第二百四十八話
昨日に引き続き、二話目の更新となります。
前話を見ていない方は、まずはそちらをー。
ナギさんによる個人特訓はそのすぐ翌日から行われた。
そもそも、魔王のいる都市の近くにまで迫っているので、悠長にしている時間もないらしいので、彼女は普段の優しい印象をがらりと変え、厳しく先輩とカズキを指導していた。
「カズキ、もっと柔軟に技を使え! 遠慮はしなくていい! 本気で来い!」
「は、はい!!」
カズキの放つ魔力弾を余裕をもって捌きながら、カンナギは先輩の繰り出す刀を鞘で弾く。
「スズネ、君は私の技を見て覚えろ!! できなかったら体で覚えてみせろ!」
「望むところ!」
「じゃあ、行くぞ! カンナギ流、一刀ッ威寅!!」
両手で握った柄を上段で構え、そのまま力の限りに振り下ろす。
それだけで地面が割れ、砂煙が舞う。
「あ、あらためて見ると、すごいな……」
「あれが本来のカンナギの実力ということだろうな」
その光景を遠目で見ていた僕とレオナさん。
他にも、ネア、フェルム、アマコ、ブルリンといった面々もいる。
「フェルム、ネア、アマコ、僕達もやろうか」
「「「はーい」」」
ノリがいいね……。
フェルムが僕と同化し、そのままネアとアマコが僕の身体に入り込む。
僕の団服に黒色が入り混じり、同化が完了する。
『……やっぱり慣れない』
準備体操をするように身体をほぐしているとアマコがそんなことを呟く。
彼女の呟きに反応して、やけに楽し気なネアの声が聞こえてくる。
『そう? 私は慣れたわよ? 結構居心地いいわね』
『いやお前はくつろぎすぎだろ……』
地味に僕と同化した時ってどんな感じなのか気になるんだよな。
フェルムとか普通に眠れるらしいし、意外と快適な造りなのかな?
……いや、造りってなんだよ。
僕の身体はシェアハウスかなんかかよ。
自分で考えて自分で突っ込んでいると、準備体操をしている僕の元にブルリンがやってくる。
「グルゥ」
「ごめん、これ以上の同化はできないんだ……」
ブルリンも今の姿に興味があるようだ。
だけど、今の僕の身体は定員オーバーなので同化するにしてもアマコかネアのどちらかと入れ替わらねばならない。
今は、この基本となる同化でどれだけのことができるか試さなくてはならないので、今はブルリンには観戦してもらおう。
ブルリンの下あごあたりを撫でた後に、レオナさんの方へと向く。
「よろしくお願いします。レオナさん」
「ああ。まずはどうする?」
「ちょっと試したいことがあるので、魔力弾を飛ばしてもらってもいいでしょうか?」
「了解した」
レオナさんが冷気を放つ氷の礫をいくつも作り出し、宙へと浮かべる。
それらは結構な速さで僕へと向かってくる。
「フッ!」
一気に迫るそれらをバックステップをして躱す。
アマコの予知を耳にしながら、氷の礫を対処し、避け切れない攻撃はネアが施してくれた耐性の呪術で対処する。
『ウサト、特別代わり映えしないけど、これに何か意味があるの?』
「勿論、だ!」
絶え間なく迫る氷の礫を拳ではじき返しながら、移動する。
いつしか場所は滝つぼの近くから、林の中へと移る。
「フェルム! この訓練の前に話したこと、覚えているか!」
『え? それってボクの闇魔法に弾力を持たせるやつか? さっきも言ったけど、そんな繊細なことができると思うのか?』
「いいやできる! 君なら!!」
フェルムは半信半疑だったけれど、闇魔法の特性を考えれば不可能な話じゃないはずだ。
というより、コーガが僕の弾力付与をあれほどまでに簡単に真似できたということは、闇魔法使いにとってそれほど難しくない技術なのだろう。
『まーた、変なことしようとしてるわ……』
『いつものウサトだね』
アマコとネアの呆れたため息が聞こえてくる。
