第三百二十四話
二話目、二日目の更新のなります。
前話を見ていない方はまずはそちらをー。
朝の訓練にウルルさんが参加するようになった。
基本的に街の様子を確認するための走り込みでもあるので、ゆっくりとしたペースで彼女と共に街中を走った後に———早朝の鍛錬を行っているネロさんと合流し軽い手合わせを行った。
『ウサトくーん、頑張ってねー』
もちろん、ウルルさんには見学に回ってもらった。
でも、やっぱりローズと同じ実力の相手との手合わせは僕にとってもかなりいい経験になる。
……二日目にして僕の治癒崩しが見切られはじめているのがやばすぎるけど、まだまだこの技にも改良の余地があることが分かっただけでも上々だろう。
「で、これから俺の部下たちとの顔合わせだが……まあ、遠慮することはねぇぞ」
「大丈夫。分かってるよ」
そして昼間。
僕とネア、そしてハンナさんと共にコーガのいる元兵士宿舎の近くにまでやってきていた。
兵士宿舎とあってかここの近くにも訓練場があり、訓練をする場所として最適な場所だ。
「ここで地獄が始まるのね……」
「たかが訓練なのにどうしてここまで張り切っているのでしょうか」
「今に分かるわ」
げんなりとした様子のネアとそんな彼女を見て首を傾げるハンナさん。
もしかしたら、キーラが来るかもしれないけど……今日のところはあの子は二人と一緒に見学してもらうことになりそうだ。
「っと、あそこがそうだ」
立ち止まったコーガが訓練場の端にいる三人の魔族を指さす。
三人? ……少数精鋭って感じかな? 一応、魔王軍は解体されたらしいし。
……それに、あの三人には見覚えがあるな。
「いや、遅すぎない? コーガ隊長」
「彼の遅刻癖は今に始まったことじゃないだろう?」
「いずれ来る。それまで待つのみ」
魔王城の地下で戦ったキャラの濃い兵士たちだ。
速さに特化した黒に近い灰色の髪の女性魔族。
木に類する魔法を操る襟で口元を隠した男。
そして、岩を鎧のように纏う大男。
僕としてもかなり印象に残った三人に驚いていると、彼らも僕たちの存在に気づいたのかこちらへ振り返る。
「げぇ!? 治癒魔法使い!?」
「来てるのは知ってたけど、どうしてこんなところに……?」
「これは、なんとも奇怪な巡りあわせ」
……聞かされてないの?
ハンナさんとネアが僕たちから離れた木陰に腰を下ろすのを見ながら彼らへ視線を戻すと、僕の隣を歩いていたコーガが彼らの前へと歩みでる。
「おー、おー、揃っているようだな。お前ら」
「隊長。これはいったいどういうことですか?」
口元を襟で隠した魔族の男性の質問にコーガは晴れやかな笑みを返す。
「どうもこうもなにも、お前らの訓練はこいつが見ることになった」
「「「は?」」」
「リングル王国、救命団副団長のウサト。まあお前らも一度は戦ったことはあるだろ? こいつの方が教導とか向いているんで、任せることになったわけだ」
突然紹介された僕もあっちも困惑する。
え、君今伝えたの? 適当すぎやしないかな?
「今すぐアーミラお姉さまの部署に転属願い出してきていいですか?」
「そういうことは事前に言ってくれと何度言ったら分かるんですかね……?」
「上に立つ者としての意識を持ってほしい」
すごい総スカンだ……!?
部下たちからの猛烈な意見にからからと笑ったコーガが僕へと振り返り、親指で後ろを指さす。
「左の気の強そうな奴はエル。アーミラを異様に慕うやべぇやつだ」
「ちょっと勝手に紹介しないでくれませんか?」
えーっと、足の速い人がエルさん。
「真ん中の普通そうなのがケヴィン。まあ、このメンバーの中じゃ普通だ」
「二回も普通って言われることあります……?」
普通そうなのがケヴィンさん。
「右のでかいのがウォル。少し言動が古めかしいが、幾分か常識的なやつだ」
「治癒魔法使い殿。以前は戦いの場での遭遇でしたが改めて……はじめまして」
「あ、これはどうもご丁寧に……」
最年長っぽいウォルさんに挨拶され、ついいつものように返してしまう。
コーガの部下とあってか実力者揃いだな。
……まあ、それはともかくとして、だ。
「コーガ」
「ん?」
「今度センリ様に会ったら、君の適当な性格を矯正するようにアドバイスしておくから」
「なんでそんなことするの……?」
そういう適当な部分で評価を下げるんだからな?
