第三百六十九話
お待たせしてしまい申し訳ありません。
第三百六十九話です。
今回はアウルさん視点でお送りします。
私が人間側の味方でいられたほんの少しだけの時間は終わった。
本音を言うと残念でしかない。
かつての……今は言葉すらも発さない同僚共と同じ雰囲気を感じさせるウサト君との会話はとても楽しかった。
雑に扱われている感じとか、言動が色々と物騒な点を含めても本当に懐かしい。
「……渡された魔力弾になにかあるとは思ってましたけど!」
本当になんの変哲のない魔力弾。
私の知る治癒魔法よりも色の薄いだけの魔力だけで構成された魔力弾は、彼や私の扱う爆発する魔力弾とは異なり爆発するような感じは全くなかった……はずだった。
「今、爆裂弾をくっつけました」
「えっ、あ、ちょっ」
「嘘です」
「あばーッ!?」
慌てて衝撃魔法で衝撃を吸収しようとした直後にウサト君から伸びた右手が、私にくっつけられた別の魔力弾に触れ強烈な衝撃波を引き起こす。
なんとか地面に剣を突き刺し大きく吹っ飛ばされることはなかったが、ウサト君の猛攻は止まらない。
「ッ」
籠手からの光!?
またくっつけられた魔力弾が起爆させられると身構えてしまう私だが、飛んできたのは左の拳———、
「危なぁ!?」
「チィ!!」
ぶぅん!! と風圧を感じさせるほどの拳が通り過ぎる。
「ッあぁ! もう私がぶっ飛ばされ慣れていなかったら頭がおかしくなりそうな技!!」
くっつけられた魔力弾が爆発するものか?
それとも普通の魔力弾か?
その時点で無理やり対応を強制される上に!! さらに爆発しない魔力弾もなんらかの方法で起爆させられる!!
起爆する右手にも意識を向けさせられるぅ!!
「一旦退避!!」
ウサト君に襲い掛かろうとする自分を止めるべく、自らに衝撃魔法を打ち込み後ろへと無理やり下がる。
体勢を整え、くっついた魔力弾を外す。
「……系統強化でこの魔力弾は爆発させられるんですね?」
「その通りです」
あっさりと認めてくれるあたりバレても問題ないようだ。
解せないのは彼の魔法は治癒魔法なのに、どうしてその系統強化で治癒魔法は爆発するのかってことだ。
少なくとも隊長の系統強化はそんな奇天烈な効果は持っていなかったはず。
私の疑問を察してか、地面を駆けながらウサト君は説明してくれる。
「魔力の質を落とす系統劣化を系統強化で触れると反発し、衝撃波を引き起こすのです」
「……え、すみません。もっとちゃんと説明してくださ——」
「系統劣化は魔力の質を落とすことで魔力の効率化と、僕自身に対しての治癒力を上げる技術です。これにより僕は魔力の節約に成功し長時間の行動が可能になり、魔力感知の効果範囲も広げられるようになりました。加えて———」
「ぎゃあぁぁぁぁあ!? 情報量で私を惑わしに来るのはやめてください!!?」
世にも恐ろしいナニカを聞かされた気分なんですけど!!
しかもなにが性質悪いってウサト君本人がそれを理解して解説しているってこと!!
というより系統劣化ってなに!?
自分の魔力の質を落とすって意味が分からないんですけど!? 普通、弱体化する技術じゃないんですかソレ!?
そもそもどっから湧いて出てきたその技術ゥ!!
「あぁぁ! 惑わされるな!! 私!!」
深く考えれば考えるほどドツボに嵌りそうだ。
思考を無理やり引き戻しながら、ウサト君に対しての攻撃衝動のまま彼へ攻撃を仕掛ける。
まず魔力弾をくっつけられないように立ち回る!!
「さぁて、衝撃は十分に貯めさせてもらったので全力で使い倒しますよぉ!!」
私の魔法は衝撃を吸収し、放出する魔法。
ストックした衝撃を魔力弾に籠め、推力にさせながら高速移動すらも可能にさせる。
「ならばこちらも!!」
ならばこちらも!! じゃないんだけどなぁ!!
