第三百十話
お待たせしました。
第三百十話です。
会談が終わり、リングル王国へ帰ることができた。
魔王一行と別れる際には、まあ……楽しみにしている、だとか、お前が何をやらかすのかと見物だ……とか、魔王に愉悦に満ちたありがたいお言葉をもらってしまった。
まあ、魔王にはいつか一泡吹かせることを決意しながらも、今回の会談でコーガとアーミラさん、そしてシエルさんと交流もできたことは悪いことではないと思う。
それで、僕がまずリングル王国に帰還して最初にしようと思ったことがあった。
それは——、
「意思を持っているのはアウルさんだけのようです」
「あの小娘が……」
アウルさんのことをローズにチク……報告することであった。
魔術の影響で多少精神が歪んでいたとしても、彼女にとっての絶対的な強者は変わらないと判断してのことだ。
「アウルは悪魔に協力しているってわけか?」
「そのようです。なにか理由があるとは思いますが……」
「関係ねぇ」
「はい、関係ないですよね。はい」
剣呑な雰囲気のローズに姿勢を正す。
しかし、アウルさんが意思を持って蘇っていると聞いて、ローズの表情が僅かに緩んだので、心の中では彼女とまた会える機会があると知れて嬉しいのだろう。
……まあ、複雑な想いもあるのだろうけど。
「見つけたら相応の目に遭わせねぇとな。あのお調子者が……」
ま、それを声には出さないけれども。
周囲の空間が歪んだように錯覚して見えるほどに怒気を露わにしたローズを前にして、密かにアウルさんに黙とうを捧げる。
「お前はお前でやることがあるみてぇだな」
「はい。近いうちに城にいるウェルシーさんに『魔力回し』と『魔力感知』について報告と実践をしにいきます。その際に、魔王領への派遣についての話をするらしいです」
ウェルシーさんについては、なんというべきか……記録的なものを残すらしい。
カズキや先輩も同じようなことをしたというが、結構長くかかるものなんだろうか?
「相変わらずお前の周りは慌ただしいな」
「まあ、決めたことですから。僕自身、魔王領には向かうべきだと考えてはいましたから」
それにだ。
「派遣される身ではありますが、僕が救命団の所属であることは変わりはないです」
「ほう? いい心がけじゃねぇか。面白い」
僕の言葉に腕を組み、悩む素振りを見せるローズ。
どうしたのだろうか? と思い疑問に思っていると、彼女は顔を上げる。
「なら、うちから何人か連れていけ」
「何人か、ですか?」
「ああ、お前もうちの副団長だ。それくらいの融通は利く」
救命団員からか……。
強面達は……連れていければ楽だけど、でかいし顔怖いし言動が荒々しいからなぁ。
ネアは言わなくてもついてくるだろうし……。
「分かっていると思うがフェルムは連れていくなよ?」
「……ええ、分かっています」
魔王領を案内してもらう時とは違う。
僕は人間側の使者として認識されるかもしれないが、魔族から見ればフェルムは裏切り者だ。
いざこざを起こさないためにも、今はフェルムを魔王領に連れて行かない方がいい。
……拗ねそうだなぁ。
「連れていくならウルルあたりがいいんじゃねぇか?」
「ウルルさんですか? うーん、危険ではないですか?」
「魔族にビビるような奴でもねぇだろ。それにな、あいつはオルガに過保護すぎる気があるからな。これもいい機会だ」
でも確かに……化物染みたコミュ力を持つウルルさんが来てくれれば鬼に金棒だ。
まあ、断られれば大人しく引き下がるつもりだが、聞いてみるだけ聞いてみよう。
「んで、次が……カンナギとイヌカミが入団を希望してるって話か」
「はい。理由は先ほど報告した通りで」
次にナギさんと先輩が救命団への入団を希望した話についてだ。
こればっかりは僕の独断で決めることはできないので、団長であるローズの決定に任せることになっていた。
「カンナギの境遇からして話は分からなくもねぇが……イヌカミがか……」
「やはり難しいでしょうか?」
この短期間で団員を増やしすぎかもしれない。
少なくとも、ナック、フェルム、ネアがこの一年以内に入団しているわけだからな……。
「いや、そうでもねぇ」
「え、そうなんですか?」
「救命団はリングル王国直轄の部隊みてぇなもんだ。騎士団として預かりだったイヌカミが、うちの預かりになるってだけの話だが……問題は別にある」
「別に、ですか?」
別の問題とはなんだろうか?
