己完結すんのやめろや!!」
本気で困惑した声を上げるコーガを半ばスルーした彼は大きな盾に変形させた分身を両手で支えるように握る。
「ネア! キーラ!」
「耐性の呪術ね!」
『吹き飛ばされないようにマントを地面に打ち込みます!!』
……なんだろうか、ウサトと行動すると自然と彼の意図とかを察しやすくなるのだろうか?
「ガァァ!!」
「来るよ!」
放たれた大質量の魔力がウサトの構えた盾にぶつかり、光を散らす。
私とコーガは彼を後ろから支えるが、コーガの分身が変形した盾は端からどんどん崩れていく。
「ねえ!! このコーガ脆いわよ!!」
『頑張ってくださいコーガさん!!』
「おい、根性見せろ!」
「それ俺じゃねぇんだけどぉ!? 俺、お前らの後ろにいるんだけどなぁ!?」
分身は削れて行っているが大丈夫だ。
なぜならばコーガの分身には治癒魔法が適用されるからだ。
「系統強化!!」
それに加え、ウサトは系統強化の使い手。
最上級の治癒魔法により一瞬にして修復した盾は、魔力の攻撃を防ぎきる。
「ふぅ」
魔力の奔流が治まったところでウサトが盾を左手の籠手の形状に変える。
盾を隔てた先にいたカイラはまたもやさらなる変貌を遂げていた。
「ウゥゥ、オォォ……」
肉体で抑え込んでいたはずの魔力が外に溢れだしている、のか?
目、口からは黒い魔力が溢れ、同様に崩壊した胴体と関節部がその魔力のみで四肢を繋ぎとめている。
「……おいおい、ありゃもう生き物ですらねぇだろ」
「悪魔の不死性で崩壊する身体を無理やり繋ぎ止められている、といった感じでしょうね。変に相性がいいから壊れることもできずに延々と地獄を味わっているようなものよ」
あんな化物は私も見たことがない。
それだけに魔王の力の危険さがよく分かる。
魔力の化物と化したカイラが獰猛に唸りながら動こうとする。
———ッ、予知では腕を突き出してくるのが見えたけど、これは———ッ!!
「ウゥゥ!!!」
「手が伸びた!?」
魔力で繋ぎ止められた右腕が弾かれるようにこちらへ―――ウサトへ襲い掛かるように伸びる。
彼はマントで空を飛び腕を避けるが関節部を魔力で構成された腕は、そのままさらに伸び続け彼を追尾し続ける。
マズい、と思い私とコーガも腕と本体を繋げている魔力を断ち切ろうとするがこちらの攻撃はすり抜けるばかりで意味がない。
「速い……!」
空を飛んでいた彼の左腕を伸びた手が掴み取る。
「くっ」
「ウサト!!」
そのまま力任せに空中を振り回され地面に叩きつけられ———、
「嘗めるな! ぬぅん!!」
あろうことか地面を殴りつけ衝撃を相殺させた彼は左腕を掴まれたまま、空いている右腕をカイラの腕へ向け青黒色の閃光のようなものを放った。
「んん!?」
青黒い閃光はカイラの腕を弾き飛ばし手傷を負わせたが……今のは……ルーネの魔法?
火柱みたいな炎っぽかったけど……。
「好き勝手に変身していきやがって……! なんて奴だ……!!」
……。いや、君がそれを言うのはちょっと……。
戦闘の最中なのに困惑していると次にルーネと逆の肩にいるネアが声を張り上げた。
「こいつの強さの根源はあくまで大量の魔力よ! 攻撃しても有り余る魔力で再生しちゃうだろうけど、それでいいの!!」
それでいい……?
いや待て、そういうことか……!!
「無限の魔力なんて存在しないわ! 他でもない魔王がそうだったんですもの!! なら、頼みの綱の魔力を無理やり使い切らせればこいつは動かなくなるはずよ!!」
今の状態でも大量の魔力を使っているはずなんだ。
それなら私達三人で攻撃しつづければいつか必ず魔力が切れる!!
「ウサト、遠慮なんてしなくていいわ!! 全力でこいつに攻撃して魔力を吐かせ続けなさい!!」
「ああ!! 皆、やるぞ!!」
「もう手加減はしなくてもいいな! わたしも本気でやるぞ!!」
『全開ででいきます!!』
その声でウサトの纏うマントと、彼の銀色と黒色の両腕の籠手にも青黒い炎が走る。
完全な戦闘形態へと変わったウサトを見て呆気に取られてしまっていると、同じく彼を見てドン引きしていたコーガが口を開いた。
「いやお前も人のこと言えねぇだろ……」
この時だけはコーガの言葉に同意してしまった。
どんどん怪物になっていくカイラ達(!?)でした。
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