第三百五話
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第三百五話です。
会談に現れた悪魔の追跡と、奴らに蘇らされたアウルさん達に会うために、僕は先輩、レオナさんと同化し、全力での追跡を試みた。
扉から出た僕の視界に最初に映り込んだのは、人で溢れかえった会場内の通路。
異変を聞きつけた護衛の方が押し寄せてきていると、すぐに察した僕はその場で跳躍する。
「ねえ、どうするのよ!?」
「天井を走ればいい!!」
「ひゃぁ!?」
壁と天井を蹴り、人混みを抜け屋外へ飛び出す。
方向はどっちだ!?
『貴様から見て左斜め後ろの方向だ』
「ファルガ様!」
『私が案内しよう』
「ありがとうございます」
頭の中で響いてくるファルガ様の指示に従った僕は、弾力付与を用いての跳躍——治癒ジャンプを用いて高く飛び上がり、壁を走る。
『私の高速移動とウサト君の変態機動であらゆる場所を駆け抜けられる! 行け行けー! ウサトくーん!!』
『これが君の見ている景色か……少し、感慨深いものがあるな』
『おい、ネア!? 大丈夫か!? 闇魔法で固定するぞ!?』
「あばばば!?」
雷獣モード2の電撃を纏いながら屋根から屋根へと移動、傍から見れば地上を電撃が走っているようにしか見えないだろうけど、注目されない分自然現象で済ませてくれればそれでいい!
「ふんッ!!」
一瞬でミアラークの端から端までの移動を果たし、間髪を容れずに治癒ジャンプで山なりに跳躍しながら、空中から対岸を確認する。
『湖の先だ。今の貴様とレオナの力があれば、容易く渡れることだろう』
「了解!! レオナさん、行きます!!」
『ああ、遠慮なく使ってくれ!!』
足から夥しい冷気が溢れだす。
生じた魔力は空中で氷塊へと変わり、それを足場にさせ空中で一気に加速する。
勢いのまま下から振り上げるように蹴りを放つと、冷気が形となって前方の湖面へと放たれる。
「治癒冷脚!」
『これは冷却と冷脚をかけた高度なネーミング……!』
『う、うーむ……』
『正直に言ってもいいぞ、レオナ』
「と、ととと、冬眠しちゃう!?」
放たれた冷気は湖面に直撃すると同時に凍り付き、一時的な足場へと変わる。
湖の水面から対岸まで、氷で形作られた道を目視しながら、僕は再び電撃を纏いながら全力で対岸へと走り出す。
「ひゃあああ!? どんな動きしているのよ貴方はぁぁ!? 貴方にしがみついてなきゃ今頃凍死してるからね私!!」
「治癒魔法もかけてる!!」
「どうりで安らぐ……というとでも思ったの!? プラマイゼロだわこれ!?」
胸の鎧の中にいるネアの絶叫に申し訳なく思いながら、氷の大地を蹴る。
あらゆる場所を足場とさせる脚甲。
それを用いて、湖すらも駆け抜けた僕は、もう氷の地面を蹴り砕きながら弾力付与による跳躍を行う。
「治癒ジャンプ!! さらにもう一度!」
空中に作り出した氷塊でさらに上に跳躍し、対岸で転移の魔術を発動させようとしている複数人の人影を見つけ出す。
9人!? その内二人は悪魔で、残りはアウルさん達か!!
