閑話 二人で一人の / 彼が与えた変化
二話目の更新となります。
前話を見ていない方はまずはそちらをー。
今回は閑話二本立て、
時系列的には遺跡を出た後になります。
閑話 二人で一人の
私は自身の魂の一部を切り離すことで、もう一人の私―――勇者の刀から生まれた人格との融合を果たした。
正直、今の自分が以前とはどれほど変わってしまったかは私自身理解していない。
ただ一つ言えることは、私は二つの人格を持つ獣人、カンナギとして生まれ変わったということだけだ。
「……」
遺跡を脱出する最中に気絶してしまったウサト。
すぐさま気絶した彼を運んで遺跡を脱出した私達は、集落の隠れ家の一室で彼を寝かせることになった。
私のせいなんだけど、皆今回で精神的にも肉体的にも疲れていたので、交代で見張りを行うことになったのだけど―――、
『皆、彼の看病はこの犬上鈴音に任せてくれ。心配いらない! 私は元気が有り余っているからね!! 眠らない女とは私のことさ!』
満面の笑みでウサトの看病を名乗り出たスズネであったが、アマコ達のダメ出しにより即座に却下されてしまった。
籠手を通じて何度もスズネの変な行動は見てきたつもりだけど、やはり実物は違うことを思い知らされた。
「……本当に、現実なんだよね」
ベッドに寝かせられたウサト。
その傍らに置かれた椅子に座った私は、思わずそんなことを呟いてしまう。
正直、もう外を見ることなんてできないと思っていた。
このまま封印されたまま、身動きもできずにただ魂だけの存在として生き続けるしかないと、絶望しきっていたのだ。
「ありがとね、ウサト」
眠っている彼の横顔に手を添え、呟く。
彼を通して見ていた世界は、私の知るそれとは大きく異なっていた。
人間同士の醜い争いのない平和な時間。
善良な人々との交流。
魔王軍の危機に晒されているという点は同じだけれど、それ以外の全てが私にとって眩しかった。
「……ヒサゴは、平和な世界を私に見てほしかったのかな……」
私に未来を見届けさせるという目的もあるかもしれないけど、できればそんな思惑もあって欲しいと思ってしまう。
私のいた時代は、まさしく地獄だった。
獣人が当たり前のように捨て駒にされ、人どころか物以下の扱いが当たり前の時代。その中で魔王軍との戦いに明け暮れていた私は、まともな生活というものを知らなかった。
もちろん、自分で選んだ道だったから後悔はなかった。
だけど、それでも誰にも裏切られず心を落ち着かせられるような平和な世界を―――ヒサゴと一緒に戦っていた頃の私は、夢見ていたんだ。
『今、布団に入り込んでもバレないんじゃない?』
「……っ」
感慨に耽っている私の内から聞こえてきた声に我に返る。
「来たな! 邪な私の囁き……!」
割と結構な頻度で囁いてくる、もう一人の私の声にグッと堪える。
魂を融合した結果、こうやってもう一人の私が語り掛けてくるようになったけれど、周りの目もあるしこういうのは本当に勘弁してほしい。
『大丈夫、ウサトなら気にしない』
「むぅっ!?」
勝手に動き出した私の腕がウサトにかかっている布団へと伸ばされる。
させるか! と思い腕を止めるが、私の中の私も負けじに動かそうとする。
私と私の中の私の戦い……!
自分でもなにやっているんだろうと思いながら、腕を突き出したままふるふると震える。
「ま、待て、待って! とりあえず話し合おう……!」
『やだ』
子供か!? いや、精神性は子供みたいなものだけど!
私の内にいる君はいいけど、表にいる私はいわれなき変態扱いをされることになるんだよ!?
さすがにそれはマズイ!
私はスズネみたいに心が強くないし、そんな醜態を見せるなんて耐えられない!
『お前も嫌ってるわけじゃないだろ!』
「そうだけども……! で、でも物事には順序というものが……!」
『純情ぶるな、この恋愛クソ雑魚女! 奥手なお前の代わりにこの私が手伝ってやるって言ってんだよ!』
「や、やめろォ!」
だ、だだだ誰がクソ雑魚だ!