それをかき消すように、腕から伸ばした闇魔法の剣から衝撃波を放ち、氷の礫を吹き飛ばす。
そもそも、フェルムは闇魔法に弾力を持たせることに懐疑的だ。
なので、ここは効果的な言葉で彼女を焚きつけることにする。
「コーガはできたぞ」
『……なんだと? あいつにできたならボクもできるわ!!』
『ちょろい』
『ちょろいわね』
『お前らうるさいぞ!!』
アマコとネアに怒鳴ったフェルムは、左腕に集めた黒い魔力に変化を及ぼす。
硬く作られていた黒い魔力は、ゴムのような弾力を得る。
試しに木を軽く殴ってみれば、ぼよん、と反動が返ってくる。
「弾力自体は、僕の弾力付与の方が強いけれど……これはこれで!」
左手を広げ氷の礫の一つを受け止める。
僅かな反動とともに氷の礫は掌に沈み込み、衝撃を完全に殺す。
そのまま両足に弾力を持たせた魔力を纏わせ、木を蹴りながら移動していく。
「こういう使い方か!」
「それが君の試したいことか!」
槍を持ったレオナさんが、さらに氷の礫を作り出しながら向かってくる。
さらに数を増して襲い掛かってくる氷の礫。
それに対して、マントのように変形させた闇魔法を前面に叩きつけ、衝撃そのものを弾力で無力化させる。
「なら、これは防げるかな?」
『っ、ウサト! 上!!』
頭上の太陽に重なるように繰り出された氷の礫。
目が眩んだ僕の身体に礫が叩きつけられ、地面へと落下する―――が、背中に集中させた黒い魔力により、僕の身体は地面をバウンドするように再び宙へと浮き上がる。
「っと、攻撃の衝撃も防いでくれるんだな。名前は……闇クッションだな」
『お前ら、この技の名前はクッションアーマーでいいな?』
『うん』
『文句ないわ』
「あれぇ?」
僕の声が聞こえなかったのかな?
まあ、少し物足りないけどクッションアーマーでいいか。
移動用、攻撃、防御をかねる僕自身の弾力付与と、攻撃の衝撃などを相殺する鎧になるフェルムの弾力付与。
この二つをうまく使っていけば、実戦でも十分に使える武器になるはずだ。
「さて、続きです!」
「こちらも遠慮はしないぞ!」
僕は右腕の籠手を、レオナさんは構えた槍を振るう。
時間は限られている。
その間に、僕はクッションアーマーを実戦で使えるレベルにまで鍛えていかなければならない。
●
僕とレオナさんの訓練は、互いが本気になる一歩手前ぐらいで終わりにした。
あくまで新しく試したいことを実践するための訓練なこともあるが、なによりナギさんに、先輩とカズキに治癒魔法をかけるようにお願いされたからだ。
疲労困憊の二人に治癒魔法を施した後は、焚火で焼き魚を作っているけれど、離れた場所では二人の訓練は続いている。
「カズキ! そうだ!! 特性を生かせ!!」
「はぁい!」
「だが遅い! それじゃあ、すぐに落とされるよ!!」
いつのまにか円盤状にした光魔法に乗り、宙を移動し始めたカズキを二度見をした僕は悪くないだろう。
カズキが繰り出す魔力弾を予知魔法で先読みし、余裕をもって躱していくナギさんに、電撃を纏った先輩が挑みかかる。
「食らえい! 雷電・戌走り!」
「甘い! カンナギ流、未隠し返し!」
黒刀の切っ先を地面に突き刺し一瞬にして砂煙を巻き上げたナギさんが雷を纏いながら斬りかかってきた先輩の攻撃を躱してしまう。
そのまま刀を手放したナギさんは、両手での掌打を先輩へと叩き込んだ。
「無手、丑穿ち!」
「うぐぉ!?」
地面を転がりながら、再び立ち上がる先輩。
土に塗れながらも口元を拭った彼女は、笑みを浮かべる。
「まだまだ……!」
「その意気だよスズネ! 君はもっとできるはずだ!!」
「か、カンナギ師匠ぉぉ!」
「来ぉぉい!」
そのままカズキを巻き込んで激化していく訓練。
……スポコンかな?
