第二百七十一話
お待たせしました。
今回は一話のみの更新となります。
なんて登場だ、と味方ながらに思った。
扉を蹴破り現れた先輩の姿に僕は頭を抱えずにはいられなかった。
状況的にはとても助かる。
心強いことこの上ない。
だけど……もうちょっと普通の登場の仕方がなかったのか、貴方は……!
「フッ、どうやら私の迫力にさすがの魔王も驚きのあまり声も出ないということかな?」
「ウサトよ。あの呆け者は、今が特別おかしいだけか?」
「……割と、いつもあんな感じです」
魔王におかしい人扱いされてますよ、先輩……!
先輩が刀の収められた鞘を手にしながら、僕の元へと歩いてくる。
その視線は魔王から外していない。
「ウサト君、無事かな?」
「貴女が来てくれて頼もしい……はずなんだけどなぁ」
「あれれ?」
この空気をぶち壊す感じ。
すると、先輩と一緒についてきたアマコが僕に声をかけてくる。
「ウサト、怪我はしてない? 大丈夫?」
「ああ、心配ないよ。君の方は怪我はしてない?」
「あれれ? なんか私とアマコで扱い違くない?」
そりゃ、先輩は既に元気そうじゃないか。
……魔王はまだ動かない。
先輩だけではなくカズキも待っているのか?
「……レオナは?」
「レオナさんは、アーミラを足止めしてくれています」
「なるほど、君はコーガと?」
頷くと先輩は納得したように、魔王へと身体を向ける。
僕も戦闘準備を整える前に、ようやく合流したアマコに声をかける。
「アマコ、行けるか?」
「うん、ウサトが一緒ならへっちゃらだよ」
アマコに確認を取った僕は、軽く深呼吸をする。
先ほどまで、ヒサゴさんの凄惨な過去を見てきた。
思うところもないわけじゃないけれど、今は魔王に集中しなければならない。
「フェルム、同化しよう。アマコとブルリンと同化して、ネアは僕の肩に」
「私は? ウサト君」
「貴女は、いつでも動けるように刀チャキチャキしててください」
「ウサト君、もしかして怒ってる!?」
先輩をスルーすると、闇魔法に包まれたフェルムが足元から僕の身体へ入り込み同化を果たす。
アマコとブルリンが僕の身体に飛び込みさらに同化。
最後にフクロウに変身したネアが僕の肩に飛び乗ったことで、変化を完了させる。
「私だけ無防備なの怖すぎるんだけど。ねえ、あと一人入れない?」
『無理、もう満員だ』
『危険なのはみんな一緒だから』
『グァー!』
「一番安全な場所から言われても全然安心できないわよ!? あー、もう! なんでいつもウサトに引っ付いてなきゃいけないんでしょう、ね!!」
「これ遠回しに煽られているよね、私?」
語尾の時だけ、ぐりんと首を回して先輩の方をむくあたり完全に煽っているな。
身体の内も外が賑やかになったところで、玉座に腰かける魔王を見上げる。
彼は僕の姿に、興味深げな視線を向けている。
「見れば見るほど珍妙そのものだな。闇魔法を核とした他者との同化……非常に興味深い」
「あれ、どういう仕組みなんですか……? 複数の人間があの人に取り込まれたようにしか見えないんですけど」
「仕組みもなにもその通りだろう。全く以て非常識だぞ、アレは」
散々なことを言われながらも僕と先輩は、魔王と相対する。
さきほどまで普通に話していたわけだけど、僕達の本来の目的は魔王を倒すこと。
その事実は変わらないし、この覚悟も揺らぐことはない。
「カズキが揃ってませんけど、いきますか?」
「やるしかないだろう。なに、私達が戦っている間に彼も到着するさ」
僕と先輩が同時に跳び出そうとした―――その時、頭上から炸裂音と閃光が炸裂する。
思わず足を止めて見上げると、天井にぽっかりと開いた円形の穴から光のボードにのった男がやってくるのが見えた。