いや、封印される以前は基本周りには外道か人でなししかいなかったし、そういうことにうつつを抜かしている場合じゃなかったけども!!
『——ん?』
その時、突然私の手を動かそうとしていた力が抜ける。
思わずつんのめりかけながら、ベッドに眠っているウサトを見ると、掛けられた布団の中のすぐ隣に不自然なふくらみがあることに気付く。
……なんだ?
首を傾げながらゆっくりと布団を捲ってみると、そこには――
「スゥー、スゥー、フへへ」
「……」
『……』
黒色のフクロウ、ネアがいた。
フクロウなのに横に寝っ転がって眠っている彼女に頬を引き攣らせる。
い、いつの間に潜り込んだのだろうか? 少なくとも私がここに来る前から忍び込んでいたことは確かだけど……。
「———ここにいたんだ」
「ひっ!?」
背後からの声。
目の前の珍事にびっくりしすぎて変な悲鳴を上げながら振り返ると、眠そうな目のアマコが入り口に立っていた。
彼女は驚いている私を一瞥したあとに寝ているウサトに近づき十秒ほど彼の様子を見る。
「……よし」
そのまま眠っているネアをむんずっ、と鷲掴みにする。
こちらを振り返った彼女はそのまま小さな欠伸を零しながら部屋を後にしようとする―――前に、私の方へと振り返る。
その瞳はどこか鋭い。
「カンナギ」
「な、なにかな?」
「早まった真似は、しないようにね?」
「は、はぃ」
それに納得したのか、アマコはネアを掴んだまま部屋をあとにした。
再び、静寂に包まれる部屋の中で、私は呆然としたまま椅子に座る。
もう私の内にいる私からの声は聞こえない。
多分、アマコに怯えて引っ込んでしまったのかもしれない。
「真面目に看病しよ……」
アマコを怒らせたくない。
素の実力差関係なくそう思いながら、私は交代の時間まで大人しく彼の看病をしているのだった。
閑話 彼が与えた変化
魔王様に命じられ、魔王様専属の侍女のシエルと共に遺跡へ向かったのはいいが、そこでウサトや勇者達と遭遇することになった。
軍団長としては見過ごせない事態ではあったが、何よりウサトという好敵手がいたからには何もしないわけにはいかず喧嘩を売ってしまったわけだが―――、事態は俺ですら予想していないことに発展した。
とにかく色々あった。
まあ、大体は蚊帳の外で、訳わからんうちにカタナとかいう剣で串刺しにされた上に、闇魔法を奪われるってピンチには陥ったが……最終的にはなんとかなった。
「コーガ様、わ、私、あの悪魔に遭遇して魂をとられかけたんです!!」
「なにを言ってんだ、お前」
魔王様に助けられその場を離脱することに成功し遺跡を脱出した俺は、なぜか気絶していたノノを起こした後に魔王城へと帰るべく飛竜に乗り空を飛んでいた。
「い、今でも脳裏に焼け付くあの姿。褐色の肌……ねじ曲がった角……あ、あれはまさしく悪魔ですぅ……」
「……ただの魔族じゃねぇのか? それ」
というよりお前もそうだろ。
ガタガタと身体を震わせながらも器用に飛竜を操っているノノ。
話を聞くと、俺とシエルを待っている間、外で暇をしていたノノは魔族の姿となったウサトと遭遇してしまったらしい。
前の戦いの時のトラウマと、ウサトに角が生えているというショックから気絶してしまった彼女は新たなトラウマを刻み込まれてしまったとのこと。
その間、彼女の相棒である飛竜は付きっ切りで彼女のことを守っていたらしい。
……まあ、面白すぎるな。
「私、確信しました……! あれは治癒魔法使いなんかじゃなく、人の皮を被って裏から人間達を操っている悪魔です……! そうじゃなきゃ、治癒魔法使いがあんな非常識な動きしません……!」
一体ウサトはこいつに何をしたのだろうか。
想像はできるが、ここまで恐怖を植え付けるのは相当だと思うぞ。
「しかも彼は私とハンナ様を狙ってます……!」
「いやなんでだよ」
