第三百三話
お待たせしました。
第三百三話です。
連合国会談が行われる会場は、中央に空いた丸い大きな空洞を囲むように各国の代表者達が座る席が設けられている作りだ。
参加国の多さもあって席の数は膨大だ。
前列に位置する場所には連合国会談開催国でありミアラークの女王、ノルン様とリングル王国の王、ロイド様、そして魔王軍という今回で最も特異な立ち位置にいる魔王が座ることになっている。
真ん中にぽっかりと空いた空洞については、なんとなく察しがついているので疑問には思わないが、今回の会談でどのような議論が交わされるのかが重要になる。
「会談が始まるまでここで大人しくしていてくださいね、魔王」
「言われなくとも分かっている。私はこの位置で今回の会談を楽しませてもらうさ。……ま、なにか起こる可能性は高いがな」
「その何かを教えてください……」
「クハハハ」
尊大な様子で椅子に腰かけた魔王に、先輩と顔を見合わせため息をつく。
コーガとアーミラ、シエルさんは魔王の傍に控え、僕と先輩が椅子が設けられたサークルの外の壁際で警備を行う。
「ここからなら私達の速さで一瞬で駆けつけることができるね」
「そうですね。アマコとナギさんの予知魔法もありますし」
『私に任せて』
『会談でどんな内容を話すのか楽しみねー』
『何事も起こらなけりゃ越したことはないが……』
カズキとシグルスさんはロイド様、レオナさんとカロンさんはノルン様の護衛を行っており、そちら側の警備は万全といえるだろう。
あとは各国から連れられてくる護衛によるが……。
「帯剣が許可されているのは少し怖いですね」
「今回の会談は亜人も参加する異例のことだから、迂闊に武装をさせないのは悪手と判断したんだろうね」
ぞくぞくと集まってくる国の代表者とそれに仕える護衛の者。
基本的に一つの国から代表者数名と、会場に連れてくる護衛2~3人といったところだろう。
それだけのスペースも用意されている。
「やっぱり、あれだね。ちょっとした体育館より広くてびっくりするよね」
「ははは、そうですね……。む」
「どうしたの? ウサト君……ああ、彼か」
僕と先輩の視線には先ほど会場に入ってきた国の代表者と護衛の姿が見える。
リグナスと彼が仕える国王の姿。
先日の態度の悪さとはうって変わって静かな面持ちの彼は、無言のまま王様と思わしき老人へとついていく。
「……彼には要注意だね」
「実力的にはそこまでではありませんが、何も考えずに周りに危害を与えようとすれば怖いです。用心には越したことはないでしょうね……」
リグナスに警戒の視線を向けていると、ふと僕と先輩の前に誰かがやってくる。
赤い特徴的な髪に強気な瞳の彼女に、僕と先輩はすぐに彼女が誰だか気付く。
「ナイア王女、お久しぶりです」
「四王国会談以来ですね。スズネ様、ウサト様」
カームへリオ王国の第一王女のナイア王女だ。
彼女の傍に控える護衛の騎士を確認していると、ナイア王女が申し訳なさそうな表情をする。
「申し訳ありません、挨拶に向かうのが遅れてしまいまして。リングル王国のロイド様の元に挨拶に伺ったのですが、お二人は魔王の護衛と監視の任を受けていると聞いて……」
「いえいえ、お気になさらず。立場上、魔王のいる場所に向かうのは難しいのは理解していますから」
「そう思ってくださり助かります」
先輩の言葉にホッと安堵するナイア王女。
そういえば、カイル王子はいないのかな?
