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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第十一章 最終決戦、魔王都市ベルハザル
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第二百六十三話

本当にお待たせしました。


作業が一段落終わりましたので、更新ペースを元に戻します。

 やはり、コーガは面倒な奴だ。

 性格もそうではあるけど、なにより面倒なのはこいつの戦闘力そのものが面倒すぎる。

 こいつの扱う技術と体術主体の戦い方のせいで、まるで僕自身と戦っているような錯覚をさせられる。

 それと、こいつ殴っても殴っても笑顔で起き上がってくるところも面倒だ。


「何度も何度も起き上がってきやがって、ゾンビかっての!」


 壁を破壊し、部屋をめまぐるしく移動しながらそう叫ぶと、コーガは心外とばかりに顔を顰めさせた。


「さすがの俺も治癒魔法で即回復するお前には言われたくねぇよ!?」

『まさかコーガの言葉に同意してしまう日が来るなんて……』


 ぼそりと、フェルムがそう呟く。

 そうしている間も、コーガの振るった肥大化した腕が迫る。

 それを目視で確認しながら、腕に力を籠め―――黒い魔力で覆った獣の腕で真正面から殴り返す。


「ヌゥッン!」

「おわっ!」


 強化された拳は容易く肥大化した腕を真正面から打ち砕き、コーガを弾き飛ばす。

 黒い魔力に覆われた拳を引きながら、着地したコーガを睨みつける。


「パワーで僕に勝てると思うなよ、今の僕の力は魔獣そのものだからな……ッ!」

『人外宣言かしら……?』


 ブルリンの力込みってことだよ!?

 しかし、それでもコーガの笑みは消えない。

 まさか僕を疲れさせようとしている?

 いや、こいつに限ってはそれは絶対にないと断言できる。

 なら……勝負を長引かせてとことん楽しもうとしている……?

 やべぇ、ありえそうだぁ……!


「は、はははは!」

「……は?」


 唐突に笑い出すコーガ。

 前触れもない豹変に僕も呆気に取られてしまう。


「あー、くそ、やっぱ終わりにしたくねぇなぁ」

「……僕は――」

「分かってるよ。お前にはやることがあんだろ? なら、次の攻撃で最後にしてやるよ」


 身を低くさせたコーガが両腕に闇魔法で作った鋭利な爪を作り出す。

 それに伴い、彼の両足の筋肉が膨れ上がる。

 どういう心境の変化か分からないけど……次の攻撃でコーガが死力を尽くして攻撃しようとしているのは分かる。

 ならば、僕も相応の覚悟を以て応えなければ、負けるのは僕の方になる。


「……フェルム、コーガ専用」

『あれ、だよな?』

「頼む」


 僕の右拳が一回りほど大きくなる。

 下手な小細工は無意味。

 なら、僕は最も信頼する拳で、コーガを打ち倒す。


「……」

「……」


 睨み合ったまま静寂が支配する。

 ここまで何度も戦ってきた。

 一度目は撃退しただけで、引き分けのようなもの。

 二度目は戦争の最中で決着をつけるどころじゃなかった。

 三度目は、まさかの協力して戦う羽目になって、コーガ自身も重傷を負っていた。

 なんだかんだでそれなりの縁があるのは僕も自覚しているし、こいつの性格もよく理解している。

 だからこそ、ここで戦いを終わらせるお前の行動が不可解そのものだが―――、


「お前も、相応の覚悟をしているってのは分かる……!」


 眼前のコーガが前へと飛び出すのに合わせ、僕も迎え撃つ。

 交錯する視線。

 曲線を描くように振るわれる二つの爪と、一直線に突き出される拳。


「ウサトォォォォ!」

「コォォガァァァ!」


 振るわれた右の爪を身を屈めて避ける。

 続けて振るわれる左の爪が、系統強化の暴発により直前で剣山を伸ばしながら突き出されるが、それを目にしてから―――あえて突っ込む。


「ぐっ! オオオ!!」


 脇腹に棘が突き刺さる痛みを無視し、コーガの胴体に渾身の拳を叩き込む。


「フェルム! ネア!!」


 拳から拘束の呪術が流されコーガの動きを一時的に封じ、さらにその上から右腕を覆う魔力が帯状に解け、コーガの身体を僕の右拳と固定させる。

 困惑する奴を見てから、僕は力の限りに腕を振り回し、そのまま地面へと叩きつける。


「ごはっ……!」

「お前専用の形態だ……! 食らっていけ!」

「は、お、お前、まさか――」

「治癒連撃拳!!」


 床にコーガの身体を叩きつけた状態で―――最初にコーガを破った技、治癒連撃拳を叩き込む。

 以前よりも魔力の消費量を下げ、効率化させた技。

 ここで今、全力でこいつに叩き込んでやる……!!


