第三百三十九話
二日目、二話目の更新となります。
今回はキーラ視点となります。
ウサトさんが足止めをしている間に私はシアさんを連れてコーガさん達のいる野営へと向かっていた。
ウサトさんを1人残してきてしまった不安はある。
正直、一緒に戦いたい気持ちはあったけれど、私から見ても様子がおかしいシアさんを戦わせたくないという彼の意図は分かっていた。
「……シアさん、一旦休憩します」
「だ、大丈夫?」
「はい。ちょっと疲れただけですから」
いつも一人で飛んでいたので人一人抱えて飛ぶのはちょっときつい。
ある程度の距離を飛んだことを確認しながら、私は一旦森の中へと降りる。
「ウサトさんが私の魔法を使っている時はこうはならないんですけどね……」
多分、これも私の闇魔法としての特性。
装着者の力をマントにもある程度反映させているから、ウサトさんが使っている時と私が使っている時に色々と違いがあるんだろう。
「ウサトは、一人で足止めを……」
「あの人ならきっと切り抜けます」
一か八かで私たちを逃がしたということはなく、そうすることが最善だと判断したからウサトさんは行動に移したんだ。
例え相手が沢山いたとしてもあの人ならなんとかしてみせるはず。
「少し休憩したらまた飛びます。そのままコーガさん達……味方と合流したら、ウサトさんの援護に向かいます」
「ウサトの、仲間」
そう呟いたシアさんはおもむろに顔を顰めると頭に手を当てる。
……飛んでいる間にも同じような反応をしていたけど、ちょっと心配だ。
「っ、う……」
「シ、シアさん……?」
「ご、ごめん。ちょっとあいつらと遭遇してから眩暈が……」
私はまだシアさんのことをよく知らない。
現状、過酷な境遇に置かれているということは分かるけれど、どうすればいいか、なにをしてあげればいいのか全然分からない。
「合流すればウサトさんと同じ治癒魔法使いさんがいますから、それまでの辛抱です……!」
ウルルさんならなんとかできるかもしれない。
でも、シアさんは頭を押さえたまま苦し気な声を発したままだ。
「で、でも、向かっている先にも悪魔の気配が……」
「え! 先回りされているということですか!?」
「い、いや、あの悪魔たちの気配はまだ後ろにあるから……うっ」
もしかしてこれは、私の時と同じようになにか精神的な影響を受けているのか?
もう一人のカンナギさんは邪竜という恐ろしいドラゴンのせいで精神が不安定だったというけど……シアさんも……。
とにかく、まずはこの人を落ちつけた方がいいかもしれない。
「ゆっくりと、息をしてください。大丈夫ですから……」
「……っ」
「私も同じような経験をしたことがあるから分かります」
その場に膝をついてうずくまってしまった彼女にゆっくりと近づき、背中をさする。
すると彼女の肩にかけていたカバンからなにか、光を放つ球体のようなものが転がり出てくる。
私と同じくそれに気づいた彼女は、震える手で地面に転がったソレを拾い上げる。
「な、なんでオレ、これを……」
「シアさん、それ……」
暖かな光を放つ球体。
その中には見覚えのある黒い渦のようなものが存在している。
———私は、先ほどウサトさんから渡された魔王様のお力が入っているという水晶を取り出し、見比べてみる。
入っている器こそ違うけれど、その中身の黒い力はそっくりだ。
「もしかしてそれって魔王様の……?」
「し、知らない! こんなものを持っているはずがない!! だってこれは———」
動揺を露にさせるシアさん。
演技や嘘などではない、本当の困惑を見せる彼女に一層に疑問が深まる。
これは……ウサトさんを待った方がいいのかな……。
このままシアさんを連れて合流するのはすごくマズい気がする……。
「いや違う、わたしは、オレは……そんなこと、でも……ぁ、あ……」
球体をジッと見つめて動きを止めた?
声もなく、一瞬虚ろとすら思える瞳に光を戻した彼女は声を震わせたまま、後ろに後ずさる。
「オレだった……」
「えっ……?」
「オレが、これを悪魔から奪い取った……? 自分でやったのに、どうして忘れていたんだ……? は、はは? とうとう頭がおかしくなったのか、オレは? もう、いやだ……」
なにが起こっているか全然よく分からない、けれど。
カンナギさんの時と状況が似ている。
私を諭し、遺跡へと招かせたもう一人のカンナギさんはウサトさんに持ち掛けた話が断られたその後———支離滅裂な言動の末に、彼と争うことになった。
今のシアさんは、その時のカンナギさんの取り乱し方にすごく近い。
「……今、そっちに行きますね?」
だからといってこのまま放っておいていいはずがない。
自分も同じ経験しているから分かる。
一人っきりになるのは、すごく怖いし辛い。
「ち、近づくな!」
「っ」
ゆっくりと歩み寄ろうとする私に、シアさんが強い口調で止めてくる。
腰の剣に伸びようとした右手を、自身の左手で無理やり抑え込んだ彼女を見て私も足を止めてしまう。
「ごめん……君を、傷つけたくないんだ……! 気を抜くと君の持っているあいつの力を無理やりにでも奪おうとしちゃうから……!!」
魔王様の力を持っているから、反応してしまっている……?