「カイル王子は今回はこの会談に?」
「ふふ、いいえ、カイルはここに魔王が来ると聞いて怖気づいてこなかったのです。カームへリオからこの場に来たのは私と、二人の大臣だけなんですよ」
「なるほど……」
やっぱり国を空けるのを避けたい方もいるから大臣や子供に会談を任せる王様もいるんだな。
でも、それだけナイア王女が信頼されていると言うこともあるのだろう。
それにしても、カイル王子は来なかったか……。
何を思ったのか、微笑んだナイア王女は、口に手を添えて僕と先輩にだけ聞こえるように声を潜めて話しかけてくる。
「ケイトさんからの手帳、届きましたよ」
「! そうですか……よかったです」
ゲルナ君と同じく、魔王軍との戦いの際に援軍として来てくださった治癒魔法使いの一人、ケイトさん。
彼女はカイル王子とカームへリオの大臣により、リングル王国の治癒魔法使いの育成法について探るように頼まれていたわけだが、天然な彼女のおかげでそれを察知したんだ。
ケイトさんの持っていた手帳に僕が色々とアドバイス的なものを書いて、ナイア王女に送るように頼んだけれど……うまく渡ってくれたようだ。
「貴重な治癒魔法使いからの助言として生かさせてもらおうと思います。あとカイルにお仕置きもしましたからご安心を」
「ははは、ケイトさんはお元気でしょうか?」
「ええ、貴重な治癒魔法使いですし、話していて面白い方ですから私個人として懇意にさせていただいております」
ケイトさん大出世じゃん……。
明るい人だし、そういう人と一緒にいるだけでも自然と元気になれるのかもしれない。
「……ハッ!?」
ん? 突然何かを思い出したような顔をした先輩が僕とナイア王女の間に割って入った。
どうしたのだろうか? と首を傾げる僕と彼女に先輩が一瞬フリーズした後に、慌てた様子で言葉を発する。
「そ、そそそ、そういえば私の噂についてはどうなったのかな!?」
「!?」
『自分から突っ込んでいったわよ、スズネ』
『予知しても理解できないことを……』
『なーにやってんだこいつ……』
自分から地雷を踏みにいく先輩に逆に僕がビビる。
ナイア王女もやや引き気味な様子で答える。
「え、えぇと、申し訳ありませんが、訂正のお話が出された後も……その、未だに鎮静化はされていなくて……」
「そ、そうなんだぁ。あ、あはは……」
恐るべしカームへリオ……。
未だに美形化された僕の顔が出回っている事実に恐ろしくなる。
「あまりお時間を取らせる訳にもいきませんね。すみません、いきなり話しかけてしまいまして」
「いえ、こちらとしてもケイトさんのお話が聞けてよかったです」
軽く言葉を交わした後にナイア王女と別れる。
気づけば会場内を人で埋まっていくのを確認しつつ、先輩へと話しかける。
「先輩、さっきはいきなりどうしたんですか?」
「あー、えーっと……その平行世界というか、そうと決まったわけじゃないっていうか……」
「え?」
「ちょ、ちょっと、ネアと喋らせて」
「?」
なんだろうか?
とりあえず、自身の内にいるネアに意識を向ける。
「え? ね、ネア、先輩が君と話したいって」
『えー、なによー』
僕の掌からフクロウ状態のネアが出てくる。
差し出した掌に飛び移ったネアを見た先輩は、ひそひそと僕に聞こえない声で会話をしはじめた。
『平行世界のウサト君の恋人がナイアかもしれない……!』
『接点ほとんどないわよ……!?』
『平行世界のカロンが、ナイア王女がウサト君のこと心配してるって言ってた……』
『……マジ?』
「ねえ、なにを話しているんだ?」
声をかけるとびくりと肩を震わせた先輩とネアがぎこちない笑みを浮かべてこちらへ振り返る。
な、なんだ? なにかあったのか?
