表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第十一章 最終決戦、魔王都市ベルハザル
305/569

第二百七十三話

お待たせしました。

第二百七十三話です。

 僕と先輩が前衛。

 後衛をカズキにサポートしてもらいながら、魔王と相対する。

 相手は魔術で何をしてくるか分からない魔王。

 そんな相手を前にして、気を抜いてはいられないけれど、やっぱり手数の多さには苦戦させられる。


「二人とも、俺の魔法を足場にするんだ!!」


 カズキが大量の魔力弾を操作し、それらを僕達の周囲に設置してくれる。

 それらは僕達の動きを予測するように別々に動いてくれるので、地面だけではなく三次元的な動きを可能にしている。


「ほう、光魔法から消滅の力を消し、物理的な弾力を持たせたのか。中々に器用なことをする」


 周囲に浮かぶ魔力弾を見て、感心する魔王。

 その中のいくつかが魔王へ向かって行き―――彼が出した魔術により消し去られる。


「消滅の魔力も混じってないとは限らない!」

「勿論、理解しているとも」


 周囲に魔術を並べ、その全てから別々の攻撃が放たれる。

 カズキの魔力弾だけではなく、周りにいる僕達すらも消し飛ばすほどの威力を前にしながらも前に進む。


「治癒魔法破裂掌!」


 衝撃波で炎の魔術をいなす。

 そのまま着地と同時に、10メートルほど先に立っている魔王に治癒飛拳を放つ。


「オラァ!」

「その程度ではな」


 しかし、治癒飛拳でさえも魔王が手を払うだけで消し去られてしまう。

 ……! やっぱり直接殴らなきゃ弱いか!!

 次の魔王の攻撃に備え、その場を移動しようとすると視界の端に紫色の光がよぎる。


「雷獣モード3、子ノ火突き!」


 一瞬の紫色の光と共に、魔王が纏っている魔術が砕け散り、その傍に刀を突きだした態勢の先輩が現れる。


「速いな。これほどの雷の使い手は、封印される以前はいなかったぞ」

「それは、どうも!」


 振り向きざまに連続して振るわれた刀を魔王は掌に浮かんだ魔術で受け止める。


「戦いの才覚、魔法の素質、まさしく勇者としての素質を備えた者だな」

「軽々と防いでおいてよく言うね!」


 魔王の不可視の鎧を蹴り、そのまま後ろに跳躍した先輩が刀を振るい三日月状の電撃を放つ。

 それを目にしてあっさりと横に避ける魔王だが―――その場には僕がいる。


「僕がいることを忘れないでください!!」

「———!」


 魔王が躱し、僕に迫った電撃を弾力付与に包まれた右腕の籠手で殴り返す。

 魔力を通さない性質を持つ籠手ならば、電撃もカズキの光魔法すらも弾くことができる……!!

 これぞ―――、


「治癒カウンター!」

「また変な技!?」


 至近距離ではじき返された電撃は魔王へと直撃する。

 眼前に強烈な光をまき散らすが、それはすぐに魔王の突き出した掌に収束していく。


「なにも電撃を操れるのは貴様だけではないぞ?」

「ッ!」

「撃雷の呪術」


 掌で収束された電撃が僕に向かって放たれる。

 もう一度跳ね返してやろうと拳を掲げると先輩が僕と魔王の間に割って入り、抜き放った刀で雷を切り裂いた。


「ありがとうございます!」

「誰一人欠けても倒せない相手だ! もっと力を合わせよう!」

「はい!」


 先輩の肩に手を置き、体力を回復させる。

 その後に、治癒魔法弾を後ろにいるカズキに軽く放り投げる。


「カズキ!」

「助かる!」


 パシッと魔力弾を受け取ったカズキを確認し、僕と先輩は再び魔王への攻撃を再開させる。

 魔王が繰り出す魔術をカズキの魔力弾が相殺してくれるから、魔王一人に集中することができる!