男は、僕と先輩の方へ真っすぐに落下し、そのまま光魔法でできたボードを翻し綺麗に着地してみせる。
「ふぅ! ようやくたどり着いた!!」
「カズキ!」
「カズキ君!」
「どうやら間に合ったみたいですね!」
すっげぇかっこいい登場の仕方だ。
まさか天井をぶち抜きながら来るなんて思いもしなかったけど、これでこの場に二人の勇者が揃った。
「ようやく勇者が揃ったか」
「お前が面倒な作戦を立ててくれたおかげで分断されたようなものだけどね……!」
「それで終わればそこまでだっただけの話だ。だが、貴様達はそれぞれの試練を乗り越え、私の前にまで辿り着いた」
そう言葉にした魔王は依然として玉座に腰かけたまま、ひじ掛けに腕を置く。
彼の表情は、とても敵を前にしているようなものではない。
「シエル」
「魔王様、私、避難した方がいいでしょうか……!? これ間違いなく私、巻き込まれますよね?」
「その必要はない」
「はい?」
魔王が掌を翻すと、白い渦のようなものがシエルさんの隣に発生する。
さらに手を軽く振ると白い渦が動き出し、呆気にとられているシエルさんを呑み込み、その姿を消失させる。
「私が別の場所に飛ばすからな。……さて」
「……!」
「そうだ。気を抜くな、構えを解くな―――貴様らの敵が目の前にいるのだからな」
魔王が玉座から立ち上がる。
全盛期からは程遠い力しか持っていない魔王だが、それでもその力は想像を絶するものがある。
「戦いの前に、聞いておこうか」
オールバックにさせた銀色の髪に魔族特有のねじ曲がった大きな角。
大柄な体にそぐわない威圧感を放った魔王は、肩に羽織っていた黒色のローブを脱ぎ捨てながら僕達を見下ろした。
「仮に私を倒したとして、貴様達はなにをする?」
「……なにをする?」
「勇者が召喚された根本の理由は、人類の敵である私に対する戦力にすぎない。その目的を果たしてしまったのならば―――貴様達はどうするのだ?」
その言葉は僕にではなく、先輩とカズキ、二人の勇者に向けられているように思えた。
中途半端に終わってしまったが、僕の話は先ほどでほぼほぼ終わった。
なら、次は先輩とカズキの話というわけか。
「……いったい、何が言いたい?」
「使命を果たしてしまえば、勇者としての肩書きは残るだろうが、意味はなくなるだろう。いや、そもそも勇者としての力を求め、無用な争いが起こる可能性もあるということだ」
「そんなこと……」
「ない、と言い切れるほど貴様は“人間”を見てきたのか?」
カズキの言葉を遮った魔王は僕を見る。
ヒサゴさんの過去を目にした今なら、魔王が何を言わんとしているか理解できる。
カズキと先輩の持つ才能は、この世界においても類まれなものだ。
このまま何年も修行すれば、ヒサゴさんに近い実力を備えていてもおかしくはない。
「お前は、私達がこの世界を去るべきだと言っているのか?」
「それを決めるのは貴様達だろう」
「……そもそも、現状で私達が元の世界に帰る手段はない。この話自体、時間の無駄だよ」
魔王を睨みつけながら、冷たくそう言い放つ先輩に彼は笑みを浮かべた。
「ならば、帰る手段があればいいのか?」
そう言葉にした魔王が、その手の中に黄金色の紙を取り出す。
———あれは……!?
「ヒサゴさんに見せたスクロール!?」
「異世界から召喚された者を、元の世界に帰す帰還術式が刻まれたスクロールだ。今は先代の勇者、ヒサゴの世界の情報が刻み込められているが―――これにお前達の世界の匂い、“情報”を上書きすれば、元の世界へ帰ることも可能だろう」
「な……ッ!?」
それが本当か嘘かは分からない。
だけど、もし彼の言葉が本当なら、先輩とカズキは元の世界に帰ることができる。
思わずカズキを見れば彼は目を見開いて驚きを露わにし、先輩は―――え? 笑っている?
