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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第十四章 出張救命団 魔王領編
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第三百十六話

三日目、三話目の更新となります。

前話を見ていない方はまずはそちらをお願いします。

 魔王領に入る手前には大きな川がある。

 以前、そこはレオナさんの氷の魔法で渡ったわけだが、戦争が終結した後はしっかりとした橋が作られ、手間をかけずとも魔王領に入れるようになった。

 しかし、だからといって誰でも彼でも入れるというわけではなく、橋にはしっかりとした監視所が作られており、勝手に魔王領に入ろうとする人がいないように監視されている。

 一先ず、橋に到着した僕たちは監視所の付近でニルヴァルナの人たちを待つことになった。


「ニルヴァルナか……いったいどんな人が来るんだろう」

「基本、誰が来ても大丈夫でしょ。国の信頼を損なわないためにもちゃんとした人員を寄越してくるでしょうし」


 確かにネアの言うとおりだ。

 あくまで僕の印象でしかないけど、ハロルド様は不適切な人を送ってくるような人ではなさそうだし。

 僕が心配する必要はあまりない。


「ウルルさんは大丈夫ですか?」

「ん? なにがー?」


 馬の鬣を撫でていたウルルさんがこちらへ振り返る。


「慣れない移動なので疲れてないかなと」

「ううん。全然平気だよ! むしろ私、こういう旅って全然したことないからちょっとわくわくしてるんだー」

「その気持ち、すごくよく分かります」

「だよね!」


 明るく笑うウルルさんにつられて笑みを浮かべる。

 僕も書状渡しの旅に出るときは、緊張もしていたけど同じくらいワクワクしていたと思う。


「それに、私もお兄ちゃんに対して過保護すぎたなぁって思って」

「家族想いなことはいいことじゃないですか」

「……ここだけの話さ」


 なんだなんだ? いきなりウルルさんが声を潜めてきたぞ。

 特に周りに人はいないけれど、僕とネアが彼女に近づいて話を聞こうとする。


「前の戦争の時に救援に来てくれた同じ治癒魔法使いの人で、シャルンさんって人がいたでしょ?」

「はい? 覚えてますよ」


 ゲルナ君とケイトさん、そしてシャルンさん。

 各国から救援に来てくれた三人の治癒魔法使いの一人だ。

 その人がどうかしたのだろうか?


「その人とお兄ちゃんがね。文通してるみたいなの」

「……なるほど。ほほう、そういうことですか」

「そういうことなんだよ……!」

「いい感じなんですか……!?」

「いい感じなんだよ……!!」


 持ち前の察しの良さを発揮させながら、ウルルさんの言葉に頷く。

 なぜかネアは僕をジト目でにらみつけているけれども。


「なんでこの人、自分以外にはこんなに察しがいいのかしら……?」

「フッ、ネア。鈍感という不名誉な称号。今ここで返上させてもらおう」

「魂レベルで一体化してるから無理よ」


 そこまで言うほど……?

 最早、鈍感と僕は表裏一体……?