『ウサト、まずは刺さった爪を引き抜いて傷を癒しなさい!』


 未だに左腕の爪が突き刺さっている脇腹が熱を持つ。

 この程度の痛みで、意識を失うような軟な訓練はしていない……!

 構わず、連撃拳を放つ。


『床も崩れてお前も落ちるぞ!?』


 構うものか!

 こいつを超えていくには、それぐらいの攻撃をしなければならないのは僕が一番よく知っている!

 連撃拳を叩きつけるごとに、床に大きな亀裂が入る。


「カ、ハっ、ハハハ!」

「落ちろ!」


 拳を振り上げ、力の限りに振り下ろす。

 その攻撃を機に、蜘蛛の巣状に罅が入っていた床が大きく砕け散り、一気に瓦解し下の階へと落下する。

 僕とコーガの身体が落下すると同時に、僕の脇腹から爪が引き抜かれ、コーガの拘束も僕から離れる。


「……くっ」


 脇腹を癒しながらなんとか着地し、瓦礫に当たる前にその場を跳び下がる。

 瓦礫が落ちた場所は白煙に包まれ、コーガの姿は確認できない。


「……ここは」


 周りを見れば、落ちた場所は先ほどいた通路の中だと気づく。

 その証拠に近くに僕とコーガが上の階に行く際にぶっ壊した天井が見え、すぐ先には巨大な扉が存在していた。


「コーガは、倒せたのか……?」


 手ごたえは、あったはずだ。

 傷を治癒魔法で完全に癒しながら、白煙が広がる瓦礫の元へと進んで行く。

 だが、僕が近づく前に白煙の中で立ち上がる影が見え、立ち止まる。


「コーガ……」

「げほっ、ああ、くそ、やっぱり真正面からじゃ押し負けるかー」


 煤だらけの姿のままコーガは悔しがる素振りを見せる。

 まだ彼には僕と同じように余力があるはずだが、まさかもう戦う気がないのか?

 警戒を解かない僕に構わず、巨大な扉の傍の石柱に背中を預けた彼は、そのまま座り込んでしまう。


「先に進んでいいぞ。この先に魔王様が待っている」


 この先に、魔王がいるのか?

 思わず大きな扉の方を見てしまうが、ここでコーガがそんな裏切りにも等しい行動に出る理由が分からない。


「……なんのつもりだ?」

「どうもこうも、俺はお前とここで会った時から、こうするつもりだっただけさ」

「なんだって?」


 え、それじゃあ今まで戦った意味は?

 痛みには慣れても痛いものは痛いんだよ?


「正直な話さ、魔族の未来云々よりもお前と何も考えずに殴り合いしてる方が楽しいんだわ」

「……」

「嫌そうな顔するのもまあ、分かる。悪いがそれが俺という魔族のサガだからな。諦めてくれや」


 普通に嫌そうな顔をする僕にからからと笑うコーガ。

 内にいるネアとフェルムはドン引きしている。


「まあ、とどのつまり俺はお前と喧嘩してぇわけなんだよ。別に決着をつけてぇ訳でもない」

「はぁ」

「お前らが魔王様に勝てば、俺はまた敵としてお前と戦える。負ければ……まあ、お前は魔族にはいない治癒魔法使いって点を除いても、人間とはかけ離れた不思議生物だから魔王様に興味本位で生かされるだろうからな。その時は、お前にとっては地獄かもしれないな」

「たかが地獄ごときで僕が苦しむとでも?」

「その返しは予想していなかったぜ……」


 最早、地獄を超える別のなにかを異世界転移した直後に経験しているわ。

 というより、誰が不思議生物だ。


「どちらにせよ、魔王様は勇者達とお前に興味を持っているんだよ」

「僕まで? なんで?」

「自分の胸に聞いてみろ」


 言われたとおりに自身の胸に手を置いて問いかけてみる。


「ネア、フェルム、ブルリン、君達は分かる?」

『『うん』』

『グル』

「僕の胸のうちは分かってくれているぞ、この野郎」

「本当に自分に聞いて、答えをもらうやついるか……?」


 なぜかコーガに引かれる始末。

 これを理不尽と言わずになんというのだろうか。

 だが、これで道を開かれた。


「あの扉を進めば、魔王との相対か」


 先輩とカズキは既に到着しているのだろうか?

