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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第十五章 出張救命団 魔物の領域編
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第三百五十六話

二日目、二話目の更新となります。

第三百五十六話です。


今回はハンナさん視点でお送りします。

 私のするべきことは地形の把握と簡易的な地図の作成だ。

 魔物の領域の資源確保という次の目的のために探索を行っているので地形把握は必須で何気に責任重大な役割を担っている自覚はある。

 ……。

 魔王軍が負けた時は自分の行く末なんてろくでもないものだとばかり思っていた。

 ウサト君たち一行を地下にまで案内し、その上光の勇者を誘導するという魔王軍敗北の一因を担ってしまった戦犯であるのでそうなって当然のはずだった。


「前から大型の魔物が突っ込んでくる。ウサト、魔力弾で位置を把握して」

「フンッ!!」


 予知魔法を持つアマコちゃんの言葉に従い、瞬時に魔力弾を前方へ投げつける。

 凄まじい速さで木々の間へと消えていった魔力弾は、パァン、という破裂音を響かせた。


「……治癒感知で確認した。僕とナギさん以外は手筈通りハンナさんの護衛を優先。コーガはいざという時の援護よろしく」

「その心配もねぇと思うけどな」


 コーガ君の軽口に苦笑いを返したウサト君がカンナギさんと共に同時に前に飛び出す。

 それと同時に護衛をしていたノノたちが、私を中心に武器を構え臨戦態勢へと移る。


「ブグゥロォォ!!」


 木々をなぎ倒しながら現れたのはブルーグリズリーを優に超える牛の魔物。

 その名前すらも分からない猛牛は、二本の角を突き出しながら私たちのいる直線状へと突っ込んできた———が、


「「……」」


 あろうことかウサト君とカンナギさんは猛牛の左右の角を同時に掴み、その突進を力技で止めてしまった。

 ……もう一度見ても猛牛の大きさはブルーグリズリーよりも大きく、それこそ三倍くらいの図体がある。具体的に言うなら、ウサト君の肩で慌てふためいているネアが豆粒に見えるくらいの大きさだ。

