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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第十五章 出張救命団 魔物の領域編
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第三百五十話

お待たせしました。

第三百五十話です。


前回から引き続きアマコ視点となります。

 魔物の領域から出た後は魔物と遭遇することも幾分少なくなってくれた。

 幾分、というだけでさすがにまだまだ遭遇はするけど、魔物の領域と比べると明らかに道中が楽になった。

 ……まあ私をおぶっているカンナギからすれば、大した変化はないのかもしれないけど。


「またここに来ることになるなんてねー」


 そしてこれといった障害もなく魔王都市ヴェルハザルへと到着した。

 今までおぶってもらっていたカンナギから降りて、都市を覆うように建てられている壁の門へと近づく。

 すると門兵らしき魔族の兵士が私とカンナギに気づき訝し気な視線を向けてくる。


「む、獣人か? 何用でここに?」


 少し……というか早く着すぎてしまった感はある。

 なにせヒノモトから出発して一日くらいしか経っていないから。

 普通なら一週間とかかかる道をカンナギがほぼ休みなしで走り切ってしまったので、私達が来るという話も通されていないということがあるかもしれない。


「私たちはヒノモト……獣人の国からやってきた使者。この都市に現在滞在している治癒魔法使い、ウサトを呼んでもらっても構わないだろうか?」

「……。えっ、あんたらはあの治癒魔法使いの知り合いなのか?」


 この反応からしてウサトは相変わらずのようだ。


「フッ、カンナギ、もうここまで予想通りだと笑えてくるよ」

「よ、余裕だね……」

「もう分かり切っていることだしね。どうせウサトのことだからブルリンを背負って街中を走り回っているんでしょ?」

「あんたら本当に知り合いなんだなぁ」


 どこか感心したように門兵さんが呟く。

 ウサトのことだから連れてきたブルリンを背負って街中を走っているのだろう。

 私たちがウサトの知り合いだと分かった門兵は、私達にウサトのいるという宿舎のある方向を教えた後に道を通してくれる。


「前来た時とは大分違うね」

「魔王が作り直していたからね。でも私があいつを見張ってた時よりずっと発展してる」


 私たちがここを攻めた時は魔王の魔術で要塞化していたから、今のリングル王国と同じような人で溢れた街並みに変わっているのはびっくりした。

 でもやっぱり注目を集めちゃってるなぁ。

 私とカンナギが獣人だということも理由の一つだろうけど……。


「カンナギは一時期ここにいたんだよね」

「ああ。魔王を見張るためにね。その一環でちょっとだけここの復興を手伝ったりしていたから私の顔を知っている人はいそうだね」


 だから敵意とかそういうのがないんだ。

 魔王を倒した一行の仲間だから多少の敵意は覚悟はしていただけにこれも予想外だ。


『あー!』


 すると通りを駆けるように歩いていた子供たちが私達を見て声を上げる。

 その視線は私、というよりカンナギに向けられている。


『怪力の姉ちゃんだー!!』

『また来てくれたんだねー! 怪力お姉ちゃん!!』


「あ、あははー……」


 頬をひくつかせて手を振り返すカンナギ。


「怪力お姉ちゃんってすごい渾名だね」

「言わないで……」


 肩を落とす彼女に苦笑しながら前を向くと、視界に見える建物の上を飛びまわる影のようなものに気づく。

 それらは俊敏な動きで建物から建物へと飛び移り、跳躍と共に私たちの目の前に着地する。


「ふんっ!!」


 着地の衝撃でなびく黒いマント。

 それを手で翻しながら立ち上がった彼———ウサトは、数秒ほど遅れて建物の屋上から地面へ着地した6人の魔族を睨みつける。

 その6人は息を乱しはしているようだけど、そのうちの4人はウサトが強面連中と呼んでいる救命団の人たちと同じような表情をしている。


「……どうやら今回の訓練の趣旨をもう一度説明しなけりゃならないようですね」

「あ、あんた空飛ぶとかずるいじゃない!!」


 気の強そうな女性魔族がウサトに食って掛かる。

 未だに声も出せずに驚いている私とカンナギに気づいていないウサトが、小さなため息を零しながら腕を組む。


「僕がこれを着ているのは用心のためです」

『ウサトさんは一度も飛んでませんよっ! ぴょーんってジャンプしてただけです!!』


 いや待って、今ウサトの着てるマントから聞き覚えのある魔族の女の子の声が聞こえてきたんだけど……!?