衝撃波の推力で加速した私を確認すると同時にウサト君の右腕の籠手の肘部分から緑の魔力光が噴出し、私と同じように加速してくる。
『ウサトさん、防御を……っ』
「キーラ! ルーネ! 君たちは背中のハンナさんの守りに集中してくれ!! 君たちじゃアウルさんの動きに対応できない!!」
『っ、はい!!』
魔力を纏わせた剣を引くように構え、ウサト君の伸ばす腕を弾く。
防御重視で衝撃を溜めつつ、彼の魔力弾をくっつけないように立ち回る。
そして隙を見て———ッ、一撃を叩きこむ!!
「そらぁ!」
衝撃の魔力を纏わせた剣は斬る、という過程を経て衝撃波で敵をぶっ飛ばすという攻撃を兼ねている。
「む!」
いくらウサト君でもこの攻撃を受ければ怯むはず……そんな思惑も込めて攻撃を叩きつけようとした瞬間、彼も私と同じく、大きく引き絞った右こぶしをこちらへ突き出そうとしているのを目撃する。
「治癒連撃拳!!」
私の剣と激突する籠手に覆われた拳。
瞬間、私とウサト君の魔力が同時に炸裂し、互いにその場から吹き飛ばされてしまった。
「アウルさん!? 僕と同じ技を……!?」
「君は本当になんなんですか!? 私のこと好きなんですか!?」
もしそうだったら普通に意識するぞ! ……冗談だけど!!
自分でも驚くくらいに混乱してる。
でも認めるしかない。
隊長の言う通り、ウサト君と私は似ている。
「……はは」
なんだかんだいってもこの状況を楽しんでいる自分がいた。
悪魔の命令に従って戦うのは今でも気にいらない。
この身体が自由でいられたらすぐに寝首をかいてやろうと思うくらいには悪魔が嫌いだ。
でも———、
「あいつらと喧嘩してた時と同じだ……」
悪態をついたり、つまらないことで喧嘩をしたり、それを隊長に見つかって全員で叱られていた頃の……人生で一番充実していた時の記憶。
彼との戦いはそれを強く思い出させてくれる。
そして、この子を育てた隊長はあの頃から全く変わらず私たちの目標でいてくれることを……。
「さーて、そろそろお取込み中の悪魔さん達の近くまで来ましたか?」
「ええ」
「じゃあ、早く戦って進んでいきましょうか!!」
まあ、それはそれとして散々私達をこきつかってくれやがっている悪魔共への嫌がらせをしなくては。
再度気合をいれて攻撃衝動のままにウサト君へと斬りかか———、
「治癒崩し」
「っあぐ!?」
不自然に放射状に放たれる治癒魔法の波動。
肉体は死んでいたとしても波動そのものは感じ取れてしまう私は、思わず硬直してしまう。
完全に忘れていた……ッ!!
衝撃魔法で彼の攻撃を吸収! と、考えた直後にウサト君の腕が私の右腕と左肩を掴む。
「な、なに!?」
「受け身、とってくださいね!」
ぐるん! と視界が回り私の身体は宙へと放り投げられた!?
「ひゃぁぁ!?」
身体ごと投げられたら衝撃を吸収できない……!
でも地面へ叩きつけられる衝撃なら!!
すぐに受け身をとるように地面に魔力を打ち込み衝撃を吸収しながら着地する。
「ぶん投げられるのも隊長以来だー……うわぁ……うっ、いつかの悪夢が……」
リングルの森に単身放り投げられたトラウマが……。
思ったより頑張っているから期間延長させられてあばばば……。
「ガッ!! ガカッ!!」
「ん?」
ふと後ろを見れば骨でその体を構成させた人型の魔物が。
刃こぼれのした剣を持ち、ボロ布を纏ったそれはどう見ても私に対して敵意を向けているようだけど……もしかしてこれは……。
「え、スケルトン? へー、初めてみました」
確かネクロマンサーに蘇らされた魔物の一種だっけか?
