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第二百三十二話

お待たせしました。

第二百三十二話です。


前話を見ていない方はまずはそちらをー。

 僕と先輩が近距離戦でゴーレムを翻弄。

 カズキとレオナさんが、後方からのサポート。

 レオナさんから、短く作戦を伝えられた僕達は、ゴーレムへ対処すべく早速行動に出ていた。


「行くよ! ウサト君!」

「了解です!」


 電撃を纏った先輩と共にゴーレムへと向かっていく。

 先輩はスピードで翻弄し、僕は弾力付与と闇魔法の黒い魔力で対応する……!


『ウゥゥ!』

「来い!!」


 右手の籠手に弾力付与の魔力を纏わせ、ゴーレムと相対する。

 肩に担がれた曲刀が横薙ぎに振るわれる。

 それを冷静に見極め、下から打ち上げるように右腕の籠手で弾く。


「ぬんッ!!」


 ガキィィンッ! という甲高い金属音が鳴り響く。

 回転するように続けざまに曲刀が振るわれるが、それらは全て籠手により弾く。


「その程度の攻撃……!」


 治癒弾きは、防御に特化した技。

 そんな力任せな遅い攻撃! 何百何千と繰り返そうが僕の防御を超えることはできない!


「ここだ!!」


 大ぶりの攻撃にタイミングを合わせ、後ろへ流すように弾くと、ゴーレムは前のめりに体勢を崩して膝をつく。

 それに合わせ、無防備な脇の部分に蹴りを叩き込む。


「治癒連撃脚!!」


 一度の衝撃。

 少しだけぐらついたゴーレムは、すぐさま立ち上がろうとする。

 しかし、それよりも先にゴーレムの頭上から、超高速で落下してきた先輩がその後頭部目掛けて逆手に持った刀での刺突を繰り出した。

 鳴り響いたのは、僕の時と同じような金属音。


「———かったいなぁ! 君!!」


 見れば、先輩の刀の刃はほとんど刺さっておらず、僅かに傷をつけただけであった。


「先輩、攻撃がきます!!」

「おっと!」


 後ろ手で振るわれる曲刀を避ける僕と先輩。

 ……打撃も斬撃も、思っていた以上に通用しない。


「先輩! 空中に足場を作ります!!」


 ここで大量の魔力弾を宙に浮かべその形状を円盤状にさせたカズキが、それらを操作しゴーレムの周囲に配置していく。


「ナイスだ、カズキ君!」


 すぐにカズキの意図を理解した先輩は、迷いなく宙にある光魔法の円盤を足場にしながら、三次元的な動きでゴーレムの周囲を飛び回りはじめた。


「そぉい!」


 ゴーレムを翻弄しながら、先輩が振るった刀が連続して火花を散らす。

 ゴーレムのターゲットが先輩へと移ったところを見計らい、僕は右腕を大きく引き絞りながら、ゴーレムの足元へと駆ける。


「盾モード!!」

『今、盾なのか!? わ、分かった』

「衝撃に対する耐性も付与するわ!!」


 右腕に円形の盾が作られると同時に、弾力付与による魔力で覆い、そのまま全力での体当たりを足へと叩きつける。

 ぐらりとゆれるゴーレムの巨体。

 のけぞったところに、弾力付与の魔力を纏わせた拳で地面に殴りつけ跳躍する。


「オラァ!! 治癒跳躍拳!!」

『普通に飛べよぉ!?』

「こっちの方が速い!!」

「そういう問題じゃないわよ!?」


 狙うは、無防備な顎。

 空中で体勢を整えながら、治癒加速拳によるアッパーを繰り出す。


「私もだよ! ウサト君!!」


 瞬時に僕の隣に現れた先輩が、二刀流のように持った刀と鞘を同時に振るう。

 僕と先輩の一撃、それが同時に叩き込まれたゴーレムはそのまま後ろへ転倒する。


「ウサト君!! 狙うところは分かってるよね!?」

「勿論です!!」


 どこと言われなくても分かる。

 もうこれみよがしにゴーレムにとって重要な部分だと分かる胴体に埋め込まれている宝玉。

 というより、こんな弱点らしきもの僕と先輩が気付かないわけがない……!

 なので、手早く砕かせてもらおう!!


