第三百二十二話
更新が遅れてしまい申し訳ありません。
二日目、二話目の更新となります。
第三百二十二話です。
朝食後は少し時間をおいてグレフさんのいる居住区に向かうことになった。
同行するのは僕の補佐を任されているハンナさんだけで、ネアはウルルさんと一緒に宿舎に待機するとのことだ。
よほど系統劣化のことが気になったのか、それについて調べるようだ。
「はぁ、魔族の居住区に来てなにをやらかすつもりなんですか?」
「魔族の知り合いに会いに行くんだ。昨日会ったキーラの保護者のグレフさんって人にね」
僕のことは話しているだろうけど、まずは正体を隠していたことを謝らないとな。
というより、やらかす前提で話すのはどうかと思うんだけど。
「あそこがそうですよ」
ハンナさんが指さした方向を見ると、いくつも並んだ建物がある場所が見える。
周りの魔族の人たちの視線を集めながら、通りを歩いていくと道の端で遊んでいる見覚えのある二人の子供を見つける。
「ロゼ、ラム?」
僕の声に気づいたのか、魔族の少年と少女、ロゼとラムがこちらを見る。
一瞬首を傾げた彼だが、すぐにぱぁぁ、と表情を明るくさせると僕の居る方に駆け寄ってきた。
「「ウサト兄ちゃーん!」」
「僕が分かるの?」
「うん! お姉ちゃんが言ってたし!」
「見た目も殆ど変わってないからすぐに分かった!」
前よりも笑顔を見せてくれるようになったな。
その事実にうれしくなりながら、僕は二人と視線を合わすようにしゃがむ。
「グレフさんとキーラはいるかな?」
「うん! 家にいるよ!」
「すっごいそわそわしてた!」
家にいるのか。
どこの家なのか案内をお願いしようとすると、不意にロゼとラムの視線が僕の隣にいるハンナさんへと向けられる。
「誰?」
「誰ー?」
見知らぬ彼女に二人はさっと僕の後ろに隠れる。
そんな二人を微笑ましく思っていると、隣のハンナさんが笑みを浮かべたまま口元を引くつかせていることに気づく。
「……いや、なんで私が警戒されてウサト君には無警戒なんですか? すっごい腹立たしいんですけど」
「まあまあ、僕は以前会っていますし」
「ねえ、この人すっごい怖い人なんですよー?」
「おい」
割と酷い誤解の与え方をしてきたな!?
にこにことしたハンナさんの言葉にロゼとラムは首を傾げる。
「怖い人じゃないよ?」
「グレフおじちゃんを助けてくれたんだよ?」
「……ウサト君、治癒魔法で洗脳でもしたんですか?」
……。
「ロゼ、ラム。この人はね、結構性格が悪い人だから気をつけてね?」
「あぁ!? ごめんなさい!? 謝りますから!? さすがに小さい子に嫌われるのはショックすぎるので!?」
治癒魔法で洗脳ってどういうことだ。
むしろそれは幻影魔法を持っている貴女の本領でしょうが。
「じゃあ、早速君たちの家まで案内してくれるかな?」
「いいよー! いこっ、ラム!」
「うん!」
元気よく走り出した二人についていく。
それほど遠い距離に有ったわけではないようで、すぐに黒いレンガ造りの真新しい家の前に案内される。
近くで見ると魔王城の素材が使われているのだとよく分かるなぁ、と思っていると家の前に魔族の少女、キーラが立っていることに気づく。
「あ、ウサトさん! ロゼ、ラム、貴方たちが連れてきてくれたの?」
「うん!」
「グレフおじちゃんに会いに来たんだって」
二人の頭を撫でたキーラが僕とハンナさんへと視線を移す。
「ま、待っていました。グレフは中にいますから、どうぞ」
「うん、お邪魔します」
「今更ですけど、私場違いすぎません?」
ついてきたのは貴女でしょ……。
若干居心地が悪そうにするハンナさんに苦笑しつつ、キーラ達に促され家へと足を踏み入れる。
「グレフおじちゃん! ウサト兄ちゃんが来たよー!」
「きたよー」
「おー、本当に来たか」
家の奥から壮年の魔族の男性、グレフさんがやってくる。
彼は魔族の変装をしていない僕を見て、少し驚いた後に困ったように微笑む。
「話には聞いていたがまさか本当に人間だったとは。いざ実際に見ると驚きしかないな」
「騙すような真似をしてしまってすみませんでした……」
「いや、別に責めるつもりはない。さあ、中に入ってくれ」
客間に招かれる。
すると一緒についてきていたラムとロゼが僕の団服の裾を、引っ張ってきた。
「ん? どうしたのかな?」
「ねえ、遊ぼう?」
「遊ぼー」
「こら、ウサトさんは今からグレフと話をするんだから」
それじゃあ話の後にでも遊びに付き合おうかと口にする前に、ため息をついたハンナさんが前に出る。
「私が代わりに面倒を見ておくので、ウサト君は話をしていてください」
「ハンナさん?」
「私は貴方たちの事情を知らないので、特に参加もできませんし」
……意外と子供好きなのかな?
