第三百七十二話
二日目、二話目の更新です。
前話を見ていない方はまずはそちらをー。
アウルさん達が動けなくなった上にレアリが逃げ出した。
姿こそは消していないが自分だけが安全な場所に向かったことは事実……だが、相手は仲間すら信用しない悪魔なので責めるだけ無駄だろう。
今はそれよりも―――、
「ぢゆばほうづかぃぃぃ!!」
「叫ばなくても分かっている!!」
一回り大きく肥大化したカイラの相手をしなければ……!!
最早、筋骨隆々という元の姿からかけ離れた凄まじい姿になったカイラはその両腕から魔力を迸らせながら勢いよく振るってくる。
魔力は凄いけど、動きがお粗末!!
「アウルさんから学んだ技を!!」
相手の動きを見極め、その攻撃に魔力を合わせる!!
弾力付与を纏わせた掌で円を描くように攻撃を受け流し、衝撃波で弾く。
「治癒流し!」
これで懐が空いた!
右手の籠手に系統強化、左手に系統劣化。
カイラの繰り出した掌を踏み込みと共に避け―――まずは左拳をその腹部に叩き込む。
「ガァ!!」
「ぬぅ!! 必生奥義!!」
系統劣化の魔力が楔として打ち込まれた!
ならば、と次に右拳の掌底を系統強化の魔力と重ねるように放つ!!
「治癒・系統爆破拳!!」
瞬間打撃と重なる強烈な衝撃が引き起こされ、カイラの身体がボールのように後ろへと飛んでいく。
その余りある衝撃のまま壁に叩きつけられた奴の姿を確認し、掌から立ち昇る魔力の残滓を払う。
「治癒流し……習得ッ!!」
「そ、それでこそ私の後輩……」
「今のうちに安全な場所に運びます。キーラ」
『はい!』
立ち上がられる前にマントで包み込んだアウルさん達を壁際にまで運び、彼女たちと背中にいる闇魔法使いの姉妹を床に寝かせるように下ろす。
「いやぁ、このザマじゃ役に立てなさそうです」
「大丈夫です。ここは僕たちに任せてください」
「……頼もしいなぁ。そういうところも隊長にそっくりだ」
そう言ってもらえて光栄だ。
……双子の闇魔法使いは……相変わらずお姉さんが妹さんを強く抱きしめている。
守っている、というより動けないように拘束しているようにも見えるが……。
「ハンナさんもここで降りていてください」
「さすがにアレが相手ですもんね。……私の魔法が効くかも怪しいし、ここで大人しくしています。気を付けてください」
「……はい」
「ウサト君がやられたら私を守ってくれる人がいなくなるので」
台無しなんですけど。
げんなりとする僕に苦笑するハンナさん。
そんなやり取りを交わしつつ、僕は彼女から離れ今一度広間の中央へとマントで飛んでいく。
「シア……」
「ルーネ、今はあいつの相手が先だ」
「……ああ。あいつ、シアを殺そうとした。許せない」
未だに光の球体に包まれているシアのことも気がかりだが、今はカイラをなんとかしなきゃならない。
ゆっくりと地面に降り立つと、治癒系統爆破拳から立ち直ったカイラが砂煙から現れ、僕の前にやってくる。
「理性はあるか?」
「……」
瞳は虚ろだが、強い敵意は感じる。
痩身だったカイラが今や強面たちすらも上回るほどの筋骨隆々の肉体へと変わり果てているので、かなりの威圧感がある。
なにを考えているのかも分からないが、まずは声を投げかけてみよう。
「魔王の力なんてろくでもないものに頼るのはよせ。お前の中にまだちゃんとした意思があるのなら今すぐその力を放棄するべきだ。多分、まだ間に合う」
実際に戦った僕だから言える。
魔王の力は碌なものじゃない。嫌味とか悪口とかじゃなくて純粋な意味で魔王の力は劇薬そのものだ。
それを扱えるのは僕が知る限り、魔王本人くらいしかいない。
「———」
「!」
返ってきたのは言葉ではなく大きく振り回される拳。
かなりの風圧を感じさせる拳から見ても、カイラの身体能力は異常なほどに向上しているように見えるが、まだまだ動きが単調だ。
「だけど、速いな!」
力任せの挙動だからこそ、その動きも速い。
少なくとも治癒弾きでは捌ききれないであろう攻撃を避けると、カイラは僕を追いつめるように前に走り出しながら拳での猛攻を繰り出してくる。
「ぐっ」
防御に構えた腕が弾かれる!
