第二百四十九話
本当にお待たせしました。
遅れてしまって申し訳ありません。
第二百四十九話、更新いたします。
今回は四日に分けて、四話ほど更新いたします。
先輩とカズキの訓練は順調に進んでいる……ように見える。
その一方で僕達は、ただひたすらに自分たちの連携の可能性を模索していた。
同化した存在の“種族的特徴”を僕自身に反映させる。
「ぐへぇ!?」
まあ、考えてはいるもののそう簡単にうまくいくわけがなく、この形態になってから三日間ずっとレオナさんの魔力弾の直撃を受けて吹っ飛んでいた。
「く、ぶ、ブルリンの嗅覚と聴覚が鋭すぎて、慣れないな……」
『グル!』
『そんな簡単に野生動物の感覚で動けるはずないだろ』
さすがに魔獣の感覚で魔力弾を避けるというのも難しい話だったか……!
魔力弾が当たった場所をさすっていると、丘の上から魔力弾を操っていたレオナさんがこちらを覗き込んでくる。
「だ、大丈夫か!? ウサト!」
「レオナさん! もう一度、もう一度遠慮なくやってください!」
「……君は本当にミアラークの時から変わってないな」
ブルリンとの同化に成功した後、執念に燃える先輩から本気で逃げ出した僕は、またレオナさんと共に訓練を行っていた。
といっても、内容はほとんど先ほどとは変わらず魔力弾に対処する訓練だが、違っているのは今の僕がブルリンと同化した新たな形態になっていることだろう。
「いけ!」
丘の上に立っているレオナさんが、槍を手にしたまま木々の間に潜ませた魔力弾を操作していく。
視界も不明瞭な林の中で、レオナさんが操る正確無比な魔力弾を躱すことは僕でも難しい。
こういう時こそ、アマコの予知魔法が必要だけれど―――、
「ブルリン、もう一度力を貸してくれ!」
『グルァ!』
ブルリンと同化した僕は、彼の感覚を持っている。
自分の感覚が拡大していく慣れない感覚に戸惑いながら、背後から猛烈な速さで迫る魔力弾を横にずれることで避ける。
「よし、コツを掴んできたぞ……!」
あれだけ感覚に振り回された分、ようやくものにできてきた……気がする!
魔力の匂い―――というべきなのだろうか?
ブルーグリズリーとしての生物的な特徴か、魔獣に備わっているものかは分からないけど、ブルリンの嗅覚を反映させた今の僕は、魔力の匂いを嗅ぎ取ることができるようになっていた。
「っ、そっちからか!」
『グルァー!』
『お前の適応力どうなってんだよ……』
ステップ、ジャンプ、バク転を繰り返しながら、絶えず追いかけ続ける魔力弾を嗅覚と聴覚のみで完全に把握する。
しかし、それも長くはもたない。
というより、今にも頭がおかしくなりそうなくらい情報が頭に入り込んできているので、めっちゃきつい。
「一気に次へいきます! レオナさん、系統強化を!」
僕の声に頷いたレオナさんが、操っている魔力弾を消し去ると丘の上から氷の魔法を発動させる。
それは、系統強化で作り出された氷塊。
空中で作り出された氷塊は、僕達のいる場所へと落下してくる。
「フェルム、ブルリン。やるぞ!」
『グァー!』
『本当にやるのか……』
空から落下してくるのはレオナさんが系統強化で作ってくれた氷塊。
ミアラークで、暴走したカロンさんでさえ、破壊することが叶わなかった氷だ。
「反映強化……!」
黒い魔力に包まれた僕の腕が黒い毛並みに包まれる。
心なしか、掌に肉球らしきものまで再現されているが、それを気にせずに腕を大きく引き絞る。
そのまま力を籠め―――、
「ふんッ!」
力の限りに氷塊へと拳を叩きつける。
轟音と共に、系統強化により作り出された氷塊に罅が入る。
「治癒ッ、連撃拳!」
拳から直接放たれた二撃目により、ようやく氷塊は砕け散る。
ぱらぱらと地面に落ちていく氷の残骸を目にした僕は、丘の上にいるレオナさんにサムズアップをする。
「さすがはブルリン。力は十分以上だ」
『グルゥ!』
力もすごいけれど……もしかしたら、ブルリンの毛皮を団服に反映させているから、防御力も上がっているかもしれないな。
「……決めた。今の姿を、ブルリンモードと名付けよう」
『分かった。魔獣モードだな』
『グァー!』
なにが分かったの?