いや、意外っていうのは失礼か。
ラムとロゼの相手はハンナさんに任せて僕はグレフさんと向かい合うような形で席に座り、キーラが隣に座る。
「足の具合はどうですか?」
「全然平気さ。むしろあの後、包帯をとって傷一つないもんだから驚いたんだよ。その後、この都市で治癒魔法使いが出たっていうから、もしかして……って思ってな」
結構酷い傷だったから完治してくれてよかった。
「さっきも言ったが俺は別に君を責めるつもりなんてない。むしろ、感謝しているくらいだ」
「いえ、そんな……」
「俺の怪我を治してくれたこともそうだが、キーラを助けてくれたからな。あれからこの子の闇魔法が暴走することもなくなった」
まっすぐな感謝の言葉に少しむず痒くなる。
「でもどうやって魔族に化けていたんだ? 全然分からなかったぞ?」
「ああ、それはここにいないもう一人の闇魔法使いが関係しているんです」
軽くフェルムのことを説明する。
同化の件でものすごく不思議そうな顔をされたものの、見た目だけは魔族になっていたことに納得してくれた彼は、興味深そうに頷く。
「僕の本当の魔法は治癒魔法で、闇魔法はその子の魔法って感じですね」
「……リングル王国の治癒魔法使いが、まさか君とは思いもしなかったな。ここでも有名だからな」
「そ、それは悪い意味でですかね……?」
「いや、一概にそうは言えない」
え、僕って悪魔呼ばわりされたり戦場でも目の敵にされるくらい狙われまくっていたんですけど。
「君に恐ろしい目にあわされたという兵士の話はよく聞くが、君に仲間を殺されたと口にするやつはいないんだよ」
「そりゃあ、大抵の人は拳で沈めてきましたから」
覚悟はしていたけど実行はしなかった。
というより、基本的に人命優先なので目の前の障害は手早く気絶させた方が効率的だったし。
「だから、怖いという思いも命の危機に対するものじゃなくて……あー、幽霊とか悪魔に遭遇した時みたいなもんだと思ってくれていい」
「それはそれで複雑ですけどね……あはは」
グレフさんの言葉に苦笑する。
本当に悪魔関連の話はなんとかしなければな。
地味に朝、拝まれたのが怖い。
「そういえば、グレフさんはいつからここに?」
「一か月ほど前くらいからだな。ラムとロゼのことを考えて、そろそろちゃんとしたところに住んだ方がいいと思った矢先に、居住区が解放されたんで住んだって感じだ」
割と最近だったのか。
「働く場所もすぐに見つかってよかった。まあ、こっちは常に人手不足みたいなところがあるからな」
「グレフさんは何を?」
「魔王領内を旅してた経験を生かした事務作業。どこに物資を供給するか、それにはどのくらいの人員と時間が必要かを計算する仕事だよ。意外と魔王領内の地理に詳しいやつっていないから結構重宝されてるんだ」
「そうなんですか……」
重要な仕事を任されているんだな。
リングル王国を含めた他国から送られてくる食料などの物資を分配していくのも一苦労だろう。
「君はここにはどれくらいいるんだ?」
「大体二か月ほどです。その間に魔王の指示に従ったり、魔物の領域に派遣される探検隊の訓練とかをする予定ですね」
「ん? 探検隊はコーガ様の直轄らしいが、違うのか?」
「あいつにお願いされて、訓練を請け負うことになりました」
募集はすぐにでも始まるだろうし、どんな人が集まるか楽しみだ。
「え、キーラ。コーガ様と知り合いなのも本当なのか?」
「うん。普通に仲が良さそうだった」
「そこも事実だったのか……」
先ほどから驚かせてばかりだなぁ。
今のうちに驚かれることに慣れておかないとな。
「そうか、長期間の滞在なんだな」
「そういうことになります」
長いと思えるけど、僕のやることを考えたらそれでも短いくらいかもしれない。
まあ、最初の派遣ってことかもしれないのでまたすぐに魔王領へ来ることになるかもしれないけど。
「あ、あのっ」
「どうしたの、キーラ?」
「また……私の魔法を見てもらってもいいでしょうか?」
遠慮気味にそう話しかけてきたキーラ。
魔法を見る、か。
今はフェルムはいないけれど僕にも教えられることがあるかもしれないな。
「うん、構わないよ。もしかしたら探検隊の人たちの訓練を優先させることになるかもしれないけど……」
「その時は私もそこに行きます」
「やる気満々だな……」
この子、救命団の素養があるのではないか?
やる気に満ちたキーラの眼差しにナックの時と同じ感覚を抱く。
「あ、あと! この前から私の闇魔法がちょっと変わったんです」
「変わった?」
「フェルムさんとはちょっと違うけど、似たようなことができるようになったんです!」
違うけど似たようなこと?
