第二百三十一話
第二百三十一話です。
前話を見ていない方はまずはそちらをー。
かつて魔王が根城にしていた遺跡。
外観のほとんどが瓦礫へと変わり、残っているのは大きな柱と建物だった名残のみ。
キーラが入り込んだと思われるその場所に入り込んだ僕達が、最初に目にしたのは下層へと続く幅の広い階段であった。
目の前に見える遺跡の内装にレオナさんが、表情を顰めた。
「なんというべきか、月並みなことを言ってしまうが……これは、怪しいな」
「……ですね。外観と比べて、中はそれほど痛んでいないように見えますし……なにより、明るすぎる」
足元には白い光を放つ石板のようなものがところどころに敷き詰められており、眼下の階段と側方の壁は思っていた以上に綺麗だ。
数百年前の建物とは思えない。
「俺の魔法で照らす必要もないのはいいけど……この階段。この建物は構造的に地下に広がっているのか?」
「多分、ここからアリの巣みたいに地下に広がっていく感じなんだろうね」
カズキと先輩の言葉に、僕も呆然としながら階段を下りていく。
前を歩くブルリンの足取りには迷いはない。
においが残っているということは、キーラは確実にここを通ったというわけだ。
「ウサト、気を抜くんじゃないわよ。ここの魔力、外より遥かに濃いわよ」
『そんなにすごいのか?』
僕と同化しているフェルムの言葉に、肩の上のネアは強く頷く。
「普通の魔物が近づこうとしないくらいには」
「……やっぱり、ここには何かあるんだな」
早くキーラを見つけなくちゃな。
そのまま長い階段を下りていくと、いくつかの通路に枝分かれするように続いていたけれど、ブルリンはそれを無視し、時折道を曲がりながら下層へと降りていく。
その間、アマコに魔物やコーガの襲撃に備えて予知をしてもらっているけど、今のところ反応はない。
階段を下りていくこと、五分。
ようやく階段に終わりが見えてきた。
「グルゥ!!」
「! ウサト、この先にキーラがいる!」
ブルリンとアマコの声に、僕は自分が魔族化をしていることを確認しながら先を急ぐ。
階段を下りた先、不自然に広い部屋に出た先で頭を抱え、嗚咽を漏らしながらうずくまっている少女、キーラを見つける。
「……キーラ!」
「……? っ!」
すぐに彼女に駆け寄り、怪我をしていないか確認する。
彼女は涙に濡れた顔を上げると、縋りつくように服を掴んでくる。
「わ、私っ、こ、声が……聞こえなくなって……どうしてこんなところに来たのか……っ、怖くなって……」
「もう大丈夫。大丈夫だから……」
「ごめんなさい……ごめんなさい……っ」
こんなところにたった一人でいて、怖かったのだろう。
泣き出してしまったキーラをなだめながら、彼女を抱えてこの場から離れようとすると、ドスン! という地響きのような音が響いた。
「レオナさん! このままじゃ閉じ込められる!!」
「フッ!」
先の未来を予知したアマコが、一番近くにいたレオナさんへとそう叫ぶ。
すぐさま状況を理解した彼女は、背後を振り向くと同時に勇者の槍を投擲———地上へと続く階段のある出口を閉ざそうとしている壁を止めようとする。
しかし、一瞬遅かったのか冷気を纏った槍が壁にぶつかり、そのまま弾かれてしまう。
「ッ、遅かったか」
戻ってきた槍をキャッチしたレオナさんが、苦々しい表情を浮かべる。
閉ざされた壁の奥で、連続で何かが閉ざす音が聞こえる。
それに伴い、前方で先ほどと同じ地響きのような音が響く。何かが閉じていくような音ではない、なにか……人型のような何かが歩くような、そんな音と振動だ。
「なにか、来るな……」
キーラを抱えながら先輩たちのいる場所に飛び下がる。
「……嫌な予想が当たってしまいましたね」
「ああ。どうやら、キーラを惑わしここへ連れてきた奴の目的は私達のようだ。そして、ここは俗にいうボス部屋ってやつだね」
「ふざけてる場合ですか……」
不敵な笑みを浮かべ、勇者の武器である刀の柄に手を添える先輩。
瞬間、振動と共に天井から何か巨大な物体が落下してくる。
落下してきた巨大な物体は、機械のようにゆっくりと動き出し、そのまま立ち上がった。全体が鈍色の人型の大きな物体。
大きさにして10メートルくらいか?
体の中心にはバスケットボールほどの宝玉のようなものが埋め込まれており、左腕が肩からなく、右腕には長大な曲刀が握られている。
「ゴーレム……?」
グレフさんの言っていた魔王の遺跡にあるというゴーレムがあれなのか?
