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第二百三十五話

お待たせしました。

今回も二日に分けて、二話ほど更新していきます。


新作の主人公が早速テイムオーガとか呼ばれてて草。

これも治癒オーガのせいか……。

 私達の前に立ちはだかる最悪の“敵”、ウサト・ケン。

 私とカズキ君が死んだ世界というだけで性質の悪い冗談だがここまで来ると、全然笑えない。

 相対している彼の瞳は、虚ろで、なんの感情も読み取ることができないが、それでも殺気は伝わってくる。

 恐らく、私達を偽物と判断した理由があったのだろうが……誰だか知らないけど、本当に、余計なことをしてくれたものだ。


「せ、先輩……」

「カズキ君、構えろ。彼は私達を殺す気で来るぞ」

「ウサトに武器を向けろっていうんですか!?」

「彼は、私達の知るウサト君じゃない」

「それでも……ッ、俺は……」


 カズキ君の言いたいことは痛いほど分かる。

 でも、ここで戦わなければ、私達は攻撃されてしまう。

 逃げる―――という手もあるけど、私だけ逃げることができてもカズキ君はウサト君から逃れることはできない。

 というより、彼は雷を纏っていない私よりも速い。


「どちらにしろ、君が本気を出せば彼を殺してしまうかもしれない。私が相手をする」

「先輩―――」


 刀を鞘に納めたままの状態で雷獣モード2へと変わる。

 それと同時に、拳を構えるウサト君の背後に回り込み、首元へ目掛け鞘を振り上げる。

 ———君を気絶させるには、強く打たなくちゃならない……! ごめんね、ウサト君!!


「これで……!」


 私の刀の鞘が直撃した次の瞬間、前触れもなくウサト君が身体を横に傾け、こちらへ向かっての回し蹴りを叩き込んできた。


「なっ!? ぐっ!?」


 回避と同時に、蹴りが飛んでくる。

 それをギリギリで鞘で受け止めるが、あまりの衝撃に後ろへ吹き飛ばされる。


「動きを読まれた……?」

「……あの変態より速いな。刀を使っているし、僕の知識を反映させているのか?」


 首元をさすりながらそう口にしたウサト君は、そのまま地面を蹴り一瞬で私の眼前に迫ってくる。

 治癒魔法の籠められていない、敵を殴殺することにのみ特化させた拳が、私へ向けて振るわれる。


「確かに、先輩には刀が似合ってるだろうね」

「ッ……!」


 直撃すれば私程度の耐久力じゃ、骨が砕かれる。

 捕まりでもすれば、その時点でアウトではあるけど———速さでは私の方が上だ。


「そこっ!!」


 彼の拳を身を低くして避けると同時に、突き上げた鞘を額へと叩きつける。

 それと同時に、電撃を流して感電させる。


「———どうして鞘に入れたまま戦っているのか不思議に思って試しに受けてみたけど、偽物でも優しいんだな……」

「……っ!」

「お前は、なんだ? 幻なのか? 顔の似ている誰かなのか?」


 額に叩きつけられた鞘を首の力だけで押し返したウサト君は鬼のような形相を浮かべている。

 で、電撃を食らっても効いていないのか!? いや、違う、治しながら耐えている!?

 鞘を左手で掴み取った彼は、迷いなく私の顔に拳を放ってくる……!


「仕方ない……!」


 鞘を掴まれている状態で刀を引き抜き、振り下ろされる拳を足場にして跳躍―――それと同時にウサト君の肩を切り裂く。

 幾重にも切り裂かれた団服に新たな傷が刻み込まれ、鮮血が噴き出す。


「……」


 後方に着地し、彼が手放した鞘をキャッチした私は納刀し、そのまま魔力をチャージさせる。

 彼の肩の傷は数秒も立たずに治癒魔法で癒えているが、彼を傷つけてしまった。

 本当の、本ッ当に最悪の気分だ……!

 魔族や魔物を斬るのとはわけが違う、私の中にある大事なものが削られていくような、そんな胸糞悪い気分にさせられる。


「———先輩じゃない、か。ああ、たしかに貴女は偽物だ」


 肩の傷を一瞥して、そう口にしたウサト君。

 駄目だ。彼は完全に私を偽物と決めつけている。

 どうにかして、彼に私が本物と証明する手段はないのか……ハッ、そうだ!


「私は、正真正銘、犬上鈴音だよ。……君の……あ、え、婚約者だ」

「偽物ですね。殺します」


 し、ししししまった!? ついいつもと同じノリでやってしまった!?


