第二百九十三話
お待たせしてしまい申し訳ありません。
ハヤテさんと近況や愚痴? などを語り合った。
内容的には元気すぎるリンカやカノコさんについての話が主であったけれど、不思議と族長としての立場に対してのものは少なかった。
一時間ほど話した後、ハヤテさんのいる部屋を出て先輩達のいる下の階へと向かうとそこには
『お姉ちゃんの座は私のものだよ……!』
『す、スズネ、ちょ、やめ――』
と、どう見てもいつも通りな先輩が涙目のナギさんに飛び掛かっている光景が視界に飛び込んできた。
流れ的にリンカが『お姉ちゃん』と呼んでいる人がナギさんと先輩の二人だったからという理由なのは察した。
先輩固有のコミュニケーションだということは理解しつつも、彼女をナギさんから引き離しながら、ふと気になったことを尋ねてみた。
『でも先輩って弟は欲しがらないですよね』
『がふっ!?』
『先輩!?』
ものすごい勢いでむせた先輩には驚いた。
その後、ちょっとした騒ぎもありながらもアマコ達と一旦分かれた僕達は、自分たちの泊まる宿へと戻ることになった。
宿に戻った後、外が暗くなってきたところで魔王達も城から戻ってきた。
「まさかお前と同部屋と思わなかったぜ」
「僕としては部屋を替えたい気持ちだけどな」
それから食堂で夕食を食べた後、僕は自室の椅子に座りコーガと話をしていた。
監視する上で同部屋が望ましいのは分かっているが、こっちの命を狙ってきた奴と同じところで寝るのは少しばかり抵抗がある。
「そういえば、お前魔王様から疑似餌扱いされてんぞ」
「なんだと」
ファルガ様との会話の内容までは知らないが、僕に対して不名誉なことを魔王が話していることが判明してしまった。
「お前、悪魔に恨まれてっから狙われやすいんだと」
「僕は人畜無害の治癒魔法使いだぞ」
「……冗談だよな?」
「うん、オーガジョーク。面白いか?」
「ははっ。……二度とするな、冗談にならねぇから」
我ながら悪魔に対して恨まれる筋合いはあることを理解していたので、冗談で返す。
まあ、魔王に疑似餌と言われるのは納得いかないが。
なんだ、僕はチョウチンアンコウかワニガメかなんかか?
「プっ、悪魔が悪魔に恨まれてるって面白いわね」
「まあ、やっていることは悪魔以上に凶悪だけどな」
そこで僕とコーガ以外の声が二つ。
声のする方、部屋に備え付けられているテーブルの椅子に別室にいるはずのネアとフェルムが座っていた。
「……君達」
「ん?」
「なんだよ」
暇そうにこちらを見るネアとフェルムに額を押さえながら話しかける。
「どうしてこの部屋にいるんだ」
「「暇だから」」
いや、理由になってないよ。
額を押さえながら、椅子の向きを彼女達へと向ける。
「この部屋に来ても楽しいことなんてないと思うけど」
「貴方の行動そのものが面白いから問題ないわ」
「おい、まるで僕が常に変なことをしているみたいな言い方するな」
ネアのあんまりな物言いに後ろで聞いていたコーガはげらげらと笑い出す。
「ははは、おもしれー」
「今すぐ締め落として、朝にしてやろうか……?」
「どういう脅し文句だよソレ……?」
無理やり気絶させて朝に目覚めさせてやるということだ。
コーガにそう言い放っていると、ネアが隣に座っているフェルムを指さす。
「言っておくけど、私とこいつの二人部屋っていつもと変わらないのよ?」
「ああ、こいつと一緒の部屋じゃ全然新鮮味がない」
遊びに来たわけじゃないんだけどなぁ。
それに、僕と先輩の役目を考えると部屋割りも自ずとこんな感じになってしまうわけだし。
「なら先輩と一緒の部屋にする? 僕はそれでも全然構わないよ?」
「ごめんなさい、私が悪かったわ……」
「ボクが間違ってた……」
僕が言うのもなんだが効果絶大だな。
