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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第十五章 出張救命団 魔物の領域編
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第三百四十五話

お待たせしました。

第三百四十五話です。

 魔王への報告を終えた後、僕は前日に魔王と話していたヒノモトのハヤテさんとナギさんへの文を事前に呼び出しておいたフーバードで送ることにした。

 訓練場の宿舎ではなく一旦、ウルルさんとアルクさん達のいる方の宿舎へと


「ここまで来てくれてありがとね」

「クォー」


 使い魔契約によりこちらの位置にまでしっかりと来てくれた鳩に似た青い鳥、フーバードを腕に留まらせながらその首元をなでつける。


「ぐるるる……!!」

「なに唸ってんの? ネア」


 肩の上でフクロウの姿でフーバードを威嚇しているネアに苦笑する。

 相変わらず変な対抗心燃やしているなぁ。


「こいつ狙ってるわ。今でも私の位置を奪おうと目を爛々とさせている……! 同じ鳥として負けてたまるもんですか!」

「君、吸血鬼だよね?」

「今の私はフクロウよ! ホッホホーゥ!!」


 フクロウは猛禽類なんだけどなぁ。

 フーバードもきょとんと首を傾げているのでネアの勝手な思い込みなのだろう。


「言っておくけどこれ以上使い魔を増やすつもりはないからね?」

「え、そうなの?」

「君一人でも大変なのに……はぁ」

「大変なのはこっちだってのは忘れてないかしらね……! 過去を振り返ってみなさい!! むしろ私の方が大変な目にあってばっかりでしょ!!」


 そう言われればそんな気がしてきた。

 ネアが使い魔になってからなんだかんだで全然問題とか起こしていないんだよな。

 むしろ今まで大変な目に遭わせてきたのは僕の方だった。

 ……。


「じゃあ、これからもよろしくね!」

「やっぱり私の負担を減らすためにヴィーナを使い魔にしない!?」

「喜んで!!」


 すごい勢いで掌を返したネアに、すぐ近くで沈黙していたヴィーナさんが食いついた。

 魔王の魔術によりある程度行動を制限された彼女は、先ほどとは打って変わって明るい表情を浮かべている。


「あー、えーと、ヴィーナさん。今のはネアの冗談なので……その、本気にしないでくださいね?」

「あ、はい……。あ、あれ? 中途半端な優しさが一番辛い?」


 ……こういう対応もありというわけか。

 ヴィーナさんへの接し方を一つ学んだところで、僕は懐から取り出した文をフーバードの胴体に巻かれたベルトのバッグに入れる。


「それがヒノモトへの手紙ね?」

「ああ、ナギさんの助力は必要だからね。あの人がいれば戦力的にも、シアのためにもなるはずだ」


 ヒサゴさん……シアのことを何とかする上でナギさんの助けは必要だ。

 もしかするとヒサゴさんに一番近しい人物である彼女なら、シアの精神を安定させることができるかもしれない。


「それじゃ、よろしく頼むよ」

「クァ!」


 元気よく鳴いたフーバードは僕の腕から肩へと飛び移り、その青色の翼で僕の頬を撫でた後にそのまま勢いよく空へと舞い上がった。


「やっぱり狙ってやがったわねぇぇぇ!? この青鳥!!」

「クァー!」


 ネアのそんな声を聞きながら空高くへと昇っていったフーバード。

