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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第十四章 出張救命団 魔王領編
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第三百二十話

二日目、二話目の更新です。

前話を見ていない方はまずはそちらをー。

 本当に色々ありすぎたけれど、なんとか今日しなくちゃいけないことは全部クリアしたので用意してくれた宿舎に向かうことにした。

 その際に都市の入口近くに預けていたブルリンも宿舎の近くの厩舎に移動させたわけだが、最初の時よりも断然魔族の人たちからの注目を集めるようになってしまった。

 なんだか、空飛ぶ悪魔だとか、人間は空を飛ぶ生き物、だとかとんでもない噂が飛び交っているけど……うん、それは時間が解決してくれるはずだ。多分。


「アルクさんがいてくれてよかった……」

「ははは、大袈裟ですよ」


 宿舎はリングル王国、ニルヴァルナ王国の二つに分けられていた。

 基本的に夕食は自分たちで作る感じなので、以前の旅の時と同じようにアルクさんに料理を任せて僕たちは、テーブルに着いて夕食が来るまで待っていた。


「いやー、魔王領一日目。大変でしたね。ウサト殿」


 目の前の席に座っていたクルミアさんがそう言って苦笑する。

 いや、本当に皆さんにはご迷惑をかけてしまって申し訳ない。


「話に聞いていた通りでした。“ウサト殿の周りでは常に『いべんと』ないしは『ふらぐ』なるものが起こる”……まさしくスズネさんのいう通りでしたね」

「その通りすぎるので、否定できない……」


 というより、先輩、クルミアさんに何を吹き込んでいるんだ。


「魔王領というより身内からくる大変さの方が大きかったですけど」

「あはは、私達からしてもニルヴァルナのアレは予想外すぎましたからねぇ」


 とりあえずセンリ様の問題は……一応はなんとかなったはずだ。

 できるだけ騙したくなかったけど、彼女のことは逃げ出したコーガに任せよう。


「ネアもごめんな」

「いえ……別に怒ってないけど……。いざ自分がやられるとあれね。衝撃が強すぎるわ」

「ははは、じゃあ、お相子ってことだな」

「……いえ、お相子ではないわね。あとで血をもらうから」

「それくらいなら別に構わないけど」

「じゃあ、二リットルくらい頂戴」


 にこり、といい笑顔を見せるネアに僕は顎に手を当てる。


「そんなに飲むとお腹壊すよ?」

「冗談だけど貴方、暗に二リットル血を抜かれても平気な発言してない……?」


 いつもフクロウの姿でいるから時々ネアが吸血鬼なことを忘れそうになるな。

 ついでにネクロマンサーだということも。


「ウルルさんはどうですか? 魔族の人たちのいる都市に来て」


 隣の席に座っていた彼女に声をかけると、どこかぼんやりとしていた彼女は我に返る。


「あ、ごめん。ちょっとぼーっとしてた」

「大丈夫ですか? 疲れているなら休んだ方が」

「ううん、違うの。お兄ちゃん、大丈夫かなぁって考えてただけだから」


 オルガさんのことか。

 家族だからそりゃ心配になるよな……。


「オルガさんにはナックがついていますから大丈夫ですよ」

「……うん。そうだよね、私も自分のことに集中しなくちゃ」


 少し表情を明るくさせたウルルさんに頷く。


「ここに来て、どうだっただっけ?」

「はい」

「うーん、大丈夫そうかなぁ。今のところは普通にやっていけそうな感じ。みんなウサト君ばっかり見ていたからかな?」

「あー……」


 空、飛んじゃったもんなぁ。

 これに関しては誰も悪くないんだけど、最初からとんでもないインパクトを与えてしまった気でしかない。


「ウサト君、明日はどうするの?」

「基本的に魔王からの要請がない限り待機ですが、明日は僕たちより前にリングル王国から派遣された騎士の皆さんの見送りに行く予定です」


 形式的には僕たちと交代する感じだね。

 それ以外は未だに決まってないけど……。


「魔王から魔族の人たちと交流するように言われているので、外には出てみようかなって思います。あとは、キーラの保護者の方にも会いに行こうかなって」

