第三百六十八話
二日目二話目の更新となります。
前話を見ていない方はまずはそちらをー。
水の勢いに身を任せ水路の中を進む。
幸い一直線に近いので進路変更をする必要はないみたいだけど、いったいこの水路はどこに繋がっているんだろうか。
「———ゴボッ」
口から息を吐き出し、マントが変形したマスクに口を押し付け空気を吸う。
ボンベと同じまでとはいかないけどこれでも十分呼吸ができているし、水中での移動も空中と同じようにできるからキーラの魔法の可能性は本当に計り知れないな。
『二つの死体と棺桶みたいなところに閉じ込められるとかもう私死んでいるのでは?』
『安心してください。死んだってこんなおかしな体験はしませんから貴女はちゃんと生きてます』
『むぐぐ、せまいぞ』
背中からはアウルさんとハンナさん、ルーネの会話が聞こえてくるから大丈夫そうだ。
僕はもう一度空気を吸い、前を見る。
そろそろ水路が途切れて水が落下する場所に出るぞ……!!
むっ!! 明かりが見える!!
「———ぬんッ!!」
ばしゃぁ!! という音を立てて水路の出口から飛び出した僕の目の前に飛び込んできたのは———、
「ここは……」
『水没した遺跡の中にこんな広い空間が……?』
僕たちが出たのは円形にくりぬかれたような空間。
壁には僕たちが出てきたものと同じような水路がいくつも存在し、頭上には光のようなものが降り注いでいる。
あれは? 太陽の光じゃないな。
魔具か鉱石かなにかの光か?
「しょうがないとはいえ水浸しだな」
『おい、ついたなら出せ』
「あ、うん。キーラ」
『はい!』
4人が入っていた背中の箱の上の部分を解くとひょこりと子ライオン状態のルーネが出てくる。
僕の肩に器用に飛び乗ってきたルーネはびしょ濡れの僕の身体を見ると、ぽんぽん、と僕の頬を叩いてくる。
「わたしが乾かしてやろう」
「できるの? じゃあ、頼むよ」
ルーネの身体から青黒い炎が走り僕の服を乾かす。
少しだけ熱を感じたがそれも一瞬で、僕の服はすぐに乾いてしまった。
「ありがとう」
「うむ」
ふんす、と自慢気に鼻を鳴らすルーネ。
すると背中のハンナさんとアウルさんも僕の背中から身を乗り出してくる。
「へぇ、ここが水路の先ですかぁ。随分と明るいところに来ましたね」
「うっわ!!? まだまだ高いじゃないですか! 下に降りてくださいよ!!」
「はいはい」
ハンナさんが引っ込んでしまったのでとりあえず僕は30メートルほど下の足場へと降りてみる。
上から流れ落ちる水は、また別の水路を通って行っているように見えるけど……。
「……ファルガ様がいた場所にそっくりだな」
ミアラークの地下に存在するクレハの泉。
なんとなく雰囲気も似ているが、ここに流れる水は普通のものだ。
まあ、もしこの水がクレハの泉と同じものだったら僕になにかしらの異常があるはずだけど。
「っと、下に降りてみるとまだ先があるようですね」
「ん? 本当だ……」
アウルさんの言う通りまだ先に進める場所がある。
「おい、ウサト。足跡がある。まだ新しいぞ」
「足跡か……」
ルーネが尻尾で指示したところを見ると確かに複数人の足跡が見える。
でもアマコたちではないな。
あの子の足跡じゃないし、ブルリンもいないから多分これはアウルさんの同僚たちの足跡だろう。
「足跡に血が滲んでいる……」
「返り血でしょうね。私達には流す血がありませんので。多分、魔物の血だと思います」
水竜があの場所にだけいるわけじゃなさそうだし、その線が有力そうだ。
「だとすると、アウルさんの仲間ってことですか」
「てか多分そうですよ。こんなオーガみたいなデカさの足跡うちの筋肉ゴリラ三人衆しかないですね。だとするとこの先に悪魔共がいるってことじゃないですか……あー、先に進むの本当に嫌だなぁ」
……アウルさんは悪魔と合流すれば僕たちの敵になってしまうからなぁ。
でも進む道が一つしかないし、どちらにしろ進むしかないわけで……。
「肝心のシアの痕跡もまだ見つけられてない」
「……うん」
彼女がこの遺跡にいる可能性は高い。
