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閑話 もしもの彼の話

IFウサトの話となります。


今回は二日に分けて二話ほど更新いたします。

 魔王軍との戦いの日、先輩とカズキは黒騎士に殺された。

 間に合わなかった僕は、二人の屍の前でただ自分の無力さに打ちひしがれることしかできなかった。

 復讐する黒騎士も、ローズが殺してしまった。

 攻撃をそのまま跳ね返す魔法に対して、最終的に治癒魔法を纏わせた拳で始末をつけたローズだったが、泥のように溶けていく黒騎士の鎧の中には、僕とそう変わらない歳の少女が息絶えていた。


 黒騎士よりも、間に合わなかった自分への怒りが僕自身を蝕む。

 友達を救うことのできなかった僕に、救命団員である資格はあるのか?

 このどうしようもない怒りと憎しみをどこに向ければいいのか?

 それすらも分からずに、がむしゃらに動き続けていたけど、結局はリングル王国は魔王軍に侵略され、乗っ取られてしまった。

 それからの僕は、救命団に戻らずリングル王国奪還のために最前線で戦い続けた。

 二人の死を無駄にしないように、二人の代わりに戦うようにしていた僕は、この手で数えきれないほどの魔族を殺めてきた。

 クレハの泉という水にまで頼って魔王軍と戦うようになってからは、周りの心優しい人たちが止めてくれたけれど、それでも僕は止まるわけにはいかなかった。

 今はいない二人の代わりに、傷つく騎士達の代わりに、僕が戦い続けなければならなかったから。


「行ったかな……」


 僕の目の前で光の粒子となって消えてしまった二人。

 雷の勇者、犬上鈴音と、光の勇者、龍泉一樹。

 かつてローズに討たれた黒騎士という存在に殺された二人が、どういうわけか僕の目の前に現れた。

 正直、あのハンナとかいう悪意を煮詰めたような性格最悪の魔族が見せた幻かと思っていたけれど、その疑いはすぐになくなった。

 幻で見た異様にシリアスで真面目を装った先輩とは明らかに違っていたからだ。


『どうして、助けてくれなかった?』

『君なら私を救えたかもしれないのに』

『信じていたのに、裏切られた』

『勇者の私の代わりに、君が死んでいればよかったのに』


 幻で映し出された先輩とカズキが口にした言葉。

 死の間際の血まみれの姿のまま僕を恨み、追い詰めるような言葉を吐き出した二人に、僕はこれまで抱いたことのない怒りと殺意を抱いた。

 バカにするな。

 あの人達は、そんな……僕が望んでいた(・・・・・)言葉を口にするはずがない。

 怒りのまま、自分の頭を殴りつけた僕の視界の先にいたのは、ハンナと呼ばれた紫色の髪の魔族。

 頭の中を覗きこまれたような不快感に構わず、僕は怒りに任せて目の前の魔族へと飛び掛かった。


『お前かァァァ!!』

『ヒェ!? た、たすけてぇぇぇ!!』


 そのまま奴の部下らしき大勢の魔族を殴り倒しながら、森の中を一時間以上追い掛け回してようやく取っ捕まえてやったが、軍団長の邪魔が入り取り逃してしまった。

 そんなこともあって幻に対して警戒していたが、すぐに目の前に現れた二人が幻で作られた偽物ではないことが分かった。

 なにせ、あの先輩の一目見て分かる残念さは、誰にも真似できないものだったからだ。


「はぁー、死ぬかと思ったぁ……」


 そのまま地面へと座り込み、安堵に胸を撫で下ろす。

 強かった。

 もう、恐ろしいくらいに二人は強かった。

 多分、二人が本気で僕を殺しにかかっていたら、すぐに勝負はついてしまっていただろう。

 今は完全にくっついてるけど、腕断ち切られてたし。


「グルゥ」

「心配かけてごめんな。ブルリン」


 ずっと僕についてきてくれている相棒、ブルリン。

 前に僕のことを見捨てて森に帰っていいって言ったのだが、それでも隣にいてくれる頼もしい相棒だ。


「……行こう。カロンさんが戦っている」


 戦いは続いている。

 身体に異常がないことを確認しながら立ち上がった僕は、森を抜けてブルリンと別れて前線へと向かっていく。

 リングル王国奪還作戦は何度も行っているが、そのどれもが失敗に終わっている。

 それはリングル王国が魔王軍に占領されたという事実が、周囲の国々の足並みを崩しているということもあるし、単純に戦い慣れしている魔王軍に、他の国の騎士、戦士達が対応できていないということもあったからだ。