「は? それってつまり……?」

「純粋な脚力に決まっているでしょう。何を言っているんですか」

「あんたが何を言っているのかしらねぇ……!!」


 肩を竦めるウサトにぎりぎりと拳を握りしめる女性魔族。

 よく見ると三人の男性魔族は寡黙な様子でウサトの声に耳を傾けており、残り二人の女性魔族は一人は今にも死にそうな顔をして、もう一人は子供に見せちゃいけない顔をしていた。


「今回の訓練は障害物を想定した移動。建物から建物へと飛び移り、障害物を避けて進むことで移動における判断力を鍛えるものです」

「限度ってものがあるでしょうが!」

「魔王にも許可は取っています。それに訓練に巻き込まれる人が出ないように、今回はコーガとセンリ様に後方からのサポートをお願いしているので心配いりません」

「こいつの無駄にすごい人脈本当になんなのもう!!」


 取り乱すように頭を抱えて毒づく彼女を見て、どこか満足そうに頷くウサトはそのまま声を上げる。


「訓練再開だ! 僕に引き離された者は問答無用で訓練レベルを下げる!! それが嫌なら——」


 その場でかがみ、土煙すら立てずに跳躍した彼は足をつけた建物の壁を垂直に走り屋上へと着地する。


「ついてきて見せろ!!」


 そう言った彼に6人の魔族たちも追随するように動き出す。


「「「オオオオオ!!」」」

「誰が引き離されるかってんのよォ!」

「ひ、ひぃ!? く、訓練レベル……さ、下げたいぃ、下げたいなぁ……」

「皆さんを邪魔しているのに、訓練レベルを下げたくない……こ、この板挟みぃ……!!」


 たくさんの土煙を上げウサトを追いかけていく。


「「……」」


 予想を超える情報量が一気に視界に映り込んだので、目の前でウサトが現れてもまったく反応ができなかった。


「カンナギ」

「……なにかな」

「今日、ウサトのやることは予測不可能だってことが分かった」

「……。ソウダネ」


 ウサトなにやってるの!?

 この一か月で本当になにをしているの!?

 予想していた状況の遥か上のことを行っている彼に私はまだまだ自分の認識が甘いことを気づかされるのであった。


「でも一つ彼に確認しなくちゃならないことができた」

「なにか気づいたの?」

「ああ」


 カンナギが自身の腰に差している刀に触れる。

 彼女の顔を見てみれば、その瞳はどこか刺々しく緊張した面持ちへと変わっていた。


「彼らの中に悪魔が潜んでいる」



 ウサトたちと遭遇した場所から移動し、彼らのいるという宿舎に移動するとそこには先ほどウサトについていっていた6人と、ウサト、ネアの姿を見つける。


「あら? ウサト。アマコたちが来たわよ」

「! アマコ、ナギさん!? 早いな。もう来てくれたのか!」


 私とカンナギに気づいたウサトが私達を迎えてくれる。

 その際に休むように言い渡された6人のうち5人が地面へと倒れ伏したが、そのうちの一人……先ほど人前で見せられないような表情をしていた女性魔族が、カンナギを見てその顔から血の気を引かせた。


「げぇっ! カンナギ……!?」

「ウサト。どうしてここに悪魔がいるのかな? 場合によってはここで私が対処するけど」

「は、はわわわ……!?」


 刀に手をかけ威嚇するカンナギを見て、小鹿のように身体を震わせる魔族に化けた悪魔。

 そんな悪魔を庇うように、苦笑したウサトがカンナギの前に出る。


「ナギさん、この人は変態ですけど味方です」

「変態ですけど味方です!?」

「あ、いえ間違えました。悪魔ですけど味方なんです」


 ど、どういう言い間違いなの……?