『! やっぱり来ましたねー』
「見つけたぞォォォォ!!」
『『!?』』
彼らを目視した僕は、奴らの方に落下しながらレオナさんの名を呼ぶ。
「レオナさん!!」
『ああ!』
僕の周囲を囲うように氷の剣が現れ、それらが一斉に放たれる。
「は、ははは! さすがは隊長の見込んだ子だ!! めっちゃぶっ飛んでるじゃないですか! ギルグ!!」
『……』
黒衣の一人が前に飛び出し、強力な熱のようなものを掌から放つ。
それは一瞬で氷の剣を溶かしてしまうが、その間に僕は地面に足を叩きつけるように着地する。
「オラァ!!」
氷の魔法を解放し、悪魔とアウルさん達へ向かい氷柱を発生させる。
熱だけじゃ溶かせないくらいの威力だ。
「おっと、なら私の出番っすね」
ギルグと呼ばれた大男と共に、アウルさんがその手を前に突き出し、紫色の波動を放つ。
それらは氷に接触すると同時に罅割れ砕けていき、その間にギルグの放った熱の魔法が氷を溶かしてしまう。
「……」
『どうした? 攻撃しないのか?』
『あの紫の髪の女性の魔法が分からないうちは突っ込まない方がいい』
『ああ、ウサトが真正面から弾き飛ばされるほどだ』
数は空から確認した通りに九人。
悪魔二人に、アウルさんを含めて黒衣を着た七人。
七人は今まさに僕を取り囲んでいるが、悪魔の二人、ラプドは僕に怯えた視線を向け、もう一体は転移の魔術の準備を行っている。
「さーて、困りましたねぇ。これ数で上回っても負けますよ、これじゃ」
目の前に立っているアウルさんが呆れたようにそう呟くと、転移を行おうとしている女性の悪魔が声を荒らげる。
「いいから、あんたらは足止めしてなさい! 代わりはいくらでもいるのよ!?」
「はいはい。じゃ、そういうことで全力で嫌がらせと足止めするんで、よろしくっすねー」
七人のうち三人は能力が判明しているが、それを使われると厄介だ。
少なくとも僕一人だけでは、負けはしないけど勝つこともできない。
七対一というのはそれだけのハンデが存在するわけだ。
……まあ、考えるのも面倒くさいので。
「転移を止めればいいだけの話だ」
瞬間的に雷獣モード2を発動させ、包囲を無理やり抜ける。
狙いは女性の姿をした悪魔。
「まずは貴様からだァァ!!」
「え、は!? イヤァァァァァ!?」
悲鳴を上げる悪魔の首元に手刀を叩きつける――が、その攻撃はするりと通り抜けてしまう。
ッ、こいつも姿を隠しているな!
だがそれも僕にかかれば無意味!!
手の中に作り出した治癒魔法弾を地面に叩きつけ、周囲にまき散らすと治癒魔法の粒子が目に見えない存在に発動する。
むっ、こいつ片方の翼が半分しかない……!
……。
「貴様が犯人かァ!! 許さん!!」
葬られたアウルさん達の遺体を盗み、利用した張本人。
奴を叩きのめせば、彼女達をどうにかできるはず。
そう思い、透明化している彼女に攻撃を加えようとしたその時、僕の身体を白煙が包み込む。
「ウサト、さっきと同じ白煙よ!」
「こんなもの今の僕には意味なし!! フンッ!!」
治癒魔法を籠めた脚甲で地面を叩きつけ、治癒魔法を周囲に拡散させる。
近づいてくる三つの影を把握し、振るわれる剣を右の籠手で弾く。
さらに腕を引き戻し、瞬時に紫色の電撃を纏わせる。
「雷獣モード3!」
「「……」」
「電磁加速治癒飛拳!!」
一人が防御する動きを見せたがもう遅い!!
治癒加速拳も合わせて三度放たれた飛ぶ衝撃波は、攻撃を仕掛けようとした三人に直撃し吹き飛ばす。
『拳レールガン……? なにそれ、私も突きの要領でできないかな……』
『ここまで来ると最早別物だな……』
治癒飛拳により白煙が吹き飛ばされた先には樹に背中から叩きつけられた小柄な男と、鉄のような塊で防御している大男、そして紫色の魔力を纏わせた剣の鞘で防御しているアウルさんがいた。
「隊長、どこでこんな子見つけてきたんですかねぇ!! む、むむ!? 身体が……」
「拘束の呪術よ!」
「ナイスだ! ネア!!」
ネアの拘束の呪術により身動きの取れなくなった彼らを戦闘不能にすべく、攻撃を続けようとする。
しかし僕の前に音波のような魔法を操る女性、ナルカさんが割って入り魔法を放ってくるが、ネアを守り、気合で耐えながら体当たりを食らわせる。
「……ッ、また煙か!」
また横から煙が飛んでくる。
それに歯噛みしていると、煙と一緒に強烈な熱気も飛んでくる。
熱の魔法も一緒に飛ばしてきたのか……!