闇魔法の変形かな? 闇魔法自体謎の多い魔法だから、後で確認しておこうかな。
●
グレフさんとの話は一時間ほどで終わった。
互いの近況など立場について話すだけだったけれど、僕としても楽しい時間だったと思う。
その後だが、ラムとロゼの面倒を見ていたハンナさんを呼びにいったわけだが——、
『これが恐ろしい恐ろしい治癒魔法使いの物語なのでした……』
『すごーい!』
『ウサト兄ちゃんすごく強いんだね!』
『うっ、そこまで洗脳されて……!』
とりあえず御伽噺風に僕の悪魔的な話を聞かせていたハンナさんに治癒デコピンでお仕置きをしてやった。
なぜかラムとロゼから羨望の眼差しを向けられるようになってしまったけれども。
「納得いきません」
「何がですか?」
「貴方のような人が子供に好かれる事実がです」
まだ言うか。
グレフさんの家を出た僕とハンナさんは一旦宿舎に戻るべく来た道を戻っていた。
ふてくされるように頬を膨らませる彼女を僕はジト目で見る。
「貴方は僕をなんだと思っているんですか……」
「悪魔みたいな……化物?」
「人間とすら言ってもらえないの僕……?」
散々すぎる評価だ。
思わず肩を落としていると、通りの先が騒がしいことに気づく。
誰かがすごい勢いで走ってきている?
「うおおおおお!!」
「コーガ……?」
ものすごい焦った顔をしたコーガが何かに逃げるようにこちらにやってくる。
僕の姿に気づくとこれ幸いとばかりに目の前で止める。
「う、ウサト! 丁度よかったぜ!!」
「どうしたコーガ?」
「実は——」
「そんなセンリ様に追い掛け回されて死に物狂いで逃げたけど、謎の追跡能力で追いつめられているかのような顔をして!!」
「かつてないほど爽やかに笑いやがって……! ああ、その通りだよ……!」
むしろそれ以外になんの理由があるのだろうか。
すると、遅れてやってくるようにニルヴァルナ王国の第二王女、センリ様がやってくる。
彼女も王女様とは思えない全力疾走で僕の前に立ち止まる。
「ふ、うふふふ……追いつきましたよぉ! コーガさん!!」
「お、俺はお前に勝ったぞ!! だから諦めろ?」
「? どうして貴方に負けたら私が諦めなくちゃならないんですか? 意味が分かりませんよ?」
すげぇ、婚約決闘で軒並みの婚約者を沈めてきた人とは思えないセリフだ。
追いつめられたコーガは何を思ったのか僕の後ろに回り込み、センリ様の前に僕を差し出した。
「ほ、ほら、ウサトがいるぞ! こいつはいいのか?」
「私は意中の殿方を差し置いて、他に目移りする女ではありません」
「昨日の行動と全然違うだろ!!」
どうやら完全にコーガをロックオンしたようだ。
てか、今さらっと僕を身代わりにしようとしなかったかこいつ?
僕の疑問を他所にコーガは、センリ様に指を突き付ける。
「お、俺はお前が好きじゃねぇ!!」
「ならば好きになってもらえばいいだけの話では?」
「駄目だ、こいつ強すぎる!?」
……意外とお似合いなのでは?
このセンリ様の強引さはコーガに通ずるものがある。
「ここは僕に任せろ、コーガ」
「う、ウサト……」
「この修羅場。僕が納めてやる」
後ろのコーガにサムズアップし、前へと向き直る。
……。
ここはコーガのサポートを装ってセンリ様のアシストをしよう!!
「まったく二人とも、僕を挟んで痴話げんかはやめてくださいよ」
困った様子を見せながらそう言ってみると僕の前にいたセンリ様が照れるように頬に手を添える。
「えっ、そんな痴話げんかだなんて……まだ早いですよぉっ!」
「お、おいこれ……大丈夫なのか? 信じていいんだよな? おい!?」
肩を掴んでくるコーガをスルーしつつさらに追い打ちをかける。
「“嫌い嫌いも好きのうち”とも言いますし、コーガも素直になれてないだけなんです」
「では先ほどの好きじゃないとは、そういうこと……!?」
「お前そういうことか!? クソ、こうなりゃ——」
「ハンナさん!!」
僕の意図を即座に読み取ったハンナさんが、もうあらかじめ用意していたとしか思えない速さで、幻影魔法をコーガの頭に叩き込む。
逃げようとしたコーガは白目を剥いたまま脱力する。
「効果は薄いですが、彼にこの場から逃走したという幻影を見せました」
「ナイスです……!」
「私、貴方のそういうところは嫌いじゃないです。ええ、むしろ好きですねぇ」
この時だけハンナさんと心が通ったような感覚を抱きながらも、センリ様へと向き直る。
「センリ様、喧嘩するほど仲がいいとはよく言いますけど時と場所を選んでください」
「喧嘩をすればするほど、仲の良さを示せる……?」
とんでもねぇ異世界ことわざになってしまったぜ。
さすがにその間違いはいけないので訂正してから、騒ぎを起こさないように注意するのだった。
変なところで気が合うウサトとハンナでした。
今回の更新は以上となります。