「いや、待って! やり直させてっ! ジョークだから!」

「お断りします」


 にっこりと笑顔を浮かべた彼が右手を掲げると、その腕がブレる。

 それと同時に、私目掛けて凄まじい速さで何かが飛んでくる。

 刀を抜刀し、飛んできた物体を切り裂くと―――、


「石ころ……?」


 なんの変哲もない真っ二つに割れた石ころ。

 しかし、それはウサト君の腕力によって投げられた石ころだ。鎧の兵士すらも容易く貫通させるくらいの威力があるはずだ。


「余所見をしている暇があるんですか?」

「……っ!!」


 一瞬彼から目を離している間に、彼は既に私と目と鼻の先にいた。

 すぐさま構えるも、彼は既に私の腕を掴んでおり、そのまま森の方向へ放り投げられてしまう。


「場所を変えましょう」

「のぉぉぉ!?」


 視界がぐるんぐるんする!?

 慌てながら、なんとか体勢を整えながら木の枝に掴まる。

 周囲は、火のついている木々に囲まれていた。


「———さて、ここなら思う存分に戦えますね」


 木々を蹴り、私の目の前に降り立ったウサト君。

 彼は、自身のコートの内側に手を入れると、何かを取り出した。

 じゃらり、と音を立てて彼の手から零れるそれを見て、私は思わず頬を引き攣らせた。


「ウサト君、それ、なに?」

「鎖です。ちょっと火に強く、硬いだけですので」


 ぴくりとも笑わず彼は、淡々とそれを右腕に巻き付ける。

 勇者の籠手とは違う―――こちらのウサト君の武器。

 私の知るウサト君は、あまり武器を使いたがるような人ではなかった。

 必要に迫られ、何度か使ったという話はウサト君本人から聞いたことはあるけど、その時の彼の表情はあまりいいものではなかった。


「……」


 ゆらりとウサト君の身体が揺れ、左へ歩き出す。

 彼から目を離さないようにしていたが———彼が、木を壁にするように横切った瞬間、その姿を一瞬にして見失ってしまう。

 それと同時に、周囲の木々から何かを蹴るような音が連続で響く。


「木を蹴りながら移動しているのか……!」


 炎の音と、熱で彼の気配が分からない……!

 いっそのこと、同じ土俵で戦うべきかと雷獣モード2へとなろうとしたその時、私のすぐ背後に何かが降りたつと同時に、首に鎖が巻き付こうとしているのが目に入る。


「危なっ……!?」


 首へ巻き付こうとした鎖を、かがむことで避けながら後ろへと斬りつけるが既に彼の姿はない。

 その次の瞬間には、私の右方向で何かが砕ける音が響き、火のついた木が私を押し潰さんばかりの勢いで倒れてくる。


「周囲をうまく使ってくるな……!! しかし、この程度!!」


 連続して刀を振るい、その場で木を輪切りにする。

 地面へと落ちる木の残骸―――、


「でしょうね。防ぎますよね」

「こんなこといくらやっても―――」

「なら、これはどうでしょうか?」


 私から離れた場所に音もなく着地した彼は、火のついた丸太を蹴り上げながら、開いた手を振り上げた。


「治癒魔法破裂掌」

「いぃ!?」


 腕を下から振り上げるようにして放たれた衝撃波が、燃えている丸太の炎を強め―――四散させる。

 散弾の如く、分裂した火に包まれた木片は凄まじい勢いで私へと向かってくる。


「放電斬り!!」


 それを刀から放った稲妻状の魔力で迎撃するが、既にウサト君は次の行動に出ていた。

 彼はその場から跳躍し、懐から取り出した瓶を放り投げると同時に、両の掌を前に突き出した。


「治癒破裂双掌」


 瓶は彼の掌から放たれた衝撃波により破壊され、中身の液体がぶちまけられると同時に、周囲の火炎で引火―――巨大な火炎となって私の頭上から降り注いだ。


「君、治癒魔法使いだよねぇ!?」


 炎使いの間違いじゃないのかな!?

 あれの中身は可燃性のポーションか何かか?

 四の五の言ってられないので雷を纏い、降り注ぐ炎から逃れるべく、その場を飛ぶ―――が、火の中にいるにも関わらずウサト君が鎖の巻かれた右腕を振るい、襲い掛かってくる。


「隙あり」

「くっ!」


 右手を刀で弾く。

 筋力は、ウサト君が圧倒的に上。

 ギリギリで攻撃に対処していくけど、首に向かって左手が―――!?