「レオナさん、合わせてください!」
『ああ!』
両手で作り出した治癒爆裂波にレオナさんの冷気を合わせる。
この煙ごと、熱気を吹き飛ばしてくれるわァ!!
『冷気よ!』
「治癒爆裂波!」
籠めた魔力を解放し、技の範囲内にいる者全てを凍てつかせる。
煙を吹き飛ばした先で熱と白煙を放っていた二人の動きを止める。
「隙あり」
『ッ、ウサト君!』
白煙が晴れると同時に僕の腹部に剣が突き刺さる。
すんでで籠手で掴み防いだが――、
「私の魔法って、衝撃に類するものなんですよ」
「なんだと?」
「君の攻撃、全部まとめて返してあげます」
剣の切っ先から腹部に大砲のような衝撃が腹部へと襲い掛かる。
……ッ、なるほどこれが彼女の魔法の正体か。
真正面からの衝撃を全身で受け止め、その場に踏みとどまる。
「え、ええ? 結構な衝撃を籠めたはずなんですけど」
あらかじめ、足の裏に氷で作った杭を打ち込んでなければ吹き飛ばされていたかもしれないが、耐えてしまえばこっちのものだ。
顔を上げ、左の籠手で肩を掴んだ僕に、アウルさんは笑みを引き攣らせる。
「衝撃が来ると分かればどうってことない……!!」
「いや、そんな隊長みたいなこと……って、あれ? 私ピンチ!? こ、このぉ、は、はなせぇ~!」
掴まれた肩と剣を離させようともがく彼女。
その力は並みの人間のものではなく、しかもさっきから流し込んでいる電撃さえ効いた様子はない。
「凄い力だ……! いったい何をされたんです!」
「それはこっちの台詞なんですけど!? 君、隊長に何されたんですか!?」
何をされたかだって……?
そんなもの貴方達が一番よく知っているはずだ!
「訓練……!」
「納得してしまうことが悔しい……!!」
この怪力も悪魔たちが亡骸になにかをしたのか……!?
だが、他を見る限りアウルさんだけが意識を持っているようだけど。
「ッ! そこか!」
背後から魔術で姿を消して近づいてくる何者かの首を、肩から作り出した闇魔法の手で掴む。
何もない空間から現れたのは、その手にナイフを持ったラプドであった。
どうやら不意を突こうとしたようだが、今の僕に生半可な不意打ちは通用しないぞ……?
「お前が、やったのか?」
「な、なんで、場所が!?」
「治癒感知が発動すれば、僕に隙はない」
「治癒感知ってよく考えなくてもやばい技よね……?」
『こいつに隙がなくなるとか……』
既に先ほどの治癒爆裂波で周囲には十分なほどの魔力に満ちている。
例え五感を欺こうとも、僕はそれ以外の感覚で見つけ出すぞ。
「よし、助けにくるなら今だぞお前ら!」
「!」
アウルさんの声に応えるように、全員が動き出しこちらへ向かってくる。
さすがにアウルさんを捕まえたまま彼らと戦闘をするのは危険なので、彼女を投げ飛ばした後に、拳を構える。
「……厄介だな」
最初に吹き飛ばした小柄な人は確実に意識を飛ばしたはずだけど、もしかしてこれが悪魔の魔術の効果か?
一人を倒しきる前に他が連携して動く。
仮に倒したとしても死人だから、肉体を無理やり動かして襲い掛かってくる。
それに加えて……!