魔力で無理やり強化させているからか、腕力に限ってはもしかしたらナギさんを上回っているかもしれない。
「まさか、僕を倒すために肉体そのものを強化させた……?」
溢れんばかりの魔力で無理やり……?
そのせいで意思すらも壊れたんじゃどうしようもないだろ……!!
「魔力でドーピングした程度で勝てると思ったら大間違いだァ!!」
乱雑に繰り出される拳を左手に纏わせた魔力で、流しながらさらに一歩踏み込む。
「フンッ!!」
まずは一撃!! 治癒爆裂弾を張り付けながら拳を引き、次に二撃目を叩きこむ。
三撃目、四撃目と繰り返し系統劣化させた魔力弾と治癒爆裂弾を交互につける。
「オ、オォ!!」
「爆ぜろ、治癒爆裂拳!!」
たまらず僕に覆いかぶさるように襲い掛かってきたカイラ。
だがそれよりも先に最初にくっつけた治癒爆裂弾が起爆し、彼の動きを阻害する。
その隙を突き僕は系統強化を纏った右拳を振るい、連続で系統劣化の魔力弾を起爆させた。
「オオオ!」
「ッ、っと」
爆発に怯んではいるようだが効果は薄いようだな。
振り回される腕を避けながら後ろへ下がっていると、肩にいるルーネが僕に話しかけてくる。
「ウサト。わたしもお前の戦いを見て思いついた」
「え、何を?」
「こうだ」
ルーネが炎の魔力を発し、マント、団服を走らせ僕の籠手へ青黒い炎を灯す。
これは先ほどと変わらないがルーネはそれからさらに魔力を操作し、籠手の肘部分に炎を集中させ———系統強化の暴発を行……そうか!!
僕は迷いなく前へ踏み込みカイラへと突っ込む。
「オーケー理解した!! このままやれ、ルーネ!!」
「おう!!」
系統強化の暴発によりルーネの闇魔法の炎は破裂し、肘部分からバーナーのように炎を噴出させる。
小規模ながらその加速は治癒加速拳の比ではなくロケットのように押し出された拳は僕のパワーと合わさり———カイラの胴体へと突き刺さる。
「———ッ!!?」
「まだ!」
即座に腕を引き、そのまま裏拳を放つ。
ボッ!! という音と共に前腕から暴発した闇魔法の炎が迸り、僕の腕を先ほどと同じように超加速しもう一度カイラの身体に強烈な攻撃を叩きこみ、その巨体を大きく吹き飛ばした。
「どうだウサト! お前みたいに名付けるなら“こくえんかそくけん”だ!」
「フッ、良い技名だ……!」
勢いが強く扱いが難しいが使いこなせればかなり強いぞ。
……ん?
「なんか、まだでかくなってないか?」
『確かにさっきよりも大きくなっているような』
明らかにさっきよりも一回り大きくなっている。
自らの身体を押し込むように自身を抱きしめ、苦しむカイラに訝し気な視線を送っていると、唐突に僕の方へぐりんと顔を向けた奴は掬い上げるように拳を振り回してきた。
「!」
咄嗟に後ろへ下がって回避し———ッ!? 待て、リーチが伸びッ。
「ぐっ!!?」
『ウサトさん!?』
不自然にカイラの腕が巨大化し、僕の身体を打ち付けた。
咄嗟に籠手とマントで防御したのはいいけど身体を大きく吹き飛ばされた僕はそのまま宙を舞う。
ある程度衝撃を逃がしながらマントを広げ、宙に浮いた僕は改めてカイラの身体を確認する。
「なんだ、あれは」
『悪魔と言うより、最早怪物じゃ……』
「気味が悪いな」
僕を攻撃したであろう右腕だけが不自然に地面に触れるほどの長さと太さにまで巨大化している。左腕はまだ人としての形を保っている分、最早普通の状態とは呼べないほどにまでカイラは怪物じみていた。
そんな奴は空を飛ぶ僕を見上げ唸り声をあげると、元々背中にあった翼を展開し、自身の肉体と同じようにより強靭に、鋭利な外見へと翼を変形させていく。
「空を飛ぶつもりか!? いや、そりゃあ悪魔だから飛べるか……!!」
『すぐに攻撃しましょう! もしあれが外に出たら大変なことになります!!』