「フェルム、行くぞ!」

『ああ!』


 左腕と両足が黒騎士と同じ甲冑に包まれる。

 全身に魔力を行きわたらせながら、弾力付与の踏み込みにより一気に加速した僕は、そのまま右拳を魔王の周囲を覆う不可視の壁に叩きつける。


「ネア!」

「———無理! さっきの魔術と違うわ!!」

「解放の呪術まで覚えているとは、珍しく基本に忠実な魔術師だな」

「ヒィ!?」


 魔王の視線に肩の上から僕の後ろに隠れるネア。

 そこで先輩が振るった刀が迫るが、それは魔王の鎧によって阻まれてしまう。


「———ッ、ウサト君! なんとか破壊できないかな!!」

「やってみます!!」


 向けられた掌から逃れながら、もう一度魔王に近づく。

 彼は僕を近づけさせないつもりだろうが―――、カズキの操る光魔法が、消滅の力を伴って魔王へと飛んでいく。


「今だ! ウサト!!」

「よぉぉっし!!」


 僕と光魔法じゃ脅威度は後者の方が高い!

 魔王が光魔法に対処したところで、僕はもう一度治癒連撃拳を叩きつける。

 一度の衝撃―――、だが連続で当たってくれるはずがないので、今度は黒い魔力に包まれた左拳を叩きつけ、連撃拳を叩き込む。

 拳に次の連撃拳を用意する隙はない。


「だから! こうする!!」


 魔王がこちらに掌を向ける前に、同じ箇所に連撃拳と同じ魔力の暴発を用いた膝蹴り、回し蹴りを叩き込む。

 四度の打撃と魔力の衝撃でようやく魔王を包み込んでいた魔力の鎧は砕ける。


「ッ、勇者よりも厄介だな」

「先輩、今です!!」


 僕の声に合わせ、肩に担ぐように刀を構えた先輩が紫色の電撃を纏う。

 身を低くし、跳ねるように加速した彼女は、僕の視界から一瞬で消える。


「雷刀・威寅!」

「!」


 魔王がなんらかの魔術を発動させた次の瞬間、先輩の振るった刀が魔王を真正面から切り裂いた。

 いや、切り裂いたように見せていた。


「……手ごたえがない……!?」


 先輩のそんな呟きが聞こえる。

 しかし、その一方でネアとフェルムは安堵した様子だ。


『やったか!?』

「やったでしょ! さすがの魔王も頭から真っ二つよ!!」

「いや! まだだ!!」


 フェルムとネアが喜んでいるが、僕はすぐにその場を走り出す。


「な、なにしてんのよ!?」

「ネア! 拘束の呪術!!」

「はぁ!? なんで―――」

『ウサトの言う通りにして!! フェルムも!!』


 予知で見えたのか、アマコも困惑した様子の二人に指示を出す。

 そのまま拳を掲げた僕は、なにもない空間を渾身の力で殴りつける。

 一瞬の空間の歪みと共に、現れたのは僕の拳を受け止めている無傷の魔王の姿。


「僕に幻は効かない!」

「第三軍団長の魔法を無効化したと報告にあったが……なるほど、貴様のソレは精神系の攻撃そのものに対する強力な耐性というわけか」

「訳の分からないことを……!」

「やはり、貴様の存在は勇者よりも厄介だな。ウサト」


 もう片方の手から魔術が展開される。

 アマコの予知と自身の直感で、即座に後ろに下がると魔王はここにきて楽し気に笑った。


「不謹慎ではあるが、私もこの戦いを楽しんでいるということか」


 魔王はあの一瞬でその場にいる全ての人間に魔術で幻を見せた。

 幻に対しての耐性がなかったら、魔王の存在に気付けずに不意を討たれていたかもしれない。

 やはり、この人はなんでもできるのか……!


「さて、趣向を凝らそうか」

「何を―――ッ!?」


 魔王がなんらかの魔術を発動させる。

 すぐさま後ろへ下がると、魔王の足元から光の亀裂が走っていく。

 それらは室内の床、壁、天井に走ると―――ブロック状に割れ、浮き上がる。


「空間を操作した……!? ッ、カズキ! 先輩!」

「私は大丈夫!」

「俺もだ!!」


 挟み込むように迫るブロックを真っ二つに切り裂きながら先輩が現れる。

 カズキが光魔法のボードに乗ってやってくる。


「ウサト、貴方の足元も浮かび上がっているわよ!」

「分かってる!」


 僕の足元も浮き上がる。

 パズルのように宙へと浮いたそれらを飛び移りながら、魔王の姿を確認する。

 魔王は僕の姿を見ると、指を軽く動かし何かを操る。


『ウサト! 上!!』

「上……?」


 アマコの声に上を見上げると、僕のいる場所を押し潰そうとしているブロックが目に入る。

 慌てて、次のブロックへ飛び移ると、それを予測していたのかさらに大きなブロックが落下してくる。


「いやぁぁ!? ウサトウサトウサト! なんとかしなさぁぁい!?」

『押し潰されて死ぬなんて嫌だぞボク!!』

『ウサトは大丈夫だから静かにして!』


 肩の上のネアと内にいるフェルムが絶叫する声を聞きながら、僕はグッと足に力をいれる。

 あの程度、避ける必要はない。

 僕とブルリンの力を合わせれば、この程度の岩塊なんてことない!!