こればかりは直してもらわなくちゃこれから大変すぎる。
「さっきコーガから聞かされたとおり、僕は魔物の領域に向かう探検隊、ないしはこれからやってくる候補者たちの指導を任された」
まずは僕の口から訓練を任されたことを伝える。
すると、エルさんが強気な目で僕を睨みつけてくる。
「いきなりやってきて指導って、そんなの認められるはずないでしょっ! しかもよりにもよって貴方相手だなんて!!」
「さすがにそこまでは言わないけど、複雑なことには変わりないな……」
エルさんを嗜めながらケヴィンさんは複雑そうな様子だ。
少し前は敵として戦っていた者同士だったので、そんな反応をされてしまうのは分かっていた。
「そう思うのも当然だろうね。僕としてもそう簡単に認められると思っているわけじゃない」
「はんっ!」
「僕が君たちを指導する力量があればいいということだろう? なら話は簡単だ」
『喧嘩とかで騒ぎを起こすのはやめてくださいねー』
僕がこれから何をしようとしているのか予想したハンナさんが注意してくるが、もちろんそれは分かっている。
確かに手合わせする方が手っ取り早いけれど、力技で認めさせるのは僕としても駄目だ。
「それじゃ、鬼ごっこでもしようか?」
それなら別の方法で認めさせればいいだけだ。
●
私が補佐としてついた治癒魔法使いウサト君はおかしな人間だ。
人間という種族から見てもその生態はおかしいし、彼の亜人に対しても全く認識を変えないそれもおかしさしかなかった。
正直、今でも奴が普通の人間だという事実すら疑っている。
「ネアさん」
「なによ?」
ウサト君の使い魔のネア。
私よりも性格の悪いと認めた彼女は、どこか遠い目で目の前の光景を見ていた。
「“鬼ごっこ”とはどういう競技でしたっけ?」
「鬼としての役割を与えられた人が逃げる人を追いかける遊び、らしいわよ」
三人でウサト君を追いかけ、手で触れれば勝ち。
どちらも魔法を使ってもいいということだけど、肝心のウサト君は戦闘時に使う籠手もなにも使わず、それどころか不自然な魔力の加速も使っていない。
『こいつっ、後ろに目があるの……!?』
『悉く避けられる……!?』
『理不尽の極みッ』
「その鬼ごっこって目隠ししてできるものなんですか?」
「普通はできないわね。普通は」
その上、目元に布を巻いて視界を制限しているんだから目の前の光景がますます信じられなくなる。
あれが先日、広められた魔力回しの派生形の“魔力感知”というやつなのだろうか?
空中に四散した魔力にまで感覚を広げる技術。
その発案者がウサト君だということは知っていたけれど……。
『俺が動きを止める!』
『……』
背後から突っ込んでくるウォルの突進を、後ろを見ずに跳躍して回避。
空中で一回転すると共に、ウォルの背中を足場にして———ケヴィンが飛ばした木の魔法で作られた棍棒を空中で回避する。
『これも反応されるのか!? 本当に見えていないのか!?』
「ウサトの魔力感知は単純に生き物の位置と、範囲内で動く物体の位置が分かるだけなんだけど、本人の反応速度が高すぎるせいで厄介な性能になっている感じね」
「不意打ちも効かなくなったってことですか?」
「まあ、そうね」
習得すれば便利な技術ではあるけど、あそこまで使いこなすのはもっと時間がかかりそう。
そもそも習得に至るまでどのような経緯で魔力回しなんて言う地味な訓練をしたのだろうか……。そこが一番気になる。
『ケヴィン! 着地を狙う! 合わせて!!』
着地を狙おうとするエルとケヴィン。
確かに現状魔力の暴発とかいう意味不明な加速を用いていないウサト君には避ける術がない。
「これで終わりですかね?」
「いいえ、まだ終わらないわね」
「え?」
思わず呆気にとられた声を漏らすと、不意にウサト君が突然治癒魔法を全身から放つ。
『治癒崩し』
『『!?』』
それを受けた二人は面を食らったような顔で硬直する。
我に返るまでのその一瞬で無事に地面へと着地したウサト君はその場から離れる。
「……今のなんですか?」
「治癒崩し。戦闘中に強めの治癒魔法をぶつける意味不明な技」
「いや、本当に意味不明なんですけど」
え、なんでわざわざ相手を回復させるようなことを?