いや、別にそれでもいいけども。
そう思いながらフェルムとブルリンとの同化を解いていると、丘の上にいたレオナさんがこちらへ降りてきた。
「ようやく、ものにしたようだな」
「いざという時、役立つかどうかは分からないですけどね」
今のうちにやれるだけのことをする。
そんな考えで最後の訓練を行ってきたけれど、どれだけやっていても足りない。
「さっきのように君と訓練をしていると、ミアラークで君に戦い方を教えていた時のことを思い出すよ」
ミアラークの時か。
あの時、レオナさんとアルクさんに戦い方を教えてもらったんだよな。
その前までは力任せに殴ったりしてばっかりだったし、あの時の経験があったからこそカロンさんとの戦いも、ヒノモトでのコーガの戦いも乗り越えられた。
「ははは、あの時と変わらずまだまだ僕には足りないものだらけですけどね」
「それは私も同じだよ。……私もまだ、この武具を完全には使いこなせていないからな」
ミアラークの勇者に与えられる杖。
使用者の望む形状へと変えるそれを扱うレオナさんは、カズキと先輩にも負けないくらいに強い。
いや、実戦と経験に裏打ちされた技と魔法の応用に関しては、この人が抜きんでている。
「おい。ウサト」
「ん? どうしたの、フェルム?」
後ろからフェルムに肩を叩かれる。
「あれ、見てみろ」
「あれ?」
フェルムが指さした方向、木々の隙間から見える空を見れば、空を飛びまわる光の塊のようなものが見えた。
「……カズキ?」
ボード状の光魔法に乗っているカズキの姿。
彼は波に乗るように巧みに光魔法を操り、宙に浮かび上がらせた魔力弾を縦横無尽に動かし、従えながら、光り輝く軌跡と共に青空を突き進んでいた。
「もうあそこまで飛べるようになったのか……」
「さすがだな。私にはあれほど繊細な魔力操作は無理だろう」
まさしく、別々の動作を同時に行っているということなんだろう。
魔力操作を突き詰めたカズキが可能にする技術と言ってもいいのかもしれない。
カズキに足りなかった機動力が補われたってことなのかな?
「フェルム、闇魔法とか使えば僕も飛べるようになる?」
「できるぞ」
「え、本当に!?」
「多分だけどな。でも飛ぶというより、滑空だぞ? ネアと同化しなきゃできないし……つーか、お前は走った方が速いだろ。空飛ぶ意味がない」
すっごい呆れた風に言われてしまった。
できたとしても今、練習するべきことではないのは確かか。
「ウサト」
ぼんやりと思考に耽っていると、レオナさんが話しかけてきた。
真面目な声色に、我に返った僕が彼女の方を見る。
「戦いの前でこんなことを聞くのは些かどうかと思う。だが、聞いて欲しい」
「なんですか?」
「もし、私達の力が魔王に及ばなかった時、どうするべきかという話だ」
「!」
必ず勝てる戦いじゃない。
いや、ナギさんの話を聞けば、魔王との戦いは勝ちの目すらも少ない戦いかもしれない。
「今、カンナギ殿の手ほどきにより、カズキ殿とスズネが飛躍的な成長を遂げているのは理解できる。だが、戦う相手は魔王だけではない。魔族、魔王軍、軍団長、今から往く場所は周り全てが敵だ」
味方は今旅をしている人達だけ。
一つの国を相手にするに等しい絶望的な戦力差でもある。
そんな中で、魔王と戦うのはかなり厳しいと思う。
でも、僕の中である意味で答えは決まっていた。
「負けそうになったら、僕が皆を生かします」
「……そういう問題じゃないぞ? いくら治癒魔法使いの君でも……」
レオナさんの言葉に首を横に振る。
治癒魔法で、治す話じゃない。
「どんな手を使ってでも、僕が皆を生きたまま逃がします。貴女とカズキと先輩がいれば、まだ希望は残せますから」
「……」
レオナさんと、隣でブルリンと戯れていたフェルムが唖然とした顔で僕を見る。
「ウサト、君のそれは以前の私と同じ……」
「分かっています。勿論、そんなことをするつもりはないし、やりたくもないです。けど、そうしなければならない状況に追い込まれた時は……覚悟はできています」
レオナさんがクレハの泉を口にしようとしていた話は、今でもしっかりと覚えている。
僕も好きでそんな手段をとりたいわけじゃない。
「お前、本気なのか?」
