第三百六十七話
お待たせしました。
第三百六十七話です。
私達はウサトと合流するために遺跡の中へと進んでいくことになった。
明かりがまともになければ進むこともままならない遺跡の中はじめじめとした空気と魔物の気配もあり、危険な場所だけれどそれは私とカンナギにとってはあまり関係なかった。
「アマコ」
「うん。この先に魔物がいる。別の道で行こう」
「そうだね」
カンナギと予知の情報を共有し、探索する。
予知魔法使いが二人いるからこそできることであり、これにより私たちは最低限の戦闘だけで順調に遺跡を進むことができている。
「予知魔法ってのは便利だなぁ。味方にいるとつくづくそう思わされるぜ」
「過信しすぎなければね」
コーガの呟きに答えると彼は肩を竦めた。
「分かってるよ。そーいうのはヒノモトのジンヤの旦那の増長っぷりを見てよーく分かってっからな。見え過ぎて目が曇るって話も面白くはあるけどな」
「暴走させた一因がよく言うよね」
「確かに、貴方が言えたことではないわね」
私とフクロウ状態で肩の上にいるネアの言葉にコーガがげんなりとする。
「あんときは悪かったって……」
「別にそれほど気にしてない。あれはジンヤが暴走した結果だし」
お母さんの予知魔法を奪っていた元獣人族の族長ジンヤ。
彼は今度は私から予知魔法を奪い魔王軍と手を組んで人間の領域へ攻め込もうとしていたけど、それを私たちが止めた。
コーガに関してはジンヤは元から野心に溢れていたからきっかけに過ぎなかったんだろうけど。
「あの時、お前らと戦えてよかったと思っているぜ」
「ウサトは散々だったと思うけどね」
「ハハッ、だろうな。自分でもあの時の俺はかなり面倒臭いことをしてたのは自覚してる」
自覚している上でやるのが性質が悪いと思う。
「隊長がヒノモトに向かった時? ああ、アーミラお姉さまが私達を率いてくださった時の話ね」
と、そこでコーガの部下の一人であるエルさんが思いを馳せるような声色で呟いた。
「いや、率いてたの俺だからな? 記憶捏造すんなよ?」
「ハッ。分かってますよ。隊長」
完全に鼻で笑ったエルさん。
それにイラッとしたのか頬を引きつらせたコーガが彼女へ振り返った。
「……。まあ、そのアーミラお姉様は最近はウサトと早朝訓練してるけどな!!」
「ガッ、ァ、ウッゥゥ!!?」
エルさんが唐突に胸を押さえて苦しみだした!?
なんか深刻なものじゃなくて、こう……表情が鬼気迫る感じのものだけれど。
「エルさんがいきなり苦しみだしましたよ!?」
「毎朝アーミラお姉様と訓練ゥゥ……! 妬ましいィィ……!」
「わぁ、いい嫉妬!! ごちそうさまです!!」
この人たちも色々と濃いなぁ。
でもウサトは毎朝とは言ってなかったような気が……。
それに絶対そんな色気のあるものじゃないと思う。
絶対現地の皆さんをドン引きさせるような模擬戦をしていただろうし。
「……訓練かー」
別にスズネみたいに救命団に入りたいってわけじゃないけど、私も今のままでいいのかと思ってしまう。
旅の間から今もそうだけど私はずっとウサトに守られてばっかりだ。
予知魔法があるからある程度は自分の身は守れるけれど、戦えるわけじゃない。
「私もカンナギみたいに強くなれるかな」
「アマコ、何言っているのかしら……? 正気……?」
ちょっと呟いてみたらネアに正気を疑われてしまった。
いや……うん、正気を疑われるのは分かる。
「アマコは私みたいな予知魔法使いにならなくてもいいと思うよ?」
「私、ウサトと付き合っていく上で守られてばっかりだから。カンナギと同じくらいってわけじゃないけどある程度動けるようにはなりたいと思って」
「うーん……」
顎に手を当てて悩まし気に唸るカンナギ。
「アマコは小柄だしなぁ」
「成長期はこれから来る」
「……えーっと――」
「来る」
「そ、ソウダネ……」
それ以上は言わせない。
もうすぐ私も十五歳。
きっと母さんやカンナギみたいに身長も伸びるはず。
「ま、同じ予知魔法使いだし君が手ほどきを受けたいって言うなら手伝うよ。私も救命団入りするからね」
「あ、救命団入りはちょっと。スズネもいるし」
「入りたくない理由がスズネなの!!?」
だって新宿舎ってスズネと同じ屋根の下だよね?
普通にベッドに忍び込んできそう……というか一緒の旅の一環でやってきたし。
「止まって」
「? どうしたのカンナギ」
前を歩いていたカンナギが足を止める。
魔力感知で索敵を行っていたヴィーナがなにも反応しなかったあたり敵が現れたってわけじゃなさそうだけど、一体どうしたんだろう?
