第三百七話
昨日に引き続き二話目の更新となります。
第三百七話です。
悪魔襲撃から二日して改めて行われた会談。
今度は不測の事態に備えてファルガ様と魔王が魔術により万全の防備を整えてから会談に当たることになった。
僕にも警備としての役割が与えられたが、その配置は会場内ではなく外で出入り口を監視する役割に落ち着いた。
『すまないが、貴様がいると代表者達がざわつきを見せるだろうからな』
先輩とカズキたちは内側の警備。
僕が外側の警備ということで、現在警備員よろしく扉の前で立っている訳だが先日のように悪魔が襲撃してくる気配はない。
「ナギさんは、ここにいても大丈夫なんですか?」
隣の壁に寄り掛かるように背中を預けているナギさんに声をかける。
びくりと、耳を動かし驚いた様子を見せた彼女は、取り繕うようにして僕へと顔を向ける。
「ははは、平気だよ。私の役割は先日終わったからね。それにファルガ様は悪魔が来ないって断言していたし、心配はないと思う」
「まあ、ラプドがあんなことになれば悪魔も怖がって来れないですしね……」
「君もいるからってのも理由の一つだと思うけれど。ああ、いや、なんでもないよ……」
悪魔からしてみれば僕が唯一存在を欺く術に感知できるらしいからな。
僕としては好都合でもある。
『ウサト、すごい挙動で悪魔に殴りかかったもんね』
『まあ、あんだけ怖がらせれば来ないでしょ』
『今のお前と戦ってる奴の顔が恐怖に歪むほど、ボクは弱い時のお前に倒されてよかったと心の底から思うことにしてる』
同化しているアマコ、ネア、フェルムの声を聴きながら苦笑する。
フェルムに至っては中々失礼なことを言っているが、僕は寛大な心を以て許してやろう。
「君は、これからどうするんだ?」
「これからですか? うーん、立場的に自由に動いていいわけじゃないでしょうし、とりあえずは上の命令を待つ感じになりますね」
「そっか……」
「ナギさんはどうしますか?」
そう問いかけると彼女は悩まし気に腕を組む。
「そうだね。とりあえずは一度、獣人の国に向かうよ。それからはあまり考えてない。旅をしようかなとも考えたけど……私が見たいものは、もう君達と一緒に見てきたようなものだからね」
「籠手からの景色として、ですか?」
「その通り」
邪龍の心臓から刀が抜き取られたその時から目覚めていた意識。
正確には、ナギさんの記憶を持つもう一人のナギさんではあるが、二人の人格が一つの身体に収まっている現状としては意味はそれほど違わないだろう。
「だからさ、リングル王国の街並みをこの目で見てやりたいことはほとんどやってしまったみたいな感じなんだよね」
やりたいことが終わってしまったか……。
うーん、それなら新しいことを見つければいいんだけど、そんな簡単な話でもないしなぁ。
「……君の手伝いをしたいってのは駄目かな?」
「僕の、手伝いですか?」
「うん。魔族との橋渡し役。きっとすごく大変なことだと思うから、力になりたいって」
……。
その申し出は嬉しい。
しかし、ナギさんの境遇を考えると僕のやるべきことに彼女を巻き込み、縛り付けるのは非常に申し訳ない。
「わざわざ僕の手伝いなんてしなくても……ナギさんは自分の人生を生きてもいいんですよ?」
「いいや、違うんだ。別に無理に選んだものじゃなくて、ちゃんとした理由があるんだ」
理由?
微笑みながら首を横に振ったナギさんが続けて言葉を発する。
「私の人生はずっと戦いの連続だった。封印される以前は、たくさんの魔族も、少なからず人も殺めたし……」
「ナギさん……」
「君みたいな……いや、救命団のような、誰かのためになったり、誰かの命を助けられるような生き方をしてみたいなって思ったんだ」
まさか、そんな思いがあったとは……!!
ここまで言われてしまったら僕から何も言えるはずがない……!!
ナギさんに向き直った僕は、彼女の両肩に手を置き向き直る。
「分かりました……!!」
「え、えええ!? な、なに……!?」
人を助けたいと思う心。
その真っすぐな想いがあればそれで充分。
それに加えて、彼女の心の強さは僕も知っている……!!
ならば——、
「ならば、今日から貴女は救命団です……!!」
「い、いい、いきなり!?」
ナギさんが僕の言葉に慌てふためく。
嫌なら別に断ってもいいんだが、ナギさんが良ければの話だ。
『これほど絶望的な通告あるかしら?』
『無自覚な善意がこいつの武器だからな。えげつない……』
内側のマスコット共が失礼なことを言っているが、ナギさんにはナックと同じく救命団員としての素質を十二分に備えている。
「い、いいの!? 私なんかが!?」
「ええ、勿論……!! 団長も反対しないはず……!!」
『『『え!?』』』
僕が頷くとナギさんもどこか感動した様子だ。
このやり取り、ルクヴィスでのナックとのやり取りを思い出すな……!!
『乗り気!? 乗り気なのカンナギ!?』
『そうよ、こいつやばい身体能力してるから救命団の訓練とか全然平気だわ!?』
『そういえばそうだったな……こいつも大概おかしいんだった……!』
ナギさんの居場所を作るという点でも救命団は優秀だからな。
現状でヒノモトに向かうらしいけれど、数百年も時を経た今となっては、ナギさんにとっても色々と勝手が違うこともありえるだろう。
あ、そうだ……。
「もう一人のナギさんは? 貴女はやりたいこととかありますか?」
すると、ナギさんの手が僕の腕に絡めるように回される。
自らを引き寄せるようにさせた彼女の力はとても強く、容易に振りほどけない。
ん? 関節技か?