「それに、やられるわけにはいかない!!」


 首を横に傾け、左手を避け、横薙ぎに彼の胴体を切り裂く。

 しかし、治癒魔法により傷は一瞬で再生し、全く怯みもしない。


「なっ!?」


 これが、これが治癒魔法使いの戦い方なのか?

 私が戦っているのは人間なのか?

 これが傷つくことを是とした治癒魔法使い―――!!


「強い……!! 君はここでも強いな!! ウサト君!!」

「———ッ」


 私の振るった刀がウサト君の肩を切り裂くと同時に、彼の左手から鮮血が迸り、凄まじい衝撃波が私の身体を弾き飛ばした。


「……っ」


 弾き飛ばされた勢いを利用し、ウサト君から距離を取る。

 彼は、手についた血を払っているけど———あの手は、多分系統強化の暴発により傷ついたものだろう。


「系統強化を暴発させるなんて、無茶をするもんだね」

「手が切れるだけですし、大したことありませんよ」

「……」 


 ウサト君はファルガ様からいただいた籠手を持っていたけど、目の前のウサト君はそれを持っていない。

 だから、私の知るウサト君がノーリスクで行っている魔力の暴発も、傷を負いながら発動しているし、その使い方も、多分―――掴んでからの破裂。

 相手を確実に殺害するための技と化してしまっている。


「君の戦い方は異常だ。自分の身さえ顧みようとしていない」

「僕はなんでも使います。そうじゃなきゃ、今まで生きてこれなかった」


 私達がいない世界。

 リングル王国が敗北してしまった後のウサト君の戦い。

 それは想像を絶するほどのものだったのだろう。

 ———彼を、生半可な覚悟で止めることはできない。


「君を止めるには、君を殺すつもりでいかなきゃ駄目なのは分かった」


 なら、私は覚悟を決めるべきだ。

 中途半端な攻撃では避けられ、耐えられてしまう。

 もう、躊躇なんてしてられない。

 一度、深く深呼吸し体の力を抜いた私は、ゆっくりと柄に手をかける。


「……本気で行くよ」

「———ッ!?」


 一瞬にして雷獣モード2を発動させた私は、正真正銘の全速力(・・・)でウサト君に斬りかかる。

 ギリギリ鎖で防御する彼だが、それよりも先に私の蹴りがこめかみへと叩き込まれる。


「ガっ……!?」

「ごめん、ウサト君。君はもう、なにもできない」


 前に踏み込もうとする彼の足に刀を突き刺しながら、私はそう語り掛ける。

 それで動きが止まらないのは分かっている。

 刀を引き抜き逆手に持ちながら、私へ伸ばした左手に手を添え―――そのまま彼の力を流し、合気の要領で放り投げる。


「な……!?」


 空中で見せた無防備な背中に、電撃を籠めた掌打を叩きこむ。

 感電し、地面に叩きつけられながらも、即座に回復したウサト君はその場から逃れるために左手から魔力を放とうとするが———、


「治癒魔法破裂―――」

「遅い」


 一瞬で間合を詰めた私が左手に持った鞘で手首を叩き、それを阻止する。

 攻撃の出所を潰したところで、電撃を纏わせた刀で引くように構え―――技を放つ。


「犬丸流、四連(しれん)雷連斬(かみなりれんざん)!」

「っ!?」


 ―――超高速の四連撃。

 左腕、両足、胴体の四か所を斬りつけた後に強力な電撃が彼へと襲い掛かる。

 彼に攻撃を与えていくごとに、心が軋む。

 しかし、この程度で彼を止められるとは思ってはいない。

 私の知るウサト君は、絶対に倒れない男だったから。

 生半可な覚悟では、逆にこちらがやられる……!


「終わりにしよう」


 そのまま踏み込みと同時に、彼のみぞおちに柄を打ち込み―――ようやく怯んだところで、瞬間的な加速により後ろへ下がり、納刀する。


「———系統強化“纏”」


 魔力の濃度が増していくごとに、その色は金から紫へと変わっていく。

 それを鞘に送り込み、凝縮に凝縮を重ね、神経を研ぎ澄ませる。


「奥義・雷獣モード3」


 系統強化そのものをその身に纏い力とする奥の手。

 刀と全身に紫色の電撃を纏った私は、溢れ出る力を完全に制御しながら、前へ倒れるようにしながら、抜刀と共に一直線に前へと飛び出し———、


雷切(かみなりぎ)り……!」


 ———ウサト君の右腕を斬り飛ばした。

 刀を振り切り、系統強化の魔力を空気中に散らさせた私は、納刀しながら後ろへと振り返る。


「……ウサト君」


 背後には、右腕を斬られたまま仰向けに倒れ伏すウサト君の姿がそこにはあった。

 “雷獣モード3”