「こんな荒れ果てた上に、しみったれた土地にまで来るなんて、それしか考えられないじゃないですか……!」
「お前は自分の生まれ故郷になんてこと言うんだよ……」
俺も碌な思い出がないが。
最後に見た母親の記憶は、魔物蔓延る森に置き去りにされた時のものだしな。
俺のツッコミを聞いていないのか、スルーしているのか分からないがふるふると振るえた彼女は、飛竜を操っている手綱を強く握りしめる。
「これは帰ったらハンナ様にご報告せねばなりません! 報告して、ハンナ様にあとはお任せします!」
「まさかお前、ハンナにターゲット移して逃げようと考えてんじゃないだろうな?」
瞬間、彼女の動揺を表すかのように飛竜が大きく揺れる。
危うく落ちかけながらもしがみつくが、それに伴い、カンナギとかいう女に刺された傷が痛む。
「そ、そそそ、そんなことするわけないじゃないですか! ハンナ様は敬愛すべき上司でありけりますから、情報を共有しようと思った所存で……! 断じて、私の代わりに悪魔に捧げようだなんて考えはありませんから!」
「分かった! 分かったから! ちゃんと飛べ!」
飛竜が安定したところで一安心しながら、カンナギに刺された傷に手を添え、闇魔法の魔力を籠める。
応急処置はウサトがしてくれたが、完全に治ったわけじゃない。
回復魔法と合わせて、闇魔法で傷口を塞ぐ。
「……この程度なら、すぐに治りそうだな」
欲を言うなら、もう少し治してほしかった。
……いや、この場合、ウサトはよく治してくれたと思うべきか。
我ながら面倒くさい絡み方をして困らせてやっているのは自覚しているからな。
普通なら、あの場で俺を見殺しにする方が正解だ。
「借りができちまったってことか……」
真正面からの不意打ちに対応できなかったってのが不甲斐ない話だったが、ウサトに借りを作るのも悪くはない。
なんだかんだ言って、あいつとの共闘は楽しかった。
……ま、足掴んで振り回されるのは、ごめんだけどな。
「強くなったな、あいつ」
最初は魔力を暴発させ、今回は魔力に弾力を持たせてきやがった。
正直、魔力に弾力を持たせるなんて考えもしなかった。
それに加えて、フェルムとの同化だ。
あいつ、フェルムに加えて魔物と予知魔法持ちの獣人と同化してえっぐい強化してきやがった。
さすがの俺でもあれは真似できない。
一人で戦い続けてきた俺には、あんな風に他の誰かと手を取り合うことも協力することすらできないからだ。
……いや、強いて言うなら今回のウサトとの共闘が俺にとってのソレに当たるかもしれないが、相手がウサトじゃ意味がない。
「もっと戦いてぇなぁ」
勝ち負けなんてどうでもいい。
いつだってあいつとの戦いは楽しい。
何が飛んでくるか分からない怖さ。
予想の上をゆく発想力。
俺ですらドン引きする言動。
その全てが楽しかった。
———人間と魔族との戦いが終われば、もうそんな戦いをすることがなくなってしまうのか?
そんな考えが頭によぎる。
いや、それ以前にあいつとの縁が切れてしまうことに、俺は心のどこかで寂しさのようなものを感じていた。
俺も、フェルムと同様に影響されているということか?
自分の考えに我に返り、思わず苦笑してしまうといつの間にかこちらを振り返っていたノノが嫌そうな表情を浮かべていることに気付く。
「コーガ様、顔が気持ち悪いですよ? ハッ、悪魔の仕業ですか!?」
「……」
「あ、あー! 痛い、頭グリグリしないでください! しょ、ショーン! た、助けてー!」
さすがに傷ついたので、両方のこめかみから軽く拳を当ててやる。
この場にシエルがいたのなら、冷静なツッコミをしてくれるんだが、いないと寂しくなるもんだな。
ハンナを身代わりにする気満々のノノでした。
予告では二話更新でしたが、あと一話が間に合いそうなので明日も更新いたします。
更新時刻は明日の18時となります。