 前線の手前まで来ると、そこかしこにこちら側の騎士と争っている魔王軍兵士の姿が見える。


「治癒魔法使いぃぃ!!」

「……!」


 剣を握り襲い掛かってくる魔王軍兵士。

 即座に腕を伸ばし、首を掴むと同時にへし折ろうとするが―――、


「いや……違うよな」


 ――それをやめて、腹部を軽く殴りつけ気絶させる。

 そのまま魔族を離した僕は、掌を見つめながら自分の変化に戸惑う。 


「今更だな……はは」


 もう取り返しがつかないくらいに僕は魔族を殺めてしまっている。

 自分の拳を見つめながら、乾いた笑みを浮かべる。


「……ん?」


 戦場で足を止めている僕の元に、後ろから何かが近づいてくる。

 敵ではないことを確認しながら振り返ると、馬に乗った一人の女性がこちらへ駆けつけていた。


「ウサト様!」


 馬に乗って現れたのは赤い髪が印象的な女性、ナイア様だ。

 カームへリオ王国の王女であり、異例の指揮官としてこの戦場にいる彼女がどうしてここに……? 一応、護衛の方は連れてきているみたいだけど、危険なことには変わりない。

 彼女は血だらけかつ傷だらけの僕の団服を見て顔を青ざめさせると、馬を降りて僕の元へ駆けよってきた。


「ご、ご無事ですか!?」

「毎回同じ反応しますよね、ナイア様」

「……っ! ふざけてる場合ですか!! 正体不明の敵と交戦していると聞いて、心配していたんですよ!」


 正体不明の敵というと……先輩とカズキの二人のことか。

 やっぱりカロンさん以外の人も認識できていたんだな。

 顔を赤くさせ、こちらを睨みつけるナイア様に苦笑しながら、心配をかけさせてしまったことを謝罪する。


「すみません。心配かけてしまって」

「……え?」

「どうしました?」


 僕の顔を見てなぜか呆気にとられるナイア様。

 彼女は僕の顔に手を伸ばすと、遠慮なく頬をつねってくる。


「……痛いです」

「ほ、本物ですね」


 偽物だと思われていたのかな?

 素直に謝ってそんな反応をされるのも地味に傷つく。

 頬から手を離した彼女は、やや心配した面持ちで口を開く。


「あの、なにかあったんですか?」

「……そろそろ、僕も変わろうと思いまして」


 懐からクレハの泉を薄めた水の入った小瓶を取り出し、それをナイア様へ渡す。


「もう、これに頼ることはないでしょう」

「……」


 小瓶を受け取った彼女はそれを握りしめる。

 クレハの泉は人を狂わせる。例え、薄めていたとしても身体にかかる負荷は計り知れないものがある。

 ナイア様はカロンさんと同様に、クレハの泉の服用を止めてくれていた。


「リングル王国の人々がカームへリオに助力を求めてきたその日から、貴方を見てきました」

「……」

「亡くなった勇者様二人の影を追うように戦い、傷ついて……まるで生きたまま死んでいるような目をしていて……」


 そこまで言葉にした彼女が顔を上げる。


「もう、勇者の影を追ったりしないんですね?」

「はい」

「自身の身を顧みない行動はしないと?」

「はい」

「では、私と婚約してくれるのですね?」

「それは嫌です」

「……なぜですか? 今のは了承してくれる流れでしょう?」


 どういう流れですか。

 てか何回目ですかこのやり取り。

 普通に驚いているナイア様に逆にびっくりする。

 彼女は不敵な笑みを浮かべると、懐から一枚の羊皮紙を取り出し僕へと見せてくる。


「……なんすかこれ」

「書いてあることが現実になる素敵な紙です。ここに名前を書いていただければ、貴方は巨万の富と美しい妻を得ることができます。どうぞ、ご遠慮なく」

「僕、ここまで恐ろしい紙を見るのは生まれて初めてです」


 しかも自分で美しいって言ったよ、この人。

 いや、事実だけども。

 先輩とは真逆な性格だなぁって思ったけど、もしかしたら根は同じかもしれないぞ。


「僕のどこがいいんですか……」

「暗殺も毒殺される心配もありませんし、何より疲れ知らずで仕事し続けられるじゃないですか。あ……それと貴方のことが好きです」

「僕は魔王軍よりも貴女の方が怖いです……」


 暗殺と毒殺の心配があるって時点で怖すぎる。

 それならまだ戦っていた方が楽だ。

 ———前線の方から、甲高い鉄を打ち合うような音が響いてくる。

 氷と火炎、それに竜巻のようなものが生じていることから、カロンさんは軍団長と戦い始めたようだ。


「……緊張は解れましたか?」

「ええ、ありがとうございます。ナイア様」


 どうやら、激戦へと赴く前に緊張をほぐそうとしてくれたらしい。

 以前の先輩達との会話を思い出し幾分か心を落ち着かせた僕は、婚約という身を犠牲にする冗談を口にしてくれたナイア様にお礼を言う。

 彼女は頬に手を当て、柔らかく微笑んだ。


「生きて帰ってきてください。続きの話は、この戦いの後にしましょう」

「……はい」


 冗談であってほしかった……ッ!! 今心の底からそう思う……!!