「ああ!!」
カイラが空を飛ぶことを阻止するべく、マントを翻しながら奴へと突っ込んでいこうとした———その時、僕たちの背後の、地下の遺跡からこの空間へ入ってきた上部の壁が突如として爆発を引き起こした。
「!!?」
「うおおおおお!! ようやく明るいところに出たぜェ―――!!」
「「「副隊長ォォ!!」」」
「ウサト!!」
コーガ達!? 爆発した壁から夥しい量の水流と共に出てきたのはコーガ達だ。
予知魔法でいち早く僕の姿を見つけたアマコはこちらに手を振りながらこちらへ落ちてくる。
部下たちもネアもブルリンも皆いるし、無事でよか―――、
『ガァァァァァ!! グァァァ!!!』
「はぁ!?」
コーガ達の後から出てきたのは青い体表をした巨大な蛇のような……いや、あれは水竜か!? しかもあの大きさ、僕たちが遭遇した水竜の群れのボスか!? どうしてコーガ達の後にアレが出てくるんだ!?
いや、それよりも先に空中に投げ出されたアマコたちを助けなくては!!
すぐさま上方へと向かい、アマコとブルリン、ヴィーナさんを除いた部下たちをマントで絡めとる。
コーガとナギさんはこの程度の高さは大丈夫だし、ヴィーナさんはそもそも悪魔だから自分で飛べる。
「ガァァァ!!」
「オォォォ!!」
アマコたちをキャッチした直後に水竜のヌシが広間へと落下し、そこにいた魔王の力の断片を取り込んだカイラへと襲い掛かった。
怪獣大戦争かな……?
「ウサト!」
「アマコ、皆も無事でよかった! ネアは!?」
「ここにいるわよー!」
頭上からぱたぱたと飛んできたネアが僕の肩に留まろうとして、そこにいる子ライオン状態のルーネに気づく。
「ちょっとぉ!! 貴女どこの使い魔よ!! そこは私のよ!!」
「わたしは使い魔という名前じゃない。わたしはルーネだ」
「……。どういうことよウサトォ!!」
一瞬で僕に矛先が向いてきたんだが。
とりあえずは先に下に降りて行ったナギさんとコーガの元へ降りていく。
「ネア、どうして水竜が君たちを追ってきていたんだ?」
「知らないわよ!? 安全なルートを進んでいたらいきなり現れて追い掛け回されたのよ!! なぜか異様に怒っているし本当に意味不明だわ!!」
……。
どうしよう心当たりが多すぎる。
もしかしてあの水竜のヌシは僕を追ってきたのか?
地上に着地すると下では水竜とカイラがまだ戦っているようだけど……今のカイラ相手では水竜も分が悪いように見える。
「それでウサト、今はどういう状況だ?」
部下たちを下ろした僕の元にコーガとナギさんがやってくる。
「簡潔に説明すると、ここに魔王の力の断片があったんですが、相手側の悪魔……カイラが取り込んで暴走してしまいました」
「考え得る限り最悪の状況じゃねぇか」
その通りだ。
コーガの言葉に内心で同意していると、ナギさんが広間の中心で光の球体に包まれているシアを見て目を細める。
「ウサト、あそこにいる子が」
「シアです。今は助けることはできません。まずはカイラをなんとかしなきゃ」
「……ああ、了解した」
『グギャァァ!!』
水竜の雄たけびが広間に響き渡る。
巨大な尾がカイラへと叩きつけられるが奴も力技で尾を受け止め逆に投げ飛ばし、とんでもない戦いを繰り広げている。
「あれは部下たちでは荷が重ぇな」
「ああ。力に関して言えば僕も君も上回っている」
あくまで力だけとも言えるが。
今は水竜がカイラと戦っているが長くは保たなさそうだ。
するとカイラを見ていたナギさんが顎に手を当て、僕とコーガへと振り返る。
「ウサト、コーガ。魔王の力を取り込んだあの悪魔は強大な力を手にしたといってもいい。それこそウサト、君たちが戦った時点の魔王並みといってもいい」
「はぁー、マジかよ。魔王様並みとかやべーな」