「スズネのペースについて行けるのは貴方かアマコくらいなものよ」
「あいつと一緒にいると疲れる」
「なにその冷え切った夫婦みたいな台詞……」
たしかに先輩はテンションが高くて常時絡み酒みたいなところがあるけれども。
……そこまで嫌がることかなぁ。
先輩がいれば暗い気持ちにならずに済むとおもうんだけど。
「就寝時間には自分の部屋に戻るんだぞ?」
「はーい」
二人部屋なので、四人いても息苦しい感じはしない。
とりあえず日課の魔力回しを行おうとして、この場にフェルムがいるんだし闇魔法の練習をしようという考えが思い浮かぶ。
「フェルム、ちょっと魔法貸してもらってもいいかな」
「え?」
フェルムの肩に手を置き、ちょっとだけ闇魔法を借りる。
彼女の肩の部分から闇魔法の一部が溢れだし、僕の手を包み込む。
「よし、これを―――」
「ちょっと待てぇ!」
椅子に戻り、考えていた訓練をしようとしたところでフェルムが詰め寄ってくる。
「お前、ボクの魔法を簡単に奪いすぎだろ!」
「あ、ごめん。嫌だった? すぐに戻すよ」
もう一度フェルムの肩に手を置くと、籠手へと変わっていた闇魔法が彼女の元へ戻っていく。
「……違うだろぉ! なんで、お前そんな自分のものみたいに出し入れできるんだよぉ!」
「いや、なんかできるかなぁって……できた」
「どういうことだぁ!」
前の訓練で僕の意思で操れたからな。
しかし、返答も聞かずに闇魔法を借りたのは駄目だったな……反省しなければ。
「~~ッ! 使いたいなら使え!」
すると何を思ったのか僕の手を掴み取ったフェルムが、自分から闇魔法の一部を渡そうと手を伸ばしてくれる。
お礼を口にしながら受け取ろうとするが、寸前になってふとある考えを思い浮かべる。
「フェルム。元の席に戻ってくれ」
「は? ボクの魔法を使わないのか? いらないのか?」
「くっそ面倒くさいなこいつ……」
ぼそりとやや引いた様子のコーガが何かを呟いている。
それに構わず、フェルムから三メートルほどの距離に移動する。
「この距離でフェルムの魔法を受け取れないかなって」
「はあ? ボクが直接同化した方が強いだろ」
「いや……フェルムと同化する時間がない時に部分的に君の魔法を借りられれば不測の事態に対応できると思ってね」
「……分かった。魔力弾を飛ばす感じでいいんだな」
「ああ」
フェルムに掌を向ける。
あくまで保険のようなものだが、できるようになって損はない。
興味深そうにしているコーガの視線を感じ取りながらも僕はフェルムに声をかける。
「フェルム!」
「飛べ!」
彼女の手から飛んだ黒い塊が、意志を持ったように空中で軌道を変えながら僕の手にぶつかり―――包み込むように黒い籠手の形へと変化する。
もらった魔力が少ないからか肘よりやや下ほどまでしか闇魔法は覆われていないが、それでも十分な硬度がある。
「……」
一旦、闇魔法を左腕に移し、右腕に籠手を展開させる。
銀色の籠手をぐるりと見回しながら、左腕の闇魔法で右手の籠手を包み込む。
銀色の籠手に、さらに闇魔法の籠手を被せるという一見意味不明な形態に思えるが―――違う。
「コーガ」
「ん?」
「ちょっと新技思いついた。受けてみるか?」
「お、いいぞ」
「なに自然な流れで新技作って、試そうとしてんのこいつら……?」
「なにするつもりなんだ……?」
すくりと立ち上がったコーガに右腕を引き絞る。
試しに実践してみるだけなので、そこまでの威力はないはずだ。
軽く息を吸い、右腕を突き出すと同時に治癒飛拳を放つ。
「ふんッ!」
右腕から拳大の衝撃波が発する。
普通ならば衝撃波そのものが飛んでいくが、今の僕の籠手の上には闇魔法が被さっている。
衝撃波で押し出された闇魔法が、ロケットパンチの如くコーガが防御に構えた右腕に直撃する。
