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第二百八十五話

本日の殴りテイマーの更新はお休みにして、こちらの更新を優先させていただきます。


第十二章、最終話です。

※今回は少々紛らわしい表現が入りますので、後書き部分まで読み進めることをおすすめします。

 ナギさんが救命団の宿舎に宿泊することになった。

 城からの要請ともあり、ローズも特に断ることもなく彼女の宿泊を受け入れた。

 最初の数日は、ナギさんも城の呼び出し―――というより、ウェルシーさんや学者さん達、ファルガ様とのお話などで引っ張りだこでかなり忙しかったようだ。

 でも数日ほどすると、幾分か余裕も出てきたナギさんが、何がどうしたのかローズと共に訓練場へ訪れてきたのだ。


『ローズさんと手合わせしようかなって』

『面白そうだから受けた』


 なんかリングル王国で別の頂上決戦が行われてしまう。

 その話を聞いた僕達は急いでその場を離れ、強面達を呼び、その戦いを見学させてもらうことにした。

 あのローズと、ナギさん。

 どちらが強いか全然想像もできないが、どちらもネロ・アージェンスと戦い合えるほどに強い。

 今か今かとどんな戦いが繰り広げられるのか、ワクワクしながら二人が動き出すのを見ていると―――前触れもなく、ローズとナギさんが動き出し、彼女の刀の握る腕と、ローズの腕が激突する。


『『———!』』


 腕同士がぶつかったとは思えない鈍い音が響く。

 暫しの静寂の後に、緊張を解いて後ろに下がったナギさんは、黒刀を鞘へと納めた。


『やめておきましょう』

『……そのようだな』


 訓練場で互いに構えを解く二人。

 僕と強面達がローズにブーイングという名の不満を投げかけると、彼女はものすごい形相で拳を鳴らしながらこちらにやってきた。


『あぁ? 今からテメェらを血祭りにあげるここが滅茶苦茶にならねぇようにするためだろうが』


 それから、言うまでもなく僕達はボコボコにされ地面に崩れ落ちることとなった。

 しかし、それでも強面を含めた僕達は最後までローズの暴虐に屈することはなかった。

 そんな光景をナギさんをはじめとした、ナック、ネア、フェルムは、顔を青ざめさせながら見ていた。

 まあ、ここまでが救命団のいつもの光景である。

 後々になって詳しい理由を聞いてみると―――、


『テメェとは殴り合いで済むが、そいつを相手にするにはここは狭すぎるんだよ』


 ———とのことらしい。

 さすがに訓練場周りを破壊させるわけにはいかなかったようだ。

 まあ、今後の僕達の訓練に影響が出るし、何よりロイド様にさらなる心労をかけてしまうことになるから、しょうがない。

 でも、個人的にはローズとナギさんの手合わせを見たかった気持ちもあった。


「それで、団長。突然、呼び出してどうしたんですか?」


 ナギさんが宿舎に留まるようになってから数日。

 穏やかな日常を取り戻していく救命団で訓練に勤しんでいた僕は、ローズに呼ばれ、宿舎の入り口に呼び出されていた。


「ああ、そろそろお前をあるところに連れて行こうと思ってな」


 あるところ?