 ある程度の高さまで飛び上がった青い影は、とてつもない勢いで加速して彼方へと消えて行ってしまった。


「……カンナギですか。私は会いたくないですねぇ」


 フーバードを見送ったヴィーナさんはおもむろにそんなことを呟いた。


「……貴女は当時のナギさんをご存じなんですか?」

「悪魔の間でも勇者は有名な人物でしたからね。その従者である彼女のことも危険人物として認識していましたよ」


 そりゃヒサゴさんが生きていた時代に活動していた悪魔なんだから当然か。


「カンナギといえば予知魔法と埒外の身体能力であらゆる軍勢を単独でなぎ倒す怪物ですよ」

「ウサトと同じね」

「誰が怪物だ。誰が」


 絶対怪物ってだけで僕と同じにしただろ。

 ナギさんが獣人族の中でも特異な身体能力を持っているのは彼女自身から教えてもらっていたことなので驚くことじゃない。

 ……そもそも彼女が昔にどんな戦いをしたかを知って態度を変えるほど薄情な人間じゃないつもりだ。


「おや、ウサト殿」

「あ、アルクさん。それにクルミアさんも」


 っと、アルクさんとクルミアさんが戻ってきたようだ。

 買い出しに行っていたのか食材の入った籠を持った二人がやってくる。


「最近は宿舎の方にいてばかりなので近況の報告がてらこっちに寄ってみたんです」

「なるほど、そういうことでしたか」

「ウサト殿の活躍? は私も聞いていますよー」



 派遣された立場であるアルクさん達の主な仕事は、僕とウルルさんの護衛と現在の魔族たちの生活を王国に報告すること。

 そのためにこの一か月間都市の仕事を手伝ったり、魔族の人々と交流を行っていたりしていたのだ。


「そちらの方は……確か、ウサト殿の隊の方ですよね?」

「あ、はじめまして。ウサトさんの下僕のヴィーナです」


 ここに来て僕は隣のポンコツドM悪魔を先に宿舎に帰らせなかったことを猛烈に後悔した。

 誰が誰の下僕だおい、僕は認めてないぞ。なんでやりきったような笑顔なんだ貴様。


「ヴィーナさん」

「はい!」

「ぐ、うぅ……!!」


 叱って喜ばしてしまう未来しか見えない。

 予知魔法がなくても予知できてしまう……!!

 しかも本人も分かっていっているし!


「……あー、なるほど。ウサト殿、またそういうことなんですね」

「はい……」

「伊達に一緒に旅してないわね。ウサトのことをよく理解しているわ」


 驚くべき察しの良さで状況を理解したアルクさんにネアが感心する。

 僕としてはそれだけで救われるというものだ。


「ネアと同じパターンですか?」

「言えません。……察してください」

「……。頑張ってください」

「ありがとう、ございます……!!」


 やっぱりアルクさんは頼れすぎる……!

 一瞬でヴィーナと僕の関係性を察した気遣いの鬼ことアルクさんに感動が止まらない。


「アルク君!? 一人で納得しないで!?」

「クルミア……!! これは機密情報だ……!! 迂闊に口にはできないことなんだ……!!」

「それを察したアルク君が言うのはおかしくない!? だって傍から見たら、ウサト殿が彼の下僕を名乗る魔族を作っているようにしか見えないのだけど!?」

「物事はもっと複雑なんだ……!!」

「わ、分かんないよぅ!」


 しかしなにも事情を知らないクルミアさんを混乱させてしまったようだ。

 仕方ないが、ヴィーナさんのことは一応機密扱いなのでおいそれと話すことはできない。

 だってこの人目下の敵対勢力の悪魔さんなのだから……!