先代勇者の記憶と魔法を持っているならその痕跡が道中残されているようなものだけど……そもそも僕が進んでいるルートとは違う道を進んでいるのかもしれない。
「……。少し休憩しましょうか」
「え、ウサト君が休憩……?」
『ウサトさん、先ほどの戦闘でなにかあったんですか?』
ハンナさんはまだしもキーラにまで驚かれてしまった。
僕としては考えをまとめる時間が欲しかったのと、そろそろアウルさんから悪魔についての情報を聞き出したい。
……その前にキーラとルーネを休ませるべきだな。
「キーラ。ルーネとハンナさんに食べ物を」
『はい! ウサトさんは?』
「僕ももらおうかな。ハンナさんは、二人を見ていてください」
僕の意図を察してか軽いため息をついたハンナさんが僕の背中から降りて、マントから出たキーラと人の姿に戻ったルーネを連れて僕とアウルさん……と未だに僕の背中にいる双子の妹さんから離れる。
「話をする前に……」
キーラから携帯食料を受け取り、手早く食べる。
まずは短い時間でも魔力の回復に努めなきゃな。
魔力感知を解き、僕は改めてアウルさんへと向き直る。
「アウルさん。可能な範囲でいいので悪魔に関する情報を教えてください」
「勿論、なんでも話しますよ! ……と言いたいところですが、私もそれほど悪魔についての情報は持っていないんですよねぇ」
ヴィーナさんの件もあって薄々察していたが、悪魔には仲間意識はない。
信用するという考えすらもないと言った方がいいだろうか。
「一応、悪魔の命令に背く感じになってしまうので、いつでも私の攻撃に反応できるようにしていてください」
「了解。ではこの治癒魔法弾をどうぞ」
「……やっぱりなにかありますよねぇ、この魔力弾!!」
いつでも反応できるように起爆用の治癒魔法弾を渡したらそんな反応が返ってきた。
律義に魔力弾を受け取ったアウルさんは手元の魔力弾と僕を交互に見て詰め寄ってくる。
「いやいやいや!! タイミングおかしかったですもん!!」
「どこがおかしいんですか! どう見たって普通の魔力弾じゃないですか!! そんなに疑うなんて……そんなに僕が信用できないんですか!?」
「勢いで誤魔化そうとするあたり怪しいんですよぉ!!」
実を言うと自分の先輩であるアウルさんと強面共みたいなやり取りをするのは楽しい。
加えて言うなら魔力弾が怪しまれることも織り込み済みだし、ぶっちゃけバレても全然問題ないのが強みみたいなものだ。
「話を戻しましょう。悪魔について教えてください」
「はぁっ、本当に昔を思い出させてくれますよね……」
肩を落としながらアウルさんは笑みを見せる。
「私が知っている悪魔は二体。レアリとカイラです」
「僕たちがこれまで遭遇した悪魔ですね」
「はい。レアリはビビりで姑息。カイラはプライドが高くて怒りっぽい単細胞っすね」
墓地で僕と団長を嘲笑ったのがレアリ。
シアと再会した遺跡で遭遇したのがカイラ。
一人は自分の存在すらも隠せる魔術持ちだが、魔力感知で捕捉できる。
カイラの方はどういう能力を持っているか不明だが、戦っている時に使ってこなかったから戦闘向きじゃないと見える。
「現在、いるであろう悪魔の数は5体ほどです。残り3体は用心深い……いえ、協力する姿勢を見せてはいません」
仲間意識がなく、同族でさえ蹴落とす対象なのが悪魔という種族。
ヒサゴさんによってその数を多く減らされても力を合わせる気配もないとは……。
「二体はシア……シア・ガーミオが滅ぼしたと聞きましたが、事実ですか?」
「一体目の悪魔さんのことは私が目覚める前だったのでよくは知りませんが、二体目に関しては事実ですね。てか、ウサト君は知っていますよね?」
「ラプド、ですか」
ミアラークを襲撃してきた悪魔だな。
ファルガ様の証言もあるし、シアの光魔法によって滅ぼされたのは確実だろう。
「……アウルさんにかけられた魔術はレアリがかけたものですか?」
「違うでしょうね。レアリは私たちの命令権を持っているだけで、私達を動かしている魔術を使っているわけではありません」
レアリは墓地からアウルさんの亡骸を持ちだしただけだったってことか?