 そう訊き返すと、ローズは短くその場所を答えた。


「墓地だ」

「……は?」



 ———リングル王国の中心地に立つ城の、裏手にあたる区画には墓地が存在する。

 リングル王国で亡くなった方や、戦争で命を落とした方の遺体を埋葬し、弔う場所。

 僕も、何回も足を運んだことはあったが、ローズが僕をつれてそこに連れてくることは意外と一度もなかった。

 墓地へ行く間、ローズは街で花束を買っていた。

 それを肩にかけるように持ちながら、墓地の中を悠然と進む彼女に無言のままついていく。


「本当は、もっと早く連れて来ようと思っていた」

「……ここに、ですか?」

「戦争やら魔王やらと立て続けに起こってな。ここまで遅れちまった」


 石造りのお墓が並ぶ広大な空間。

 きっちりと管理されているのか、汚れているお墓はほとんど無く、まばらではあるが花束が添えられている。

 どれもが真新しい花だ。

 ずきり、と胸の奥に痛みが走るような感覚に苛まれながらローズの後ろをついていく。

 すると彼女は暫し歩いた先の、他の墓とは様相の違った場所の前で足を止める。


「ここだ」


 足を止めて見てみれば、そこにあるのは七つのお墓。

 共通の紋章のようなものが刻まれた墓石、ふと目についた文字に目を向けると“アウル”と記されていた。

 アウル。

 その名は、忘れられるはずがない。

 ローズにとって、大切にしていた部下であり、ネロ・アージェンスから彼女を庇った人だ。

 もしかして、他のお墓も……。


「もしかして、ここはアウルさん達の……」

「……ああ」


 静かに頷いたローズは、持っていた花束をお墓に供えた。

 少しだけ雑っぽさを感じさせる所作ではあるが、そこにはなんらかの想いを感じさせられた。


「ギルグ、ジョッシュ、ナルカ、ベス、クリス、ディン……アウル。ここにあいつらが、眠っている」


 無言のまま黙祷する。

 ここにいる方々は僕にとっての先輩達だ。

 彼らがいたからローズが今ここにいて、救命団がある。

 できることなら、会ってみたかった。

 会って手合わせもしたいし、この人が信頼した貴方達がどれほどすごかったのかを知りたかった。


「あいつらがお前を見たらさぞかし楽しそうに笑うだろうな」


 不意にローズが墓石を見下ろしながらそう言葉にした。

 僕はそんな彼女の言葉に苦笑する。


「そうでしょうか」

「そうじゃなかったら、お前に殴りかかるかもしれねぇな。よくも悪くも血気盛んなバカ共だ」

「それは僕達も同じでしょう?」

「ハッ、違いねぇな」


 僕達だって血の気なら全然負けていない。

 いや、でも強面達に比べたら僕もまだまだだな。

 あいつらすぐに頭に血が上るし。


「前にも言ったが……アウルは、テメェに似た奴だった。クソ生意気で減らず口が絶えず、何度ぶん殴ろうとも全く堪えねぇやつだったよ」

「なんだか、普通に気が合いそうですね」


 むしろ、僕と協力してローズにカチコミかけそう。

 そんなことを想像して、それが無理な事実を思い出して残念な気持ちになった。


「……僕は、貴方が認める限りずっと、救命団の副団長であり続けます」

「ああ、思う存分にやれ。手前が選んだ道だ」


 僕の声に、ローズが肯定する。


「戦争は終わったが救命団の存在意義がなくなったわけじゃねぇ。ただ、活動の場から戦場が消えただけだ。やるべきことは、最初から今までも、そしてこれからも変わることはねぇ」


 そうだ、救命団はこれからも続いていく。

 傷ついている人が、これから傷つこうとしている人がいる限りその存在意義が失うことは絶対にない。

 ローズがこちらを振り向く。

 その笑みは、最初に会った時から変わらない、獰猛さと高揚を合わせたような笑みだ。


「やると決めたならやってみせろ。魔族と人間の橋渡し? 面白ぇじゃねえか。思う存分に暴れてみせろ」

「暴れていいんですか?」

「いいに決まってんだろ? 試してもねぇのに無理だという奴はぶん殴って黙らせろ。嘲笑われるようなら、そのおめでたい頭を憐れんでやれ。立ち塞がる障害は、ぶっ壊せ―――お前なら、それができるだろうよ。ウサト」


 ……!

 ああ、クソ、こんなんだから僕はまだまだだな。

 まだ、僕はこの人に教わることが沢山あるようだ。

 でもそれでいい。

 この人は、ずっと僕にとっての目標であり道を指し示してくれた師匠だ。


「なら、言われたとおりに暴れてきます」

「ああ」


 改めてアウルさん達のお墓と向かい合う。

 宣誓ではないけれど、僕なりの決意はしてみせた。


「———いっちょ、やってやるか」


 その事実だけは、誰にも変えることはできない。

 これからは多くの問題が僕の前に立ちふさがることだろう。

 それに追い詰められ、挫けそうになるかもしれない。

 一人だけではなんとかできずに、仲間の手を借りてしまうこともあるだろう。

 だが、それでも僕は進み続けなければならない。

 既にこの人の前で覚悟を決めてしまった今、後退の二文字は既に消え失せてしまったのだから。

 僕は、治癒魔法使いのウサト。

 救命団の副団長であり、最強の治癒魔法使いローズの弟子だ。














『———あはっ』







「「———あァ?」」


 その“声”に僕とローズは同時に、背後へと振り返る。

 ぐるん!!! と、背後を向いて見える視線の先は、30メートルほど先に存在する木の傍の空間。

 そこに、“何か”がいる。

 見えないが確実に何かが存在している。

 ぞわりとした殺気のような、悪意。

 明確な敵意を、感覚のみで感じ取った僕は治癒飛拳を、ローズは治癒魔法弾を投げつける。


『ヒッ!?』


 強烈な炸裂音が鳴り響くと同時に飛び出し、その何かがいる空間に殴りかかる。

 一瞬、微かな悲鳴が聞こえるが、突き出した拳は空をきるだけで手ごたえは微塵もなかった。


「……誰も、いない?」


 声は聞こえた。

 なにかがそこにいるという感覚もあった。

 しかし、僕の拳はその何かを捉えることはできなかった。


「———いや」


 しかし、僕よりも早く動いていたローズは構えを解きながらも顎に手を当てる。

 僕は、彼女が何かを手に持っていることに気付く。


「なんだか知らんが、その“何か”はいたようだな」


 獰猛な笑みを浮かべ、自身の手をこちらへ見せるローズ。

 その手には、まるで半ばから引きちぎられたコウモリのような翼が握られていた。


「……なんですか、これ」

「知らん。だが、面倒なことになりそうなのは確かだな。まずは城に報告だ」


 そう言葉にしてから、粒子を零し、消えかけている翼を握りつぶした。

 消えていくそれを目にしながら、僕は得体のしれないなにかの存在に危機感のようなものを抱いた。

 なにかが、動こうとしている。

 魔王ではなく、また別ななにかが。

悪意満載のエピローグ擬きでした。


完全に気配と存在を消した状態で、治癒魔法使い同士の青臭いやり取りを見て思わず嘲笑したら、一瞬で存在を気取られ、翼むしり取られた誰かさんでした。


第一部 完、となります。

以降は、いくつか閑話を更新した後に第二部のような形式でウサト達の新たな物語が進んでいきます。



※新刊のお知らせです。

3月25日にて、『治癒魔法の間違った使い方』第12巻が発売となります。

同月、26日にコミカライズ版の第6巻が発売いたします。


詳しい情報については、Twitter、活動報告などで随時お知らせする予定です。

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― 新着の感想 ―
こうやって読み返してるとなろうverと小説verも平行世界だと感じてます。主に終盤ですが魔王が動いたタイミングの違いとウサトとカズキの決断の順番。そしてここから先の悪魔編。コミカライズとアニメがどちら…
[良い点] 救命団が現在のイメージだとレスキュー隊と医師団と救急車を兼ねた存在な所
[一言] ローズ……!! 実は作中で一番好きなキャラなんですよ!!!!
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