そういう割には楽しそうな顔をするコーガにため息をつく。
だけど魔王並みとは言うが、そのままの意味で魔王と同じくらいに強いというわけではないのだろう。
「私とコーガと君でアレを対処する。かなりの戦闘になると思うから他の皆はここから脱出させよう」
「了解です。多分、この遺跡の出口もそう遠くないはず……」
隊長と副隊長である僕とナギさんが抜けるのは痛いが、相手が相手だから仕方がない。
なので先導する役目が必要だが……。
「アマコ、頼めるか?」
「大丈夫。任せて」
力強く頷くアマコ。
頼もしいな。伊達に一緒に旅をしてきたわけじゃない。
あともう一人———、
『おやおや、そこで無様に隠れているのはレアリさんじゃないですかぁ』
『は!? あんたラヴィス!? なんでこいつらに正体明かしてんのよ?』
『え、そんなもの寝返ったからに決まっているじゃないですか。あ、今の私はヴィーナって名前なのでよろしくしていただかなくても結構でーす』
『はぁぁぁぁ!?』
なんであの変態悪魔は同族の悪魔を煽りに行っているんだ。
改めて悪魔の同族に対する辛辣さを目の当たりにしながら僕はヴィーナさんの名をやや強めに呼ぶ。
「ヴィーナ! こっちに来ぉい!!」
「ひぇん!!」
返事はハイでしょうが。
風のような速さでこちらにやってきたヴィーナさんに探知役を任せ、部下たちにもここを先に脱出するように指示を出す。
「ハンナさんもアマコと一緒に先導役を頼みます!!」
「はいっ。あ、この人たちはどうしますか!?」
「っ」
カイラの魔力に当てられ動けなくなったアウルさん達。
本当ならアマコたちに連れて行って欲しいところだが、七人もいるし何よりアマコたちの行く先になにが待ち受けているのか分からない。
「う、ウサトくーん! 動けない私たちのことは置いていってくださぁい!」
「何をバカなことを言っているんですかッ!! 絶対に貴女のことは見捨てません! ええ、これは決定事項なので安心してください!! 絶対に!!」
「い、意地でも隊長の元へ私を連れて行こうとする確固たる意志……!」
仕方ない、アウルさん達は僕が連れていくしかない。
ハンナさんをこちらへ呼び面々が揃う。
「さあ、早くここから―――ッ」
ドガァァァンッ、という大きな音が響いた瞬間、水竜の巨体が近くの壁に叩きつけられ、そのままぐったりと動かなくなってしまった。
生きては……いるようだけど、これは当分目覚めそうにないな……。
飛んできた方向ではさらに威圧感を増したカイラがこちらを睨んでおり、その体躯もさらに大きくなっているようにも見える。
「ブルリン、アマコを頼むぞ!!」
「グル!!」
「ウサトも気を付けて!」
「ああ!!」
アマコたちを先に行かせ、僕、コーガ、ナギさんがそのままカイラと相対する。
「へっ、最後の最後にとんでもねぇのが出てきたじゃねぇの。面白ぇ!」
「突っ走るなよ、コーガ」
「お前も俺も合わせるなんて柄じゃねぇだろ。お互い好き勝手に動けばなんとかなるだろ」
「はぁ、まったく……」
まあ、確かにそうだろうが……。
僕とコーガのやり取りを見てナギさんが苦笑する。
「ははは……私が予知魔法で君たちの動きに合わせるよ」
「なら僕は治癒魔法でのサポートと相手の動きを邪魔する方向で動きます」
まだまだカイラの取り込んだ魔王の力は未知数。
まずは様子見をしつつ攻撃力の高いナギさんとコーガが動きやすいようにやろう。
「やるぞ、皆!」
『はい!』
「ああ!」
「ねえ、やっぱり肩にルーネが乗ってるのは違くない!?」
右肩にフクロウ状態のネア、左肩に子ライオン状態のルーネに、キーラのいるマント。
改めて自分の姿の珍妙さに苦笑しながら拳を堅く構えるのであった。
敵味方含めてもパワータイプしかいない決戦……。
今回の更新は以上となります。