「ウサト殿、ニルヴァルナから派遣された者たちの姿が見えました」

「はーい!……到着したみたいだね」

「それじゃ、顔を合わせにいこっか」


 周囲を見てくれていたアルクさんの声。

 その声に応じながら、僕たちは到着したというニルヴァルナからやってきた人たちを迎える。

 人数は七人ほどで、僕たちとそう変わらない人数だ。


「あー、えっと、お待たせしました」


 先頭を歩いていた馬から降りた人物は、被っていた旅用のフードを外す。


「リングル王国の皆さん、私はヘレナ・ストレイム、この団を率いている者です。……一応」


 ニルヴァルナ戦士団、戦士長ハイドさんの副官のヘレナさん。

 やや疲れた目と、薄めの紫色の髪が特徴的な彼女は、僕に視線を向けるとやや安堵したような笑みを浮かべる。


「この前会ったばかりですね。ウサト君」

「ヘレナさんでしたか。ということは、他の方も戦士団の……?」

「そんな感じです。あぁ、でも……一人を除いて……」


 すると、ヘレナさんの後ろで馬を降りていた一人がフードを外しながら前に出る。

 フードの下にあるのは、少し茶色よりの黒髪を三つ編みに結った綺麗な女性だ。

 年も僕とそれほど変わらないくらいに見える女性は、自身の胸に手を当てながら軽くお辞儀をする。


「はじめまして、センリと申します」

「救命団所属、副団長のウサトです。よろしくお願いします」


 こちらも礼を返す。

 心なしか、ヘレナさんと後ろにいる戦士団の方の顔が青ざめている気もしない。


「貴方が噂の……こちらこそよろしくお願いしますね」


 にこやかな笑みを向けたセンリさんはおもむろに僕に手を差し出してくる。

 握手を求められているとすぐに察した僕は、すぐに応じる。


「む?」


 手首にかかる“圧”。

 先輩に投げられた時のような力を感じ、反射的に重心を変える。

 首を傾げながら顔を上げると、驚いた様子でこちらを見ているセンリさんと目が合う。


「お力……とても強いんですね」

「それはこちらのセリフですよ」


 この人、すごく強いぞ。

 さすがはニルヴァルナの戦士だ。

 しかもこのやり取りには覚えがある。


「うふふふふ!!」

「ははは……」


 しかし、なんだろう。

 この寒気のようなものは。

 目の前のセンリさんは朗らかに笑っているのだろうが、僕の直感が危険と囁いている。


「ちょ、ちょっと、失礼しますね。ウサト君」

「あ、はい」

「すみません! こちらも準備をすぐに整えるので!!」


 がしり、とセンリさんの肩を掴んだヘレナさんが僕から引き離す。

 呆気に取られていると、ヘレナさんが慌てた声を上げる。


「ちょぉ、センリ様なにやってるんですか!?」


 ……様?

 すぐにハッとした様子で小声でセンリさんに話しかけるヘレナさんだが……この人、今確かに様って言ったよね?

 もしかすると、偉い人なのだろうか?


「……カレ、スゴク、ツヨイ」

「言語を忘れかけている!? 駄目です!? 駄目ですよ!? 約束したじゃないですか!! 婚姻決闘は禁止!! ケンカ駄目絶対!?」

「合法ならいいってこと?」

「ケンカに合法も何もないでしょぉ!?」


 なんだか揉めている。

 いや、話し合いかな?