「クルミアさん。ヴィーナさんは色々な面でやばい人なので、この人の言動は真に受けない方がいいです」

「え、スズネ様みたいな感じですか?」

「先輩の方が可愛げがあります」

「……」


 クルミアさんがものすごい危険人物を見るような目でヴィーナさんを見る。

 その視線に頬を染めたヴィーナさんに、彼女も察したような表情をする。


「その、頑張ってください」

「ありがとうございます……!!」


 またしても応援されてしまった。

 先輩の従者として書状渡しの旅をしたクルミアさんだからこそ、彼女の破天荒さを理解しているのだ。


「頑張ってくださいね。ご主人様」

「ネア。もう一度魔王のところに戻ってくる」

「うん? なにか忘れ物でもした?」


 いいや、今この時決めたことがあったんだ。


「ヴィーナさんを出したりしまったりできるスクロールを作れないか聞いてみるよ」

「ごめんなさい調子に乗りました! ふ、封印されるのは私でも嫌なんです!!」


 表面だけ笑顔を浮かべた僕の顔を見てサーっと顔を青ざめさせたヴィーナさんは必死に僕を止めにかかる。

 冗談……冗談ではあるけど最悪そうする選択肢があることは理解してもらおう。



 一応今日は休みでもあるので用事を済ませた後はヴィーナさんには宿舎に戻ってもらった。

 しかし、昨日の今日で事態が大きく動いたなとは思う。

 魔王の力にシア、そして悪魔と判明したヴィーナさん。

 これからするべきことが減るどころか山積みになってしまっていることに気が滅入りそうになるが、それら全部ひっくるめて自分でやると決めたことだ。


「ネア、君も宿舎に戻っていいよ」

「ここで手に入れた貴重な本があることだし、今日はそれを読みふけるとするわ」

「それって僕も読める?」

「後で貸してあげる。貴方も無茶ばかりしてないでたまには休みなさいよねー」


 フクロウのまま宿舎の二階の開いた窓へと入っていくネアを見送った僕は、その場で背伸びをして軽く深呼吸をする。


「……少し街を歩くか」


 いつもは走っているわけだし、たまには歩いて都市の街並みを見るのも悪くないかな。

 一旦部屋に戻って魔王の元へ向かう際に着ていた団服を壁にかけた僕は、そのまま街へと出る。


『おわっ』

『歩いてる!?』

『はじめて歩いてるの見た……』


 と、いった感じですれ違う魔族の方々に滅茶苦茶驚かれてしまっているわけだが、幸い敵意とかは向けられるようなことはないようだ。

 ……この一か月で目に見えて豊かになっていく建物と活気。

 魔王との最後の戦いの結末が違っていれば、この景色がなかったと考えるとなんとも薄ら寒い気分になってしまうな。


「誰かー! 少し手を貸してくれないかー!」

「うん?」


 感慨深い気持ちになりながら街を歩いていると、そんな声が聞こえた。

 見れば物資のようなものが積まれた荷車が、地面にできた溝に嵌って動けなくなってしまっているようだ。

 そんな馬車の近くで馬の手綱を持っている魔族の男性ともう一人、手に書類を持ったグレフさんの姿を見つける。


「グレフさん!」

「ん? おお、ウサトか」

「車輪が溝に嵌ってしまったんですか?」

「ああ……。食料とか諸々のもんが積まれた物資なんだがなぁ。急いで届けに行かせたいんだが、見事に嵌っちまってな」


 かなり大きな荷車と物資からしてそれなりに大きな土地に届けるものなのだろう。

 ……よし。

 とりあえず車輪が嵌っている側の縁を両手で持つ。


「僕が持ち上げますから馬を進めてください」

「え!? で、できるのか!? 相当な重さだと思うんだが!?」

「せーのっ!!」


 両腕に力を籠め、後輪を一気に持ち上げる。

 ぐらりと揺れる積み荷が地面に落ちないように気をつけながら、手綱を握っている人に視線を向けるとあんぐりと口を開けたまま我に返りながら馬を前に進ませてくれる。


『人呼んできたぞーって、あれ……?』

『嘘、一人で持ち上げてる?』

『人間ってあんな怪力なのか……知らなかった』


 この物資を待ってくれている人たちのために頑張らないとな……!

 溝を超えて平坦な道に車輪を下ろした僕は今一度積み荷が崩れていないことを確認してからグレフさんへと振り返る。


「これで届けられますね」

「……なんというべきか……何度驚かないと心に決めても君はその上を軽く上回ってくるな」

「こう見えても鍛えてますからね」


 今更荷車程度の重さに手古摺る僕ではない。

 伊達にブルリン背負って走ってないからね。


「は、はは、ありがとな。助かった」


 改めて積み荷を見たグレフさんは荷車を見送ってからもう一度こちらを見る。


「今日はどうしたんだ? 珍しく歩いているじゃないか」

「今日は訓練は休みなので、僕も街を歩いてみようかなと思いまして」

「そういえば、キーラも休みだったな。家で暇そうに魔力で遊んでいたよ」


 魔力回しの練習をしていたのかな?