それでなんで二人は動きを止めるんですか?
あまりにも理解が及ばない技すぎて頭がおかしくなりそうだ。
『どうした!! そんなんじゃ僕に指一本触れることもできないぞ!! 一泡吹かせるんじゃなかったのか!』
『こいつ人間じゃない……!?』
『ぐっ……』
なにより普通に勝っていることに一番納得がいかない。
地面に膝をつく三人を前に、腕を組み立っているウサト君からは疲れた様子も見られない。
先ほどまで縦横無尽に訓練場を走り回っていたというのに。
「……どちらかというと鬼は、逃げている彼の方では?」
「言えてるわね」
使い魔の彼女にさえ認められてしまうとは……。
戦場を駆ける治癒魔法使い。
まさか単純な体力という点だけでここまで種族の差を超えてくるなんて出鱈目以外の何物ではない。
「……前にも同じことをやったことがあるけど、その時よりはまだマシね」
「あれ以上に酷かったんですか?」
「魔法禁止、片腕と片足を使っちゃ駄目ってことにしたけど、あの人普通に動き回ってたから」
うわぁ、どうやったら片足で移動できるというんだ。
『あんた、私たちを嘗めてるの!?』
なぜかエルが怒りのままウサト君に食って掛かる。
当の彼は不思議そうに首を傾げるが、今の動作でなにか驚くようなことがあったのだろうか?
『私たちも癒して、どういうつもり!?』
『そりゃ、治癒魔法を使っているんだから回復するよ』
『ッ、だから私たちを回復させる意味が分からないって言ってんの!!』
? よく分からないけど、ウサト君は意図的に相手にも治癒魔法を及ぼしていたってこと?
その言葉で得心がいったのか目隠しをした状態のまま彼が腕を組む。
『魔力感知をする上で魔力は放出しないといけないって理由もあるけど……そうだね、こっちの方が長く訓練できるからかな』
『……は?』
『わざわざ疲れた君たちを治癒魔法で癒す手間もかけないし、何より君たちも全力で僕に向かってこれる。これを活用しない手はないだろう?』
なんだかとても恐ろしい話を聞かされた気分なんですけど。
何言ってんですか、あの人。
『これを使えば、治癒魔法を使わない人も僕たちに近い癒しながらの訓練ができるってわけだ。……まあ、効果はかなり下がるんだろうけど』
「つまり、その気になれば体力を無理やり回復させられながら訓練を続行させられるってこと……?」
「ネアさん、あれ実際どうなんですか?」
「……悪夢ね。いえ、あの人一応加減は知っているし、よほどのことにはならないと思うけど……うーん」
そこまで……!?
肉体面より精神面が試される時点でまともじゃない。
『さて、と』
そこで目隠しを外したウサト君が唖然としている三人を改めて見る。
それぞれが困惑、屈辱、呆然といった表情を浮かべているのを見て、困ったような笑みを浮かべる。
『これで認めてもらえたかな?』
『くっ、認めざるをえないようね……! 確かに、あんたは私より速くて……強い……!!』
頬についた砂埃を拭いながらエルが立ち上がる。
その瞳は依然としてウサト君を睨みつけており、絶対に負けてたまるか、という意思が強く伝わってくる。
『でも勘違いしないことね……!! 実力は認めたけど、あんたのことを認めたわけじゃないから!!』
強気な口調でエルはウサト君に指を突き付けた。
私がああだったので、驚くべき心の強さに普通に感心してしまう。
『絶対にあんたをぶっ飛ばしてやるんだから、覚悟しておきなさい!』
『……フッ、そうこなくちゃな。この調子なら僕も本気で行けるというものだ』
『え、本気……?』
その宣言に怒るどころか笑みを強めたウサト君が腕を組んだまま、いつのまにか隣にやってきていたコーガ君へと話しかけている。
『君の部下、見どころがある』
『だろ? 根性は中々のもんだ』
『フフフ、これから鍛えるのが楽しみだな』
『ハハハ、俺としても面白いものが見れそうだから大歓迎だぜ』
うわぁ、楽しそうだなぁ。
コーガ君とセンリとかいう王女と似ていることもそうだけど、やっぱりウサト君と似ているのがなぁ。
心なしか生き生きしているし、今回の探検隊の訓練は大変なことになりそうだ。
過去の閑話、魔王城内で登場した魔族たちが登場しました。
中でもエルは負けず嫌いという点で救命団適性が高いです。
今回の更新は以上となります。