「キーラちゃんの?」

「会ってほしいと言われたってこともありますけど、僕も顔を出したい気持ちもありましたから」


 会って身分を隠していたことを謝らなくちゃな。

 実際にケガをしていた足を確認しておきたい。

 あとは探検隊のメンツを見に行くってのもアリだな。

 魔王は隊員を募集するとは言っていたけど、元からいるメンバーは多分コーガの部下だろうし。

 あいつの部下ということは精鋭に違いないので、どれほど“できる”のか気になる。


「ねえ、ウサト君ってキーラちゃんになにをしたの?」

「すっごい人聞きが悪い言い方なんですけど」

「はは、そういう意味じゃなくて。すっごい慕われてるなぁって思って」


 ああ、そういうことか……。


「皆さん、お待たせしました」

「ありがとうございます。アルクさん」


 丁度、アルクさんの料理が出来上がったようだ。

 ここで食べる食べ物は、魔王領で魔族の人たちが食べているものと材料は同じ。

 アルクさんの手で美味しそうに調理されてはいるが、使われた食材の量は多いわけではない。


「……アルクさんもいることですし、食べながらでも話しますか?」


 キーラという闇魔法使いと、グレフさん達との出会い。

 魔王と先代勇者が戦った決戦の場所で起こった、次元と時間を超えた戦いと、魔王との初めての邂逅。

 その出来事を語りながら、ゆっくりと夜の時間は流れていく。



 夕食を終え、温水と手拭いで身体を拭き着替えた僕は、部屋で改めて自分の荷物を確認しながらこれからするべきことを持ち込んだ手帳に書き込んでいた。

 とにかくやらなくちゃいけないことは沢山ある。

 魔王も僕に色々と頼みごとがあるらしいし、気合をいれていかなきゃな。


「……よし」


 手帳を折りたたみカバンに戻した僕はベッドの上で胡坐を組み、魔力回しの訓練を行う。

 速く、滑らかに、複雑に、胸の中心———心臓から身体全体に魔力を循環させるように魔力を回していく。


「次は……」


 掌に作り出した魔力弾を握りつぶし、魔力感知を行う。

 範囲内にいる生き物、動くものの存在を感知する技。

 姿を消す悪魔への対抗手段になるので、これは絶対に練習しておかねばならない。


「ん? そもそも魔力弾を握りつぶす必要あるかこれ?」


 つい毎回そうやっているけど、結構な隙になるしやり方を変えてみるか……?


「魔法は手だけから出るものじゃない。なら……」


 全身から放てばいいだけのこと……!

 やり方は既にフェルムとの同化、先輩の雷獣モードで体験済み。

 できない道理はない……!!


「ぬんっ……ぬ、ぐ……!!」


 イメージ的に上半身から魔力を放射してはみたが、ものすごい勢いで魔力が削られていくのが分かる。

 すぐに放射を止めてみるが、これはあまり実践向けじゃないな。


「うーん、いい考えだと思ったんだけどなぁ」


 僕の魔力そのままじゃ消費が激しすぎる。

 それともソナーみたいに波紋みたいに放つ? それでもマシになるけどやっぱり普通より多く魔力を使ってしまうことには変わりない。


「そういえば、系統強化って魔力の濃度を高める技術だよな……」


 魔力をつぎ込むことでその濃度を高め、効果を上昇させる。

 それが系統強化。

 なら、その逆はできないか。

 掌に治癒魔法を纏わせ、意識を集中させる。


「……」


 系統強化が光を濃く、強めるイメージなら、これは光を薄く、弱める感じだ。

 魔力はそのまま。

 薄く。

 より透明に。

 そう念じていくごとにエメラルドを思わせる緑色が徐々に色を薄めていく。

 色的にはナックの治癒魔法よりも一段階薄くなっている感じか?


「……思ったより簡単だな」


 早速、これでさっきと同じようにやってみるか。


「ふんっ」


 薄めた魔力を放射状に放つ。

 空間に薄い治癒魔法の光が満ちていく。

 魔力の消費こそしているが、さっきより断然少ない。


「名付けるなら、系統劣化ってところか」


 あえて治癒魔法の質を下げることで魔力の消費を抑え、より隙のない状態を保つことができる。

 軽く一息ついていると、不意に僕の部屋の扉を誰かが叩く。


「はい? ん? ネア、どうしたの?」


 扉を開くとそこには腕を組んだネアが僕をジトーっとした目で見上げている。

 な、なんだ?