 それはこの先に行かなければ確認できないが、最悪僕一人で相対することになるかもしれない。

 その時は、全力で逃げて時間を稼ぐしかないか。

 いや、待てよ―――、


「なら裏切り者のお前を武器にして魔王に叩きつけるか。よし、こいつはいい盾になりそうだ」

「それはマジでやめろ。あ、やめて脚を持とうとしないで……!?」

「ははは、本気にするなよ冗談だ。うん……冗談だ」

「絶対、マジだったろお前……!」


 さすがにコーガと魔王を両方相手する状況になってしまう危険があるので、戦意を失っているコーガはここで放置しておくべきだ。


「覚悟を決めるか……」


 なにが待っているにせよ、まずは扉を開けなければ状況は分からない。

 深く深呼吸をし、座り込むコーガを一瞥したあとに扉へと進む。


「お前が魔王様を前にして何をやらかすのか、そこらへん期待しているぜ」

「……」


 コーガの声に顔を顰めながら、扉へと触れる。

 それと同時に重い音と共に勝手に扉が開いていく。

 まず視界に映り込んだのは、薄暗い広間。

 蝋燭の明かりに照らされた広間の内装は、不気味な印象を抱かせるが、それと同時に貴族然とした上品さも醸し出している。

 そして広間の奥には玉座があり、そこに腰かけている一人の男と、その傍らには侍女姿の魔族、シエルさんがいる。


「最初に来たのが貴様とはな」


 男は扉から広間に足を踏み入れた僕を見下ろし、そう呟いた。

 ———先輩とカズキはまだ到着していない。

 その事実に背筋が凍るような感覚に苛まれながらも、魔王から視線を外さない。

 僕を見て口元を歪めた魔王は、玉座に肘をかけたまま手を動かす。

 ただそれだけの挙動で、どこからともなく飛んできた大きな長テーブルと三つの椅子が玉座の前に並べられる。


「そこに座れ、貴様の到着を歓迎してやろう」

「……なんのつもりですか?」


 用意された椅子は三つ。

 ブルリンを除いた僕とネアとフェルムの分のものと考えるのが自然だろう。

 僕の問いかけに、魔王は冷笑を浮かべた。


「貴様とは話をしてみたいと思っていたからな。まあ、このまま戦ってやってもいいが……」


 瞬間、魔王の周囲にいくつもの円形の魔法陣が浮かび上がる。

 それらは全て別々の模様をしており、異様な力を感じさせた。


「勇者が到着するまで、相手をしてやってもいいぞ? ウサト」

「……ッ」

『ウサト、あれ、全部……魔術よ……』


 四〇は優に超えるほどの数えきれないほどの魔術。

 あれら全てが別個の力を持っているとすれば、脅威どころの問題ではない。

 元より、僕一人だったのなら逃げ回ってでも時間を稼ぐつもりではあったが、先輩とカズキがいない状況ではそれすらも厳しいかもしれない。


「……」


 無言のままフェルムの同化を解き、椅子に座る。

 相手は魔王。

 ただ話をするだなんて考えるな。

 前にするだけで強烈な圧力を感じながら、僕は魔王と相対する。

シエル(うわきた……)


次回の更新は明日の18時を予定しております。

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― 新着の感想 ―
[一言] >なら裏切り者のお前を武器にして魔王に叩きつけるか。よし、こいつはいい盾になりそうだ 武器と盾で矛盾してますよ。 ちゃんと、武器にして、盾にして、鎧にして、壁にして、飛び道具にしないとダメで…
[良い点] いつも楽しませてもらってます。 コーガとウサトが、まるで魔剣とその使い手みたいで萌えますです。 言ってることも魔剣らしく、まさしく床に刺さった剣みたいに思えました。かわいらしいです。
[一言] え~、コーガが道を譲った時に「あ、これ武器として持って行く流れだ!」って思ったんだけどなぁ。 でも、テーブルと椅子があるから唐突に始まるウサトの残虐ファイトを期待しよう。
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