閑話 恐怖に勇気を
三日目、三話目の更新です。
前話を見ていない方はまずはそちらをー。
今回は閑話、ハンナ視点となります。
はっきりと断言しよう。
私は、あの治癒魔法使い、ウサトが怖くて怖くてたまらない。
あの虫も殺せないような優し気な顔で、いざ戦いへと身を投じれば一瞬にして悪魔の様相へと変わる。
私の直属の部隊である飛竜を駆る近衛の戦士達を次々と地面に叩き落とし、最後にこの私を捕まえようとした。
策を講じ、完全に不意をつきウサトを操ろうとしたその時から―――私の悪夢は始まった。
幻影魔法が効かないウサト。
言葉を話すフクロウ。
そして、ウサトの背に現れる悪魔の翼。
「……ひぃ!?」
小さな悲鳴を上げて顔を上げれば、そこはいつもの執務室だった。
朝、曇天の空から弱々しい光が窓から差し込む部屋の中で、私はこれ以上にない大きなため息をついた。
「どうしよう……治癒魔法使いがくる……」
先日、魔王様から全軍団長へと指示が下された。
数日以内にこの都市へと侵略しにやってくる勇者達を撃退する準備を整えろ、と。
『民を逃がし、兵を整え準備をさせろ。奴らをこの都市で迎え撃つ』
なにがどうして突然勇者達がこの都市に襲撃しにくることになっているのか気になっていたが、それもすぐに魔王様がお話してくださった。
なにやら、コーガ君と魔王様の侍女、そしてノノが向かった遺跡に勇者達がやってきたらしい。
ただの勇者だけなら恐れることはない。
私の魔法は、生きているもの全ての天敵といってもいいのだ。
『は、ハンナ様ぁ! つ、つつついに悪魔がこの魔王領にまで魔の手を伸ばしはじめましたぁ!』
私の執務室にノックもなしに駆け込んだノノの言葉により、私の余裕は脆くも崩れ去った。
本来なら、軍団長の私の部屋に無断で入ること自体罰に値することなのだが、そんなこと気にする余裕もないほどに私は動揺した。
そんな私の動揺を他所に、ノノは入ってくるなり深々とお辞儀をしていた。
『ハンナ様! 私と相棒のショーンは今日を以て魔王軍をやめさせていただきますので―――』
『ノノ・ヘレステア! 今日から貴女を私の副官へと任命します!!』
『うぃ!?』
『拒否権はありません!!』
地獄に落ちるならば、諸共。
いざという時の餌として、ノノを副官として近くに置いておくことにした。
ただの一兵卒から副官、傍目から見れば、大大大出世ではあるが、その実態は体のいい囮である。
罪悪感はない。
なにせ、ノノも私と同じことを考えていたのが丸わかりだったからだ。
「……兵の確認をしにいきましょうか」
短い睡眠しかとっていないが椅子から立ち上がり、髪と身だしなみを整えながら兵達のいる外へと出る。
建物の裏手には大事に育てた花壇の花があるが、手入れはあとにする。
今は、勇者の襲撃に備えて兵の確認をしなければならないからだ。
「おはようございます……ハンナ様」
「ええ、おはよう、ノノ」
建物入り口に立っていたノノが、光のない目で挨拶をしてくる。
しかし、私には分かる。
彼女の目は死んでいるのではなく、虎視眈々と私を生贄に捧げようと機会を伺っている目だ。
私も同じ目をしているだろうから分かるのだ。
「ふふふ、行きましょうか」
「ええ、そうですねぇ」
ノノの目が語っている。
“タスケテ、ワタシヲニガシテ”、と。
たしかにノノならば、ショーンと名付けた飛竜と共に逃げられるだろう。
だが私は違う。
第三軍団長となった私は、絶対に逃げることを許されない。
正直、私は他の魔王様に妄信的な方々と違って、それほど魔族という種族に思い入れがない。
魔王様は尊敬すべきお方なのは理解しているけど、あくまでそれだけだ。
命を懸けてまで命令を守ろうとするほど、心酔しているわけじゃない。
「ハンナ様、兵はどのように配置いたしますか?」
「所定の位置へ。あとは魔王様にお任せします」
だが、表面上の責任は果たさなければならない。
第三軍団長という立場にいる私は、逃げ出せない。
というより、ここで逃げたら同族に裏切り者扱いされて粛清されかねないので、そうされたくないのが本音だ。
「ハンナ様はどうするんですか?」
「後方で指揮を執り、幻影魔法を用いて勇者達を攪乱させる予定ですね」
もうすぐ装備を整えた兵達のいる場所へと到着する。
私の役割は、魔王様より既に仰せつかっていたが―――正直、心底安堵した。
「ふふ、いかに悪魔とはいえ遭遇しないように立ち回ればそれでいいのです。私は後方支援、前に出なければ勇者にも悪魔にも遭遇しません……!」
「さすがはハンナ様! よっ、腹黒!」
「ノノ、貴女の担当は前線です」
「チクショウ! この外道!!」
後方ならばあの悪魔とも遭遇することはない。
それに加えて、今の立場から生きたまま抜け出せる計画も思いついていた。
「勇者に、私が殺されたことにすれば……ふふふ」
部下達を幻影魔法で騙し、男の方の勇者の光魔法かなんかで自身の死を装い魔王領から逃げる。
そうすれば、誰にも気づかれずに第三軍団長の任から、抜け出すことができる。
それから先は、幻影魔法を使って適当な人間を欺いて生きていけばいい。
「本当の本当に……完璧すぎる計画ですね」
後方だから死の危険がないし、何よりあの悪魔と遭遇する可能性が低い。
もう失敗する要素が見当たらない。
笑ってしまいそうなくらい完璧すぎる……!
閑話 恐怖に(逃げる)勇気を でした。
アマコではなく、読者の皆様に予知をさせていくスタイル。
次回も閑話となります。
更新は明日の18時を予定しております。