まさか、その所属が変わるという点でなにかあるのか?
「単純に空きの部屋がねぇだろ」
「あっ」
「救命団宿舎は7、8人で住むことを想定した作りだからな。団員を増やしても、団員が泊まる部屋がなけりゃ意味ねぇ」
な、なるほど……。
ただでさえ、一部屋二人で割り振っているからな。
あと二人分の部屋を用意するにも、空きがない。
「……。ここも狭くなってきたってことか」
「団長?」
「宿舎もう一つ建てさせるか」
「は!?」
思い切りの良すぎる決定に驚く。
部屋がないからもう一軒宿舎を作るって豪快すぎないか!?
「男女で分けて住ませりゃ解決だろ」
「い、いや、そんなお金あるんですか!?」
「あるに決まってんだろ。むしろ持て余しすぎて困ってるくらいなんだよ」
そ、そんなにあるのか……。
救命団の活動を考えればおかしな話でもないけど。
「丁度いい機会だ。ここらで金を使っておくか」
「救命団の新宿舎ですね」
「気がはえーよ」
これからも救命団に入る人がいるだろうし、入団できる人が住める宿舎が増えることはいいことだ。
そう考えていると腕を組み椅子の背もたれに背中を預けるように脱力したローズが、やや気だるげな目で僕を見る。
「ウサト、お前もそろそろ自分の金の管理くらいしろ」
「そういえば、僕ってお金もらっていましたね……」
完全に忘れていたが、団員になってからしっかりと給料……褒賞はもらっていたのだ。
特に使い道とかなかったので、全然気にしてはいなかったけれども。
「いえ、別に使い道とかありませんし、そのまま貯金しておいてください」
「そういうとこまで、私に似なくてもいいんだよ……」
珍しく呆れた表情を浮かばせてしまった。
いや、実際欲しいものとかはないのだ。
飯も基本的に宿舎で作ったものを食べればいいし、一日のほとんどを訓練に費やしているのでお金を使う暇がない。
強いて言うなら訓練器具と本だが……本はネアが普通に貸してくれるので困らないし、訓練器具はそもそも売ってない。
「強面達は何に使っているんですか?」
「私もそこまで把握しちゃいねぇが……アレクは調理器具と食材で、他が故郷、身内への仕送りだな。トングあたりは街に住んでる恋人に送ってるって聞いたぞ」
「……はい?」
トングに、恋人?
なにそれ初耳なんですけど?
「えー! えー! ちょっと今からからかってきていいですか!」
「だからお前に話していなかったんだろ。あまり触れてやるな」
意外とは言わないがなんか新たな一面を知ってしまった気分だ。
隠し事が下手なので、顔に出てしまわないか心配だ。
「でも、トングって宿舎暮らしですよね? そんな人がいるなら街のほうに住んでた方がいいんじゃないですか? 全然、会えないでしょうし」
「いや、そうでもないようだぞ?」
そうでもない?
どういうことなのだろうか?
「街への走り込みの時に、顔を合わせてるんだとよ。それも毎日」
「めっちゃ青春っぽいことしてますね……」
むぅ、これは茶化すべき案件ではないな。
よし、このことは僕の心の内に留めておこう。
次もトングと喧嘩する時は、正々堂々殴りかかろう。
「金については、こっちで保管しておく」
「お願いします」
お金についてはいつかは使うかもしれないのだろうが、少なくとも今ではない。
話も一段落ついたところで、僕は気になっていたことについてローズに尋ねてみることにした。
「先輩の入団については、どう考えているのですか?」
ローズは反対こそしなかったが、なにかしら思うところがあるはずだ。
なにせ、これまでとは違い、先輩はリングル王国の勇者だから勝手が違う。
「素質としては問題ねぇだろ。なにより、イヌカミの性格はここ向きだ」
「……言外に問題児って言ってます?」
「それ以外にどういう意味があんだ?」
反論、できない……!