 自然と仕事場へ戻るであろうグレフさんと並んで歩きながら、互いの近況について話し合う。


「ここでの生活はどうだ?」

「僕がこれまで見てきた街と変わらない、人で溢れたいいところだと思います」

「ははっ、お前がそう言ってくれるんならその通りなんだろう」


 場所も種族が違えど、人が集まれば出来上がる街の形は同じだと思う。

 ここも間違いなく普通の人間と変わらない人たちが住んでいる街だ。


「魔王軍が負けて一時はどうなるかとばかり思っていたが……いい方向に向かってくれるようでよかった」

「正直、僕も安心しています」


 本音を言うなら今の時点でここまで援助がされるとは思いもしなかった。

 先日の会談で他国からのある程度の理解も得られたからこその話とも言えるけど、それ以外に会談の最中に乱入した悪魔が魔族以上の明確な脅威として他国の人々に認識されたから、という理由もあるのだろう。

 亡骸を弄ぶ悪魔どもは許せないけど、その点については奴らが乱入してきてよかったという複雑な気持ちにかられてしまうな……。


「俺もそろそろどこかに定住しようと考えていたからな」

「キーラ達のためにですか?」

「そう、だな。……いや、キーラはすぐに独り立ちしそうだから、ロゼとラムだな。あの子たちはまだ幼い」

「独り立ち……にはまだ早いんじゃないですか?」


 キーラはナックと同じ年頃のはずだけど。


「俺はあくまで父親代わりだからな。あの子がやりたいことを見つけたらそれを応援してやるまでさ」

「やりたいこと……ですか」

「ああ、だから———」

『グレフー!』


 と、そこでグレフさんを呼ぶ声が頭上から聞こえてくる。

 その声の方を見ればちょうどこちらに黒いマントを纏ったキーラが空を飛んでやってくる。

 彼女はグレフさんの隣にいる僕に気づくと、笑顔を浮かべて手を振ってくる。


「あっ、ウサトさん!」

「昨日振りだね」


 僕も手を軽く上げて挨拶を返すと、地面に降りたキーラが自身の闇魔法のマントから四角い箱のようなものを取り出す。


「グレフ、お弁当忘れてたよ」

「お、悪いな」


 どうやらグレフさんの弁当を届けにきてくれたようだ。


「……そろそろ俺も仕事に戻らなくちゃならないな。ウサト、さっきはありがとな」

「いえ、力仕事が必要な時はいつでも頼ってください。僕にできる範囲ならなんとかしますから」

「お前なら腕力だけでなんでもできそうだな。はは」


 そう冗談を口にした彼は僕とキーラから離れて、職場かと近くの建物へと入る。


「それじゃ、行きましょっか」

「ん? 君は戻らないの?」

「え?」

「え?」


 なぜ首を傾げられたのか。

 まあ、このまま流れで街を散策するのも全然構わないけど。


「あ、そういえばですね」

「ん?」

「ここに来るまでにコーガさんとセンリ様を見かけましたよ」


 コーガとセンリ様が?

 今となっては意外な組み合わせでもないけどまた鬼ごっこでもしているのだろうか?


「魔法を用いた模擬戦のようなことをしているようです」

「へぇ、二人が」

「近づくと危なそうだったので遠目でしたけど」

「近づくと危なそうだった……?」


 いや待て、それって周りとか大丈夫か?

 どちらも戦闘に集中すると周りが見えなくなる性格だし、一応確認しにいくべきじゃないか?


「キーラ、案内してもらってもいいかな?」

「はい!」


 ものすごく明るい返事を返したキーラに少し驚きながら、今度はコーガとセンリ様が激闘を繰り広げているという場所へと僕は歩を進めるのであった。

 ……それはともかくとして、センリ様の従者のヘレナさんとか大丈夫なのだろうか?

 胃痛で倒れていたりしないだろうか?

魔王都市の日常回 (のようなもの)

ウサトに慣れているのですぐに察してくれるアルクさんでした。


次回の更新は明日の18時を予定しております。

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― 新着の感想 ―
[一言] ヴィーナ、放置プレイはダメでしたかw まあ「しまったり」じゃなくて「出したりしまったり」って言ってるところに、うさとの優しさがありますね。
[良い点] アレクさんの察しの良さ。 先輩基準の分かりやすさ。 ウサトが地面を歩いていること。 [気になる点] ヴィーナは確かに先輩よりやばいけど、やばくないと思う。 [一言] 先輩が恋しい。
[一言] 「誰が怪物だ。誰が」 一騎当千の戦闘力を素で持ってて、戦闘開始すれば3~4人で合体していて全員の能力を使える上、自由に分裂も出来る…もう怪物通り越して戦略兵器…
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