 まあ、とりあえず合流することもできたみたいだし、ニルヴァルナ側が出発の準備を進めている間に、こちらの方も準備を済ませておこうか。


「なんかまた変なの引き寄せたわね。逆にすごいわ」

「ウサト君の近くっていつも賑やかで楽しそうだね」

「そう思える貴女が素直に怖いわー」


 後ろでネアとウルルさんが何かを囁いているが、構わずアルクさん達と共に馬とブルリンの出立の準備をしに向かう。

 都市まではそこそこ遠い。

 魔物に襲われる心配もあるので、気を緩めずに進んでいこう。



 やはりというべきか、僕がブルリンの背に乗っているのを見て、ニルヴァルナの人たちには驚かれてしまった。

 まあ、そこはさすがのニルヴァルナの戦士たち。

 共に同じ戦場を戦ったということもあり、すぐに慣れてくれたが……まさかセンリさんが……。


『ブルーグリズリーを使い魔としているなんてすごいですね!』


『え、相棒? 使い魔契約していない? なら私と同じですね!』


『此度の遠征では留守番をしてもらっていますが、私もアロウタイガーのロウガという虎の魔物とお友達なんです!』


『私たち、意外と似た者同士ですね!』


 なんかもう、すごい興味を示してくれてびっくりした。

 勢いがすごくてやや引き気味に会話をしたが、悪い人ではなさそうだ。

 センリさんやニルヴァルナの戦士さん達と交流しながら、魔王領までの道中を進んでいくが、以前来た時よりもかなりしっかりとした道が作られていた。

 魔物に襲われる危険性こそ付きまとうが、それでも道なき道を進んでいた時とは違い、余裕をもって進めているような気がした。


「魔物の気配はない、か」


 太陽が沈み周囲が暗くなったことで、野営をし早朝に再び都市へ向けて出発する。

 それまでの間交代しずつ見張りをし、魔物が襲い掛かってこないようにしているわけだが……今は僕を含めた五人でそれぞれ警戒をしている最中だ。


「グルゥ」

「ははは、魔物が来たらちゃんと起きろよ?」


 足元にはブルリンが座ったままうたたねをしており、僕は彼の頭をなでながら月明かりに照らされた森の中を見ていた。


「ウルルさんも慣れない旅で疲れていたみたいだしな」


 都市では魔族たちと関わることになるだろうから、その際にウルルさんのことをちゃんと見ておかなければ。

 オルガさんに任されている身だし、なにかあってからじゃ遅いからな。


「ん?」

「ウサトさん」

「センリさん?」


 野営をしている方向からセンリさんがやってくる。


「ちょっと鬱陶しい監視を逃れるのに手間取ってしまって……」

「え?」

「うふふふ! なんでもありません!」


 小声でなにかを呟いていたような気がしたけど笑ってごまかされてしまった。


「ニルヴァルナからの移動で疲れているでしょうし、お休みになった方がいいのでは?」

「この程度で疲れるほど軟な鍛え方はしていませんよ」

「……なるほど。一理あります」


 さすがはニルヴァルナの人だ。

 説得力がある……!


「そういえば、先日ニルヴァルナ王国のハロルド様とオウカ様と会う機会がありましたが、その時はオウカ様との握手の際に力試し……みたいなことをしていましたね」

「……へぇ、そうなんですか」

「ニルヴァルナでは、流行っていることなんですか?」


 そういえば、と思い浮かべたことをセンリさんに尋ねてみる。

 ミアラークに行った際に、オウカ様と握手した際に力を籠められたりした。

 センリ様も似たようなことをしたので、ニルヴァルナではそういう挨拶があるのではないかと思ったのだ。


「いえ、偶然でしょう。しかし、あに……オウカ様に力を試されるとは、反応はどうでしたか?」

「力を認めてもらった感じです。僕としては恐れ多いことでしたが」

「……」


 ルーカス様もそうだけど他国の王族の方に認められるというのも僕からしてみれば恐れ多い話だ。

 センリさんも興味を持ってくれているようなので、話の種としてニルヴァルナのことについて話すか。


「でもその際に、オウカ様の妹君を紹介されてしまってびっくりしましたよ」

「受けましたか?」

「え?」

「受けましたか?」


 暗くてよく分からないが、少し声を低くした彼女に首を傾げる。

 なんだか分からないが嘘をつく理由もないので正直に話そう。


「いえ、こちらの立場と事情もあって断りましたが……」

「……」

「センリさん?」

「あ、いえ、少しぼーっとしていました」


 大丈夫だろうか?

 斜め下を見てうつむいていたようだが。

 ……ちょっと話題を変えるか。


「センリさんはどうして魔王領に?」


 急な参加ということもあるので、なにかしらの目的や希望があると思っているんだが……。

 僕の問いかけにセンリさんは、少し悩んだ様子を見せる。


「そうですね。人を探しに、ですね」

「魔族に知り合いの方がいるのですか?」

「ふふ、いえ。そういうわけではありません」


 しかし会いたい人とは……。

 魔王領に向かうということは魔族の方に会いにいくわけじゃないのか?


「名前だけは知っているんです」

「どなたですか? 教えていただければ、魔族の知り合いに探してもらうように頼めるかもしれませんし」


 コーガやアーミラさんが知らなかったら魔王に聞いてみればいいし。

 ……いや、さすがに魔王に聞くのは駄目なのか?