「へっ、面白い技だが、これじゃあいつもの奴と変わらな―――」
「解けろ」
「は? なっ!?」
コーガが受け止めた拳型の闇魔法が、紐状に解けコーガの身体に巻き付く。
治癒飛拳で闇魔法を射出し、直撃した相手を闇魔法で縛り付ける。
捕縛用の技で、相手を無傷で身動きを封じることができる技だな。
「おーい、解いてくれー」
「あ、ごめん」
頭で念じてコーガの拘束を外し、闇魔法を僕の元へ引き寄せる。
「ダークネス・治癒ロケットパンチ、決まったな……!」
「駄目に決まってるでしょ……!」
直感的に命名している僕の頭にネアが手刀を入れる。
頭を押さえる僕をジト目で見下ろした彼女は、ぴしっと指を突き付けてくる。
「貴方が突拍子もなく変な技を作ることにはもう諦めたけど、その空前絶後のネーミングセンスの無さは看過できないわ!」
「ネーミングセンスがない? ……誰が?」
「自覚がないって怖いわー……」
げんなりとするネアだが、すぐに気を取り直した様子で僕に指を突き付けてくる。
「言っておくけど、これは貴方のために言っているんだからね?」
「……ああ、ありがとう。いつも頼りにしてる」
「そういうことじゃなくて……! あぁぁぁ、もぉぉ!!」
地団太を踏む彼女に首を傾げながら闇魔法をフェルムに帰していると、コーガが複雑そうな様子で僕を見ていることに気付く。
「ん? どうした?」
「……いや、お前いつか刺されそうだなって」
「? ……もう何度か刺されてるから、今更だよ」
「そういう意味じゃねーんだけどなぁ」
どちらかというと僕を刺したりしてるのはお前だからな?
そう思っているとフェルムの隣にいるネアが呆れたため息を零した。
「そうよ、こいつなんて刺しても意味ないわよ」
「確かに、むしろ我慢して殴り返してくるしな」
「ちょっと……気安く話しかけないでくれない?」
「酷くない……?」
コーガに毒を吐いたネアはジト目でこちらを見る。
「それよりウサト、明日からどうすんのよ」
「え、どうするのって……そりゃあ、会談が始まる日までここに缶詰だよ」
「えー、だって始まるのって一週間くらい先でしょ? 暇すぎるじゃない」
「だとしてもだ」
ここで羽目を外しては駄目だ。
いつ想定外の事態が起こるか分からないんだ。
いざという時のためにネアとフェルムにはいつでも力を貸してもらえるようにしなければならない。
……しかし、ネアの性格はよく知っているので、ここで止めるのは逆効果だろう。
「君達は外に出ていいよ」
「え? いいの?」
「フェルムはネアと同化すれば普通に外に出られるしね。でも僕はここから離れられないから君達だけで行くことになるけど……」
「あ、ならいいわ」
僕の言葉を最後まで聞かずに答えるネア。
呆気に取られていると、彼女はつまらなそうに肩を竦めた。
「たしかに外には興味があるけど、貴方がいないと面白くないわ。ただの観光になっちゃうじゃない」
「どういう意味だそれ……」
「それなら室内で滅茶苦茶する貴方を見ていた方が楽しいわ」
なんだ? これは褒められているのか?
それとも巧妙に貶められているのか?
「それに、あの魔王がこんなところで缶詰になっているはずがないじゃない」
「あー、ありえる」
「魔王なら分かってて外に出ようとしてもおかしくないな」
「あの方は、お前を気に入ってるからな。困らせて悦に浸りそうだ」
僕が言うのもなんだがコーガさえも同意するってどういうことだよ。
そして僕を困らせてそれを笑ってみている魔王は容易に想像できてしまうからやめてくれ……。
♰ダークネス♰治癒ロケットパンチというやべぇ名前。
衝撃波とは別に物理的な威力を持つ治癒飛拳。
尚、攻撃ではなく捕獲用の技という……。
次回の更新は明日を予定しております。