 重さもそこらのワイバーンすらも超えているだろう。

 この二人が人の形をしていることがもう神秘とさえ思えてくる。


「ぬぅぅ……!」

「はぁぁ……!」

「ブグォ!? ブグ!?」


 前髪で顔を隠し、角を腕力で押さえつけながら吐息を吐き出した二人。

 どれだけ前に進もうと後ろ脚で地面を蹴っても、それは二人の剛力により遮られ前に進むことすら許されない魔物は我に返り、困惑の唸り声をあげる。


「「ふぅん!!」」

「ブグォォォ!!?」


 あ、投げ飛ばした。

 目の前の光景を他人事のように見ながら、猛牛の魔物は地面に背中から叩きつけられる。

 そのあまりの衝撃に魔物は気絶してしまったようだ。


「……よし。図体は大きいけど、対処できないほどではないですね」

「そうだね。数でこられると面倒そうだけど、単体ならこうやって制圧すればいいね」


 なんなのこの人たち。

 気絶した魔物を前にして何事もなかったかのようにそんな会話をしているウサト君とカンナギに頬が引き攣る。


「ハンナさん。あの人達、本当に人の構造しているんですか?」

「……」


 ノノの言葉になにも返すこともできない。

 そんなこと私の方が気になっているくらいだ。


「おう、お疲れ。バカ力が二人揃うと派手だな」

「バカ力言うな。……コーガ、この魔物見たことあるか?」

「いや、ねぇな。確認されてないやつじゃないか?」


 この光景に慣れてしまったのかコーガ君の言葉に、ウサト君はもう一度魔物を見て顎に手を当てる。


「じゃあ、これからこいつはツインホーンブルと名付けよう。略してツイブルだ」

「かわいそうだからやめなさい……」


 自称治癒魔法使いのウサト君。

 先代勇者の相棒、カンナギ。

 元第二軍団長のコーガ君。

 ……普通に過剰戦力だと思った。

 万全を期しすぎて逆に引いてしまうくらいに安心感が凄い。



 襲撃してきた魔物のスケッチなどを取り未確認の魔物の生態を記録した後、再び森の中を進むことになった。

 その際にウサト君はマントから取り出した鉄製の杭を地面へと突き刺し次の探索のための目印にする。

 これに並行して私も地形を把握していかなきゃならないので、どうしても移動は徒歩になってしまう。

 そして、もう一つ私にはやるべきことがあった。


「ハンナさん、もう少し高く飛びましょうか?」


 それは空から魔物の領域を見ることだ。

 この先に進むルートを確認することと、なにか目印になるものがないかを確認し、安全なルートを探すというものだ。

 その際に、キーラちゃんの魔法を纏うウサト君が、先日と同じように私を背中合わせにするように背負い空へと飛ぶ。


「この高さで大丈夫です。スケッチするので時間をください」

「了解です」


 大きく広げられたマントの上で、カバンから取り出した手帳とペンを膝に乗せ空中から見る景色とおおまかな地形を写していく。

 すると、ウサト君の肩の上にいたネアさんが私の絵を覗き込んでくる。

 それにつられるように座っているマントからキーラちゃんも顔を出してきた。


「へぇ、上手いわねぇ」

「上手です……」

「あくまで人並みに描けるだけですよ」

「そういう割にはすらすらと書いているように見えるけど?」


 まあ、自分で育てた花壇の花とかを写していたりはしていましたけれど……。

 あくまで趣味の域をでない程度の腕前ではあるものの、おおまかな地形などは分かるようには描けているはず。

 ……。


「魔王軍が敗れた時のことを考えると、今自分がこんなところにいるのが信じられませんよ」

「そうですか?」

「正直、もっと酷いことになっていると思っていました」


 魔王様が殺害されていれば、魔族の扱いは今より厳しいものになっていただろうとは思う。

 そうならなかったおかげで管理されてはいるものの魔族と言う種族は以前よりマシな暮らしができている。

 ……あと十年早かったら妹も……。


「……いえ」


 こんなことを考えるのはやめよう。

 私の妹はもういない。

 それは、決して変えることのできない事実だ。


「魔王がいれば魔族が虐げられるような状況にはならないでしょう。必要ならば僕が魔王に扱き使われてやりますし」

「魔族にそこまでする義理が君にあるんですか?」

「自分で決めたことだからです」


 そんな言葉に私は後ろを振り返る。

 空を飛びながら腕を組み、私ではなく遥か先の光景を見据えている彼の瞳には一切の迷いがなかった。

 その様子を見て、私は呆れたため息をついた後に苦笑する。


「ウサト君って本当におバカですね」

「いきなり罵倒されたんですけど……」


 肉体的にも精神的にも……あらゆる意味で価値観が異なりすぎている。

 これは多分、異世界人という点を抜きにしても異質なことなんだろう。

 というより、こんな人間がそこらへんにぽんぽんといてたまるか。


「……! キーラ、マントの中に」

「! はいっ!」

「? ウサト君、どうし———」


 私の身体を闇魔法のマントがくるんだかと思うと、ものすごい勢いで身体が振り回される。

 ウサト君がその場を飛んで移動したと認識した次の瞬間、私の視界には数えるのも億劫なほどの青い鳥の大群が映り込む。


「は? な、なんですかあれ……」


 飛んでいる位置的に私達に一斉に体当たりを仕掛けようとしていましたよね?

 まるで渦を巻くような形で旋回を始めた青い鳥———フーバードと色合いが似た大きな鳥の魔物は、しきりに野太い鳴き声をあげてこちらを威嚇してくる。


「フーバード? いや、少し違うな」

「変異種ってやつかもしれないわね。過酷な環境に耐えられるように進化したって感じかしら? ウサト、あいつらこっちに敵意を向けているわよ」

「ああ……分かってる」


 あんなごつくて凶暴そうな鳥がフーバードだなんて信じたくない……!!