「私のはやとちりだったようだ。気にしなくてもいい」
「そうね、スズネの早とちりよ。全く、おっちょこちょいなんだから。ウサト、貴方の中に戻るわよ」
そう言葉にして再び僕と同化するネア。
そもそもなにを早とちりしたんだ? ……今考えてもしょうがないか。
とにかく、もうすぐ各国の代表者達が揃う、お喋りもここまでにして気を引き締めて警護をしなくちゃな。
●
各国の代表者が一堂に集まった会場は、まさしく圧巻の光景であった。
大小問わずに国を代表する人々が同じ場に座り、今か今かと会談が始まるその時を待っている。
僕と先輩は、静かに周囲に変化がないか警戒していると、中央に空けられた穴の傍に用意された手すりの取り付けられた台に、ノルン様がのぼる。
『今日、この場に集まっていただけた各国を代表する方々には深い感謝の言葉を、申し上げます』
声を大きくさせる魔具だろうか、それを用いて会場全体に声を響かせる。
『此度の連合国会談におきましては魔族の処遇、並びに彼らの置かれている環境、そして先代勇者に対して我々が犯した過ちと、他ならない彼自身が犯した過ちについてご説明させていただきます』
多少のざわつきを見せるが、まだ大きな反応はない。
『その前にこの場にてもう一人、この議会に参加するお方をお呼びします。混乱を避けるための突然の参加となりますが、どうか騒がず、落ち着くようお願いします』
恭しくノルン様がお辞儀をする。
すると、会談の中央に空いたがらんどうの穴から、大きな振動と共に青い姿の大きな頭が出てくる。
恐らく、魔術でやってきたのだろう。
ゆっくりと頭から胴体まで姿を現した長いひげを持つ龍―――ファルガ様は、驚き、慌てふためく会場の方たちを見て静かに声を発する。
『驚かせたようで、申し訳ない。我は神龍ファルガ、人間に寄り添い、その営みを見守ってきた存在であり、その過去を知る者である』
『『『!!?』』』
『此度の会談は、この時代を生きる人間にとって重要な選択を迫られるものになる。とても難しく、困難な願いではあるが、今のこの時、亜人に対する偏見と敵愾心を忘れ、同じ視線を持つことを願おう』
ここでなにか文句を言えるのは勇者だ。
いや、隣に本物の勇者がいるけど。
なるほど、ファルガ様が出るとこういうことができるのか。
「ファルガ様、間近で見ると大きいね。おひげもたくさん」
「かっこいいですよね」
「うん、分かる」
先輩と意見が合っていると、ファルガ様の視線が僕へと向けられる。
軽く頭を下げ、無言で挨拶をすると彼は周りに気付かれない程度に会釈をしてくれる。
「さあ、ここからが本番だな」
会談が始まる。
秘匿事項故に話す内容は事前に知らされていないが、中々に荒れる議論になるのは予想できていた。
まずはリングル王国のロイド様から。
彼は、魔王軍とリングル王国との争いについて語り、魔王を打倒した後の魔族への対処について嘘偽りなく、正直な説明を行った。
ファルガ様がいるからか驚くくらいに会談は静けさに包まれていた。
議論が交わされない、そんな時に会談席の中から、一人の男性が手を軽く掲げて発言をした。
『魔族は危険な存在ではないのかね?』
ルーカス様だった。
さすがは大きな国を治める王様。
一瞬、僕を見てキリッとしたドヤ顔を見せたような気もしなくもないが、それでもさすがである。
ルーカス様が率先して質問をしたことにより、周りの代表者達も一人、一人と発言を行っていく。
『なぜ、滅ぼさなかった?』
『いいや、滅ぼせばさらなる問題が起きる』
『隷属などもっての外だ』
『禍根は断つべきだ』
『なにか理由があるのか?』
当然の如く、様々な意見が飛び交うことになった。
魔族を滅ぼすべきだった、支配すべきだったと、迂闊な支配は好ましくないという意見。
それ以外は中立が多くを占めた。
次は、魔王だ。
彼が台に上るとどよめきが目立ったが、そんな反応を少しも気にせずに彼は、ゆっくりとはっきり伝えるように現状、魔族が置かれている状況を事細かに説明した。
もちろん、魔王の証言だけでは疑われてもおかしくはないので、その際にはリングル王国の勇者であるカズキと、ミアラークの勇者のレオナさんが実際に目撃した魔王領の状況について口にした。
『自業自得では?』
『土地の荒廃は魔族のせいでしょう』
