第二百四十六話
昨日に続いて二話目の更新です。
前話を見ていない方はまずはそちらをー。
無事に遺跡から脱出し、グレフさんのいる集落へと帰ることができた。
その後、気絶から回復した僕は、正体を隠している先輩達と別れ、フェルムと同化して魔族モードとなり、ネア、アマコ、キーラと共に、グレフさんとラムとロゼのいる家へと戻った。
元気なキーラの姿を見たグレフさん達は、彼女の無事をとても喜んでいた。
グレフさんなんて安堵のあまり泣き出してしまい、キーラをあたふたとさせて困らせていたけど、それくらい彼女のことを大切に想っていたのだろうと思い、安心してしまった。
「世話になったな。ウサト」
「足のケガはもう大丈夫ですよね?」
「ああ、まさかもう歩けるようになるなんて思いもしなかったぞ」
「ははは……」
その翌日、僕達はそれぞれの旅路を続けるべく別れの言葉を交わしていた。
大きなカバンを背負った彼の足には軽く包帯が巻かれているが、傷の方はとっくに治してあるので歩きにくいということはないだろう。
「ウサト、キーラを助けてくれて、ありがとな」
「いえ、あの子が自分自身の力で成長したんですよ」
「本人はそう思っていないだろうけどな」
ニッ、と笑った彼が後ろを指さすと、酷く落ち込んだ様子のキーラがいる。
僕達の話が終わったことに気付いたキーラは、小走りでこちらへ駆け寄ってくる。
「グレフ、ちょっとウサトさん達と話がしたいから離れてて」
「ん? 別に俺がいてもいいだろ」
「……」
「……あー、はいはい、分かったよ。ラム、ロゼ、ちょっとあっちに行こうか」
「「はーい」」
「年頃かぁ」と口にしながら、僕達から距離をとるグレフさん。
その様子に苦笑していると、無言のままキーラが近づいてくる。
「私……皆さんのおかげで、自分の魔法のことを分かってあげることができました。ありがとう、ございました」
ぺこりと頭を下げたキーラに、僕と同化しているフェルムがやや照れ気味な声で話しかける。
『お前はまだ闇魔法使いとしては、目覚めたばかりだからな。これからお前の成長に合わせて変化していくこともあるかもしれないから、その変化に惑わされるんじゃないぞ?』
「はいっ!」
フェルムのアドバイスに元気よく返事をするキーラ。
先生しているなぁ。
教え方もうまいし、ぶっきらぼうだけど向いているのかもしれないな。
「皆さんが送っている旅の目的は、分かっているつもりです。それでも、私は……皆さんのことを信じたいと思いました」
「……」
「本当は、まだウサトさんの旅についていきたい気持ちはあります。でも、グレフとラムとロゼは、私の大切な家族だから……今は、諦めます」
「その方がいい。僕達の都合に君まで巻き込むわけにはいかないからね」
「……はい」
魔王に僕達の存在が気取られた今、何が起こるか分からない。
そんな中にキーラを連れていくわけにはいかない。
「ネア、気のせいじゃなければいいんだけど、あの子『今は』って言った?」
「ええ、言ったわね」
隣のアマコとネアが小さく何かを話している。
気になったので何を話しているのか訊いてみようとするが、それよりも先にキーラが僕に話しかけてくる。
「ウサトさんのいる国ってどこなんですか?」
唐突だな。
まあ、今となっては特に隠すこともないので正直に話す。
「リングル王国って場所だよ。僕はそこで救命団って組織の副団長をしているんだ」
「救命団?」
「傷ついた人を助けるために走り回る……集団かな。まあ、いつも訓練してるような場所だよ」
「そう、ですか」
救命団について簡単に説明する。
数秒ほどの沈黙の後に、顔を上げたキーラはアマコとネアへ視線を向ける。
「アマコさん、ネアさんと……フェルムさんも、そこに?」
「いや、アマコは違うよ。入っているのは―――」
『いや、ボクは入ってないぞ』
「そうよ、私も入ってないわよ」
「うん、入ってないよ」
いきなりどうした君達?
戸惑いの目を向けると、なぜか焦った様子のアマコとネアが何かを伝えようと僕を見ている。
なんだ? 自分たちを団員として扱ってほしくないのか?