「ちょっとウサト、なんか隣の部屋までやすらぐ魔力が来るんだけど」

「あ、ごめん。今、魔力回しに次ぐ新しい技術を開発できてね」

「別に嫌ではないんだけど……うん?」


 魔力が壁の隙間を通っていっちゃったのかな?

 治癒魔法とはいえど悪いことをしてしまったな。


「今度は抑えてやるから。じゃ」

「いや、ちょっと待ちなさい!!」


 扉を閉めようとすると、がっ、と扉の隙間に足を差し込まれる。


「貴方また変なことしてんじゃないでしょうね!?」

「今回は違うよ。系統強化の逆ができないかなーってね」

「はぁ? んなものできるはずが——」

「いや、できたんだ」


 するとネアは頭を抱える。


「私は慣れてるから驚かない。私は慣れてるから驚かない。私は慣れてるから驚かない……!」

「なにぶつぶつ言ってんの?」

「ちょっとその技見せなさい……!」


 別に構わないけど。

 扉を開き、彼女を部屋に入れようとすると今度は廊下の奥からアルクさんがやってくる。


「ウサト殿。丁度良かった」

「はい? アルクさん、どうかしましたか?」

「ハンナ殿が訪ねてきまして」


 ハンナさんが?

 明日の予定とかについてかな?


「ネア、技を見せるのは後でいいかな?」

「しょうがないわね……じゃあ、部屋で待ってるわ」


 やや納得がいかないような顔で僕の部屋に遠慮なしに入っていくネア。


「なにかあったのですか?」

「いえ、ちょっと新しい技を考えたら不機嫌になってしまって」

「はは、やはりウサト殿は変わらないですね。……ああ、ハンナ殿は下で待っております」

「分かりました」


 アルクさんとも別れ僕は一人で下の階へと降りる。

 出入り口にはやや疲れた様子のハンナさんが立っており、僕に気づくとため息をつかれてしまう。


「ハンナさん? どうしたんですか?」

「いえ、伝え忘れたことがあったので、今日のうちに言っておこうと思いまして」

「はい? ああ、立って話すのもなんですし、座ってください」


 テーブルに案内させてから話を伺う。


「まず、私の住んでいる場所ですがこの宿舎のすぐ隣です」

「え、そうなんですか?」

「ええ、すごい偶然ですよね。まるで最初から私が補佐することが決まっていたみたいな感じですよねぇ」


 なんだかすごい影のある笑みを浮かべられてしまった。

 ……魔王あたりが画策したのかな?


「貴方が外で何かをするときは私に報告するか、同行しますから、ちゃんと伝えにきてください」

「了解です」


 補佐というより監視役も兼ねているのかな?

 いや、魔王の場合面白そうだから僕と組ませたってこともありえそうだ。


「では朝の訓練の時とかはどうしたらいいですか?」

「はぁ? 訓練?」

「走り込みをしようかなと。都市の構造も把握できますしちょうどいいかなと」


 空からしか都市の街並みを見ていないから、まずは自分の足で走って見てみないとな。


「何時から走るつもりなんですか?」


 ……うーん。


「太陽が上がったくらいですね」

「いえ、私普通に寝ているから来ないでくださいね……? 走る程度なら別にいいですよ。……あっ、変なことはしないでくださいよ?」


 さすがにブルリンを背負って走ればどうなるかは分かっている。

 ここはリングル王国じゃないのは分かっているからな。


「安心してください。ただ走るだけですから……!」

「どうしましょう。全然安心できません……」


 どれだけ信用がないんだ僕は。

 しかし、最初は信用が低いなら後は上げていくだけだ。

 ハンナさんとの交遊も魔王が言っていた親交を深める課題に入っているだろうから、頑張って彼女の信用を得るようにしなくちゃな。

わざわざ自分の魔法を弱める技術を開発するウサトでした。


今回の更新は以上になります。

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― 新着の感想 ―
[一言] アニメ化に伴いbookwalkerの読み放題に入ってたんで1巻から読み直し。 そして気が付いたのだけど、系統劣化が系統強化の逆だとすると、これ覚えたらオルガさんも自己治癒できる.....? …
[一言] ウサトは血液を200リットル失っても大丈夫そうですね。 鷲巣麻雀で圧勝できると思いますw
[一言] いつの日かドラゴンボールばりの衝撃波を全身から出して戦闘相手を吹き飛ばす未来が見えた気がする
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