『人間と魔族の確執を考えるのならば、侵略しか手がないのも頷ける』
『しかし、脅威は依然として変わらないのでは?』
『いや、元より魔王ありきの軍だとすれば、土地の問題を解決すれば争う必要はないとも考えられる』
『それこそ早計だ。魔王の真意が依然として分からんうちは危険すぎるだろう?』
これも予想通り混沌を極めた。
過去のやらかしで印象が悪くなっている魔王は当然の如く信用されていない。
魔族に同情的な意見が出てくるが、それでも同じくらい否定意見も出てくる。
しかし、当初の予想としてはそれは分かっていたことであった。
魔王の次に出てきたのは、ナギさんだ。
警戒を解くためか、持ち歩いている黒刀を席に置いた彼女は、深呼吸をした後に台へと足を架ける。
『彼女はかつて先代勇者と共に旅をしていた獣人、カンナギ。魔王と同様に先代勇者により封印され、最近目を覚ました彼女が、先代勇者ヒサゴについて語ることになる』
信憑性を高めるためファルガ様が彼女を紹介する。
やや緊張した面持ちで、彼女が口を開く。
『魔族は確かに争いを起こしたが、なにもそれは魔族だけではありません。私が生きていた時代は、人間という種族は皆、争いの中にいた。その最中に、彼は今は滅ぼされた王国に召喚された』
誰もが先代勇者の英雄譚を知っているだろう。
しかし、それは光の当たる綺麗なことばかりだ。
その過程に彼の身に起こった出来事も、身勝手な人々によりその運命を捻じ曲げられた彼のことは誰も知らない。
その事実をナギさんが言葉にしようとした時、彼女と僕と同化しているアマコが予知魔法で何かを見た。
『ウサト、来る』
アマコからこれから数十秒後の予知の内容を聞き出し、先輩に小さく声をかける。
「先輩、来ます」
「嫌な予想ってのはどんどん当たっていくものだね……!」
無言のまま立ち上がり、ゆらり、ゆらりと階段を降りていく人影。
ヴェリナス王国の代表。
予知の内容で既に分かっている。
僕と先輩は、迷わず動き出す。
「治癒拘束弾」
一瞬で老人の前に移動した僕は治癒拘束弾を叩き込み、そのローブを掴み床へと押さえ込む。
その上から先輩が、刀の切っ先を向ける。
「何事だ!!」
「ここは会談の場だぞ!!」
状況が飲み込めず騒ぎ出す代表者達。
「ウサト、スズネ! そのまま押さえ込んでくれ!」
「はい!」
レオナさんに返事をし、そのまま老人の身体に拘束の呪術を流し込んでもらい、動きを止める。
事情を把握しているファルガ様達は冷静な様子だが……ッ!?
背後から振り下ろされる剣を弾き、拳を叩き込む。
「リグナス……! それに周りの騎士もか!!」
『ウサト、出られる!』
ヴェリナス王国だけではない。
他の王国の騎士の何人かが操られたように、僕に剣を向けてくる。
僕の拘束が一瞬緩んだ時、ヴェリナス王国の代表の目が黒く染まり――、そこから泥のようななにかが溢れ、黒い翼の生えた浅黒い肌の男が現れる。
「ははは! 小細工を弄したな、人間!!」
たからかに笑い現れた男は、上半身の露出の高い服を纏いながら僕達を嘲笑うように周囲を見回した。
魔族とは異なる角、尻尾、そしてコウモリのような翼。
僕がイメージする悪魔と合致する姿をしたそいつはこちらを見下した笑みを浮かべる。
「あれが、悪魔か」
空中に飛び上がったそいつを目視すると同時に電撃を纏った先輩が斬りかかり、カズキが魔力弾を飛ばす。
しかし、それらは奴の身体を素通りし攻撃が届くことはなかった。
……本体に届かない? それとも本体は別にいるどちらかか。
「治癒爆裂弾!!」
僕も治癒爆裂弾を投げつけるが、それすらも素通りし破裂した魔力の粒子が会場全体を包み込むように広がっていく。
「動くな、死人が出るぞ?」
「!」
会場内で立ち上がった代表、護衛達がその手に持っているペン、剣を喉元へと向ける。
人数こそは少ないが、それでも会場内に点在するように操られた人々。
悪魔の登場で、状況は混沌としていく。
会談の内容はやや簡略化。
あまり議論が白熱すぎるのも冗長かと思いましたので。
次回の更新は明日の18時を予定しております。
※今年も夏のホラーイベントに参加させていただきました。
夏のホラー2020
短編『君を想い、背中を押す』
駅×ヤンデレの短編となります。
興味があれば読んでいただけたらな、と思います。




