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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第十五章 出張救命団 魔物の領域編
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第三百五十八話

二日目、二話目の更新となります。

前話を見ていない方はまずはそちらをー。


 ネア達のいる場所に戻ると周囲の警戒を終え、戻ってきた部下たちが野営の準備を進めていた。

 さすがに数日やれば手際もよくなっているのか、エルさん達も僕が手伝う必要もなくてきぱきと設営をこなしているようだ。


「アマコ、僕はネアとハンナさんから話を聞くから君はナギさんとコーガに川があることを伝えてくれ」

「うん。分かった」


 アマコと別れると、野営拠点の周りでは部下たちが魔法で拠点の防御を固めている光景が視界に映り込む。

 魔物が入ってこれないようにウォルさんが岩の魔法で野営予定の場所を囲むように壁を作り、その後にケヴィンさんが木の魔法で補強しバリケードにする。

 仕上げにセインさんがバリケード周辺の土を泥状にさせることで、魔物襲撃への対策をする。

 簡易的ではあるけど、堅牢な守りとも言える。

 そう思いながら僕は部下たちに労いの言葉をかける。


「設営が終わったら休んでください。あとで治癒魔法をかけますから」

「「「ハッ!」」」

「りょーかい」

「分かりました」


 部下たちの返事に頷きながら先ほどから魔力感知で索敵を行ってくれているヴィーナさんを見る。


「ヴィーナさんも休んでいいですよ?」

「いえ、まだ頑張れます。私のような悪魔は、もっとこき使っても許され———」

「……。上官の命令に逆らうんですか?」

「ひぃん、従いますぅ……」


 なんだろう。この人の扱いを心得ていくごとに僕がパワハラ上司みたいになっている気がする。

 全然そんなことはないんだけど。

 溜息をつきながら僕はネアとハンナさんが調べている廃墟へと近づくと、なにやらハンナさんが廃墟の壁を見て首を捻っていた。


「ハンナさん? どうしました?」

「え、ああ、ウサト君ですか。少し興味深いことがありまして……」


 興味深いこと?

 首を傾げながら彼女の見ているものを覗き込むと、そこには変わり映えのない古びた壁があるばかりだ。


「えーっと、なにが興味深いんですか?」

「この建物の造りです」


 造り?

 まじまじと見てみると、この廃墟の見える部分の構造はレンガ造りに近いものなのが分かる。

 分かったのはそれだけだ。


「???」

「はぁっ……おバカなウサト君に分かるように説明しますね。本当にしょうがないですけど」


 やれやれ、といった風な反応をされてしまった。


「この廃墟の構造は魔王領の……我々魔族のものにかなり近いんです」

「と、するとこれは魔族が作ったものということに?」

「普通に考えればそうなのですが、これには魔族の建築とは別の建築方式が組み込まれているんです」

「別の、ですか?」

「上を見てください」


 ハンナさんの言葉通りに上を見て———驚く。

 なにせ、この大木に隣接するように作られた廃墟の上には、ツリーハウスのようなまた別の建物の名残りがあったからだ。

 ほぼ全壊しているのでよく見なければ気づけないが、確かに木に増築するような形に家がある。


「魔族は木の上に家を作るなんてことはほとんどしません」

「この環境で生きるために造った、とかは?」

「その可能性もありえなくはないです。ですが、この木の上に住む環境を作るというのは、エルフのものと似通っているので……ちょっとそこで引っ掛かりを覚えているのです」

「エルフ?」


 ……確か魔王が、エルフ族が戦争の被害を避けるために森の奥深くに潜ったとか言っていたけど。


「エルフ族は深い森の中に住む亜人です。彼らの集落は地上ではなく木の上に造られ、魔物の襲撃から身を守りながら生きていると言われております。……というより、ウサト君知り合いですよね?」

「そうですね。ハンナさんと同じ魔法を持っていた彼女もエルフ族です」


 僕の知り合いのエルフといったらフラナさんだろう。

 ちょっと前にフラナさんのお父さんとも会ったけれども。


「同じ幻影魔法持ちでしたもんねぇ」

「もう一つ言うなら族長の一人娘です」

「族長の一人娘がなぜリングル王国の戦場に……?」


 ……いや待て、エルフはともかくどうしてここで魔族が出てくるんだ?