基本的に先輩は自由だ。
これまでは魔王軍と戦う勇者としての使命で動いていたが、それもなくなった今、彼女は自分の立場に悩んでいる。
「奴に必要なのは役目を終えた勇者っつー中途半端な立ち位置じゃなく。目的を持つことだろうな」
「それがここに入ることになると」
「それはイヌカミ自身が決めることだろうがな」
先輩が自分で決めるしかない、か。
異世界を楽しむ、というのが彼女の目的だというのは分かっているけど……。
「一度、顔を合わせる必要があるな」
「面接ですか?」
「んな、堅苦しいもんじゃねーよ。ま、場合によってはそうなる可能性があるがな」
……ローズが担当してくれるなら安心だな。
少なくとも私情が入ってしまう僕よりは。
「私からすりゃ、ウサト、お前の方が問題児だぞ?」
「貴女の訓練の賜物ですよ」
「口も達者になりやがってな」
その部分については貴女と魔王のせいです。
「長々と話しちまったな……ここまでにするか。退出していいぞ」
「あ、はい。失礼します」
お辞儀をし団長室から退出する。
団員を増やすかもしれないと相談した時は普通に怒られる覚悟をしたわけだけど、そんなことはなかったな。
「ウルルさんか……」
今回の派遣で連れて行った方がいいと勧められたわけだが、不安の方が勝る。
まずはウルルさんの意思が大前提。
次に彼女の身の安全と、ウルルさんがいなくなって診療所は大丈夫なのか、ということ。
なにより、お兄さんであるオルガさんにもちゃんと話を通さなくちゃならない。
「あ、ウサトさん!」
「おー、ナックどうしたんだ?」
廊下の先からナックが僕の姿を見つけて駆け寄ってくる。
「お疲れでなければ訓練の方を見てもらえないかなと思いまして」
「うん、いいよ」
休息は十分にとったし、なにより他ならぬナックの要望だ。
快く了解し、彼と共に宿舎の外へと向かう。
……そうだ、いい機会だし彼の現状について聞いてみるか。
「ナック。最近、伸び悩んでいることとかある?」
「うーん、身長、ですかね?」
物理的に伸び悩んでいるとかそういう話じゃなくてね?
まさかの天然ボケをかましてきたナックに内心で驚愕する。
「もうすぐ成長期だし、そんなに気にしなくても大丈夫だよ」
「いえ、でもアマコさんを見ていると不安になってくるんです」
僕は咄嗟に周囲を確認する。
……なんで今ヒノモトにいるアマコの存在を確認したのだろうか?
あの子なら予知魔法関係なしの直感で気付いていてもおかしくないから怖い。
「訓練とかでは?」
「……それなら、魔法ですね」
「治癒魔法?」
「はい。治癒魔法自体はほぼ元のように扱えることはできましたけど、目に見えた上達はあまりないので……ちょっとそこが伸び悩んでいるかなぁって思っています」
なるほど。
ナックの訓練を見る限り、深く切り込んだ魔法の訓練はしていないようだ。
「僕は魔法の訓練は独学だからなぁ。教えるにしても危険すぎて駄目だし」
「ウサトさんの魔法って治癒魔法ですよね……?」
「? ははは、そうに決まっているじゃないか。僕の魔法は安心安全の治癒魔法だ」
「自分の十秒前の発言と明らかに矛盾していることに気づいていますか!?」
治癒魔法が危険なんじゃない。
僕の魔法の使い方が危険だったんだ。
魔力回しは、継続していくことが一番の難関だったりするからな。
「これからは治癒魔法としての技術を上げていかなくちゃならないもんな」
むしろ、ただ走るよりはそっちのほうが重要になってくる可能性すらある。
「魔法……魔法の練習か。うん、そうだ」
「なにか思いついたんですか?」
「オルガさんの診療所に君を紹介するのもいいかなって思ってね」
オルガさんは僕とローズ以上に治癒魔法の扱いに長けた人だからな。
診療所という環境自体、普段患者があまり来ないここよりも断然いいはずだ。
……今日のところは、ナックの訓練に付き合おう。
ついでにフェルムとネアも呼んでくるかな?
ネアとフェルムに訓練が迫る3分前。
次回の更新は明日の18時を予定しております。
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本日、新作小説の方を投稿させていただきました。
新作『最弱! 雑魚! ひ弱! な俺の滅多打ち奮闘記~力の基準がぶっ壊れた世界で最弱を武器にして生き抜く~』
クソ雑魚主人公がお送りする勘違い系異世界コメディなお話となります。
ありそうでなかったお話でもあるので、感想を送っていただければとても嬉しく思います。