「う、うううウサト君!? 地上に降りませんか!?」

「降りている間にまた襲われます。アレはまたこっちに襲い掛かってくるので一旦相手したほうがいいでしょう」

「どうしてそこまで冷静なんですかね!?」


 君、私より年下ですよね!?

 そういうとウサト君は空中で跳びまわるフーバードに似た青い鳥の群れを見回しながら答えてくれる。


「魔物相手に取り乱す方が危険です」

「貴方に正論を言われるとモヤモヤするのはなぜでしょうか……!!」

『は、ハンナさん、落ち着いて……』


 キーラちゃんに窘められているとまた魔物が襲い掛かってくる。

 それを余裕をもって避けた彼は、風圧で髪をぼさぼさにさせた上に上下の間隔が曖昧になっている私に話しかけてくる。


「揺れるので気を付けてください」

「え、揺れる!? これ以上に揺れるって……きゃっ!?」


 私を包んでいるマントがさらに変形し、ウサト君の背中に固定される。

 その上に風圧の影響を受けないように私を覆う箱のように変わり、かろうじて外が見えるくらいの長方形型の枠が作られる。


『『『クァァァ!!』』』

『来い!』


 そこからは上下左右、果てはさかさまに振り回される地獄。

 ネアさんが耐性の呪術を張ってはくれていたので多少はマシになっていたかもしれないが、それでもかなりの衝撃だった。

 そして思い知る。

 なぜ、ヴェルハザルを出発した時にウサト君が空を飛べるマントを着ているにも関わらず走って行ったかを。

 彼の場合、不慣れな飛行よりも地上を走った方が肉体的にも全然ブレないのだ。


「治癒爆裂波———3連」


 聞くだけで恐ろしい技名が聞こえた瞬間、ドォッ! という爆裂音と青空を照らす緑色の閃光が三度響く。

 魔物の悲鳴が響き、その羽ばたきが遠いものへとなっていく。

 数秒ほどして私を覆っていた闇魔法のマントがほどけ、もう色々と虚ろになった視界が開ける。


「空でも油断できない。まさしく、ここは魔物にとっての楽園ってとこだな」


 地上へと降りていく最中、ウサト君のそんな呟きを耳にする。

 既に周りには魔物の群れはない。

 ……ウサト君のせいではないといえど、こんな目に遭わされてはちょっとくらいの意趣返しはしたくもなる。

 私は演技関係なくぐったりと項垂れながら背中の彼に話しかける。


「ウサト君……」

「すみません。乱暴な飛行になってしま———」

「吐きそう」

「……え」

『え”』


 こういうことをするから性格悪いなどと言われてしまうんだろうなぁ。

 でも、いくらワイバーンでの飛行に慣れているとはいえ、あんな上下左右にぐわんぐわん振り回されたら仕返しもしたくなる。


「あ、え、今すぐ地上に……! た、隊から離れた場所に下ろしますからそれまで我慢できますか?」


 まあ、ウサト君の慌てふためいた姿が見れただけでも溜飲が下が———、


『う、うううウサトさん、いざとなれば私がハンナさんの名誉のためにマントに収納しますから……!』

「うぐっ……!!」


 思いもよらない形で善意によるカウンターが炸裂して、本当に胸が痛くなった。

 ウサト君だけを狙ったはずで、キーラちゃんの顔を曇らせてしまうつもりはなかったのに……!!

空中を高速移動しながら衝撃波を連続して放ってくる治癒魔法使い()

系統劣化による魔力の効率化で連続広範囲衝撃波での鎮圧が可能になったウサトでした。


今回の更新は以上となります。

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― 新着の感想 ―
[一言] >あんなごつくて凶暴そうな鳥がフーバードだなんて信じたくない……!! つまり「ガチバード」ですね分かります
[一言] >ハンナさん。あの人達、本当に人の構造しているんですか? ノノは何を言っているんでしょうね? 人の構造をしてるわけないじゃないですか。
[一言] 「揺れるので気を付けてください」 その言葉に頭をよぎったのはバスのアナウンス。 治癒タクシーならぬ治癒バス。 もしも乗っているバスがウサト(の変態機動)だったら。 ……いやでも、お年寄り…
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