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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第十四章 出張救命団 魔王領編
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第三百四十一話

二日目、二話目の更新となります。


 演習を切り上げ、すぐに都市へと戻った僕はすぐに魔王の元へ向かった。

 魔王的にもヒサゴさん絡みの事件は看過できることではないのか、最初にシエルさんに用件を伝えた後すぐに僕は魔王のいる執務室へと通された。


「……想定していなかった訳ではないが、あのバカは余計なことをしでかしてくれたようだ」


 シアについて聞いた魔王は、彼にしては珍しい苦々しい表情を浮かべる。


「ヒサゴの記憶と魔法を植え付けられた娘か。ミアラークの時点で怪しいとは思っていたが……よくもまあ、お前はそういうのを引き寄せる」

「……怪しいとは思っていたんですか?」

「? お前が関わる人間がまともだったことがあるのか?」


 落ち着け、落ち着け僕。

 今魔王に殴りかかっても意味はない……!


「私の知らんところでなにか起きる前に、お前が率先して巻き込まれた方が対処もしやすくなる。そういうお前の因果も含めて買っているのだ」


 そんな評価のされ方全然嬉しくないです……。

 げんなりとしつつ、僕は懐にしまっていた水晶を魔王の前のテーブルの上に置く。


「これが封印されていたという貴方の力です」

「ああ、よくやってくれたな。私を除き、あの毒の領域に入って無事なのは治癒魔法を持つお前だけだからな」

「それならネロさんでもよかったのでは? 彼なら毒の瘴気を吹き飛ばせるでしょうし」

「奴は強すぎるからな。我々魔族の立場を考えると不用意に動かすべきじゃない」


 そういうことか。確かにネロさんは強すぎるし、人間側が不審に思ってもおかしくはない。

 魔王の力の断片が閉じ込められた水晶を手に取った魔王は、特に感慨深く見るわけでもなく魔術で作り出した光の輪の中にそれを放り投げる。


「自分の力への未練とかないんですか?」

「ない。これ以上の力は混乱を招くだけだからな。私の力は、ファルガと私で厳重に管理すると取り決めている」

「そういうことなら僕は何もいいません」


 ファルガ様とこの人が言うならそうなのだろう。

 そもそも今の時点でも魔王は十分に強すぎるってのもある。


「現在、貴方の力は僕が確保したものが一つ。シアが奪い取った一つ、悪魔が確保した一つと報告しましたが……魔王領にある力は全て回収されたと考えてもいいのですか?」

「ふむ。厳密には違う」

「違う……?」


 でもアウルさんは確かにシアと悪魔側が確保したって……。


「シア・ガーミオが保有していることは間違っていないが、悪魔側に関しては異なる」

「それは、どういうことでしょうか? 悪魔は貴方の力を利用するか、取り込んでいるものと思っていたのですが……」

「悪魔ごときが私の力を確保した? いいや、それは違う。正しくは持て余しているのだ」


 持て余している?


「もし、悪魔が私の力をその身に吸収したとしても内側から食い破られるのが関の山だ」

「貴方の力、物騒すぎません……?」

「私だぞ?」


 そんな誇らしげに言わなくても。

 これ以上にない証明すぎるのもそうなんですが。


「残り一つ、悪魔どもが持て余している断片の在り処は分かっている」


 分かっているっていうなら既に場所が判明しているってことだよな。

 すぐに回収しに行っていないということは毒の領域と同じようにそう簡単に入れない場所。

 ……だとすれば。


「まさか、魔物の領域ですか?」

「その通り。それを悪魔から取り戻せば、魔王領に影響を及ぼしている私の力の断片は全て取り除かれるはずだ」

「それって責任重大すぎませんか?」


 呆れながらそう言うと、魔王はにやりと笑みを浮かべる。


「私にあれだけの啖呵を切ったのだ。それくらいはしてもらわなければな」

「はぁ、頑張らさせていただきますよ……」


 ここで断ったりはしないけれども。

 まあ、これも信頼されているって言えるのかな。


「引き続きお前には魔物の領域へ向かうための準備を行ってもらうわけだが、恐らくヒサゴの記憶を持つ娘、シア・ガーミオとも遭遇する確率が高い」

「やっぱり彼女は貴方の力を求めているということですか?」

「どういう考えかは知らんがな。いっそのこと消滅させて面倒を省いてくれればこちらも助かるのだが……どうにも、その娘の周りはきな臭くも思える」

「正直、僕も同じ意見です」


 不幸な事故、だとすれば何も言えないのだけど、シアの状況はどこか仕組まれたような違和感があるのだ。

 それがなんなのかは分からない。

 だけどもし、彼女の身に起こったことが偶然でもなく何者かの思惑の上で成り立ったことなら……僕はそれを企てた奴に怒りを向けることになる。


「シアの故郷はカームへリオ、らしいです」

「ならば猶更だな。勇者信仰という馬鹿げたことをしている輩のいる国だ。なにがあってもおかしくはない」


 魔王領から戻ったらカームへリオに行ってみるべきか?

