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閑話 迎え撃つは最大の“敵”

ニコニコ静画のコミカライズ治癒魔法のここ数週間のウサトの扱いが(おもしろ)い。


今回はシエル視点の閑話となります。


閑話 迎え撃つは最大の敵


 魔王様に救出され、何度かの瞬間移動を経て魔王城へ帰還することができた。

 正直な話、魔王様に抱えられている事実にときめき二、恐怖八くらいの割合で震えていた。


「休んでおけ、さすがに疲れただろう?」


 城の広間に下ろされた私に、魔王様がそのようなお言葉を掛けてくださった。

 そのまま遺跡で起こったことを話すように言われるものだと思っていた私は、驚きに目を丸くさせてしまう。


「魔王様が……私を、気遣われている……!?」

「貴様は私をなんだと思っているのだ……」


 普段は絶対にしないため息を零した魔王様は、玉座に腰を下ろしながら額を押さえる。

 どうやら気遣ってくださったのは本当らしい。


「今、お話します。正直、このまま休んだら忘れてしまいそうなので」

「……そうか」


 精神的な疲れで眠ってしまいたいところだけれど、話せるときに話しておくべきだろう。

 いつのまにか用意されていた椅子に腰かけながら、あの遺跡で起こった出来事について話す。

 遺跡のこと。

 勇者達のこと。

 治癒魔法使いウサトのこと。

 勇者の従者をしていた獣人、カンナギのこと。

 自分の記憶を辿りながら、話していく。


「なるほど、貴様は随分と面白い位置から事態を見ていたのだな」

「正直、何度も死を覚悟しました。何度も」

「二度も言わなくてもいい」


 肝心のコーガさんは私をほとんど守ってくれませんでしたし。

 いや、本当は危ないところを助けてくれていたのかもしれないけど、私から見ると結構ダメダメな人だった。


「カンナギは治癒魔法使いが倒したのか、これはまた意外な結末となったな」

「あの方、噂以上にハチャメチャな人です。闇魔法使いの方と合体したり、獣人の方と合体したり、魔物の方とも合体してました」

「……やはり疲れているのだな。休んでいいぞ」

「いやいや、本当ですから!」


 ものすごくいたわるような眼差しを向けられてしまった。

 頑張って手を横に振りながら正気だということをアピールすると、魔王様はくつくつと笑みを零した。


「冗談だ。……ハンナとコーガからの報告にあった闇魔法使いとの同化か。同族すらも拒絶する闇魔法使いがよもや人間だけではなく、他種族を受け入れるとはな……やはり、興味深い存在だな」

「注目していらしたのですか?」

「私の知る時代には存在しない類の人間だからな」


 というより、過去にもあんな滅茶苦茶なことをする人間がいたら逆に驚く。

 もう今日の内に言葉で言い表せないほどに、滅茶苦茶なことをしまくったウサトという人間にげんなりしながらも、今の今まで気になっていたこと―――なぜ私を遺跡に送り出したのかということについて聞いてみることにした。


「なぜ魔王様は私をあの遺跡に?」

「あの遺跡でなにか起ころうとしていたのを察知してな。見聞ついでに貴様を送らせて事態を見届けてもらおうと思ったのだ」

「えぇ……」

「勇者が私を討つために魔王領に入り込んでいる可能性も考えていたからな。奴らがあの場にいるのもそれほどおかしい話ではなかった」


 私、行く必要なかったのでは?

 結果的に助けに来てくれたのは嬉しかったが、魔王様の戯れで何度死を覚悟したことか……。


「しかし、勇者一行か。この目で見るのは初めてだが、随分と際物揃いのようだな」

「彼らは、魔王様を害するために来たんですよね……?」

「ああ、それ以外に来る理由もないからな」


 というものの、魔王様は非常に落ち着いていらっしゃるみたいですけど。

 勇者を脅威として見ていないのだろうか?


「案ずるな、シエル。貴様が心配せずとも手は打つ。少々、予想とは違う結果ではあったが、それもまた誤差の範囲内だ」

「……誤差、ですか?」

「カンナギのことだ」


 あの、ウサトと戦っていた獣人の方か。

 魔王様からすれば、彼女は数少ない封印される以前の魔王様を知っていた方といってもいいのか?


「まさか私が封印されていた場所にいたとはな」

「勇者のカタナと呼ばれるものも持っていました」

「ああ、あれか」


 魔王様はなにかを思い出すように額に手を当てた。


「先代勇者との最後の戦いの時、奴は強力な武具である刀をもって来ることはなかったが……カンナギの封印に使うとは、随分と乙なことをしてくれる」

「え、そうだったのですか? では、どのようにして勇者は魔王様を?」

「いくつもの戦場を駆け自身の魔法によって多くの屍の山を築いてきた奴には、勇者の武具なぞという補助程度の装備は必要なくなっていたのだ」


 自ら強大な武器を手放した上で魔王様と戦うことを選んだということか?

 先代勇者の出鱈目さに頬を引き攣らせてしまう。


「奴はどこかで拾った鉄の剣と、自身の魔法のみで私と戦い―――その末に勝利をおさめ、この私を封印せしめたというわけだ」

「ほ、本当に、化物だったんですね」

「今代の勇者にも素養はあるがな。十年……いや、五年ほど先代と同レベルの経験と鍛錬を積めば、奴の力量に追随するだけの実力を備えるだろう。全く、末恐ろしいものだ」


 そう言って口の端を歪める魔王様。


「だが一目見て、その精神性は善そのものなのは分かった。奴らは非戦闘員の貴様には危害を加えてこなかっただろう?」

「は、はい」


 魔王軍側の私から見ても、勇者一行はいい人たちだった。

 コーガさんがあれだけやばいやばい言っていたウサトも……部分的に見ると十分に危ない人ではあったけれど、私とキーラちゃんを守ってくれるくらいにはいい人だった。

 ……最初から最後までコーガさんにだけは塩対応でしたけど、あの人の場合はしょうがない。

 むしろ傷を治してくれただけ優しいくらいだ。


「ならば、付け入る隙は十分にあるだろう」

「いかがなさるおつもりですか?」

「策を弄するのだ。魔王らしく、狡猾にな」


 冷笑を浮かべる魔王様。

 力の大部分を失っているはずの魔王様だが、そんな彼の笑みを浮かべる姿はどこか楽し気に見えた。

以上で十章は終わりです。

登場人物紹介の後に第十一章へ突入いたします。


次章のテーマは『選択』となります。



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