第三百三十八話
お待たせしました。
今回はアウル視点でお送りします。
死んで目が覚めたらなんか色々終わってた。
死ぬ前は始まると思っていた魔王軍との戦いが終わっていたし、なんなら結構いい感じに終戦していて普通にびっくりした。
なにより衝撃的だったのが、あのリングル王国の鬼のように恐ろしくて強い鬼の大隊長、ローズが救命団という組織を作り、なおかつあの人と同じような治癒魔法使いを育てたってことだ。
それを聞いた時、最初に疑ったのはその教えを受けた少年の正気の有無である。
あの理不尽大魔王に本気で訓練され、なおかつ認められる水準まで訓練されたその子が正気を保っているか疑問でしかなかったのだ。
「治癒感知に死角無し、むぅん!!」
……いや、本当にどうやったらあんな人間が出来上がるか疑問でしかないんですけど。
いざ目の当たりにしてみれば、隊長のお弟子さんはとんでもない人物だった。
「本当に、とんでもないなぁ……」
彼を取り囲むように動きながら自嘲気味にそう呟く。
死んで生き返ってしまった私は何も変わってなんかいない……とまでは言わない。
心のどこかで私たちを忘れ新たな組織を作り上げた隊長を憎んでいる感情もある。
———まあ、それは私を蘇らせた魔術の副作用で、子供が抱く癇癪にも似た苛立ちに近いものだ。
むしろ、あの隊長が私たちのことを忘れるはずがない。
なのでぶっちゃけ私は正気……のはずだ。
本当なら今すぐにでもウサト君の味方につきたいけれど、この身体を縛る魔術がそれを許そうとしない。
「死体共、もっと働け!!」
怒り狂ったカイラの叫びを聞き流し、ため息をつく。
魔王の力の断片を持った子がこの場を逃げてしまった時点で、悪魔の目論見は失敗している。
本当はすぐさま追跡するべきだったんだ。
ウサト君が足止めに徹するという悪魔側にとって最悪の事態になる前に。
「帰りたいなー」
弱音を吐いているとカイラと双子の魔族が何かをしようとしている。
どうやら闇魔法の糸でウサト君を攻撃するつもりのようだ。
「行け!」
双子の魔族さんの糸がウサト君の胴体に巻き付くと同時にその胴体を両断———したように見せる。
しかし違う。
糸が切り裂いたのはウサト君がその場に残した治癒魔法の残滓。身にまとった治癒魔法を抜け殻のようにその場に置き、自身は足に集めた魔力で空へと跳躍したんだ。
その瞬間を見なかったカイラはウサト君を形どった魔力を本体と間違えた。
「ッ、残像!?」
「治癒魔法だ」
急停止と同時に空へと高く飛び出したウサト君の蹴りがカイラの脳天に直撃する。
そのまま地面に叩きつけられようとするカイラを私の衝撃魔法で助けながら、追撃の拳を叩きつけようとするウサト君に剣を叩きつける。
「その技、前は使ってなかったよねぇ!!」
「今、思いつきました。名付けて治癒残像拳です……!!」
「えぇぇぇぇ……」
今思いついたものを即実戦で使って来たの!?
彼自身の治癒魔法にはなにも脅威がないというのに、彼自身の魔力操作と尋常じゃない身体能力がこの11対1という状況を拮抗にまで持ち込んでいる。
「どけ!! 死人!!」
「……チッ」
舌打ちをしながら後ろへ下がるとウサト君のいる場所に魔力弾が殺到する。
悪魔特有の人を惑わす魔力による攻撃だが彼には効いていない。……というより当たっていないというのが正しいか。
私から視線を外さず、ウサト君は空から落とされる魔力弾を走って回避する。
「……ん?」
不規則な加速と減速を繰り返す不思議な移動を行う彼に首を傾げる。
しかし次の瞬間、走っている彼から先ほどと同じ緑の粒子で構成された残像が放たれ、その姿がブレて分身しているような挙動へと変化する。
「えー、応用するの早すぎー……」
動きに緩急をつけ、動きを見切られなくさせたってことか。
頭上から魔法を放つカイラにはウサト君の姿が魔力と重なって狙いを定めるどころじゃないはずだ。
あっ、また魔力の残像を撃ち抜いた。