「オラァ!!」


 ゴーレムを蹴るように昇り、胴体の宝玉目掛けて籠手を振り下ろす。

 さすがの強度とあってか、僕の力でもびくともしないが———壊れないなら、壊れるまで殴ればいい。


「治癒速撃拳! 連撃拳! 速撃拳!! 連撃拳!! オラッ、このッ! さっさと! 壊れろ! このデカブツがァ!!」

『お前それでいいのか!? それでいいのかよぉ!? もっと頭使えよぉ!?』

「頭使った結果がこれなんでしょう!? ッ、ウサト、攻撃が来るわよ!!」


 ただひたすらに拳を叩き込み続ける。

 その間、僕へと曲刀が振るわれるが、すぐさま傍に移動した先輩が、正眼に構えた刀を、僕でさえ認識できない速さで振り下ろす。


「———見えた!!」


 ―――神速の斬撃。

 それは、あろうことか魔法を無効化するゴーレムの親指の部分を斬り落とした。

 あれだけの硬度を持つゴーレムを切り裂く。

 それがどれだけ凄まじいことか理解し、身震いをした僕は、ゴーレムの手から零れ落ちようとしている曲刀へと手を伸ばした。


「フェルム! あれを!!」

『持てるのか!?』

「問題ない!!」


 その場で跳躍し、引き寄せた曲刀を巨大化させた両腕で掴み取り、落下の勢いと僕自身の腕力で曲刀を胴体の宝玉へと叩きつける。

 周辺に甲高い音が響くと同時に、宝玉から亀裂の入る音が響く。


『ウ、ウォォォォ!!』

「先輩、下がりましょう」

「うん、全力で逃げるよ!!」


 自身が破壊される危機に陥ったことを悟ったのか、途端に暴れだすゴーレム。

 すぐさま後ろへ下がった僕達へと、怒りのままに攻撃を仕掛けようとしているが———既に勝負はついている。


「メインは僕達だけど、とどめは違う! レオナさん! 亀裂はいれました!」

「ああ、こちらも準備はできた!」


 僕達の仕事は、とどめを刺すまでの布石を作ること。

 その後は、槍を投擲する体勢に移っているレオナさんが決めてくれる。

 尋常じゃない魔力が込められた勇者の槍―――それを強く握りしめた彼女は、僕達へと攻撃をしようとしているゴーレムの傷ついた宝玉を狙い、投擲する。


「貫け!」


 空気を凍てつかせながら突き進む白銀色の槍。

 それは寸分の狂いもなく、ゴーレムの宝玉へと直撃し、圧倒的な威力と共に胴体ごと宝玉を貫いた。

 核らしき宝玉を失い、体の色が鈍色から錆色へと変化していくゴーレム。


「これで魔法を無効化できないはずだ。カズキ殿、最後のとどめを!!」

「はい!!」


 レオナさんの近くにいたカズキが、左手を前に掲げる。

 すると、先輩の足場として展開させていた円盤が魔力弾へと変化し、その中心にいるゴーレムへと殺到していく。

 魔力弾が叩きつけられるごとに、ゴーレムは穴が空いたように削り取られていく。


光滅(ロスト)……!!」


 全ての魔力弾が中心へと集められたその時、ゴーレムは元の原型すら分からないほどに破壊しつくされていた。

 これなら動き出すことはもうないだろう。

 戦闘を終え、肩の力を抜く。


「さて、これからどうしようか、ウサト君」

「……これで終わり、な訳ないですよね」

「だろうね。私達を誘き寄せた存在が、ゴーレム一体で終わりにするはずがない」


 鞘に刀を戻した先輩がゴーレムの残骸を見下ろす。


「光魔法を吸収し、魔法を無力化させるゴーレム。……何百年も前の遺物が、私達が入った直後に動き出すなんて偶然、ありえないからね」

「魔力による衝撃波が通じたのは、幸いでしたけどね」


 あくまで無効化するのは魔力のみだから、魔力により生じた衝撃波は無効化されない。

 でも、こんなものが大昔にぽんぽんと配備されていたって考えると、恐ろしいな。


「とりあえずは、脱出する方法を見つけようか」

「ええ。……でも、その前に……」


 僕は後方にいるキーラへと視線を向ける。

 彼女は、困惑した様子で素顔を晒した先輩達を見ており、僕に気付くとこちらに近づいてくる。


「う、ウサトさん……あの、この人たちは……人間ですか?」

「うん。これが、君を連れていけない理由の一つ……かな。隠しててごめん」

「……まだ、明かせないことがあるんですか?」


 その問いに僕が頷くと、無言のまま俯いてしまうキーラ。

 なんと声をかけるべきか。


「ここに来るまで、ずっと心が重くて不安だったんです」

「……キーラ?」

「自分の魔法をなんとかしたい一心で、ウサトさんを困らせて……自分勝手な思い込みをして……今、思うとどうしてあんなことを思ってしまったのか、自分でも分かりません」


 やっぱりキーラは何者かによる暗示を受けていたのか?