 全然予想と違った反応に私もカンナギも状況を把握できていない。

 悪魔と聞けばよからぬことを企んでいる悪い存在だって聞いていたんだけど、ウサトは元からこの人が悪魔だって気づいていたようだ。


「……悪魔が味方? 騙しているとかは?」

「もしものことがあったら魔王の施した魔術で大変なことになるようです」

「えっ? あ、あのウサトさん? 私、全然聞いていないんですけれど? 魔王は私になんの魔術を?」

「……」

「無言の笑みは怖すぎて、すごく興奮するんですが……!!」

「ウサト、やっぱりこいつ斬り捨てた方がいいんじゃないかな?」


 親指で鍔を押し出し黒色の刃を覗かせるカンナギ。

 その威圧にさらに震え上がった悪魔がウサトの後ろに隠れながら命乞いを始める。


「わ、私、ご主人様の下僕ですぅ! 雑な扱いと同僚の悲痛に苦しむ感情が好きなだけの寄生虫より醜悪で下劣な悪魔なんですぅぅ!!」

「ヴィーナ。誰が口を挟んでいいって言ったかな?」

「ぁい……!」


 笑顔からかけ離れたドスの利いた声を叩きつけたウサトに、悪魔は頬を紅潮させながら両手で口を抑える。

 ……悪魔って皆こんな人ばっかりなの……?

 普通に引く。

 これのなにが怖いってそれを聞いているウサトがもう慣れた様子だってことだ。


「ウサトいったいこいつに何したの!?」

「はぁ……やったのはどちらかというとヒサゴさんで……僕はこの人に付き纏われているような感じです」

「え、えへへ……」

「またあのロクデナシの仕業!?」


 なんとなくだけど、この悪魔関連のことはウサトも結構苦労しているようだ。

 そのあたりの話も聞いておきたい……けれど、それよりも先に聞いておくべきことがある。


「ウサト」

「ん? なんだい、アマコ」

「キーラってどこにいるの?」

『あ、ここです』


 先ほどと変わらず黒いマントを着ているウサトにキーラの所在を尋ねると、その黒いマントから彼女の声が響いてくる。

 ……え、まさかこれってフェルムと同じ……?

 薄々嫌な予感を抱いているとウサトが軽く開いたマントの内側から、ぬるり、とキーラが出てきた。


「お久しぶりです! アマコさん!!」

「「……」」


 打算とかそういうものを一切感じさせない満面の笑みだ。

 でもフェルムやコーガの闇魔法の特性とか考えると、中々に笑えない光景である。


「ウサト君。今回の探索について相談したいことがあるのですが……見慣れないお客さんですね?」


 キーラの登場に絶句している私とカンナギに追い打ちをかけるように、近くの宿舎から紫っぽい髪をサイドテールにさせた女性魔族が出てくる。

 反応しない私とカンナギに気づいたウサトが新たに現れたその人を紹介してくれる。


「あっ、この人はハンナさん。元第三軍団長で今は補佐をしてくれている人なんだ。ハンナさん、この二人が前に僕が呼んだアマコとナギさんだ」

「はぁ、まあ、よろしくお願いします?」

「「……」」


 元第三軍団長!? 私は会ったことがなかったけどこの人がそうだったの!?

 それがどうしてウサトの補佐になっているのか全然意味が分からないよ!?

 じ、事態は予想以上に切迫しているのかもしれない。

予想外の訓練と人間関係を構築していたウサトに翻弄されまくるアマコとカンナギでした。

しかしウサトのやらかしはまだまだある模様……。


今回の更新は以上となります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 人生諦めが肝心かと。 とくにウサトに関わるならw
[良い点] 今まで読んできている人なら多少は分かってもらえると思うけど、何一つ嘘偽りなしにこの状況を作り上げたウサト、個人的にはローズより怖いと思うんだよ。 魔族も悪魔も、本来人族とは相容れない存在…
[気になる点] 感想2つ目になって申し訳ないんですが 誤字か怪しいので誤字報告ではなくこちらに その6人は息を乱しはしているようだけど、そのうちの4人はウサトが強面連中と呼んでいる救命団の人たちと同…
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