「暑苦しいなあいつら……」
「なんだかんだでスズネと相性いいわよね。カンナギって」
フェルムとネアは、焼き魚を口にしながらげんなりしている。
互いに本気じゃないとはいえ、あの先輩とカズキを手玉に取るなんてさすがだなぁ。
時間があれば、僕も訓練に参加したかったけれど、今は二人の邪魔もしてられない。
「はい、ウサト。木の実」
「お、ありがとう」
アマコが紫色の木の実を差し出してくる。
それを受け取り口に入れると、特有の酸味さとほのかな甘みが口に広がる。
うん、渋くもないし普通に美味しいな。
「よし、これは食べられる木の実」
「おうこら、子狐。また僕に毒見させたな」
「ん、冗談」
本当に冗談なの?
気にせずに木の実を口にしているアマコを横目で見て、肩を落とす。
すると、対面に座っているレオナさんが僕へと話しかけてくる。
「君は戦うたびに新しい技を思いつくな」
「ははは、今回はコーガを参考にしただけですけどね」
僕の弾力付与を真似されたので、真似返したとも言える。
まあ、コーガほど扱えはしなかったけれど、僕自身の弾力付与と差別化ができたのでよしとしよう。
「やはり、君の存在は頼もしいと思えるよ」
「実力は貴女の方が高いですし、そんな……」
「力云々の話じゃない。君には……なんというべきか、どんな状況も誰も思いつけない方法でなんとかしてくれそうな……信頼のようなものがあるんだ」
「し、信頼……」
誰も思いつけない方法って、褒められているのだろうか?
いや、レオナさんはきっと褒めてくれているんだろうけど、ちょっと複雑な気持ちになった。
「……ねぇ、フェルム」
「んあ?」
そんなやり取りを僕とレオナさんが交わしていると、ネアが隣で焼き魚をがっついているフェルムに話しかけていた。
「レオナって同化の基準を満たしているの?」
「え!?」
焼き魚に食いついたまま首を傾げるフェルムと、ややオーバーなリアクションを返すレオナさん。
そんな彼女を数秒ほどジッと見たフェルムは、ゆっくりと首を振る。
「まだ……無理っぽいな。そんな気がする。単純にこの前、会ったばかりの関係だからだろうな」
「そうか……」
やや残念そうに肩を落とすレオナさん。
そんな彼女をフォローすべく声をかけようとすると、それよりも速くフェルムが話しかけた。
「まあ、あんたは悪い奴じゃないのは見てすぐ分かる。単純に知り合ったばかりだから、そこまで気にすることないぞ」
「……ああ、ありがとう、フェルム」
……いや、なんというか、感動した。
救命団入団当初は、全方位に刺々しかった彼女が、今では他人を気遣える言葉を口にできていることに僕は、フェルムの成長を実感した。
そんな驚きの表情を気取られたのか、フェルムが僕を睨みつけてくる。
「な、なに見てんだよ……」
「いや、なんだか親心というか……。アマコもそう思うだろ」
「良い子良い子」
ぽんぽんと、いつの間にフェルムの隣に移動したアマコが彼女の頭を撫でる。
それに気づいたフェルムは顔を真っ赤にさせながら、アマコの手を振り切った。
「ボクを子供扱いするなぁ!」
微笑ましいなぁと思っていると、僕の背を誰かが叩いてくる。
「グルァー!」
「おおう、どうしたブルリン?」
振り向くとブルリンがいる。
ん? なにか言いたげだけど、どうしたのだろうか?