「オレは、ここから離れる。君は早く安全な場所に行くんだ……」
「シアさんは……どうするんですか?」
「……オレは分からないけど、君たちに迷惑をかけないようにここを離れる」
このままこの人を放っておくのは駄目だ。
それだけは絶対に駄目だ。
でも私にはこの人を止めることはできない……けど、なにもできないわけじゃない。
「シアさん」
「君になにかしちゃう前に、オレは……」
「止めないのでちょっと待ってください」
「……へ?」
見比べるために取り出した魔王様の力の断片を見る。
水晶に閉じ込められたそれを軽く握りしめた私は、後ろへ振り返ると同時に思い切り放り投げる。
「えいっ!!」
「えええええ!?」
「……よし」
とりあえず目に毒な魔王様の力の断片の入った水晶を目の届かない場所に放り投げ、彼女に近づく。
シアさんは飛んで行った水晶と私の顔を困惑しながら交互に見ている。
「え? え? え?」
困惑する彼女の前に膝をついた私は、マントから予備の食料と水の入った水筒を取り出し、事前に運ぶように言われていた大きめのリュックにそれを詰める。
「これを持って行ってください。食料と水が入っています」
「で、でも……」
「私には貴女を止められません。苦しんでいる貴女にできることは、これくらいしかありませんから……」
お腹を空かせていたし、なんなら服もボロボロだ。
いざという時のために持っていた毛布と外套も……どうせ、この後は都市に帰ることになるんだから詰め込めるものは全部詰め込んでおこう。
「ありがとう、キーラ。……ウサトに、ごめん、って伝えてほしい……」
「そんな今生の別れみたいなことを言ったら、ウサトさんが怒りますよ?」
そう話しかけながら、シアさんに押し付けるように渡す。
両手で抱えるようにリュックを受け取った彼女は、ようやく笑みをこぼしてくれた。
「きっと、ウサトさんは貴女を助けにいきますから」
「……うん」
「諦めないでください。多分……ううん、絶対にあの人はあきらめませんから」
「……ありがとう」
立ち上がったシアさんは、そのままリュックを抱えたまま森の奥へと消えていく。
彼女の姿を見送ってから、軽く深呼吸をした私は先ほど放り投げた魔王様のお力が内包された水晶を拾い上げる。
「しっかりしろ、私……」
シアさんのことは心配だけど、できることはやったはず。
本当はもっといい方法があったかもしれないけど……反省するのは後にしよう。
「まずはコーガさん達と合流しなくちゃ!!」
まだウサトさんは戦っているかもしれない!!
もしかして……いや万が一、ピンチに陥っているかもしれない!!
そんな状況に陥った彼を助けるために私は一刻も早くコーガさん達と合流しなくちゃならない!!
「そうと決まればすぐに———」
「よっし追いついた!!」
「きゃあああああああ!?」
飛び上がろうとした瞬間、背後から茂みを突き破って現れたウサトさんに悲鳴を上げる。
え、えええええ!?
「ウサトさん!? 追手は!?」
「大丈夫! 治癒魔法で吹っ飛ばしたから追ってこないと思う!!」
「治癒魔法で吹っ飛ばす!?」
い、いや、この人が治癒魔法で相手を吹っ飛ばすのはなんらおかしな話じゃない。
問題は11人の敵に囲まれても尚、目立った怪我もないところだ。
というより普通に走って追いつかれてしまったんだけど……冷静に考えてもとんでもないことをしているのでは……?
「悪魔が化けた偽物……じゃないですね。ええ、ありえません」
「なんですぐに納得されたの……?」
治癒魔法で相手を吹っ飛ばすなんて表現、この人以外にするはずがない。
そういう意味でも目の前のウサトさんは、間違いなく本物と言ってもいいだろう。
でも……。
「ちょっとだけ、アマコさん達の気持ちが分かったような気がします」
「……フッ」
「笑いごとじゃないですよね?」
「ハイ……」
別に責めるつもりはないのに謝られてしまった。
落ち込んでしまったウサトさんに、いけない、と思い誤魔化しながら話題を逸らす。
「と、とにかく無事に合流出来てよかったですっ!!」
「君も無事でよかった。シアは……間に合わなかったか……」
「……はい」
ウサトさんも察してはいたのか、周りにシアさんの姿がいないことで深刻な表情を浮かべる。
とりあえずマントに中に潜り込み、ウサトさんに取り付いた私はシアさんとのさっきまでのやり取りを話す。
「彼女は無意識に魔王の力の断片を持っていたってことか……」
『恐らくは』
「……訓練は中止だな」
空を飛びながら無言で聞いていたウサトさんは、小さくそう呟いた。
「到着次第、止めに行く。今は日の出前だけど……」
『急を要する事態なのは分かっています。……最悪、私はマントの中で睡眠をとるので心配いらないです』
「そこもフェルムの魔法と似ているんだな……」
フェルムさんの同化も同じことが?
……むむむ。
投げられたり落とされたりと、雑に扱われる魔王球。
離れ離れになる前にシアに色々持たせたキーラでした。
今回の更新は以上となります。