いや、それにしては僕が想像していたゴーレムとはかけ離れたデザインをしている。
「ウサト君! あれ、ロボットだよ! 異世界ロボットだよ!?」
「う、ウサトさん……」
「キーラが怖がるのでやめてください」
その場で佇んでいるゴーレムを指さし、テンションを上げる先輩。
これまで先輩と関わることのなかったキーラは、いつもの調子で僕へ話しかけてくる彼女に怯えた反応を見せる。
僕はため息をつきながら、キーラをブルリンの背に乗せる。
「ウサトさん……?」
「キーラ、もしかしたら戦闘になるかもしれないから、君はブルリンとアマコと一緒に安全な場所にいてくれ。ブルリン、アマコ。キーラを頼む」
「グルァ」
「分かった」
ブルリンとアマコが後ろへ下がると、彼らを護るようにレオナさんが作った半透明の氷壁が作られる。
「ありがとうございます」
「礼を言われるほどでもないさ。それより、アレの対処を考えよう」
「……僕達の様子を伺っている……ように見えますね」
部屋の中央で佇み、僕達をジッと見つめているゴーレム。
正直、不気味だけど、あれはこのまま動き出すのだろうか? そう考えた次の瞬間、前触れもなくゴーレムが大刀を肩に担ぐように構え、特徴的な構えを取った。
「ウサト君、そろそろ顔を隠しているのも限界だ」
「ええ、分かっています。今は、この状況を打開することを優先させましょう」
僕の言葉を聞いた先輩は、頭に被っていたフードを外す。
それに伴い、カズキとレオナさんもフードを外すと、後ろにいたキーラの驚きの声が聞こえる。
しかし、今は目の前のゴーレムへの対処だ。
「私が氷で身動きを止める! カズキ殿の魔法で、早めに決着をつけるぞ!! ウサトはサポート、スズネは陽動を!!」
「「「はい」」」
レオナさんの指示に合わせ、僕達はそれぞれ動き出す。
雷を纏った先輩は、超高速でゴーレムへと接近し、陽動を行う。
ゴーレムは、すぐさま先輩へと曲刀を振るうが、彼女の速度を捉えられない。
「どこを見てるのさ! こっちだよ!」
『———!』
カズキは系統強化を発動させるため、左腕に魔力をためている。
レオナさんもゴーレムの動きを完全に封じるべく、その場に八本の氷の槍を作りだそうとしている。
その間、僕にできることは絶えず動いている先輩のサポートと、あのデカブツの動きを妨害することに他ならない。
普通の治癒魔法弾じゃ駄目だ。
ならば―――、
「ネア、あの技をやる!!」
「え、え!? なに!? なんの技!!」
先輩をサポートし、尚且つゴーレムの体勢を崩せる力のある技……!!
籠手で弾力付与の魔力を作り出し、左手へ。
その後に右手に魔力弾を作り出し、そのまま魔力を注ぎ込み治癒爆裂波の工程へと移る。
このまま放てば、ただの治癒爆裂波だが———、これに弾力付与を加える。
「ハァァ!!」
魔力の注ぎ込みにより、歪み破裂しようとしている魔力弾を左手の弾力付与の魔力で包み込む。
ただ強いだけの治癒魔法破裂掌だった治癒爆裂波を投げられるように改良する……!
「治癒爆裂波、否!! 進化したこの技は———治癒爆裂弾!! ネア、分かってるな!!」
「分かりたくないけど、分かる自分が悔しい!! はい! 拘束の呪術よ!!」
「よぉっし!!」
ネアから僕の身体を通して、右の掌に浮かぶ魔力弾に拘束の呪術が施される。
投擲を可能にさせた治癒爆裂波。
これで遠距離での広範囲回復を可能にさせたわけだ……!
「先輩!! ちょっと衝撃がいきますから気を付けてください!!」
「衝撃ごと斬るからオッケー! やっちゃって!!」
「行きまぁす!!」
「どんとこぉい!!」
先輩の了解を得てから思い切り振りかぶった僕は、先輩をなんとか捕えようとしているゴーレムへと向けて、治癒爆裂弾を投げつける。
「なんでスズネは、ウサトに一切の疑問を抱かないの!?」
『頭おかしい奴の思考はボク達には、分からんだけだろ』
ネアとフェルムの声をスルーしながら、投げた治癒爆裂弾を見る。
高速で投げられたそれは、ゴーレムの無防備な胴体へと直撃する―――瞬間、その場所を中心に強烈な衝撃波と、治癒魔法の魔力が広範囲にまき散らされる。
衝撃により、ゴーレムの身体が大きく傾く。
「隙あり、だね!!」
その隙をついた先輩は、迫りくる衝撃を刀で斬り、いなしながら空中で一回転すると電撃を纏わせた蹴りをゴーレムの頭へと叩き込む。
「秘技! 電撃イヌカミキィック!!」
そのまま地響きを鳴らしながら地面へと倒れるゴーレム。
その場に軽やかに着地した先輩は、空間に満ちた治癒魔法の粒子に驚いた表情を浮かべる。
「おおお! なにこれ!! ウサト君! 動きながら回復してるよ!?」
「その空間の中なら、いくらでも動いても疲れませんよ!」
「つまり、無敵ってことだね!!」
敵がいる中では下手に回復させてしまうため扱えないが、相手がゴーレムという無機物なので、思う存分に使える。
つまり、この戦いにおいては先輩は魔力が続く限り絶えず動き続けることができるのだ。
「スズネ、本当に衝撃とか斬ったわよ……ウサトみたいなことしてるし……」
『アホだけど、バケモノなんだな……』
……ん? 拘束の呪術が効いていないように見えるけど……一瞬で破壊されちゃったのか?