現状、アウルさん達を解放する方法がないので頭を抱えるしかない。
一か八かネアのネクロマンサーの能力を試したいけど、それもそれでリスクが高い。
「シア・ガーミオについても悪魔側はそれほど知ってはいません。ウサト君と同じく最優先で排除する対象として認識されてはいますが、それと同時に怖がられています」
「悪魔を滅ぼせる存在だからか……」
僕と同じくって相当だぞ。
悪魔に目の敵にされている自覚はあるし、それくらいのことをした自覚もある。
「さっき彼女のことを言っていましたけど……いますよ。この遺跡に」
「! 本当ですか?」
「多分私達よりも早くこの遺跡に入ったようですね。どういう道を通ったかはしりませんが、足取りに全く迷いがありませんでした」
やっぱりシアはこの遺跡にいるのか。
危険な状態じゃなければいいんだけど……。
「あ、ウサト君に忠告しておくべきことがあります!!」
「はい?」
思い出したように声を上げるアウルさんに首を傾げる。
「実は魔王領に悪魔が一体スパイとして潜り込んでいるらしいです! 変装が得意な悪魔なので要注意かと……!!」
「……」
「あれ? 驚いてない感じ……?」
いやっ、なんか……多分、ヴィーナさんのことを言っているんだろうけどあの人、自分の欲望だけでこっちに寝返っているからものすごく気まずい。
「その悪魔はこっちに寝返ったので心配いりません」
「……寝返った? え? ど、どういうことですか?」
「正直な話、僕もどういうわけか意味が分からないんですよ……」
ここに来てアウルさんが完全に理解することを放棄した表情をしてしまった。
ヴィーナさんに関しては僕もそんな表情をしたいくらいだ。
本当になんなんだろうか、あの人。
「こ、コホン。……この程度の情報ですがお役に立てたでしょうか?」
「ええ、十分です」
一応、得るものはあった。
そろそろ休憩も終わりにして先に進むか。
キーラ達を呼んでもう一度集まる。
その際に子ライオン形態で僕の肩に乗ってきたルーネにシアがこの遺跡にいることを話しておく。
「ルーネ。シアはこの遺跡にいるらしい」
「! 本当か!? どこに!?」
「まだ場所は分からない。一緒に探そう」
「ああ!」
この子にとってシアは大事な存在になっているってことか。
……住む場所は違うけど、この子もキーラやフェルムのように孤独に過ごしていたから人との関係に飢えているのかもしれないな。
「———ウサト君」
そう考え、前に歩き出そうとすると隣にいたアウルさんが唐突に動きを止める。
強張った彼女の声に異変を察し、指先に系統強化を灯した右手を後ろに隠し彼女へ振り返る。
「どうしましたか?」
「手短に説明します。レアリかカイラがこの近くにいます。まだウサト君たちには気づいていませんが、恐らく戦闘中でしょう」
「……どうしてそれが分かるんですか?」
「命令が変わりました」
悪魔がアウルさん達に強制させることができる命令。
確か、今優先されているのは悪魔を守ることで、その次が僕を殺すこと……だよな?
「今は敵対者の殲滅です。つまりは悪魔共が現在、近くで戦闘している存在と———今、すぐ傍にいる君たちが対象となります」
「……つまり?」
「もう押さえられないので今すぐ私をぶっ飛ばしてください」
瞬間、アウルさんがその申し訳なさそうな表情に反して、剣を勢いよく抜き放つ。
衝撃魔法が籠められた剣。
それが僕へと振るわれる前に——アウルさんの左手の中にある系統劣化で作り出した治癒魔法弾へ、後ろに隠していた系統強化の手で触れる。
「ぼがぁぁ!?」
系統強化により系統劣化の治癒魔法が強烈な衝撃波を引き起こす。
それにより至近距離で衝撃波を食らったアウルさんは素っ頓狂な叫び声をあげて後方へ吹っ飛ぶ。
僕自身も衝撃を受け後ろに下がりながらも拳を構える。
「ウサト君!! ねぇ、ウサト君!!」
ごろごろと転がりながら起き上がったアウルさんが涙目になって僕を見る。
「ずっと私に爆発する魔力弾を持たせていたんですか!?」
「はいッ!! すみませんでした!!」
「もう君のこと信用できなくなりそうなんですけどぉ!!」
非常に申し訳ないがいざという時の備えが役に立ったというべきだろう。
……後は僕の背中にいる闇魔法使いの妹さんだ。
「キーラ、背中の子を拘束しておいてくれ。まだ暴れていないようだけど、いつ僕たちに攻撃する意思を見せてもおかしくない」
『了解です』
「隣の私は生きた心地がしないのですが……ッ!」
自分で僕の背中は安全とか言っていたんですから今くらいは我慢してください!