「ブルリィィン!!」

『グァー!!』


 両腕にブルリンの力を反映させ、眼前に迫ったブロックを受け止める。

 そのあまりの質量に足元が地面にめり込むが、僕とブルリンの力を合わせれば―――、


「ぬぅぅん……!」

「さ、さすがね! もう人間かどうか怪しいけどすごいわ!!」

「この程度で僕を押し潰せると思ったか、魔王ォォ!!」


 魔王へ向けて力の限りにぶん投げる!

 自身へ飛んでくる巨大なブロックを前にした魔王は 手を軽く払い、どかしてしまう。


「カズキ君! ウサト君!」


 ブロックを蹴って移動する先輩の視線を確認し、その意図を察する。

 これ以上魔王に有利な状況にさせないために、一気に攻撃をたたみかけ魔王を倒す。


「そのために、僕達が魔王の纏う魔術を壊さなくちゃならない」

「でも、もう簡単に触れさせてもらえないわよ?」


 ブロックを足場にしながらネアの声に頷く。

 もう二度、僕が魔王の纏う魔術を砕いているから、次はないかもしれない。

 正直、僕自身が近づいて破壊する方法を思いついていないけど―――、


「フェルム」

『なんだ? 嫌な予感がするけど』

「考えがある」


 フェルムの闇魔法を見て思いついた作戦を口にすると、肩にいるネアが顔を青ざめさせる。


「いやよ!? わ、私死んじゃうわよ!? いいの!? それでも!」

『運命を受け入れろ』

『ネアなら大丈夫』

「貴方達、皆敵だってことは分かったわよぉ!? もうやればいいんでしょ! やれば!!」


 それでも覚悟を決めたのか、僕の頬をばしばしと叩きながらそう言ってくれる。

 なら、作戦開始だな……!


「俺が空中に足場を!」


 光魔法のボードに乗ったカズキが、大量の魔力弾を円盤状にさせ魔王の周囲に配置する。

 それらは全て、弾力を持たせた触れる魔力弾だ。


「オオオ!」


 そして、僕が魔王の眼前に着地し―――即座に両腕をクロスさせ上半身から前面に治癒魔法の光と衝撃波を放つ。


「強化・治癒目潰しィ!」

「ぬ!?」


 まさか目くらましをしてくるとは思わなかったのか、魔王は怯む。

 それも一瞬、すぐ不意打ち気味に繰り出した僕の拳を受け止め、逆に炎の魔術を腹に叩きつけてくる。


「ぐは……ッ!」


 ちょうど隣接するブロックに背中を打ちつける。

 破裂するタイプの炎だったから、貫通してもいないし燃えてもいない。

 治癒魔法で癒しながら立ち上がると、魔王は魔術の光が放つ掌をこちらへ向けてくる。


「多芸ではあるが、それでは―――ッ!?」


 魔王はすぐに気づいただろう。

 僕の身に纏われているはずの闇魔法が消えていることに。

 だけど、気づいたときにはもう遅い!!


「ネア! 今だ!」

「なに……!?」

「や、やってやるわよぉぉ!!」


 僕の声に魔王の背後に移動した―――闇魔法の黒色の団服を纏ったネアが、魔王の纏う魔術を解放の呪術で解除する。


「な、なんで私こんな危ないことしてるのぉ!?」


 黒髪赤目の少女のネアが涙目のまま泣き言を口にしているけど、本当によくやってくれた!