やや声の低いフェルムに、困ったような笑みを浮かべる。
「本気だよ。君達も無理やりにでも帰らせるから」
「できるもんなら、やってみろ。お前の思い通りになんてさせないからな」
「グルゥ」
そう力強く口にするフェルムとブルリンに目を丸くすると、彼女は視線を横にずらす。
「あと、それ……ネアとアマコには絶対に言うなよ」
「こんなこと言ったら、怒られるから言わないよ」
「分かって考えているのが本当に性質悪いなお前……ッ!」
「グルァ!」
げしっ、と僕の脛を蹴るフェルムと逆の足を前足で殴ってくるブルリン。
息ぴったりなツッコミに、思わず苦笑してしまう。
ちょっと暗い空気になってしまうので、冗談でも言っておこうか。
「あ、でも僕が魔王軍に捕まったらどうなっちゃうんだろうね。ははは」
「コーガの遊び相手」
「どうしてくれる。震えが止まらなくなったぞ」
茶化してみたつもりがフェルムの呟きに真顔になる。
そして容易に想像できちゃう恐怖よ。
魔王軍に捕まると自動的にコーガがついてくることになることは忘れてた。
あいつなら絶対、そうするという怖さがある。
「……そろそろ、カンナギ殿のところに戻るか」
「そうですね」
話している間に時間が過ぎてしまった。
レオナさん、フェルム、そしてブルリンと共に移動し、ナギさんと先輩が訓練をしている場所へと向かう。
林を抜けた、滝のある開けた場所。
そこでは金属音を響かせながら、ナギさんと先輩が戦っていた。
「雷撃一刀・威寅!」
雷を纏った先輩の刀と、鞘と黒刀を握りしめたナギさんの刀が激突する。
金属が弾ける音と共に、空気が震える。
それにも構わず好戦的な笑みを浮かべた先輩は、くるりと空中で回転しながらナギさんへと刀を振るう。
「猿舞ッ、からの惑巳だ――」
「させないよ! 甲亥!」
しかし、それよりも先に水平に構えた黒刀に拳を添えたナギさんの体当たりが先輩へと叩きつけられる。
初動の速い体当たりで技の出を潰したのか?
でも、先輩も体勢を空中で立て直しながら地面へと着地している。
「雷獣モード3、戌走り」
先輩の身体を覆う電撃が一瞬にして紫色へと変化する。
系統強化によりパワーアップした雷獣モード、その状態で刀を鞘へと納刀し、低く構えた状態で跳び出そうとしたその時―――、
「———辰……」
「はいストップ!」
「んん!?」
ナギさんがストップをかける。
その声につんもめりながら呆気にとられた声を漏らした先輩は、ぷんすかと怒りながらナギさんへと詰め寄る。
「な、なんで止めるんだい!?」
「いや、そろそろ我を忘れて大技を使う頃かなって思って。これ以上本気でやれば気付かれるかもしれないし」
空を見上げながらそう口にしながら、ナギさんが先輩の肩へと手を乗せた。
「スズネ、君に必要な技の基礎は教えたから、あとは君だけの形にしていくといい」
「まだ全部教えてもらってないよ? 未隠し返しとか」
「君に合ってないから無理だ」
「全否定!?」
がびーん、とショックを受ける先輩に生温かい目になるナギさん。
「君は何も考えずに相手に斬りかかった方が強い」
「人を切り裂き魔みたいな扱いしないでほしいんだけど」
先輩の場合、戦闘スタイルからして防御よりも回避よりの戦いの方が重要だからなぁ。
ナギさんの言うことも分かる気がする。
「まあ、私に教えられるのはこれくらいだ。あとは君の頑張りにかかっている」
「はい! 師匠!!」
「まだ続くのそのノリ? ま、まあ、いいけどさ」
やや引いた様子のナギさんは、観戦していた僕達へと視線を向ける。
「カズキとスズネも仕上がってきたことだし、そろそろ皆を集めようか」
「と、いうと?」
「ああ、魔王軍への対策について、これから話し合おう」
最後の訓練が終わり、次に向かうのは魔王がいる都市。
僕達の旅の目的地であり、決戦の場所。
そこでどんな戦いが起きるかは想像できないけれど、それでも僕達は向かわなくちゃならないんだ。
・ウサト→ブルリンとの同化で全体的な能力と、索敵能力UP+クマパンチ(強)を習得。
・カズキ→空を飛ぶ術を身に着けたことで、空飛ぶ移動砲台に
・スズネ→カンナギ流の“攻め”を学び、より攻撃的に。
次回の更新は明日の18時を予定しております。