 外堀が埋められていく恐怖に内心で震えながら、ナイア様から離れ最前線へと向かう。

 リングル王国近郊———あれほど生い茂った木々が伐採され、荒れ地となった場所。

 味方の騎士達も、魔王軍の兵士ですら近づくことができない場所に僕は単身で入り込む。


「———来たか! ウサト!!」

「カロンさん!!」


 空から滑り込むように降りてきたのは竜人と化したカロンさんだ。


「状況は!」

「そりゃもう最悪だ! お前さんにお熱な軍団長に加えて、もう一人厄介な奴が現れたからな!!」

「もう一人の……? ……ッ!」


 上から何かが来る!?

 僕が下がる前にカロンさんが斧を振り上げ、頭上から剣を振り下ろしてきた金髪の魔族の攻撃を防ぐ。


「やるな。竜人」

「化物染みてるアンタに褒められるとは光栄だな!!」


 初めて見る奴だ。

 赤色の剣に風の魔法――そして見て分かるほどの格上。

 すぐさまカロンさんの援護に回ろうとするも、別方向から何者かがこちらへ攻撃を仕掛けてくる。

 すぐさま団服から取り出した鎖を腕に巻きつけ、炎と共に振るわれた剣を受け止める。


「ようやくの登場だな……!」

「また貴女か……!」


 斬りかかってきたのは赤色の髪の魔族、第三軍団長アーミラ・ベルグレッド。

 戦場で何度も戦った厄介な人だ。

 彼女は獰猛な笑みを浮かべたまま、僕を睨みつけてくる。


「僕は貴女には会いたくなかったんですけどね……!」

「そう言ってくれるな。浅からぬ因縁だろう? 」


 向けられた笑みに、ぞわりとした悪寒に苛まれながら腕に巻き付けた鎖で剣をはじき返す。

 彼女が後ろへ下がったのを見て、金髪の魔族もカロンさんから離れていく。

 二人の軍団長か。

 いつも嬉々として襲い掛かってくるコーガが出てこないのが気がかりだけど、状況としてはかなり悪い。

 特にあの金髪の剣士。

 多分、僕じゃ絶対に勝てないくらいに相性が悪い……気がする。


「迷いは晴れたか? ウサト」


 金髪の男から視線を外さないまま、カロンさんが話しかけてくる。

 僕は先ほどの先輩とカズキとのやり取りを思い出しながら強く頷く。


「ええ、お陰様で」

「まあ、今は聞かない。そんな余裕もないしな」

「……たしかに」


 拳を構える。

 カロンさんが金髪の男を相手するのなら、必然的に僕はアーミラを抑えることになる。

 同じ戦場で何度も何度も戦ってきた相手だが、厄介な相手だということには変わりない。


「……戦って、生きるか……」


 今までは先輩とカズキの代わりになるために、傷つくことをいとわず戦っていた。

 だけど今度からは僕だけの道を生きるために戦っていこう。


先輩とカズキと戦っていなかったら、このタイミングでウサトはネロに倒されていました。


そして第七章に登場したカームへリオ王国のナイア王女。

基本訓練しか頭になく、脳筋なウサトを落とすにはこれくらいの押しが必要になります。


次回の更新は明日の18時を予定しております。

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― 新着の感想 ―
一時間以上も追いかけ回されたのね、ハルナ? 自業自得だけど、悪魔の羽と角を生やされて凄まれるより長い絶望を与え続けられたのは素直に同情するよ...。 どうでもいいけど、『お前かアァァ!』のウサトの顔だ…
この世界の団長は、自分がアウルの言葉が無ければ辿っていたであろう道をウサトが進もうとしてるのを見て止められなかったんだろうな・・・ウサトの心情がよく分かってしまうだけに。 この世界の団長もまだ時間が止…
[一言] この世界線は エヴァ → 消滅 ルーカス → 王様やめてる フェルム → 死亡 ネア → 放置または邪龍による自滅 アマコ → 生死不明 碌でもない状態になっているんだろうなぁ
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