まさか……キーラがリングル王国に来ると考えているのか? さすがに道中が危ないし、なにより一人で来れるはずがない。
よく分からないくだりで混乱していると、キーラはくすくすと小さく笑った。
「嘘ですね」
「あ、うん。ネアとフェルムは救命団の一員だよ」
『ちょっ……』
「はい。教えてくれてありがとうございます」
ぺこりとお礼を口にするキーラに、礼儀正しいなぁと思う。
ナックの時も思ったけど、僕が同じ年の頃はこんなにちゃんとしてなかったからな。
「じゃあ、私、グレフ達を呼んできます」
そう言ったキーラの足元の影から黒い魔力で作られたマントが飛び出し、彼女の肩に被さる。
そのままふわりと浮き上がった彼女は、そのまま滑らかに空を進んで行った。
「空を飛べるって凄い魔法だな……」
『お前も飛んでたけどな』
「違うわよ。こいつは飛んでるじゃなくて、吹っ飛んでるだけよ」
まあ、僕は魔力の暴発で浮いてたようなものだけども。
ハンナさんと彼女の部下達と戦う時も、飛んでいるというよりスイングしながら移動していた感じだ。
姿が見えなくなったキーラを見たネアは、やや沈んだ声で呟く。
「……また一人、地獄の門を叩いてしまうわね」
『闇魔法使いってこんな面倒な奴ばかりなのか?』
「フェルムが言うと説得力あるね……」
『……うるさい』
僕が知らない間に仲良くなっているようで何よりだよ。
「ところで、地獄の門って救命団のこと?」
「「『……』」」
服の内側からの衝撃と、二つの足による脛攻撃。
痛くも痒くもないがいい連携だ。
でもなんで蹴られたの?
●
グレフさん達とは今いる集落で別れることになった。
最初に会った数日前よりもキーラは明るくなってくれたし、改めて彼女が自分自身と、闇魔法と向き合うことができてよかったと思う。
『私は、君達の魔王討伐の旅に協力したい』
昨夜、遺跡を出る際にナギさんが僕達に言い放った言葉だ。
先代勇者と共に戦場を駆けた人。
その実力は、生半可なものではないのが分かる。
そんな彼女の協力の申し出に誰も反対の声を出すはずもなく、彼女は僕達の魔王討伐の旅に同行することになった。
「え、先代勇者って奥さんと子供がいたの!?」
「召喚される前にいたって聞いたよ。ま、私にとっても父親みたいな人だったけど……」
グレフさん達と時間をずらして出発した僕達。
魔王が待ち受けるであろう根城へと歩を進めていると、ふと先輩とナギさんの会話が聞こえてくる。
「それじゃあ、先代勇者は奥さんと子供を残して異世界に召喚されたってことになるよね……」
「……」
「ん?」
「……うん、そうだね。そういうことになるんだと思う」
やや遅れて反応するナギさんに、訝し気な目を向ける先輩。
あまり触れるべきではない内容と察したのか、彼女はすぐに話題を変えようとナギさんに話しかける。
「君が加わったことで……戦力的には、これで勇者の武具を使える人が五人になったってことでいいのかな?」
「そうなる……かな? でも、私が持っている刀はもう封印できる容量を使っちゃっているから、ただの切れ味のいい刀でしかないんだけどね」
「君の戦闘力だけでも、十分な力だよ」
確かに。
まだ魔術とかが使えるかどうかは聞いてないから分からないけど、予知魔法と剣技が使える時点で相当な戦力だ。
しかし、それでもナギさんは苦笑いを浮かべるだけだ。
「もう、魔王には君達の存在は気取られているから、あまり大きな動きはできないね」
「気付かれたのならしょうがない。あっちの言葉を信じるわけじゃないけど、私達を待ち受けているだろうし、受けて立ってやるさ」
「スズネは前向きだね」
そう言って先輩に笑いかけたナギさんが僕に気づくと、こちらに話しかけてくる。
「ウサト、体は大丈夫?」
「うん、睡眠はとれたので大丈夫。ナギさんはなにか異常とかは無いかな? 魂を融合させたりって、かなりの無茶をしたってネアが言ってたんだけど?」
「……正直、まだ頭の中で混乱してるところがあるかな」
自分の手を見つめるナギさん。
二つの意識を一つにしたようなものだろうし、僕にも想像もできないような複雑なことになっているんだろうな。
「私が考えるに今の君の状態は、善のカンナギと悪のカンナギが融合したってことでいいんだね?」
簡単にまとめすぎでは?