 当時からすれば魔王が主導する魔王軍はかなり危険なやつらだったはずだ。

 それなのにどうして共同建築染みた建物を作るんだ?


「この建物は作られてからどのくらいの年月が過ぎていますか?」

「廃墟の中にいるネアさん曰く、大体百年から二百年ほど前に造られたものらしいです」

「……」


 ……魔王とヒサゴさんの戦いが終わってさらに何百年も経った後に造られたのか。

 猶更意味が分からなくなってきた。

 なんだ? この魔物の領域で魔族とエルフは共存していたのか?


「ウサト君」

「はい?」


 ハンナさんが手帳にスケッチをとりながら声をかけてくる。

 ……なんだかいつも人生に疲れたような瞳をしているハンナさんの目が生き生きとしてないか?


「大事な任務の最中ですけど……私、ちょっとワクワクしてきました」

『えっ』


 ハンナさんの言葉に呆気にとられた声を漏らすキーラ。

 なるほど、探検中に見つけた謎の遺跡と決して交わるはずのない魔族とエルフ族の奇妙な関係性……か。


「分かります」

『え!?』


 こんなミステリーに興味を持たない方がおかしいだろ……!!

 この場に先輩がいないことが悔やまれるぜ……!! あの人ならきっとワクワクどころじゃないレベルでテンション爆上げしていただろうから。


「では、ハンナさんには引き続いて調査をお願いします」

「分かりました。任せてください」

「よし……っと、ハンナさん、ネアは廃墟の中ですか?」

「そうですね。彼女にも話を聞いた方がいいと思いますよ。私とは別の発見をしていたみたいですし」


 別の発見か。それなら話を聞きにいくべきだな。

 ハンナさんから離れ、半壊した入口から廃墟の中へと足を踏み入れる。

 天井はほとんど機能していないくらいに崩落し、かろうじて寝る場所を確保できるくらいの広さの場所にネアはいた。


「来たのね。川は見つかったのかしら?」

「ああ。それなりに広くて流れも緩やかな川だったから水浴びもできるよ」

「今日一番の朗報ね」

「そっちはなにか見つかった?」

「一応ね」


 この短時間でも収穫はあったようだ。

 既に黒髪赤目の少女の姿になっていたネアは、手に持った木の棒で地面を指し示す。


「これ、見てみなさい」

「……焚火の跡だな」


 黒ずんだ地面に焦げた木の枝。

 火事であれば周りに火が燃え移った跡があるだろし、そもそもこの焚火のあとはまだ新しい。


「経過的に三日以上前のものね」

「そんなに新しいのか?」

「ええ。最近、確実にここで誰かが私達と同じように休息をとっている。それと———」


 ネアが手に持っていたハンカチほどの大きさの布のようなものを僕に見せてくる。


「これは、魔王領の保存食に使われてる包み、か?」

「一応、確認してみましょうか。キーラ、マントの中にある保存食を出してもらってもいいかしら?」

『もちろんです!』


 そういうとすぐにキーラがマントから長方形型の保存食を出してくれる。

 それを受け取りながらネアの持つそれに触れて比べてみると、布の材質はほぼ同じなのが分かる。


『絶対、シアさんです。私、シアさんに保存食とか毛布とかたくさんあげておいたので、多分ここで食べてくれたんだと思います!』


 食べ物が喉を通る状態なことに安堵する。

 こんな場所で食料を調達するのはシアにとって大変なことだろうからキーラが食料を渡したのは正解どころの話じゃなかったな。


「そう楽観視してられないかもしれないわよ」

『えっ』

「どうしてだ?」

「この焚火の周りに置かれた瓦礫があるじゃない。ちょうど座るのにちょうどいいやつ」


 恐らく、シアが用意したであろう座れるくらいの大きさの瓦礫。

 それが焚火のを挟むように“二つ”並べられている。

 他の瓦礫は壁際へどかされているあたり、この二つは意図して残されたものだと分かる。


「シアは、誰かとここに……いた?」

「その誰かは全く見当がつかないけれどね。ほら、足跡も違う」