「ひょっとして、ブルリンはウサトと同化してみたいんじゃないのかしら?」
「……そうなのか?」
「グルァー!」
そうらしい。
そういえばさっきもしたがってたな。
今は大丈夫だろうし、フェルムに同化できるか見てもらおう。
「フェルム、ブルリンって同化できる?」
「はぁ? ……あー、まあ、できるな。なんだかんだでこいつとは関わってるし」
そういえば、一緒の戦場を走ったりしてたからな。
すぐに試してくれるようで、黒い魔力と化したフェルムが僕の身体と同化してくれる。
そして、すぐ隣にいたブルリンが僕へと飛びつき―――そのまま同化する。
『グルァー!』
「おお、僕の内側からブルリンの声が聞こえる」
フェルムやアマコとは違ってなんだか新鮮な気分だ。
「それで、どうかな?」
「見た目には変化はないな……」
「いつものウサトね」
興味深そうに見てくるレオナさんとネア。
すると、僕の内にいるフェルムが話しかけてくる。
『じゃあ、同化しているブルリンの種族的な特徴を反映させてみるか』
「……そんなことできるの?」
『できるというか、もう何度もやってるぞ。お前を魔族みたいな見た目にした時は、ボクの特徴を出したようなものだし』
その言葉にアマコが興味深そうな表情を浮かべる。
「じゃあ、私やネアの特徴も出せるの?」
『できなくはないぞ。まあ、こいつには必要ないと思ってやらなかったけど』
たしかに僕に吸血鬼としての能力は必要ないからな……。
獣人の感覚は、必要なときが来るかもしれないけど。
そう言っている間に、フェルムがブルリンの特徴を僕に反映させてくれる。
すると、僕の団服の襟元と、肘から先の両腕が黒い毛におおわれていく、まるで黒色の毛布に包まれたように変わっていく手を見て驚きの声を上げてしまう。
「う、腕が……」
なんとなく力が溢れてくる感じがする。
これはブルリンの力が反映させられたってことなのかな?
感覚も鋭くなった気もする。
成功だな、と思い顔を上げ、アマコ達の方を見ると―――なぜか笑いをこらえている。
「え? どうしたの?」
『なんで笑ってるんだ?』
アマコとネアは口元を押さえて笑っているが、レオナさんは背後を振りむいて肩を震わせている。
訳が分からず僕とフェルムが戸惑っていると、ネアが涙を浮かべながら僕の頭を指さした。
「あ、貴方、ブルリンみたいな耳が生えているわよ?」
「……え?」
呆気に取られて頭を触ると、そこにはあるはずのない丸い耳があった。
もしかして、種族的な特徴を反映させた結果、僕の頭にクマミミが生えたってこと?
耐え切れなかったのか、そのままネアは人を指さしながら笑い出した。
「ぷ、ふふふ! に、似合ってるじゃない!」
「うん、とても似合ってると思う」
「こ、こいつら……!」
『ボクも見たい。見て思いっきり笑ってやりたい』
僕には良心のある味方はいない。
レオナさんは、ちらちらと横目で見ながら肩を震わせて、ひたすらに耐えている。
駄目だ。
もう羞恥的に耐えられない。
しかも、この状況をあの人に見つかったら―――、
「ウサト君にケモミミがっ!?」
駄目だ、遅かった!
結構な距離が離れているのにロックオンされた!?
「師匠、一旦ストップだ! 今、私には向かわねばならない場所ができた!!」
「スズネ、目を逸らすなぁ!」
「なら、今師匠を超えるまでだよ! 行くよ、カズキ君!」
「あ、ちょ、先輩!?」
凄まじいやる気と共にナギさんへと向かっていく先輩。
その様子を見た僕は、この後の展開を想像して頬を引き攣らせる。
ブルリンとの同化は強そうだったけれど、先輩の前では出せないな……。
形態名:クマウサト
能力は筋力UPと感覚強化などがあり、団服にファーなどがつきモフモフ感が出る。
見た目は、あのレオナでさえ目を逸らすほどの破壊力。
今回の更新は以上となります。