「戦闘経験が異質すぎる……」
普通に魔物相手に戦ったんじゃここまで異様な戦い方をしないだろう。
———常に進化を求められた戦場で成長してきた。
———勝てるかどうか分からない相手と戦ってきた。
———そして、その全てを乗り越えここまで成長してみせた。
彼は、一年未満という実戦経験の少なさを切り抜けてきた修羅場の数々で凌駕しているんだ。
「……ははっ、まあ、あの人が師匠なんだからそりゃ当然か」
口に出してから少しだけ寂しくなる。
……気を取り直して、ちゃんと戦いますか。
「カイラさーん! 貴方じゃ攻撃当てられないので動きを狭める方向でお願いしまーす!!」
「死人如きが指図するな!!」
じゃあ、降りて戦ってくださいってんだよ。
しかし、悲しいことに彼の変則的すぎる動きについていけるのは私くらいだろう。
衝撃魔法を応用、加速を繰り返して動き回る彼へと追いすがる。
「やっぱり貴女はついてきますよね。同じ技を使っているんですし」
「いやだから君のそれはなんか違いますからっ!!」
以前戦った時は全身から魔力の暴発を繰り返すという異常なことをしていたけど、今はそれも右腕の籠手だけで行われている。
その代わり目立つのは彼の足に見える魔力。
ゴムのようなそれを踏みしめ、反発する弾力で加速し続ける彼に頬が引き攣る。
「もう逃げちゃっていいんじゃないの! 私としてはもう終わりでいいんじゃないかって思うんですけど!」
「もう少し時間を稼がせてもらいますよ」
「双子!! やれ!!」
「!」
いつの間にかウサト君と私を挟み込む位置に移動した双子の魔族が、大きく広げた手からいくつもの糸を伸ばす。
それらは私たちの周囲を取り囲むように伸び———って、これ私も巻き込まれるやつ!!
「まあ、私死体だから関係ないんですけどね!」
周りの糸に構わずウサト君へと攻撃を仕掛ける。
しかし彼は足を止めずに籠手に包まれた腕をぶぅんッ! という音を響かせながら大きく振り回し———目視できるかも怪しいほどの細い糸の束を掴みとる。
「同じ技が僕に通用すると思ったら大間違いだぞ!!」
「「!!?」」
「ぬぅん!!」
双子の魔族が腕を引っ張られるようにウサト君に引き寄せられる。
意思のない亡骸のはずなのにその表情を面白いくらいに歪めた二人を、そのまま空にいるカイラめがけてぶん投げた。
「———ッはぁ!? おぐっ!? 糸が!?」
カイラはそのまま双子が作り出した闇魔法の糸でからめとられ、呆気なくまた地面へと落ちていく。
あーあ、言わんこっちゃない。
もっとあの二人をうまく使えていたら状況が違っていたのになー。
「よそ見をしている暇があるんですか?」
「! おっと!!」
彼の投げつけてきた魔力弾を避け、衝撃を纏わせた剣を振り下ろす。
彼の魔力を纏わせた拳と剣が激突し、紫と緑の魔力が周囲に拡散する。
「本当は、貴女とこんな形で会いたくなかった」
「そりゃそうでしょうね。……私も同じ気持ちだよ」
「皆さんを尊敬しています。勿論、今もです」
……真っすぐだなぁ。
本当に普通にしていれば隊長の弟子だって忘れるくらいに普通の子だ。
しかも尊敬って……なんだか、むず痒い。
リングル王国にいたときは問題児扱いで尊敬とは別の場所にいたのになぁ。
でも……私の主導権は悪魔にゆだねられているから、自分では止められないんだ。
「シッ」
「ふんっ!!」
衝撃を籠めた魔力弾を撃ち込みながら、返す刃で斬りかかる。
彼もそれらを全て拳で叩き落としながら再び近接戦闘を繰り広げる。
「治癒崩し」
「っ、ぁう!?」
攻撃の寸前に私を包み込む魔力の波。
———ッ!? え、なに!?
なにかされ——、いや、この技は!?
「ふんっ!!」
「あぶなぁ!?」
一瞬の硬直の隙をついた剛腕を身を屈めることで避ける。
うっわっ! 治癒魔法をぶつけられて思考を強制的に止められた!? 事前にカイラに聞いてなかったら直撃してたよ!?