 今はそれがなくなって、幾分か落ち着いているようにも見える。


「ウサトさんは、同じ魔族とは思えないくらいに優しい人です。最初に私達を助けてくれた時も……嘘とは思えなかった」

「そりゃあ、魔物に襲われたら助けるよ……」

「普通の魔族は、魔物に襲われてる子供なんて助けようとしないんです。でも、ウサトさん達にとっては、それが当たり前……なんですよね?」


 キーラの視線が僕の後ろに先輩と、レオナさん達へと向けられる。

 そして、次に僕と真っすぐに視線を合わせた彼女は、声を震わせながら口を開く。


「もしかして、ウサトさんは―――」

「ちょっと待った。そこから先は、僕から明かすよ」


 キーラは既に気づいている。

 なら、僕から秘密を明かさなければならない。

 小さく深呼吸をした僕は、内にいるフェルムと肩にいるネアに声をかける。


「フェルム、一旦同化を解いてくれ。ついでにネアも」

『……分かった』

「大丈夫よね?」


 もう隠すことが無理と悟り、フェルムとの同化を解除する。

 僕の隣に、フェルムと人の姿になったネアが表れるとキーラは目を丸くさせる。


「こ、この人は……」

「彼女が本当の闇魔法使いだ。そして、ネアは僕の使い魔で、フクロウだ」

「フェルムだ。ウサトの中からお前のことを見てたぞ」

「ね、ネアさんは……」

「そ、私がウサトの使い魔だったの。まあ、驚くのも無理はないでしょうけど」


 フェルムとネアを交互に見た後に、キーラは人間の姿に戻った僕をジッと見る。


「やっぱり、魔族だって嘘をついていたんですね……」

「……そうだね」

「待て、ウサトはお前のことをなんとかしようと―――」

「フェルム、いいんだ」


 僕のことを庇おうとするフェルムを止める。

 致し方ないとはいえ、キーラに嘘をついたことは事実だ。

 言い訳なんてできるはずがない。


「……聞かせてください」

「え? な、なにを?」


 つ、罪を償う方法を?

 キーラの言葉に恐々としながら次の言葉を待っていると、彼女は途切れ途切れに言葉を口にしていく。


「闇魔法を私に教えてくれた時……親切にしてくれたのも、優しくしてくれたのも……ウサトさんにとっては……嘘、だったんですか?」


 キーラの瞳は揺れている。

 結果として僕は何もしてやれなかったけれど、彼女を助けたかった気持ちに偽りはない。

 正直に、それを伝えるべく言葉にしようとする。


「いや―――」

「いやいや、この脳まで筋肉でできてる男がそんな器用な嘘つけるはずがないじゃない」


 えぇ、なんで君が答えるの?

 なぜか僕よりも先に答えてしまったネアに肩の力が抜ける。

 それに合わせ、眉を吊り上げたフェルムも口を開いた。


「そうだぞ。ずっとお前に嘘をついていることを気に病むくらい面倒臭い奴だからな。そんな奴が器用なマネできるはずがない」

「……そうなんですか?」

「え、いや、その……」


 キーラに聞かれ、しどろもどろになってしまう。

 それはそうと、君達、それは褒めているの?

 なんだか軽くディスられているような気がするんだけど。


「ちょっと待って、そんなに気に病んでた?」

「正直、ウザかったぞ。黙ってたけど」

「言ってよ!?」


 自分を客観的に言われるのって凄く恥ずかしいんだからな!?