「フフ、魔王。どうやらお前は私を甘くみているようだね」
「む?」
「正直に言おう。私はそんな先の未来なんて考えていない!」
……。
あっ、これは先輩何も考えていないな。
無駄に自信満々なドヤ顔を見せた先輩が、腕を組んだ魔王を見る。
その堂々とした眼差しに、魔王は怪訝な表情を浮かべる。
「帰る帰らないなんて、今話すべきことじゃない。今、私の前にいるのは私達が召喚された原因であり理由! それを前にして迷いなんて抱けるはずがない!!」
「……ほう?」
「それに、言葉を返すけど私達もこの世界、この時代の“人間”を見てきたんだ! それこそお前以上にね! だからこそ、守ろうと思えたし信じることができたんだ!! 私達を、甘く見るな!!」
ビシィ、と指を突き付けた先輩。
彼女は鞘を持ち直すと、僕とカズキを見て笑ってみせる。
「さあ、ウサト君! カズキ君! 問題を先送りにして魔王を叩くよ!」
「……ハハハ、そうですね! 今迷いを見せるわけにはいきませんからね!!」
……やっぱり、この人がいてくれてよかった。
どんな状況でも変わることなく、前を向いていられるからこんなにも頼もしい。
「———もう覚悟はできている」
『……ウサト?』
自分に言い聞かせるように小声でそう呟いた僕に、内にいるアマコが怪訝な声を零す。
一度目を閉じ、深呼吸をした僕は拳を握りしめながら先輩の隣に並び立つ。
「先輩、戦いましょう。これが最後の戦いになります」
「ああ!」
右腕の籠手を展開させる。
休んで魔力も少しだけ回復できたし、コーガとの戦いの傷は治癒魔法で完治している。
戦いに支障はない。
調子を確かめるように手を開いたり閉じたりした後に、魔王と相対する。
「奴には到底できないふざけたものだが、面白い答えだ」
そう呟いた魔王が、掌から魔術を展開させる。
次々と掌から並べるように魔術を作り出していった彼は、僕達を前にして口の端を歪ませる。
「———では、戦いを始めよう」
「来るよ!」
「「はい」」
瞬間、魔王の周囲に浮かぶ魔術から閃光が走る。
眼前に飛び込んできたのは、壁のように迫る炎。
逃げ場が存在しないほどの激しい炎を目にした僕と先輩が構えると、それよりも先にカズキが前に踏み出した。
「俺が道を切り開く!」
光のボードに飛び乗ったカズキが、背中の剣を引き抜き光り輝く魔力の斬撃を放つ。
それだけでこちらに迫る炎の壁が真っ二つに切り裂かれる。
炎の奥から次に飛び出してきたのは、どこか見覚えのある魔力でできた鎖。
「行くよ! ウサト君!」
「サポートします!」
先輩に続いて飛び出す、数えきれないほどに伸ばされた鎖は誘い込むように僕と先輩に向かってくるが、それらは空を飛ぶカズキの光魔法の魔力弾により、止められていく。
「ウサト! あれ魔術師が使ってた魔術よ!」
「なら捕まるのは危険だな……!」
魂すらも縛り付ける悪趣味な魔術。
捕まればどんな危険な効果があるか分からない。
だが、その上で魔力の鎖はさらにその数を増して、僕と先輩を包囲するように地面から伸びる。
気づけば、逃げ場がないほどにまで包囲されてしまったが―――、
「先輩、魔王までの道を作ります!」
「隙間さえできれば十分さ!」
右腕から弾力付与で包み込んだ魔力弾を作り出し、それを魔王がいるであろう方向にぶん投げる。
―――治癒爆裂弾。
着弾と共に、一気に鎖を横に散らせた瞬間に踏み込みと共に先輩が、魔王へと接近し閃光と共に刀を引き抜いた。
「はぁぁ!」
だが、電撃を纏った斬撃は魔王の身体を素通りしてしまう。
煙を散らすようにその姿を消失させる魔王に、呆気に取られていると僕の内にいるアマコが声を上げる。
『ウサト、後ろ!!』
「なっ!?」
「写煙の呪術。存外に、単純な手に引っかかるのだな」
背後からの声。
アマコの声を聞き咄嗟に振り向いた瞬間、魔王が突き付けた指が僕の心臓にあたる位置に向けられる。
「火炎の呪術」
「———ッ!」
魔術の文様が現れた指先から、光線のようなものが放たれる。
直感的に身体を横にずらしたが、光線―――恐らく火を凝縮させた熱線は闇魔法の魔力すらも無視し、僕の左肩を貫いた。
「ぐッ……!」
「凄まじい反応速度だな。それ、対処してみろ」
魔王の指に連続して赤熱の光が放たれる。
左肩を治癒魔法で癒しながら、右腕の籠手で熱線を弾いていく。
『ウサト、この攻撃はボクの魔法も貫くぞ!』
『いや、大丈夫! ウサトなら対処できる!! ……次で飛び込める!!』
「ああ!」
最後の熱線を籠手で斜めにはじき返しながら、大きく踏み込み魔王に拳を叩き込む。
「オラァ!」
「甘い」
しかし、僕の拳は魔王に当たる寸前で見えない壁のようなものによって止められる。
ブルリンと同化している僕の拳だぞ……!?