 一つは靴で、もう一つは……裸足? いや、裸足っぽいがなにか履いているのだろうか。

 靴の方がシアのものだと分かるけど、もう一人のものは彼女と同じくらいの大きさだ。


「シアと一緒にいるのは子供か、女性?」

「可能性は高いわね。……ここからは予測に過ぎないけれど、ここで食べ物を食べたってことはそれなりに警戒を解いている相手ともいえるんじゃない?」


 シアを助けてくれる誰かがいたと考えたい。

 もしかしてさっき川で僕達を観察していたやつが……いや、まさかな。

 でも一応、ネアにこのことを話しておこう。


「ついさっき川に行ったときに誰かの視線を感じたんだ」

「へぇ、それでどうしたのよ?」

「とりあえず治癒拡散弾を空に放り投げて無差別に治癒感知をして正体を探ろうとしたんだ」


 そういうとネアは無言で僕の胸を殴ってきた。

 我が胸筋を殴った方の手が痛かったのか、涙目になりながら手首をおさえた彼女に治癒魔法をかけておく。


「ネア、治癒拡散弾は突発的に作った技で、君に隠していたわけじゃないんだ。だからそんなに怒らないでくれ。僕が悪かった」

「私の怒りの原因を完璧に理解するんじゃないわよ!? あとその謝り方分かってやってるでしょ!」


 そんな無茶な……。

 できてしまったんだからしょうがないじゃないか。

 まあ、ネアも本気で怒っていないのも分かるのでこの後のことも説明してしまおう。


「結果的には誰かいた……けれど、すぐに人の姿じゃなくなってどこかに逃げちゃったんだよね」

「……人の姿じゃなくなるってどういうことよ」

「なんというか、僕も治癒感知ごしであまり正確には言えないんだけど、なんというか膨れ上がるように別の生き物になった感じ?」

「私と同じ人型の魔物かしら? 観察していたってことは襲う機会をうかがっていたとも考えられるわね」


 正直、今の情報だけでは僕たちの存在に気づいている誰かがいるということしか分からない。

 敵でないならそれでいいけど、襲い掛かってくるならこちらも対処しなければならないだろう。


「このことは皆にも情報を共有させておくつもりだ」

「その方がいいわね。あ、それと周りを調べればシアがどこに向かったか痕跡が見つけられるかもしれないから、それも探さなくちゃね」

「それは明日にしようか」


 夜は魔物の動きも活発化してしまうので、動くに動けなくなる。

 次の行動の時まで僕達もしっかりと休息をとらなくちゃな。



「隊長って異世界人だっていうのは事実なのですか?」


 日が暮れる前。

 女性陣が交代で水浴びに向かっている間、野営拠点でブルリンに背を預けて休んでいた僕に部下の一人、ケヴィンさんがそんな質問を投げかけてきた。

 今この場にいるのは男性陣のみで大柄な体格の魔族、ウォルさんは今日の夕飯であるスープを無言でかき混ぜており、コーガは僕と同じように焚火の周りで暇をしていた。


「えっ、隊長、別の世界からやってきたんですか!?」


 その質問に驚いたのはメンバーの中で新入りに近いセインさんだ。

 彼は他の面々とは違い、魔王軍とは関係のない田舎からやってきた人らしいので異世界人という言葉自体も知らないようだ。


「そうですね。後、隊長は僕じゃなくてコーガですから」

「もっと言ってやれウサト……」


 僕とコーガの場合、隊長も副隊長としての立場もほとんど関係ないようなものだけれども。


「異世界人というのは貴方のように強い人間ばかりなのでしょうか?」

「いえいえ、僕なんて全然普通でしたよ。むしろこっちで鍛えたから今の僕があるようなものです」

「大体一年でここまでってマジでどうなってんだよって話だよな。お前、俺と初めて戦った時はこの世界に来てからどれくらいの時だったんだ?」


 うーん。

 書状渡しの旅が大体三ヵ月くらいだから……。


「半年も経ってないね」

「えぐすぎだろ」

「まあ……それだけの地獄を潜り抜けてきたからね……」


 断片的にしか記憶がないけど。

 多分、常時全力を超えるくらいの動きを強制され続けられたのだろう。