当のナギさんは一瞬きょとんとした顔の後に真っ赤になって慌てて離れる。
「わ、私の中の私が大胆すぎぃぃぃ!?」
『……本当に面白いよね、カンナギ』
『これがスズネだったら許してないけどね』
『大変だな、こいつ』
どうやらさっきのはもう一人のナギさんの仕業のようだ。
どういう意図なんだ? あれか? 手合わせしたいとか、力比べしたいといった感じなのか?
まさかあの遺跡での戦いの続きをしようと……?
●
二度目の会談は滞りなく終了し、僕達は魔王と共に宿へと戻ることになった。
今回の話の内容としては、魔族の処遇とその扱い。
魔王の話を聞くと、当分は魔族には監視としてリングル王国から人員が派遣されることになるらしい。
それから魔族の気性や、暮らし、大地が貧困するに至った原因を調査するなどのことを行うとのこと。
想像していた以上に悪い扱いではなくて良かったと思う反面、誰が派遣されるのかが気になった。
現状でリングル王国の騎士の方が魔王領にいるのは知っているけれど、それはあくまで配置されているだけで監視以外に何かするわけじゃないからな。
「で、その人員の一人をお前にする予定だ」
「……は?」
と、その話を魔王に呼び出された部屋で聞かされていると、あっさりとそんなことを言い放たれてしまった。
一瞬フリーズしながら僕は指で自身を指さし首を傾げる。
「え、僕ですか?」
「ロイド、ファルガを交えて話し合った結果だが、むしろお前以外に適任がいないだろう?」
「適任とは……」
「恐らく、悪魔の次の狙いは魔王領だろうからな」
「え、そうなんですか?」
「あくまで可能性が高いというだけだ」
なるほど……。
そういう理由なら納得だな。
「他の理由としては、お前は魔族に対して友好的に関わることができる。……まあ、魔族のイメージは悪魔だがな」
「それはあんたのせいでしょうが……!!」
「お前のせいでもあるぞ? 私は後押ししただけに過ぎないがな」
ぐ、ぐぐぐ……。
好きで悪魔扱いされているわけじゃないのに……!!
まあ、その部分については派遣された後にでもイメージを払拭できればそれでいい。
しかし、魔王領に派遣となると、その期間は魔王領に滞在することになるんだよな。
……ふむ。
「つまりは、出張救命団ってことですね?」
「は? 別にそういうわけでは……いや、そこらはお前の好きにするといいだろう」
「魔王様、なにか企んでいますね?」
「フッ、なんのことだか……」
じゃあ、救命団としての活動もできるかもしれないってことか。
こう思うのは駄目だろうけど、キーラにも会えるし楽しみでもあるな。
「明日の三度目の会談はお前も参加だぞ?」
「はい。魔力回しを実践すればいいんですね?」
「その通りだ。まあ、私がやればいいだけの話なのだがな」
これみよがしに高速で魔力を指から指へと動かす魔王。
まあ、この人なら普通にできてもおかしくないし、なんならそれ以外の方法で悪魔を察知していてもおかしくないので驚かない。
「魔王の私より、お前が教えたほうが効率がいいだろう。注目もされているようだしな」
「嫌味ですか?」
「いいや、愉快だなと思ってな」
ジト目になる僕にからからと笑う魔王。
本当に愉快そうに笑っているな、この魔王……。
「次で会談は終わりですか」
「ああ。その後の夜、代表者達が集ったことを祝しての宴を行うらしいが、私は辞退する」
そういえばそんなことをするってロイド様が言っていたな。
魔王が参加すれば空気が凍てつくどころじゃないだろうから、こればかりはしょうがない話だ。
「貴方も参加すればいいのに」
「お前も中々に皮肉が巧くなってきたな」
少しも効いた様子は見せないけどね。
……まあ、代表者達の宴なので僕は不参加だろう。
というより、僕に接触したい人々がいるという時点で参加したくないし。
「お前は強制参加だ」
「えぇ……」
「今後のために各王国の代表者の顔くらいは覚えておいたほうがいいぞ? お前はまず社交性を養え」
「はぁ……」
言っていることは間違いではないのだが、なんだかなぁ。
最悪、ローズと似ていると評された演技で乗り切れば誰も話しかけてこないだろう、うん。
「ああ、そうだ。シエルを連れていくといい」
「えっ、ちょ、魔王様、聞いていないのですが!?」
突然話を振られたシエルさんは紅茶を淹れる手を止めて驚きの表情を浮かべた。
「優秀な部下には少しばかりの褒美をやらなければならんからな」
「ウサトさん達がおかしいだけで、周りが偏見まみれなんですけど!」
シエルさんの言っていることも尤もだ。
そこらへんはちゃんと考えているのだろうか?
この人あれだぞ、多分あえて言わないで反応を楽しむタイプでもあるし……。
「私の配下を害するほど度胸のある者はいないだろう。コーガも護衛としてつける」
「アーミラ様にしてください!! コーガさんは適当ですぐにその場からいなくなってしまうので!!」
シエルさんからのコーガへの評価の低さに苦笑する。
アーミラさんが護衛としているなら僕もそれほど気張る必要はないか……。
「いやはや、敗北した先も悪くない。此度の会談も存分に楽しませてもらった。次も期待しているぞ? ウサト」
「本当に貴方という人は……!!」
戦争が終わったからって本当に好き勝手してくれるなぁ。
悪いことされるよりかはずっといいけれども、僕としては仕返しされた気分にさせられる。
出 張 救 命 団。
ウサト、魔王領に派遣される方針へ。
一方その頃、魔王領で馬車馬のように働かされていた幻影魔法使いが猛烈な嫌な予感を抱いたとのこと。
今回の更新は以上となります。