「連携されると厄介極まりない……!!」
鉄を作り出す魔法。
熱を放つ魔法。
音波を発生させる魔法。
煙を作り出す魔法。
そして、衝撃に関係する魔法。
あとの二つは判明していないが、直接的な攻撃力こそはないがそれらを組み合わせて繰り出される技は、今の同化状態の僕でも足止めされるほど厄介だ。
「また煙か。……ッ!?」
雷獣モード2を発動する前に、強烈な音波が飛び一瞬挙動が遅れてしまう。
その隙を狙われ、地中から触手のように伸びた鉄が僕の両腕に絡みつき、固定する。
「クリス! ギルグ!」
「……」
ギルグさんともう一人の大柄な男、クリスさんがこちらへ掌を向ける。
熱とあれは……水か!?
それから組み合わされる技は……!!
「フンッ!!」
鉄をひきちぎり、正面から攻撃を迎え撃つ。
放たれる沸騰する水を目の前にし、僕は全力で脚甲から冷気を纏った蹴りを放つ。
二つの攻撃が中心で激突し、巨大な氷塊を出来上がるが、間髪を容れずに上から落下するようにアウルさんが斬りかかってくる。
「ッ!」
「私達はこれ以上死ねませんからねぇ! いくらやっても勝負はつかないですよ!!」
「このままじゃ時間が過ぎるだけです!」
「それが目的ですからねぇ!!」
「だから、やり方を変えます」
アウルさんから離れながら僕は、戦法を変える。
今の形態は確かに強いけれど、逆の使い方もできる!!
「先輩! レオナさん!」
「任せてっ!」
「ああ!!」
勇者二人をこの場に出すこともできるということだ!!
僕から現れた二人は、瞬時にそれぞれの敵へと向かっていく。
「ネア、同化だ!」
「ようやく安全地帯に戻れるわ……!」
僕もネアと同化しながらアウルさんへと向かっていく。
先輩とレオナさんの同化を解いたことで、左腕と両足の装備は消え去るが、元より僕は今の姿の方が一番合っている!
「本当に君はびっくり箱みたいな子ですねぇ! 隊長以上におかしい生態してますよ!」
「僕は、救命団、副団長! ウサト・ケンです! 団長の、ローズの部下の治癒魔法使いです!!」
突然の自己紹介に目を丸くしたアウルさんだが、彼女は愉快気に笑うと剣を振るいながら口を開く。
「どうも私は、君がやってくる前に死んだアウルです! 隊長は救命団って組織の団長をやっているのかな!」
「はい! 人の命を助けるための組織、それが救命団です!!」
戦いの最中に行われるはずのない自己紹介。
剣と拳がぶつかり合う中で、アウルさんにずっと言おうと思っていたことを口にする。
「アウルさん! 貴女を、団長の元へ連れていきます」
「……ハハッ、会えるもんなら会いたいですよ」
一瞬、空しそうに笑った彼女に呆気にとられる。
「だけど、こんな様で合わせる顔があるはずないで……しょ!」
しかしその表情もすぐに変わり、軽薄な笑みに戻った彼女は、側方に掌を向けると――、掌から魔力を衝撃波を放ち、変則的な加速と共に移動する。
「それは……!」
「衝撃波にはこういう使い方もあるんです、よ!」
振り下ろされる斬撃。
それに対して僕も籠手から魔力を暴発させ、発生した衝撃波による加速で避ける。
「はい!?」
「まさか僕と同じ技を使うとは……! さすがはアウルさんだ……!」
「いや絶対君の魔法の正しい使い方それじゃないですよね!?」
アウルさんの魔法は衝撃波を作り出し、また相手の攻撃を自身の衝撃波として利用することのできる攻防一体の魔法だ。
迂闊な攻撃は彼女に反撃の隙を与えてしまうし。
『たしかにその通りね』
『そういえば、こいつ何で治癒魔法で加速してんだ?』
ならば一撃で彼女を戦闘不能にさせ、拘束の呪術で固めればいい。
レオナさんと先輩も優勢に戦ってくれているから、一人ずつ確実に動きを止めていく。
「想像以上に一対一は厳しいっすね……!」
「……!」
僕とアウルさんが衝撃波を駆使して移動していく。
しかし、僕と彼女の動きに違う点があるとすれば――、
「弾力付与!」
弾力付与による移動があるということだ。
一瞬、彼女の動きを上回り、前に回り込んだ僕は拘束の呪術を籠めた拳を引き絞る。
「会えるものなら会いたいなら、意地でも会わせてやります!!」
「は? や――」
拳を繰り出す。
確実に当たる一撃と確信し放たれた拳だが、目の前で驚きの顔を浮かべていたアウルさんの姿が前触れもなく消えたことで空を切る。
「な、消えた!?」
『ウサト、右方向!』
右を見ると、そこには白い光に包まれたアウルさん達と、魔術を発動している女性の悪魔がいた。
先輩とレオナさんの方を見ると彼女達も困惑した様子で武器を構えており、僕と同じように目の前から敵が消えたようだ。
「治癒爆裂弾!」
「電撃・子の火突き!」
「凍てつけ!」
三人同時の攻撃が光に包まれたアウルさん達に殺到する、がそのどれもが弾かれてしまう。
なんだ、あの魔術は!