ゾンビと同じ種別だけど、あまり詳しいことは分かっていないってことは知っている。
そのスケルトンが今まさに私に剣を向けようとするが、それよりも先にスケルトンの背後からやってきた大柄な男が剣を振り下ろした。
「はぁ、合流しちゃいましたねぇ。よぉ、脳筋ゴリラ」
「……」
「……なにか言えっつーんだよ。もう」
今は意思の存在しないかつての同僚、ギルグ。
こいつの登場に合わせて奥から他の5人の同僚たちと、血相を変えた悪魔レアリがやってくる。
「はぁぁぁ!? なんなのこいつらしつこいんですけど!! スケルトンなんて面倒な魔物配置したのはどこのバカなのよもう!! カイラはいなくなるし、双子の片割れは我を失って暴れだすし!! もうやだぁ!! ……ハッ!!?」
彼女は私の姿に気づくと、ぱぁぁ、っと表情を明るくさせた後に怒りの声を上げて詰め寄ってくる。
「アウル!! あんたどこにいってたのよぉ!!」
「あぁ、レアリさん! お久しぶりです!!」
「久しぶりじゃないわよこの役立たず!! 」
なるほど、つまりレアリはスケルトンと戦闘していたってことか。
「ガ、カ、カカ!!」
「こいつら壊しても壊しても蘇るからクソ面倒なのよ!!」
ギルグが真っ二つにしたスケルトンが立ち上がり、巻き戻るように骨が組みあがり再生していく。
うわー、単体では弱いけど再生していくタイプかー。
これは面倒くさいなー。
「丁度いいわ! さっさとこいつらを指揮してあの屍どもを片付けなさい!!」
「レアリさん。どうして私がここに吹っ飛ばされたのか知ってますか?」
「え? あんた一人でここに来たんじゃないの?」
レアリが首を傾げそう尋ねてくる。
ちょうどその時、私が投げ飛ばされてきた先から、ばちゃ、ばちゃ、と水に濡れた床を歩いてくる音が響いてくる。
「お望み通り来たぞ、悪魔共めがぁ……」
ウサト君の姿は傍目で見ると本当にえげつないものだった。
風も吹いていないのに荘厳にはためく漆黒のマント。
肩には青黒い炎に包まれた小さな獅子。
ハンナという魔族さんと拘束されている妹さんの入っている背負われた箱は、どう見ても棺桶にしか見えない。
なにより、隊長と同じ表情と雰囲気を纏わせた彼はもう世間一般で言う治癒魔法使いからかけ離れた存在に見えた。
「ぁ……う、ぁ……あぁ」
ウサト君と隊長に最大限のトラウマを刻み付けられているレアリは目を白黒とさせながら腰を抜かしてしまう。
次に私を見ると怒りの形相で肩を掴んでくる。
「あんたなんて奴連れてきてんのよぉ!」
「最優先攻撃対象にさせたのはレアリさんでは?」
「させたのはカイラのバカよ!! 私はもうアレと関わりたくないのに!! 翼もようやく治ってきたのよ!?」
ここまで怖がられるってもう相当では?
本当に悪魔ってメンタル弱いっすね。
精神的に挫折したこととかないんだろうなぁ、多分。
でもそのおかげで私のウサト君への攻撃衝動は緩和されているようだ。
「ガカ!!」
「あっ」
剣を拾ったスケルトンがウサト君に襲い掛かる。
どうやら悪魔勢力だけではなくウサト君も攻撃対象のようだ。
「む?」
振り下ろされた剣を籠手で軽く弾いたウサト君は、トンッ……と右拳を軽くスケルトンの胴体に当てる。
「カッ———」
「治癒連撃拳」
接触された拳から魔力の衝撃波が放たれ、スケルトンの全身はバラバラに吹き飛ばされてしまった。
「ヒェッ!!?」
これにはビビり散らかしていたレアリも白目を剥く。
しかし一方のウサト君は粉々になっても再生しようとするスケルトンを見て怒りの表情を、レアリへ向ける。
「アウルさん達だけではなく、骨になった方たちも……この悪魔共めがァ!」
「ひぃぃぃ!? 私じゃない私じゃない!! こ、ここここの遺跡の罠!!」
「なんだと……? ッ!!」
私の背中に隠れたレアリの訴えに怪訝そうな様子だった彼だが、すぐに同僚たちがスケルトンの足止めをしている方向を睨みつける。
彼と同じ方を見れば、今戦っているスケルトンとは別の大量のスケルトンがこちらへ雪崩れ込んでくるのが視界に映り込む。
「……うわぁ……」
面倒すぎるなぁ。
これからウサト君と戦闘しながらアレを相手しなきゃいけないんでしょ?