直撃したはずなのに魔術が効いている様子がないことに疑問を抱いていると、レオナさんが生成した八本の氷槍を倒れたゴーレムへと放つ。
「凍てつけ!!」
ゴーレムへと殺到した八本の氷槍は、氷へと変わりその巨体の動きを封じた。
氷がゴーレムの身体を覆ったところで、レオナさんがカズキへと振り返る。
「カズキ、今だ!」
「はい! 系統強化“集”! いっけぇぇ!!」
カズキが魔力を籠めた左手から収束した光の魔力が放出される。
系統強化により、射線上の一切合切を消滅させる必殺の一撃。ゴーレムがどんなに硬くても、カズキの魔法の前では意味をなさない。
ビームさながらに真っすぐに突き進んだ光の魔力はゴーレムに直撃する。
倒した!! そう思った次の瞬間———、
『ウウゥゥゥ!!』
「なっ!?」
今まで声すら出さなかったゴーレムが、叫びだした。
それと同時にカズキの系統強化による魔力が何かに吸い取られるように消え去り、レオナさんによる氷での拘束もまるで存在していなかったかのように、ゴーレムが立ち上がってしまう。
「光魔法が、吸収された……!?」
カズキの呟きに、僕は呆気に取られてしまう。
ゴーレムの足元にあった氷の魔力は、部分的に溶けるように消滅している。
一旦態勢を整えるべく、先輩がこちらへと戻ってくる。
「……魔法を無効化するゴーレムね」
「俺の魔法が通じないとは、かなりまずいかもしれませんね」
「私が思うに、あれは先代勇者との戦闘を想定して作られたものだろうね。何度か斬りつけてみた感じ、装甲も生半可なものじゃない」
ゴーレムは再び大刀を肩に担ぐように構える。
構えこそはさっきと同じだけど、存在しない左腕の付け根の部分に、白い魔力弾のようなものが生成されはじめていることに気付く。
「———あれは、俺の光魔法!?」
「カズキ君の吸収した魔力か! だとすれば、あのゴーレムが次にする攻撃は———」
『ウ、ウゥゥゥ』
収束した光が弾ける。
分裂するように飛び散った光の魔力弾は、僕達目掛けて飛んでくる。
一撃でも当たれば、生身でも致命傷―――僕達の後ろにはアマコ達がいる。
避けるわけにはいかない……!
「治癒爆裂波!!」
「犬丸流! 放電斬り!」
真っ先に反応した僕と先輩が、前方に衝撃波と電撃を放つ。
誘爆するように破裂していく魔力弾だが、それでも迎撃し損ねたものが迫る。
「くっ!!」
「ウサト、俺が!」
すぐさま次の技を放とうとする前に、カズキとレオナさんが光の魔力弾と氷の剣を飛ばし、全てを叩き落とした。
「な、なんとか防げた……」
カズキを相手にしている魔王軍兵士の気持ちと、光魔法を扱うカズキの気持ちがよく分かった。
彼の魔法は、強力であると同時に危険だ。
「……少し、試してみるか」
「レオナさん?」
何を思ったのか氷の槍を掌に作ったレオナさんが、ゴーレムへと氷槍を投擲する。
避ける動きを見せないゴーレムに、氷槍は直撃するがそれは溶けるように水に変わってしまった。
「……どうやら、吸収するのはカズキ殿の魔力だけのようだな。良くも悪くも、先代勇者との戦いに特化させたゴーレムというわけか」
「光魔法が通じないとなると、俺がサポートに回るしかないですね」
「ああ。戦術を変えよう」
勇者の槍を持ち替えたレオナさんは、こちらへゆっくりと近づいてくるゴーレムを見て数秒ほど考える様子を見せた後に、僕と先輩の方を向く。
「よし。ウサト、スズネ。君達がメインだ。やってくれるか?」
僕と先輩は顔を見合わせ、互いに頷く。
「「はい!!」」
先輩との本格的な共闘。
それこそ打ち合わせのないぶっつけ本番ではあるが、不思議と先輩と組むことに不安はなかった。
治癒爆裂弾:着弾と同時に魔術で拘束→動けなくない状態でアホみたいな衝撃波と治癒魔法が全身へと襲ってくる技。
さらっと技名を増やしていく先輩でした。
ウサトに雷返しさせたい(!?)
次回の更新は明日の18時を予定しております。
※本日16時より、新作の方を投稿いたしました。
題名『殴りテイマーの異世界生活~後衛なのに前衛で戦う魔物使い~』
一応、毎日更新です。
よかったら、こちらの方もよろしくお願いします。