「長距離転移魔術!“転送の呪術”!! も、もうお前達の攻撃が通る次元にはいないわよ!! この化物!! ばーけーもーのー!!」
「あぁ!?」
「ひぃ!? そ、そんな凄んでも意味ないわよ!」
意気揚々と煽ってくる女性の悪魔を睨むとすぐに怖気づく。
使っている魔術こそは強力だが、本体はそうでもないな。
「うっわー、キレてる顔も隊長そっくりー……。ん? そういえば、ラプなんとかさんは? あれも一緒に転移する予定でしたよね?」
「あ、あいつは逃げたわ……。だから転移するのは私達だけよ……」
転移は止められないか。
まさか、ここまですごい魔術を準備しているとは思いもしなかったが……。
「ウサト君でしたね」
「!」
「じゃ、また会うことになると思うんで。その時にまたよろしく」
「敵に挨拶しないでよ! もう転移するわよ!」
明るく笑いながら手を振った彼女は、そのまま白い光に包まれどこかに転移してしまう。
残ったのは戦闘の跡と、転移の際に丸くくりぬかれた地面だけであった。
「逃げられてしまったな」
「いえ、収穫はありました。相手の正体と……リングル王国から盗まれた遺体が利用されていた事実を確認できました」
「……大丈夫か? ウサト」
心配そうなレオナさんに、頷く。
僕は大丈夫だ。
思っていた以上にアウルさんが意思疎通できて驚いたけれども。
「ウサト君、レオナ。ラプドだけ転移されていないってことは……」
「近くにいるかもしれないってことですね」
「探そう。捕縛して、悪魔についての情報を得ることができるかもしれない」
そう遠くへは行っていないだろう。
今から探せば見つけられるかもしれない。
ふと、ミアラークの方を見れば、こちらに向かう船を確認する。
「捜索は僕と先輩が。レオナさんは、ミアラークの騎士さんに捜索の指揮を……」
「ああ、了解した。……くれぐれも気を付けるんだぞ?」
「はい。念のため、二人で行動——」
『うわあああああああああ!!』
「ッ!!」
先輩と共に森の方へ向かおうとすると男の叫び声が響く。
忘れることのないこの声は会談に現れた悪魔、ラプドの声だ。
恐怖のままに絶叫するその声に、僕と先輩は急いでその場へ駆けだす。
『ウサト、イヌカミ、急いだほうがいいかもしれん』
「ファルガ様、何があったか分かりますか!?」
『いいや。だが、ラプドと名乗った悪魔の存在が消えかかっている』
悪魔が消えかかっている!? いったいどういうことだ!?