 そっぽを向くフェルムに訴えかけていると、安堵したように胸を撫でおろしたキーラが何かを呟いていた。


「そう、だったんだ。良かった……嘘じゃなかった……」

「キーラ?」


 恐る恐る声をかけてみると、目元を拭った彼女は僕を見上げた。


「もう、ウサトさんが魔族でも人間でもどうでもいいです。だって、私のために闇魔法を教えてくれようとしたことは、嘘のない本心での行動だったんですから」

「……もう、大丈夫なんだね?」

「……はい」


 そう答えるとキーラは、憑き物が落ちたように笑顔を見せる。それに伴い、彼女の足元で揺らいでいた影の動きが止まり、元の形へと戻る。


「これで一件落着だね」


 そこで僕達を見守っていた先輩が、僕の肩に手を置いてそう言ってくれる。


「まだ、今の状況は解決してませんけどね」

「それでも、姿を偽る必要がなくなったのはいいことさ。……さて」


 にこやかな笑顔を浮かべた先輩が、キーラと視線を合わせるようにしゃがみ込む。

 その笑顔にやや引いたキーラが僕の後ろに隠れる。


「キーラちゃん。私はイヌカミ・スズネ。スズネお姉ちゃんって呼んでくれる?」

「……スズネ……お姉ちゃん?」

「はぅ!?」


 遠慮気味にキーラがそう口にすると、先輩に電撃が走る。

 いや、比喩でもなく、普通に電撃が走ってた。


「ウサト君……」

「はい」


 鬼気迫った表情で僕を見る先輩。

 絶対、ボケがとんでくるだろうなぁーと先読みする。


「この子を私の妹にする」

「駄目に決まっているだろうが」


 電撃を纏って、キーラの背後に移動しそのまま抱きかかえた先輩に呆れたため息を吐く。

 即答した僕に、先輩はフッと笑みを零した。


「ウサト君、血の繋がりだけが……家族じゃないんだ」

「いい話風に言っても駄目です!!」

「じゃあ義妹でも一向に構わない。むしろそっちの方がいい!!」


 一つも譲歩してないじゃん!?

 むしろ、貴方の業の深さが浮き彫りになっただけなんですけど!?

 徐々に必死になっていく先輩の口は止まらない。


「なら、私はママでいい! 君にはパパ役を―――」

「レオナさん! カズキ! 確保お願いします!!」


 予想していたよりも危険なワードが飛び出そうだったので、レオナさんとカズキに助けを求める。

 二人に腕を掴まれ、キーラから引きはがされる先輩。


「スズネ、さすがに犯罪に手を染めるのは駄目だぞ」

「先輩、こういう時くらい自重してください……」

「なっ、離せ!! 私はこの世界での存在意義を見つけたんだ!! お姉ちゃんだぞぉぉ!!」


 いや、先輩がそう呼ばせたい気持ちも分からなくもないけど、そういう願いは胸に秘めていて欲しかったなぁ。

 頭を抱えていると、ブルリンと共にアマコが歩み寄ってくる。


「スズネは、いつでも変わらないね」

「悪いことばかりじゃないんだけどね……」


 先輩の明るさは類まれなものだ。

 たまに鬱陶しい時もあるけど、先輩とのやり取りを楽しく感じている自分がいる。

 まあ、こんなこと恥ずかしくて言えないけど。


「キーラ、スズネは悪い人じゃないから怖がることはないよ」

「は、はい」

「警戒する必要はあるけどね」

「それは、分かります」


 分かられちゃったよ。

 まあ、突然妹にするとか言い出したらそう思うのも無理ないか。


「——グル」

「……どうした? ブルリン?」

「何かに反応してるね、私も予知しておく」


 ふと、顔を上げたブルリンが部屋の一方向へと顔を向けた。

 それに合わせ、アマコが予知を見た―――その瞬間、部屋の右側にある壁が爆発するように砕け散った。

 咄嗟に、アマコとキーラを抱えた僕がネア達と共に後ろへ下がる。


「新手か!?」


 二人を下ろしながら、壁が壊れ瓦礫が散乱している方へと構える。

 砂煙が徐々に晴れていくと、瓦礫と共に他に別のものが転がっていることに気付く。


「さっきと同じゴーレム……のミニサイズ版?」


 それは先ほどの大きなゴーレムを小さくしたようなゴーレムであった。

 それでも大きさは三メートルを優に超えていたが、そのゴーレムの胴体の宝玉は罅割れ、体全体に殴られたようなへこみがついていた。

 そのままゴーレムを見下ろしていると、それが飛んできたであろう壁の奥から何者かがやってくる。


「フゥ、なんだこいつ。ゴーレムの癖して強ぇのなんの。ま、俺ほどじゃあなかったみたいだけどな!!」


 聞き覚えのありすぎる声。

 その声を耳にすると同時に、僕はすぐさま思考を切り替え前へと飛び出すのであった。


先輩の性格ならこうするだろうと思って書きましたが、なぜか書いた私自身が引くことになろうとは思わなんだ。

さすがは先輩だ……。



今回の更新は以上となります。

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