 首を捻っているとセンリさんがその名前を教えてくれるようだ。


「コーガ、という人です」

「え、それ僕の友達です」

「そうなのか!?」


 素なのだろうか? 少し勇ましい口調で驚いたセンリさんはすぐにハッとした表情を浮かべる。

 まさか探している魔族がコーガだったなんて……。


「強い者は惹かれあう……!? つまりこの出会いは運命……!? は、わわわ……!?」

「? だ、大丈夫ですか?」

「ダ、ダイジョーブ……」


 深呼吸をして落ち着きを取り戻したのか、センリさんは後ろの木に背中を預ける


「しかし、意外ですね。まさかコーガだなんて」

「ウ、ウサトさんは、その人のことよく知っているのですか?」

「ええ、戦争を行っていた際は、戦う機会が多かったですし」


 いや、本当にあいつとは何度も戦ったな。

 ヒノモトから始まって、次が戦争、遺跡、そしてこれから向かうヴェルハザル。

 戦うたびに面倒な進化と、僕の技を模倣するあいつには本当に手を焼かされたものだ。


「強いのですか?」

「強いですよ。そりゃもう、面倒なくらいに。一時は、本当に殺されかけましたしね」


 これまで勝てたり圧倒できたのも、僕一人の力ではなく仲間たちの後押しがあったからだ。

 一人では、勝てるかどうかは分からないぐらいには強敵だと思っている。もちろん負けるつもりもないが。


「でもどういう切っ掛けであいつのことを知ったんですか? 悪くいうつもりはないんですけど、コーガって基本戦いのことしか考えてないやつなので、接点が見当たらないんですけど。……もしかして、復讐とかじゃ……」

「いえ、違いますよ。お名前の方がこちらから一方的に知る機会があっただけで……そうですね、会いたいと思うのは、やはり“強い”からですね」

「……なるほど」


 これがリングル王国やサマリアール王国の人がいったら不思議に思うが、ニルヴァルナの民であるセンリさんがいうのなら納得だ。


「では、僕が紹介しますか?」

「いいのですか……!?」

「ええ、コーガも面倒くさがりではありますけど、変なところで真面目な部分がありますし」


 本人の前ではここまでは言わないけど。

 しかし、コーガも隅にはおけないな。

 こんな美人に名前を知られているだなんて。


「た、旅に出てよかった……第一候補に第二候補、う、うふふ……いっそのこと今この場で……」


 ……なぜだろうか、なにか大事なことを忘れているような気がする。

 しかし、すぐに思い浮かばない。

 ニルヴァルナ関連でそこまで警戒することがあっただろうか?

 まっ、気のせいだろう。


「ウサトさん!!!」

「は、はい? どうしたんですか? 魔物も近づいてきますし、そんな大きな声を出したら……」

「今、この場で手合わせを———」

「センリ様ぁ!!」


 彼女が何かを言いかけたところで、野営の方からヘレナさんの慌てた声が聞こえてくる。

 当のセンリさんはどこかバツの悪そうな顔を浮かべる。


「……チィッ、勘づかれたか……!」

「貴方様はもう!! 油断も隙もあったもんじゃありませんね!? ウサトさん、この人になにかされませんでしたか!?」

「いえ? ただ話していただけですけど……」


 何かされるとはどういうことだ。

 そんな危ないことをする人には見えないんだが……。


「なら大丈夫ですねっ! さあ、早くテントに戻りますよ!!」

「くっ……ウサトさん、紹介の方、よろしくお願いしますねー!」


 ヘレナさんに引きずられてテントの方へ戻っていくセンリさんに頷く。

 再びその場が静寂に包まれる。

 なんだかよく分からない状況に、僕はその場でしゃがみ、さっきの大声で目を覚ましてしまったブルリンの頭をなでる。


「なあ、ブルリン」

「グゥ……?」

「ニルヴァルナって、なんだろうね……」


 力がものを言う国ってのは分かっている。

 しかし、それ以外に不思議な部分が多すぎる気がする。

ウサト、地雷を踏みまくった後に自覚なしにコーガにぶん投げる。

次回から、阿鼻叫喚の魔王領編が開始となります。


今回の更新は以上となります。

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― 新着の感想 ―
[一言] ウサトに武器にされたあたりからずっとコーガが不憫なんだがw
[一言] てっきり旅の道すがら センリ「誤チェストにごわす。こや、目当ての婿殿じゃなか」 ヘレナ「またにごわすか!」 ってするのかと思ってた。普通に会話できてて意外。
[良い点] 何故戦争が終わったのに阿鼻叫喚が起きるのか?、不思議ですねぇ?
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