 シアを助けられたら彼女を家族の元へ送っていくことになるかもしれないし。

 ……いいや、今は魔物の領域のことについて集中しよう。


「当然、ファルガにもこの情報を共有させる。それと、ウサト」

「はい?」

「獣人の国と連絡を交わすことは可能か?」


 魔王の質問に僕は頷く。


「はい。獣人族の長、ハヤテさんのフーバードと使い魔契約を済ませていますし、呼べばすぐに来ると思います」

「お前本当に便利だな」

「あ、でもあくまで公的なものではなく、友人同士という個人間のものなのでそこは気を付けてくださいね?」

「……いや、なにも言うまい」


 なぜか呆れられてしまった。

 釈然としない気持ちになっている僕に魔王は続けて話しかけてくる。


「長を通してカンナギをこちらに呼び出せ。シア・ガーミオの件を伝えてな」

「……分かりました」


 ヒサゴさんと一番近しい人物だったナギさんなら、不安定な状態のシアを助けられるかもしれないってことか。

 それに、ナギさんなら魔物の領域を抜けることくらい訳ないだろうし、なにより戦力として問題はない。


「シアは、大丈夫なんでしょうか?」

「今のところは心配はいらないだろうな。記憶は記憶でしかない。自我が不安定にはなる心配はあるが、シア・ガーミオがヒサゴ本人になる可能性は低い」


 でも僕はその不安定になった彼女が心配だ。

 元々、彼女は戦いすら知らない女の子だったんだ。できることなら早く、彼女の置かれている状況をなんとかしたい。

 そこまで考えて僕は軽くため息をつく。


「随分と疲れているようだな」

「さすがに気を張り詰めすぎましたからね。悪魔とアウルさん達とも戦って魔力も結構消費してしまいましたし」

「こちらとしてはお前の大立ち回りを聞いて笑いを堪えるのに必死だったぞ?」

「でしょうね……」


 報告している間にやにやしてたもんな、この人。

 とりあえず帰ったらシャワーでも浴びて寝よう。

 部下たちの疲労も相当なものだから明日の訓練は休みにして……っと、そうだ。


「魔王、闇魔法使いについて調べてほしいことがあるんですけど」

「養子でも取るつもりか?」

「いや、違いますから……! 僕が戦った双子の闇魔法使いについてです」

「ああ、そのことか」


 どうしてこの流れで僕が養子をとることになっているんだ。

 まさか、前の闇魔法使いの子供を預けるって話が陰で動いている……?


「もしかするとあの双子以外にも亡骸を利用されている人がいるかもしれません。闇魔法使いに限った話ではありませんが……」

「確かにな。しかし生前が私が封印から目覚める前の場合もある。真偽は不確定なものになってしまうが一応調べさせておこう」


 事前にある程度情報が分かっていれば対策もしやすいからな。

 あの双子の闇魔法は、うまく使われると厄介だった。


「ウサト」

「はい?」


 一通り話を終えたのか、腕を組み背もたれに背を預けた魔王が笑みを浮かべて僕を見る。


「お前が訓練を施している魔族の中に異物が混じっていることには気づいているのだろう?」

「……貴方も気付いていたなら言ってくださいよ」

「敵意もないのでな。泳がせていた」


 魔王が言っている異物、というのはヴィーナさんのことだろう。


「なんとなく正体については察しがついてます。……といっても、完全に気づいたのは演習が終わるタイミングでしたけどね」


 魔力感知を習得して見せた彼女はそれを使い僕の位置を把握していた。

 それも僕よりも広範囲に魔力を広げるほどにだ。

 だけど、僕が彼女の魔力の領域に足を踏み入れると同時に———悪魔の持つ人を惑わせる魔力と似た気配を感じ取ったのだ。


「元第一軍団に所属していた者の中にヴィーナという名を持つ魔族がいたが、その者は戦後に都市を離れている。……なによりこのヴィーナは男だ。間違いなく、本人ではないだろうな」

「捕まえた方がいいですか?」

「場合によってはな。大方偵察のために潜り込んだのだろうが……」


 思い悩むように顎に手を添える魔王。


「悪魔と言う種族は、互いに嫌いあっているからな。まず碌な情報を持ち合わせていないだろう」


 僕がカイラを盾にした時も、助けに来ようとする素振りすらみせなかったもんな。

 互いに利用しようとしか考えていないのかもしれない。


「ふむ……まずはお前に任せるとしよう」

「えぇ……」

「自らお前の部下になりにきたということはそれなりの意味があるということだ。内容次第では、こちらに引き込める可能性があるかもしれんぞ?」

「そんな簡単にいきますかね……」

「そういうのは得意だろ?」


 なんだろう、ものすごい誤解を魔王から受けているような気がする。

 でも……仕方ない。

 とりあえず休息を挟んだ後に、ヴィーナさんを呼び出して彼女の真意を確かめてみるか。


「はぁ、やることがいっぱいだ……」


 魔物の領域の探索。

 魔王の欠片の回収。

 シアを助け出すこと。

 そして、ついさっき増えたヴィーナさんへの接触。

 どれも大変だろうけど、解決していくしかない。

なんとなくヴィーナが厄介そうな性格をしていることに気づいていた魔王。

面倒そうなので、とりあえずウサトに丸投げしました。


第14章は以上となります。

閑話をいくつか更新した後に第15章へと移ります。


今回の更新は以上となります。

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― 新着の感想 ―
救命団式訓練法やウサトやローズのおかげで恐怖の感情がうまれて悪魔たちでさえも救えてしまうのか…?
[一言] 使い魔増えてネアの地位がピンチも面白いかも?w
[一言] >「? お前が関わる人間がまともだったことがあるのか?」 魔王様、間違ってますね。 正しくは「お前が関わる存在がまともだったことがあるのか?」ですよ。
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