カンナギが手に持っていた松明の明かりを高く掲げると……。
「壁に絵が……?」
見えたのは広間の壁に描かれた絵のようなもの。
描かれているのは……たくさんの蛇のような長い胴体の怪物と、それを大きくしたような巨大な怪物。
迷路のような入り組んだ道を彷徨う人の姿とか、滝のような水が降り注ぐ空間とかところどころ霞んで判別しにくいけれど何かしらの意味があることだけは分かった。
「へぇ、面白いわね」
それにまず興味を示したのはやっぱりというべきか、肩の上にいたネアであった。
「ここを作った奴らが描いたものね。これは……罠かしら? 外敵? いえ、違うわね。これは試練というべきかしら?」
「ネア、何か分かる?」
「書かれている文字はさっぱり分からないけど、推測することはできるわ」
こういう時、ネアが強い。
元よりうっかりでドジなところはあるけど300年、持て余した暇を利用し知識を蓄えてきた魔物なのだ。
その知識量と思慮深さは認めている。
「……カンナギ、どうやら私たちは試練の真っ最中みたいよ」
「なんだって?」
「ここは足を踏み入れた者に試練を課す死の迷宮。最初があの水の魔術から始まり、今はこの魔物はびこる迷宮を進んでいるってことよ」
……湖の中に存在する迷宮。
思っていた以上に面倒なことに巻き込まれているようだ。
ネアの言葉を聞いたコーガが舌打ちをする。
「勝手に試されてんのか? 気にいらねぇな」
「同感ね。でもこの迷宮の試練を潜り抜けた先に私達の目的とするものがある可能性は高いわ」
「……魔王様の力の断片か?」
「ええ。これみよがしに光る球体が書かれているでしょ?」
ネアが壁画を指さすと確かに光る球体のようなものが遺跡の絵の下方にある。
魔王の力が試練の褒美ってこと? ……常識的に考えたらそんな危ないものこっちから願い下げたい気分なんだけど。
「「———ッ」」
その時、獣人としての私の聴覚が何かしらの音のようなものを聞き取った。
直後に遺跡内にボォォォ!! という音と、何か大きなものが倒れるような音が響いてくる。
「……カンナギ、聞こえた?」
「ああ。それほど遠くはないと思う。魔物の叫び声と、何かが爆発する音」
「ウサトじゃね?」
爆発という言葉だけで即座にウサトと連想するあたり酷いと思う。
もう音は止んでいるから戦闘はすぐに終わったようだけど……さっきのボォォォ! って音はなんだったんだろう?
炎が噴き出すとかそんな音に近かったけど……あっ。
「……ネア。今、ウサトと一緒にルーネも行動してたよね」
「ええ、そうね。ウサトがいるなら大丈夫じゃない?」
「いやそういうことじゃなくて……」
なんというか、察した。
こういう時ほど自分の想像が外れてほしいとは思ってしまうけど多分当たってしまっているんだろうなぁ。
とりあえず、次合流した時ネアが卒倒するようなことになっていなければいいけど。
●
水竜の大群が蔓延る広間を抜け、再び通路へと入りこんだ先は変わらず暗闇の中。
「私の名前はハンナです。分かりますか?」
「……」
「貴女と同じ魔族です。貴女はもう死んじゃってますけど」
「……」
依然として僕の背中にいるハンナさんが双子の闇魔法使いの妹さんにコミュニケーションを図ろうとしている状況にため息が漏れてしまう。
「ハンナさん、その人は意識はないから話しても意味がないのでは?」
「ウサト君に愚痴を言っても逆に言いたい愚痴が増えそうなので、代わりにこの子に愚痴を聞いてもらっているんです」
……。
「すみません。僕の背中から降りてもらってもいいですか?」
「いーやーでーすー!」
背中を揺らすとハンナさんは変形したマントにしがみついて抵抗を見せる。
「私、分かったんです。この遺跡において一番安全な場所がウサト君の背中ってことに! もういっそこのまま事が終わるまで私を運んでください!」
もう馬車扱いじゃん。
現在、マントを変形させて長方形……棺のような形にさせているわけだが、ハンナさんと妹さんは横に並ぶように綺麗に収まっている感じである。
「それに私を運ぶことにメリットがあります」
「なんでしょうか?」
「丁度いい訓練になります」
……ハッ。
僕が訓練という言葉で騙されると思わないでほしいね。
ハンナさんの言葉を鼻で笑う。
「貴女程度の重さで訓練になるわけないじゃないですか。軽すぎて話になりませんよ」
「……へ、へー、そーですか。それってつまりウサト君は私が軽いって――」
「貴女はもっと筋肉をつけるべきです」
背後から頭を叩かれた。
叩かれた理由はなんとなく察したけど、普通にハンナさんはもっと食べた方がいいと思う。
背負っている感じ、心配になるくらいには軽いからな……。
……まあ、さすがに失礼になってしまうのでそれ以上は言わないけれども。
「たしかにハンナは貧弱そうだな。森で生きていけそうにない」
そんなハンナさんと僕の会話を聞いていたルーネがそんなことを呟いた。
「キーラちゃん。今すぐ食料十日分ください。食べて大きくなりますから」
『勿体ないので駄目です』
極端すぎだろ。
心なしか冷たい声色のキーラに地味にショックを受けているハンナさんを慰めていると、無言で僕たちのやり取りを見ていたアウルさんがやれやれといった様子で肩を竦めた。
「ウサト君、敵勢力である私しか常識人がいない状況を重く見た方がいいと思うんです」
……?