いや、この感覚には覚えがある! これはネロ・アージェンスの……!
「風の魔術……!?」
「そうだ。———重力の呪術」
頭の中でアマコがその場を離れるように警告してくると同時に、僕の身体にとてつもない重圧が降りかかってくる。
僕自身が重くなっているのか、床が大きく陥没する。
「ぬぐぅ!?」
「ウサト!? どうしたのよ!?」
なんだ!? いきなり身体が重くなったぞ!?
肩にいるネアが苦しんでいる様子はない……!
まさか、僕だけに限定して重力を操作されたのか!?
「こ、これしき……!」
「貴様、人間か? 普通の人間ならば潰れてもおかしくないのだが」
なぜに魔王に人間かどうか疑問に持たれなきゃならないんだぁ……!
僕の拳を止めた魔王の側方から、無言で斬りかかる先輩と、頭上から光魔法を放つカズキ。
二人の意図を瞬時に理解した僕は、止められた拳を押し付けたまま闇魔法の黒い魔力を解放させ、魔王をその場に釘付けにさせる。
「む……?」
「ここに釘付けにさせる……!」
「ウサト、すぐに解放の呪術で解くわ!」
風の鎧越しではあるが黒い魔力で縛り付けられた魔王に、先輩が繰り出した刀とカズキの放った魔力弾が繰り出される。
カズキの魔力弾なら風の鎧を貫ける……!
その上からなら先輩の斬撃も当たるはずだ!!
「鏡魔の呪術」
———だが、魔王が一言そう呟くだけで、カズキが放った魔力弾は魔王の周囲に現れた魔術により、弾かれるように霧散してしまう。
魔王は次に迫る先輩の攻撃に対して、闇魔法による拘束をものともせずに腕を動かし―――振るわれた刀身を素手で受け止めた。
「な……!?」
「この程度か。もっと真面目に戦ってほしいものだ」
さらにもう片方の手を自由にさせた魔王が、掌を上に向ける。
なんらかの魔術が発動されると、室内の天井を覆わんばかりの魔術の文様が展開されていく。
これは、戦場に火炎を降らせたものと同じ……!?
「気を抜けば、次で終わるぞ?」
いや、魔王の掌には三つの魔術が浮かんでいる!?
浮かんだ魔術は一つに合わさり、別の魔術へと変化する。
それを空に浮かんでいる文様と同じ魔術に、重ね合わせ―――、
「複合魔術、天嵐の呪術」
瞬間、頭上から嵐が鳴り響く。
雷と見間違うほどの電撃が地面を砕き、突風が吹き荒れる。
これは……まずい!
「ネア!」
「と、解けたわよぉ!」
「ありがとう! ぬぅんッ!」
先輩の刀を掴み取っている魔王の腕に、治癒飛拳を叩きつけながらその場を下がる。
僕と同じく危険を感じ取った先輩もその場を離脱しているが、空に発生した嵐は僕達を襲い掛からんばかりに降り注ぎ始めている。
『ウサト、これに当たったら駄目! 私が指示するから避けて!!』
「ああ!」
「デタラメすぎるでしょ! 魔王!!」
天災すらも再現してしまう魔王の魔術。
その威力を目の当たりにしながら、僕達は前へと飛び出すのであった。
メンタル面ではウサトに次いで強い先輩。
というより、単純に何も考えていない模様。
なので強い(!?)
今回の更新は以上となります。
ここまで読んでくださりありがとうございました。