先輩の例に、微妙な表情になる。
いや、表現としては分かりやすいですけど。
「うーん、善とも悪とも言えないけど、表現としては間違ってないね。二つの魂を一つに、それによって私は、今の私になった。言葉にするとちょっと混乱しちゃうけどね」
そう言ってナギさんは困ったように笑う。
そんな彼女を見た先輩がハッとした表情になる。
「カンナギ。私もウサト君みたいに、君のことをナギって呼んでいい?」
「え、それなら構わな―――……いや、駄目だ」
「え?」
快く返事をしようとしたナギさんの様子が、一瞬にして変わる。
すぐに我に返った彼女は、申し訳なさそうに先輩へと手を合わせた。
「ごめん。どうやらもう一人の私的には、ウサト以外は駄目みたいだ」
「……ウサト君」
「僕を睨まないでください」
「ぐるるる! ウォン!」
「吠えないでください……」
コントかよ。気に入ったんですか、それ?
しかし、どうして僕だけなのだろうか?
そう疑問に思っていると、落ち込んでいる先輩を慰めていたナギさんが苦笑する。
「私をそう呼んでいたのは、今までたった一人だけだったからね。そういう意味もあるんだと思うよ。そう思う気持ちも分からなくもないし」
そう言葉にしたナギさんの表情はどこか悲しげに見えた。
しかし、その一方で隣にいる先輩は何かを思い出したのか、ニヤニヤしながらナギさんへと近づいていく。
「な、なに? スズネ」
「そういえばカンナギ。あの並行世界の恨みをその尻尾と耳で償ってもらうよぉ……くふふふ!」
「き、君達にした仕打ちを考えれば無理ないけど……な、なにするつもりなの?」
「もちろん、それは口には出せないことさ!」
「う、うわぁぁ! やめてぇ!?」
ナギさんが飛び掛かってくる先輩を避ける。
一体、先輩はなにをされたのだろうか? いつものように私欲にはまみれているけど、少しばかり怒っているように見える。
「まあ、あれは、先輩が怒るのもしょうがないな」
「カズキは知ってるの?」
ナギさんと先輩のやり取りを見て、そう呟いたカズキに話しかけてみる。
「……実はな。先輩と俺はカンナギに―――」
すると、カズキはナギさんと融合する以前のカンナギによって与えられた試練について説明してくれる。
それはなんと並行世界の僕の話だった。
先輩とカズキが黒騎士に殺され、そのまま進んでしまった未来。
僕はあらゆる手段を使って、敵を手にかけるような人になっていたらしい。
そんな僕を相手に、カズキと先輩は死闘を繰り広げたらしい。
「もしもの世界の僕、か」
「きつい戦いだったよ。あっちのウサトもとんでもない戦い方してたからな」
「え、具体的には?」
「腕とれてもくっつけてた」
「ドン引きなんですけど」
なにそれ、僕でもそんなことしないよ。
え、というより腕とれるようなことが起きてたの?
「このことは本当は話すべきじゃないと思った。でも、やっぱり……お前には伝えなくちゃならないって思ってさ」
「そっか……」
身近な人の死。
それにより、変わってしまった僕。
正直な話、カズキの話を聞いて僕がそうなってしまうのも理解できてしまう。
「あっちの僕は、ちゃんと変われた?」
「……ああ、俺がぶん殴って滅茶苦茶怒ってやったから。もう大丈夫だ」
「なら安心だ」
あちらの僕にとって、カズキの拳はどんな怪我よりも痛かっただろうな。
……これから先、僕達は魔王が待ち受ける魔王領の中央地帯へと向かうことになる。
正直、魔王の存在感と、その強大さを目の当たりにした不安もある。
「人間と、魔族か……」
グレフさん達は普通に暮らしているだけの善良な人々だった。
他の魔族達も、戦っている魔族達も自分たちが生きるために戦っている。
魔王と戦う覚悟はできている。
だけれど、僕達の使命の先の―――可能性の話を僕は理解した上で行動しなければならない。
ちゃっかりと救命団加入フラグを立てるキーラ。
行こうと思えば、障害物関係なく空飛んで来れますからね……小回りもききますし。
以上で第十章のエピローグとなります。
閑話・登場人物紹介をした後に、第十一章開始です。
今回の更新は以上となります。