 ローズの極めに極まった訓練とはそういう無茶ぶりを突き詰めたものなのだから。


「でも異世界人である勇者の二人もとんでもない人間でしたし、異世界人そのものがなにかしらの素養を秘めていると考えるのが自然では?」

「二人は本当の意味で勇者としての素養を見出されていましたからね。最初の僕は……治癒魔法の素質があるだけの学生だっただけですから」

「ケヴィン、こいつに魔法とかの才能云々はないぞ」


 からからと笑いながらコーガがそう言う。

 なにかフォローしてくれるのかな?


「単純に頭がおかしーんだ———って危ねぇ!?」


 そんなことをのたまいやがった奴に迷わず治癒指弾を放つが避けられてしまった。


「僕のどこが頭がおかしいんだこの野郎!」

「自覚ねぇのかこの野郎!! お前の普段の俺への所業を忘れたのか!?」


 所業……?

 思い当たるものが多すぎて逆に思い出せんな!!


「こっちの台詞だ!! 何度、君の襲撃に迷惑を被ったと思っていやがる!! こっちはなぁ!! 二回も刺されたんだぞ!! 常人だったら死んでるわ!!」

「そういうお前は俺を武器代わりにして振り回したり、変な技叩き込んできたりしたじゃねーか!! そもそも常人じゃねぇだろお前!!」


 なんだとこの野郎!!


「僕が君に対して遠慮することは何もないんだよォ!」

「良い話風に言ってんじゃねぇぞ!!」


 互いの胸倉を掴み睨み合う僕とコーガ。


「ウォル、セイン。分かっていたが、この二人似た者同士だよな……」

「同意」

「言ってること滅茶苦茶なところも含めて……」


 正直、どっちもどっちという自覚もあるので互いにため息をつきながら元の位置に戻る。


「不毛だな」

「ああ、過去のことは水に流そう」


 腐れ縁のような因縁はあったが、戦いが終わってそれも変わった。

 今ではこいつは悪友という位置づけなのかもしれない。


「で、だ。ウサト。明日はどうする? このまま探索を続けるか?」

「僕としてはシアの痕跡を追いたい。シアの目的が魔王の力の断片なら、彼女を追えば僕達の目的の一つを果たせるかもしれない」


 魔王の力の断片という傍迷惑な産物は絶対に回収しないといけないからな……。


「だけどよ。痕跡を追うっつっても追えるのか?」

「足跡を見つけて、とりあえずその方向に進んでみるしかないな。あとは……」


 自分が背中を預けているブルリンの背中をぽんぽんと叩く。


「こいつの鼻の出番だ」

「ぐるぅ……」

「なるほど。ブルーグリズリーの嗅覚ね」


 何日も経っているし追えるかどうか分からないけれど、ブルリンの鼻ならある程度の追跡はできるかもしれない。

 そもそもブルリンの嗅覚は普通の匂い以外に魔力そのものの匂いを判別することもできる。


「ようやく見つけた手がかりだ。早く彼女を見つけないとな……」


 今日で沢山の収穫があったけど、気になるのは僕達を観察していた何者かだ。

 ……次に気づいたら迷わず接触しに向かうべきだな。

ここから少しずつ状況を動かしていきます。

強面達相手と同じくらいコーガに遠慮しないウサトでした。


今回の更新は以上となります。

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― 新着の感想 ―
「……。上官の命令に逆らうんですか?」 ここだけ見たらR1◯の軍隊ものですが、本当は休憩を強制(必要)して行わせる上官....!いい人。
[一言] >魔物が入ってこれないようにウォルさんが岩の魔法で野営予定の場所を囲むように壁を作り、その後にケヴィンさんが木の魔法で補強しバリケードにする。 >仕上げにセインさんがバリケード周辺の土を泥状…
[良い点] 久し振りに最前線まで読みましたが、ウサトが相変わらずの変異と女難で面白かったです。 [気になる点] もし団長がまだ系統劣化を習得してないなら、あの方の不死性はまだ増す余地があるということに…
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