ここは一先ずレアリを説得してウサト君と一緒にあのスケルトンの大群の処理をするのが賢明なのでは?
「レアリさん、ここはひとつ提案なのですが———」
「……たしを……さい」
「え?」
「私を逃がしなさい!! もうあの勇者の小娘も魔王の力もどうでもいいわ!! あの治癒魔法使いも骸骨風情も敵よ!! 蹴散らすか擦り付けてでも私を逃がしなさい!!」
はいぃ!? 自己保身のあまりに冷静な判断ができなくなっている!?
本当にストレスに弱いなこいつ!!
やっべ、別にレアリを巻き込む分には文句はないのだがこの数のスケルトンとウサト君のどっちを相手にしろって言われたら間違いなく、ウサト君と戦う方が嫌だ。
人情とかそういうのじゃなくて混戦で戦うには彼はあまりにも目が離せなさすぎる。
「あ、あのウサト君、これは違くてですね!!」
「ぬぅん! 先手必勝!!」
「わぁ、こっちは判断が早すぎる」
即座に戦闘態勢へと移った彼に変な笑いが出てしまいそうになる。
そうこうしている間になだれ込んできたスケルトン共が私達とウサト君へと殺到してくる。
「はぁ。お前ら!! さっさと迎撃しろ!!」
『!』
今まで動きが鈍かった同僚ゴリラ共に活をいれスケルトン共の迎撃に当たらせる。
レアリはアホで狡賢くてアホではあるが、一人で逃げ出して孤立しようとはしないはずだ。
「なのでここは……」
ウサト君に適度にちょっかいをかけつつ命令を遂行した体でスケルトンを迎撃するのが得策だろう。
ウサト君に軽く目配せし、それとなく私の意図を伝えようとすると———彼はすぐに頷き返してくれる。
「キーラ! ルーネ!」
『やります!!』
「こいつらは燃やしてもいいんだな!!」
「ッ、かわいそうだけどやるしかない!」
ふわりと空中に浮きあがったウサト君が大きく変形させたマントに青い炎を纏わせスケルトンを薙ぎ払う。
……あの炎を私の戦いで使われたら結構マズかったかも。
「な、なんなのよぉ、あいつまた変な魔法つかってるぅ……」
私の後ろではレアリが本格的に怯えだして隠れてしまっている。
本当に足手纏いだなこの悪魔……!!
「ハンナさん!」
ウサト君はマントを変形させた箱を脇で抱えるように移動させ、パカッとその側面が開く。
そこからは驚愕の表情を浮かべるハンナが現れる。
その隣に身動き一つしない双子の妹さんも大人しくしているのがもうギャグでしかない。
「ひぃぃ!? 突然明るくなったと思ったらなんですか!?」
「とりあえず幻影魔法を撃ちまくってください!! 狙いは僕が定めます!!」
「状況を説明……っ! って水竜の次はスケルトンってどういうことですか!? とりあえず言われたとおりにしますけどっ」
そんな騒がしい会話の後に箱の側面から幻影魔法の魔力弾が連続で放たれる。
ババババ!! と嵐のように飛んだ魔力弾はスケルトンに当たると、身体を構成する骨がボロボロと外れていく。
「! 幻で一時的に身体を崩せる!? ハンナさん、もっとお願いします!!」
「こんな状況に慣れてしまっていることに一番泣きたいです……」
全く意味が分からない。
ハンナ本人は本当に砲台みたいな扱いになっちゃっていることに慣れてしまっている。
なにより恐ろしいのは……。
「やるぞ、皆!!」
『薙ぎ払いますよ!』
「この程度の奴らなんとでもないな!」
空を浮かびながら近づくスケルトンを炎のマントで薙ぎ払い、もう連続して打ち出した幻影魔法でスケルトンを一時無力化。
私と一対一で戦っていた時とは全く異なる戦い方をする彼に引きつった笑みが止まらない。
「隊長、まじでどんな教育したんですか……?」
これ普通に訓練しただけじゃこうはならないと思うんですけど。
バックパック(ハンナin)が変形して機関銃になりました(!?)
次回の更新は明日の18時を予定しております。