今は目の前の敵になってしまったアウルさんと戦わなければならない。
「アウルさん、恨まないでくださいよぉ……!」
「もう現時点で恨みそうなんですが!」
両手に系統劣化で作り出した魔力を浮かべ構えを取る。
このままアウルさんと交戦することになるが、悪魔が近くにいるとなればそっちに向かって混戦に持っていくのもアリだな。
「はぁ!!」
「!」
衝撃魔法の魔力を暴発させることにより作り出された魔力弾。
! さすがにすぐに実戦で使って来るか!! だが!!
「その技は僕も使っている!!」
掌に作り出した爆裂弾をアウルさんに向け———治癒飛拳で放つ。
爆裂弾を包む弾力付与の強度を調整することにより、爆裂弾そのものの突破力を向上させた新たな爆裂弾。
それはアウルさんの放った衝撃魔法の魔力弾とぶつかり、その上で突破しながらアウルさんへと向かっていく。
「治癒爆裂飛拳!!」
「んんッ!!?」
まさか相殺すらされないと思わなかったのかアウルさんは慌てて衝撃魔法で爆裂飛拳を吸収する。
その隙に僕は一気に距離を詰め、両手に纏わせた系統劣化の魔力を振るう。
「悔しいですけど魔力の爆発に関しては君の方が上手のようです!」
一瞬の攻防。
数度の打撃こそ見舞ったが、そのどれもが直撃には至らずむしろ衝撃魔法で吸収されてしまった———が、これでいい。
後ろに下がったアウルさんも自分の身体の異変に気付く。
「魔力弾がくっつけられてる!? ウサト君、いったいなんのつもッぼほぉ!?」
アウルさんにくっつけた魔力弾……に偽装した爆裂弾が発動する。
不意の衝撃にまた地面を転がりながらも彼女は起き上がる。
「ッ、くっつけられた魔力弾に爆発するやつが混ぜられてる……!?」
「よそ見している暇があるんですか!」
「ですよねぇ!」
彼女も僕の戦法に気づいただろう。
ブラフの魔力弾に爆裂弾を紛れ込ませ自分を混乱させようとしていることを。
魔力を纏わせた僕の両手を警戒しているアウルさんに、蹴りを繰り出す。
「うぐっ!?」
「手だけに気を取られている場合じゃないですよ!」
怯んだところでさらに三つの魔力弾をくっつける。
しまった、と言わんばかりに表情を苦々しいものにさせたアウルさんが後ろに下がりながら、今にも膨れ上がろうとする爆裂弾を衝撃魔法で吸収する。
「いい戦法ですけど私相手じゃちょっと相性が悪いっすよ!」
「本当にそうでしょうか?」
アウルさんは忘れている。
さっき僕がどうやって爆裂弾でもない魔力弾を爆発させたのかを。
この戦法をもう対処できるものだと思い込んでしまった彼女は、また僕の接近を許してしまう。
「だから魔力弾をくっつけようとしても———、ッ!?」
右手から発せられる系統強化の光。
それは魔力弾をくっつける挙動よりも早く、アウルさんの肩にくっついた魔力弾に触れ———爆裂弾以上の爆発力を伴って破裂した。
「———ッ」
不意の衝撃に対処しきれなかったアウルさんが吹き飛ばされる。
「お前、わたしにやめろって言ってるくせにバカみたいに使うじゃないか」
「ルーネ。僕が言うのはアレだけど、僕の真似は絶対にしないでね?」
「真似しようとしてできるものじゃないだろ。バカか?」
やだこの子、ネアより辛辣なんですけど。
本当にバカを見るように言われてしまって地味に傷つく。
「あーあ、読み間違えちゃいましたかー。やっぱり君は隊長のお弟子さんだ」
爆発を食らってもアウルさんは意識を落とすことはない。
元より気絶するか怪しい存在なのだから当然だけど、気絶で無力化させようとする僕とは相性が悪いのだろう。
「……良い感じに魔力がひろがって行っているな」
アウルさんとの戦闘で広げた魔力が、爆裂弾の爆風で広がっていく。
まだ悪魔たちの反応は分からないが、不自然に魔力が揺らいでいる場所はなんとなく分かった。
「アウルさん!」
「はい!」
「今からお取込み中の悪魔のところに突撃しにいくんで一緒に行きましょう!!」
「わぁ! 楽しそう!! じゃあ、戦いながらいきましょう!!」
悪魔に操られているからかものすごいいい笑顔で頷いたアウルさん。
そんな彼女の攻撃を籠手ではじき返しながら、彼女を悪魔のいる場所に誘導すべく、遺跡の奥へと戦いながら向かっていく。
悪魔たちに迫る悪魔(?)の足音……。
今回の更新は以上となります。
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