「衝撃吸収!」
「む」
次に間断なく繰り出された拳を衝撃魔法で吸収し、後ろに下がる。
予想通り、彼は追撃をしてこない。
……やっばいなぁ。
「楽しくなってきたかも……!」
一対一で戦いたいなぁ。
きっと楽しいんだろうなぁ。
悪いけど、意思なき同僚共と双子の闇魔法使い達は今やお荷物ゴリラだ。
レアリはウサト君にビビっているし、カイラは頭に血が上っているくせに地上に降りてこない。
多分、ウサト君もそれが分かって混戦するように立ちまわっているので、本当の意味で私と彼が本気で戦う状況にはならないのだ。
「レアリさん、もう撤退しません?」
「こっちだってしたいわ!! でも、さすがに魔王の力を二つも回収されてるのよ!? せめて見せかけだけでも働いてこないとまたネチネチ文句を言われるじゃない!!」
ですよねー。
レアリは高慢ちきで頭が弱くてバカでお調子者だけど、しっかりと目先の脅威は理解できている。
だけどこの状況はなぁ。
私たちはいわばゾンビ、体力なんて存在しないのでずっと動き続けられる。
長期戦においては本来は有利なはずなんだけど……。
「治癒魔法使い相手じゃあなぁ」
ウサト君……というか隊長と同じタイプの治癒魔法使いを相手にすればその優位性は無い。
きっと彼はこのまま一日中戦い続けてもケロッとした顔で走り回ることだろう。
「こうなったら……」
多少悪魔側の情報を明け渡して退かざるを得ない状況を作り出すしかないか。
そうと決まれば……!
「ねえ、ウサト君! 君は知っているかな!」
「挑発ですか? 事と次第によっては団長に報告する義務が僕にはあります」
「君のそれは脅迫ですよねぇ!?」
挑発するつもりがノータイムでとんでもない脅迫が飛んできたんだけど!
た、たたた魂レベルにまで刻みつけられたトラウマと恐怖がががが。
「いやいや……」
よく考えろ私!! どちらにしろ悪魔に良いように使われている時点で私は隊長にこの世の地獄すら生ぬるい仕打ちを受けることは確定しているんだ!
ならばこれ以上やらかしても何も変わらないはず!!
「いいかい! 私たちが回収した魔王の力はまだ一つだけなんだ!」
「!」
「だけど、ここを除いて悪魔が見つけた魔王の力は二つ! その一つは既に奪われている!!」
「……」
スッと目を細めたウサト君。
足を止め、その場で腕を組んだ彼に、かつての隊長の姿を重ねる。
……いや、本当に立ち振る舞いと威圧のかけ方が隊長そっくりで怖いんだけど。
「奪ったのは、誰ですか?」
「君がついさっき逃がした子。あの子は既に魔王の力を持っているよ?」
「!」
迷いのない後退。
こちらとしては止める理由はないんだけど、一応悪魔側として彼を止めないといけない。
意思なしゴリラ共に命令をし彼を止めようと動かす。
「に、逃がすかー。治癒魔法使いー」
ここで攻撃くらいはしておこうと姑息な考えを巡らせたレアリが魔力弾を放つ。
私も、意思なしゴリラ共も一斉に魔法を放つ直前に、急に方向を変えたウサト君は———ようやく糸から抜け出したカイラの首根っこを掴むと、そのまま迫る魔法の前に押し出し後ろに隠れる。
「は、テメェなにを!?」
「治癒ガード!!」
「へ!? ばぁぁぁぁ!!???」
瞬間、カイラに全員が放った魔法が直撃し、爆発を引き起こす。
「「……え?」」
衝撃の行動を目撃した私とレアリは悪魔以上に悪魔的な所業を行ったウサト君にただただ唖然とするしかなかった。
「が、あが……あが……」
「安心しろ。治癒魔法をかけているから無傷だ」
……外道か!?
いや、そもそも彼は悪魔に対して慈悲など持ち合わせるはずがないので当然の扱いではあるけども。
治癒魔法で強制的に癒されながらも口から煙を吐いたカイラを未だに持った彼は、こちらを見ると———あろうことか片腕で振り回したカイラを私達へと投げつけてきた。
「ちょ、あれ!? これ受け止めた方がいいですか!?」
「え、私そいつ嫌いだから貴方が受け止めなさい」
「同族嫌悪酷すぎませんか!?」
悪魔のあんまりすぎる仲間意識の低さを実感しながらぶん投げられてきたカイラをキャッチする。
あちゃー、これ完全に伸びて……え、なんで魔力弾がくっついて……あ。
「あ、それは贈り物です。では!」
「尊敬している先輩にこれはおかしいのでは!? ギャァァァ!? 爆発するぅぅ!?」
「え、え? え!? これ間に合わな———」
ビシッ、と手を掲げたウサト君の姿を最後に、私たちの視界は治癒魔法の光と衝撃波に包まれた。
その衝撃は尋常ではなく、癒しの光につつまれながら全身を強打するという二度と味わいたくない経験をしてしまうのであった。
治癒ガードというシンプルかつ外道な技。
さらに盾にした相手に治癒爆弾をくっつけ、相手に放り投げてから爆速で離脱するコンボに繋がります(白目)
次回の更新は明日の18時を予定しております。