 それは、一点突出型の速度と攻撃に強化させた形態。

 アーミラ・ベルグレットとの再戦のために編み出した技ではあったけど、まさかウサト君を相手に使ってしまうとは思わなかった。


「早く手当てをしなきゃな……」


 ウサト君ならば、腕さえも繋ぐことができるだろう。

 彼が気絶している間に、止血だけでもしておかなければ。


「先輩……!」

「カズキ君……」


 森の奥からカズキ君がこの場にやってくる。

 彼がここに来る時間を考えても、それほど短い間の戦闘だったようだけど、私にとっては何時間にも思えるほどの時間だった。

 彼は、倒れ伏すウサト君を見て表情を歪める。


「すみません……俺も、戦うべきでした……!」


 正直、責められると思っていた。

 襲ってきたとはいえ、ウサト君の腕を断ち切り傷を負わせてしまった私に、カズキ君は怒りを抱くとばかり……。

 いや、それは私の望みか。

 今一番、私に対して怒りを抱いているのは、他ならない私自身なのだから。


「いいんだ。それより、早くウサト君の止血をしよう」

「そ、そうですね!」


 私とカズキ君がウサト君へと駆け寄ろうとした――――その瞬間、頭上から突風が吹きこむ。

 それが自然のものではないことを認識し、すぐさま後ろへ跳び下がった私とカズキ君の前に、上空から人影のようなものが降り立ってきた。


「なっ……」


 その時感じたのは、今まで感じたことのないほどの存在感。

 それもアーミラやコーガをも容易く凌ぐような、強さを感じさせた人影は背中に生えた竜の翼を消し去ると、足元にいるウサト君の顔を覗き込む。


「おいおい、随分と手ひどくやられたな。ウサト」

「……」


 その男の容姿は、一言で表すなら戦士。

 ウサト君より、頭一つ分以上大きい身長に筋骨隆々の肉体、短く着られた碧色の髪と精悍な顔つきからして、私達の知らない人物ではあったが———彼の持っている“斧”の柄には見覚えがあった。


「先輩、……」

「ああ、あれはレオナの……」


 レオナの持っていた、ミアラークの勇者の武具。

 今は斧の形状だけど、もしかして、この人は……。


「気絶したフリするなよ。俺は感覚が鋭いから分かるぞ」

「……もうちょっと寝ていたかったんですけど」


 ……!? あれだけやっても気絶させきれなかったのか!?

 すくりと起き上がったウサト君は、そのまま傍らに落ちている右腕を拾い、治癒魔法で癒しはじめる。


「相変わらず、自分を痛めつける戦い方はやめたらどうだ? ナイア王女が心配してたぞ」

「僕には、これしかないので」

「そうは思えないんだがなぁ」


 そのまま十数秒ほどで、完全に右腕を繋ぎ合わせてしまった彼は、もう一度大きなため息と共に立ち上がる。


「カロンさん、なんでここにいるんですか? 貴方はもっと先の戦場でしょう?」

「いや、君が苦戦してるって話を聞いてな。飛んできた」


 勇者カロン。

 竜の力に飲み込まれ暴走し、一時はミアラークを滅ぼしかける原因となった人。

 今は、竜人化の影響で後遺症を患い一線を退いているはずの彼が、この世界では勇者として戦っているのか……!?


「過保護すぎますよ」

「いやいや、俺達友達だろ? 助けに行くのは当然だろ」

「なった覚えはありません」


 ツンツンとした態度を取るウサト君の背中を叩きながら快活に笑うカロン。


「いや、あれだ。背中を任せたら、基本友達だから、俺」

「背中から攻撃したら友達やめてくれる……?」

「何恐ろしいこと口にしてるんだ、おい」


 勇者と治癒魔法使い。

 この世界での勇者であった私達はいなくなってしまった。

 しかし、その代わりにカロンという勇者が現れた。


IFウサトの言う変態とは先輩のことではなくコーガのことです(先制)

そして、勇者を失った世界の勇者、カロン。

素質と血統だけ見れば、勇者以上にやべぇ人です。


IFウサト

・実は隠密・暗殺の方が得意

・オートリカバリーゾンビ

・なんでも使いまする


先輩

・通常攻撃に常時感電付与。

・ガチれば強い。

・投げの吸い込みが鬼。


次回の更新は明日の18時を予定しております。


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― 新着の感想 ―
「背中から攻撃したら友達やめてくれる……?」草
[一言] IFの世界線でもウサトの思考が面白い方向でぶっ飛んでくれててホッとするなぁ(白目)
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