……、……?
「アウルさんが常識人……?」
「すみません!! まだ短い付き合いですけど一回ド突いてもいいですかね!!?」
いや、ローズの部下である貴女が常識人なはずないでしょう。
そもそも亡骸のまま錯乱せずにしっかりとした意識を保っている時点で異常なはずだ。
だけど、アウルさんのこの反応は良い兆候だ。
「フッ、ようやくらしくなってきましたね。その調子です」
「こ、このイラっと感……!! まさしく今は亡きゴリラ同僚共と同じぃ……!!」
こういうやり取りもアウルさんには必要だと思う。
……ん? アウルさんの持っている治癒魔法弾が消えかけているな。
「治癒魔法弾が切れそうですね。はい、どうぞ」
「え、ありがとうございます。……やっぱり私だけ薄くないですか?」
さすがに怪しまれているか。
なら、少しだけ正直に話すか。
「実は魔力の節約でアウルさんだけ薄くしているんです。アウルさん、治癒魔法効かないでしょ?」
「あ、そういうことだったんですね。そういえば私って死体だから治癒魔法とか全然効果なかったんだった……」
「「ははは」」
二人して笑っていると、僕の背中からハンナさんの視線を感じる。
どんな目で見ているか分からないけど、そんな目で見ないで欲しい。
一応、貴女の安全のためでもあるんですからね?
「……ん、行き止まり?」
話している間にも投げていた魔力弾が壁のような何かに阻まれる。
最初は行き止まりかと思っていたけど……違うな。
不自然に下に穴が空いて……何か水のようなものが流れている?
『ウサトさん、これって……』
「水路、だよな?」
行き止まりへと向かい明かりで照らすと、新たに出た通路のような空間に水が川のように流れている光景が視界に飛び込んできた。
僕の背中に手をついて広く周りを見回したハンナさんは、思考しながら口を開く。
「多分、水竜はここから入ってきたんでしょうね」
「なるほど。でも足場になるところもないし、歩いて進むのは難しそうですね」
しかもこの水路がどこに繋がっているか分かったもんじゃない。
一応、確認のために治癒魔法弾を水路に放り投げ、どこに繋がっているか調べてみる。
『どうですか……?』
「……一応、広い空間には繋がっているようだ」
そこそこ遠いな。
しかも水路は滝のように流れ落ちているのか、先になにがあるか分からない。
「ちょっと爆破探知をしてみます」
「意味不明な言葉を作らないでください」
爆破時間を調整した治癒爆裂弾を放り込み、広い空間の探知を行う。
十数秒ほどで治癒爆裂弾が破裂し、広めの構造が分かるようになる。
「かなり広い。爆裂弾の魔力散布じゃ把握しきれないな……」
このまま進んでもいいのだろうか。
水路の流れはそこそこ急だけど戻れないほどじゃない。
でもなにがあるか分からないのはなぁ……。
「引き返しても意味ありませんし、このまま進むしかないんじゃないですか?」
思い悩んでいる僕にアウルさんがそんな言葉を口にした。
驚いた目で彼女を見ると、腕を組んで得意げな様子で人差し指を立てた。
「こういう時こそ前に進んでみるべきっすよ。立ち止まるよりずっとマシですから」
……あぁ、なるほど。ローズが言っていたのはこれか。
どんな状況でも前向きでいられる心の強さ。
そういう姿を見せてくれるだけで遺跡に閉じ込められた不安も怖さも打ち消してくれる強さを今の彼女から感じた。
「なら、進みましょうか! キーラ!! 潜水形態!!」
『了解です!!』
「……え、せんすいけいたい……?」
僕の背中にいるハンナさんと妹さんをマントで作られた箱のようなもので覆い隠す。
さらにマントの襟部分がマスクのように変化し、ボンベ代わりとなる。
「ルーネ、君はハンナさんと一緒に」
「……分かった」
ルーネがしょうがなさそうに背中のハンナさんの腕の中に飛び込む。
その際に声にならない嬉しそうな悲鳴を上げた彼女に苦笑しつつ、先ほどの水竜の時と同じようにアウルさんに手を差し伸べる。
「さあ、アウルさんも」
「もう驚かないですよ……は、ははは……」
アウルさんも背中に移ったところで準備オッケーだ。
「……よし」
キーラのおかげで水中での呼吸は可能だ。
移動に関してもキーラのマントの移動能力と僕の治癒加速拳で可能。
「潜るぞ!!」
『おー!』
水路に飛び込み流れに身を任せる。
不安は勿論あるけど、アウルさんの言った通りここに立ち止まっているだけよりは進んだ方が遥かにマシだからな。
空中だけではなく水中適性も得た治癒魔法使いウサトでした。
次回の更新は明日の18時を予定しております。