『よくやったぞ! ネア!!』

『フェルム! 早くウサトのところに戻って!! 攻撃が来るよ!』

『グァー!』

「めっちゃうるさいわねコレ!?」


 ネアへ向かって魔王が指先から熱線を放つ。

 当たる直前にネアがフクロウに変身し、フェルムも闇魔法で泥のような状態になり分離する形で熱線を回避する。

 カズキの魔力弾で守られながら、フェルムとネアは僕の元に戻ってくる。


「ウサト! これは貸しだからね!!」

「ああ、よく頑張った! これで厄介な魔術は破壊した! ———先輩! 今です!!」


 カズキが足場を作り、僕達が魔王の纏う魔術の鎧を破壊した。

 宙を動くブロックの一つの上に、納刀した刀を構えている先輩の姿が現れる。


「カンナギ流。雷電・戌走り」


 ナギさんのように頭を低く構え、全身から紫色の雷を帯電させた彼女は、目を見開くと同時に一瞬にしてその場から姿を消す。


「———ッ」


 魔王のいる方向から独特の金属音が響く。

 思わず見れば、空中に浮かぶ魔術を盾にした魔王の後ろに、刀を振り切った先輩の姿がいる。

 一撃だけでは終わらないのか、先輩の姿は紫の光と共にまた掻き消える。


「やはり、速いな……!」


 左腕に刻みつけられた傷から血を流しながら、魔王が自身を守るように魔術を展開させる。

 それと同時に、連続して電撃が轟くような音と共に、カズキが配置した魔力弾が蹴り飛ばされ、魔王の魔術が次々と破壊されていく。


「くッ……!」


 僕の目ですらも微かにしか捉えられない圧倒的な速さに魔王の対処も追いつけていない。

 魔術を破壊し、魔王の肉体に次々と斬撃を叩き込んだ先輩は、渾身の蹴りを魔王の胸部に叩きつけると同時に宙返りをしながら地面に着地する。


「これで、終わりだ……!」


 納刀した刀にこれまで以上の電撃が込められる。

 大きな輝きを放つ刀を逆手に握りしめた彼女は、紫電と共にそれを抜き放った。


(シン)雷切(かみなりぎ)り!」


 閃光と何かを切り裂く音が響く。

 あまりの光に目が眩み、暫し視界が明滅するが、何か水が落ちるような音が聞こえてくる。


「「先輩!!」」


 僕とカズキの声が重なる。

 魔王を倒せたのか!? どうなんだ!?

 すぐに光がおさまっていくと、そこには―――、


「……ッ!」

「……」


 魔王の肩に刀を叩き込んだ先輩の姿があった。

 深く刃で斬りつけられた魔王の肩からは血が噴き出しており、それは先輩の技が魔王に直撃したことを意味していた。

 だが、あまりにも傷が浅い(・・)


「惜しかったな」

「……なにを、した……?」


 刀に切られながらも、冷静な声で魔王が表情を歪める先輩に声をかける。

 ———! 先輩の身体に、魔術が!?

 あれは……!


「拘束の呪術!?」

『スズネが危ない!!』


 僕の目でさえも捉えられない速さで振るわれた刀は、魔王の肩を切りつけるところで止まり、その刀とそれを握る先輩の身体自体が、魔術によって止められていた。

 僕とカズキが先輩の助けに向かおうとすると、それよりも先にブロックが勢いよく動き出し、僕達と魔王に捕えられた先輩を分断する。


「———三度目だ」

「な……!?」

「それだけ見せられば、いくらでも対策は立てられる。こうでもしないと、止められなくはあったがな」


 まずい……!