「先輩、急ぎましょう!」
「そうした方がよさそうだね!」
僕と先輩が全速力で叫び声が聞こえた場所まで駆ける。
十数秒かけてようやく奴の叫び声がしたと思われる場所に辿り着いた僕達が目にしたのは――地面に煤のように広がる黒い灰が、風に乗って消えようとしている光景であった。
地面に落ちた灰を見下ろし、周囲を見回した僕は遠隔で見ているであろうファルガ様に語り掛ける。
「ファルガ様……これはもしかして」
『ああ、悪魔の残骸だ。魂ごと砕かれている?』
「そんなことが可能なのですか?」
先輩の質問に悩まし気な反応をするファルガ様。
彼が言い淀むということは普通のことではない。
今まさに、異常なことが起こっている。
『悪魔とは不変なものだ。人々が恐怖を抱く限り、その身を砕かれたとしても、いつかは復活する。……時間はかかるがな。本来、悪魔は封印することで無力化するはずだったが……ラプドは、復活の余地すら与えられずに殺された』
「……」
『それが可能だった人間はただ“一人”しか我は知らない』
ヒサゴさん、だけか。
しかし彼は既に過去の人だ。
まさか彼までもが生き返ったということがあっていいはずがない。
『おい、ウサト。地面になんかある』
「ん?」
フェルムの声に地面を見ると、ラプドの残骸の灰の近くに赤い染みのようなものが落ちているのを見つける。
地面に数滴……いや、それなりにある血はまだ固まってない。
「これは血か? ラプドはここで誰かを襲おうとしたのか? ネア、調べられるか?」
『ええ、任せなさい』
僕の身体から飛び出したネアが、フクロウの姿のまま地面に落ちた血を見る。
「まだ新しいわ。……血の匂いからして若い女よ。大した怪我ではなさそうだけど……」
「匂いを追えるか?」
「私はそこまで嗅覚は優れていないわ。近くにいけば分かるけど……」
「いや、無理を言ってごめん」
もしかしたら怪我人がいるかもしれないのか。
なら、ここらへんをまだ探した方がいいかもしれない。
『ウサト、イヌカミ。ラプドの灰を持ち帰り、一旦ミアラークに戻れ』
「いえ、もしかしたらここに怪我をした人がいるかもしれません」
『悪魔を殺しうる武器を持った危険な者の可能性が高い。今、貴様達を危険にさらすわけにはいかん。……貴様の心情も理解できるが、こちらも心配しているのだ』
「……はい」
深追いはするべきじゃない。
自分を納得させながら、僕は闇魔法で作り出した瓶にラプドの灰を詰める。
「……あとは、これぐらいはしておくか」
探しにはいけないが一応のことはやっておく。
手に作り出した魔力弾を弾力付与で包み、樹の幹に置く。
見た目は透明感のある緑色のスライムだが、触れれば治癒魔法だと分かるはずだ。
「ウサト君、何をしているの?」
「弾力付与で包んだ魔力弾を置いておきます。もし怪我をした人がここに戻ってきたら、これを使ってくれるかもしれません」
弾力付与が解除されてしまえば消えてしまうだろうが、それでも一時間はもつはずだ。
遠くに離れると、使用されても僕には分からなくなってしまうが、それでも別に構わない。
「名付けて置き治癒魔法弾です」
「へぇ、なら人に持たせることもできるようになったってこと?」
「制限時間ありですけど、そんな感じですね。……さて、戻りましょう」
早く戻ってロイド様に僕達が無事だということを知らせなくては。
会談もまだ混乱したままだし、悪魔を撃退した後もやることが多くて大変だ。
同化ウサトやばすぎて、足止めに徹するしかないアウルたちでした。
各員魔法系統まとめ。
アウル:衝撃
ギルグ:火炎系統“熱”
クリス:水系統
ナルカ:風系統“音”
ベス:風系統“煙”
ジョッシュ:土系統“鉄”
ディン:不明
とりあえずアウルだけ覚えておいていただければオッケーです。
今章終わりの登場人物紹介にて、魔法の特性などを紹介していく予定です。
次回の更新は明日の18時を予定しております。
次回は閑話となります。