 魔王の手が先輩へと向けられる。

 なんとかブロックを飛び越えて無理やりにでも彼女の元へ向かおうとすると、それよりも先に先輩の身体に魔王が放った魔術が直撃する。

 魔術に弾かれ、力を失った人形のように地上へと落ちていく先輩。


「フェルム!!」

『ああ! 分かってる!!』


 手から闇魔法でできたラインを伸ばし、落下する先輩を引き寄せる。

 そのまま両腕で抱え治癒魔法をかけ傷を完治させるが、先輩の身体には魔術のような文様が何重にもかけられている。


「直撃は避けたか。まさしく戦闘においての才覚は抜きんでているな」

「魔王……ッ!」

「足手まといを抱えて、戦えるかな?」


 こちらに掌を向けた魔王が半透明の鎖を伸ばしてくる。

 先輩を抱えたまま、それらをなんとか避けようとすると、カズキの放った円盤状の魔力弾が鎖を切り刻んだ。


「ウサト! 今のうちに先輩を!!」

「ありがとう!!」


 その場を駆けだしながら、先輩の容態を見ると、身体には鎖のような魔術と、火を思わせる文様が走っているのも見える

 他にもいくつかの魔術を食らっているのか、意識はあるが動けるような状態ではない。


「かろうじて直撃は免れたようだが、束縛、火毒、拘束、痛身、複数の魔術を同時に受けた。この戦闘では、雷の勇者は最早使い物にならないだろう」

「……ネア!」


 戦闘中に話しかけてくる魔王の声を無視し、ネアに見るように頼むが彼女の険しい表情を見て、この戦闘で魔術を解くのは無理だと悟ってしまう。


「この戦闘中での解呪は無理だろうな。さて、どうする?」

「貴様ァァァ!!」

「……光の勇者か」


 先輩がやられて激昂したカズキが光魔法を放ちながら、魔王に攻撃を始める。

 ———カズキが時間を稼いでいる間に、なんとかしないと。

 すぐに近くの動きの緩いブロックに着地し、背中を支える形で先輩を床に下ろす。


「ウサト君、私のことはいいから、カズキ君を……」

「……」

「ウサト君……?」


 魔王の言う通り、先輩は戦うことはできない。

 ネアの解放の呪術ならなんとかできるかもしれないが、その間に僕かカズキのどちらかが魔王に倒されてしまう。

 ———このまま僕が囮になり、先輩とカズキを逃がすか?


『———ウサト』

「……どうした?」


 僕以外の全員を生かすための手段を考えていると、フェルムが声をかけてくる。

 彼女はやや言いづらそうにしながらも、決意を固めたような声を発する。


『スズネはうるさい奴だ』

「と、とつぜんの罵倒……!? こんな弱ってる私に!?」

『うるさいし、遠慮がないし、しつこいし、変なことしかしない変な奴だ』


 先輩にとどめでも刺そうとしているのかな?

 動けないまま悶えている先輩を見ながら、フェルムの次の言葉を待つ。


『だけど、こいつはボク達の仲間だ』


 その言葉でようやくフェルムの意図を察する。

 それと同時に、後ろ向きだった僕の思考が変わっていく。


『大丈夫。ボクはこいつを認めてる。だから、ボク達はまだ戦える』

「ああ、そうだな。その通りだ」


 先輩を抱えながら僕は軽く深呼吸をする。

 先ほどまでのバカな考えは捨てる。


「ブルリン、ごめん。交代だ」

「グァー」


 僕の身体から同化を解除させたブルリンが出てくる。


「ここから先は危ないから、離れていてくれ」

「グァ!」

「ああ、必ず生きて戻る」


 力強く頷いてくれるブルリンの頬を撫でる。

 そんなブルリンの姿を見た先輩は、思わず僕の顔を見る。


「え、ウサト君? こ、こここ、これはまさか」

「先輩。当然、心は折れてませんよね?」

「あ、ああ! もちろんだ!!」

「よし。……フェルム、頼む」

『ああ!』


 先輩が黒い魔力に包まれ、僕と同化する。

 ブルリンと入れ替わる形で彼女との同化を果たすと同時に、僕の左手にいつの間にか彼女が持っていた勇者の刀が握られている。

 刀は僕の右腕の籠手と共鳴するようにバチバチと電撃と光を放ちはじめている。


「全力全開で行くぞ!」


 瞬間、僕の身体から電撃があふれ出す。

 雷獣モードと同じ現象。

 僕の内にいる先輩が発動させている魔法を纏いながら、最後の戦いをするべく魔王の元へと飛び出した。

先輩とウサトの同化後の強さについて、ちょっとだけ設定変更。

本編には影響はありませんので、ご安心を。


ついに同化を成し遂げた先輩。

先輩が内側から魔力を供給する雷獣モードに加えて、疲労も負荷も治癒魔法で無効化できるやべーやつ。

名付けるなら……ライジング……デビル……ウサト?


今回の更新は以上となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 元からあの戦闘について行く事が出来るウサトが雷を纏う…! 治癒と雷の同時使用で治す能力的にも幅が出来そうな予感!
[一言] 読んでてMGRを思い浮かべたw
[一言] 期待しているのだが…ここまで女体化無し!潜入パート終わっちゃったし出番ないのか!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