第二百三十話
お待たせしました。
第二百三十話です。
今回は三日に分けて三話ほど更新していく予定です。
キーラがいなくなった。
深夜、僕達が休んでいる空き家へ駆けてきたグレフさんの言葉に、僕は猛烈に嫌な予感を抱いた。
キーラが思いつめているのは分かりきっていたことだった。
だけど、暗い中たった一人で外に出る危険性を彼女が分からないはずがない。
直感的に何か大きな事態が起ころうとしていることを予感しながら、慌てふためいているグレフさんと泣き出してしまったラムとロゼを落ち着かせた僕は、すぐさまキーラの捜索を行うことになった。
夜、グレフさん達を外に出してはキーラを探すどころではなくなるので、彼にはラムとロゼを見てもらい、僕達は手分けしてキーラを探しに森へ入り込んだ。
「ブルリン! キーラの匂いは覚えているか!?」
「グルァ!!」
「頼むよ、君だけが頼りだ!!」
脚の速い僕と先輩は、ブルリンの嗅覚を頼りにしての捜索。
カズキ、レオナさん、アマコは集落の近辺を探している。
「ネア!! 空からはどうだ!?」
「いないわ! というより貴方達速すぎよ!! もっと空を飛ぶ私に合わせなさい!!」
空から慌てたネアの声が聞こえるが、僕も先輩もブルリンもその足を止めるつもりはない。
夜の森はかなり危険だ。
暗闇に乗じて襲ってくる魔物もいるし、何よりキーラ自身の魔法が彼女を害さないか心配だ。
「ウサト君、この方向は……」
「ええ、分かっています」
『偶然……って訳じゃなさそうだな。最悪だ』
内から聞こえてくるフェルムの声に頷く。
ブルリンが進んでいる方向には———あの巨大な遺跡がある。
ざわざわとした悪寒に苛まれながら、茂みをかき分けながら進んで行くと―――遺跡のある荒野へと出る。
それに伴い、僕と先輩の勇者の武具が勝手に展開される。
「……どうやら、ここに来るのは決まっていたことみたいですね」
「そのようだね」
刀が納められた鞘に視線を移した先輩は、苦笑交じりにそう返す。
開けた場所に出たので、空を飛んでいたネアが僕の肩へと降りてくる。
「ウサト。ブルリンは、キーラがこの先にいるって?」
「ああ。……僕達だけじゃ不安だから、カズキ達を連れてきてくれないか?」
「了解。それと、この先に誰かいるわよ」
「……空から見えたか?」
「遠目で見る限り、一人と飛竜らしき魔物が一頭。他には誰も見当たらないけど……どうする?」
飛竜を操る。
魔王軍の兵士か……?
どうするべきか考え込んでいると、一緒に聞いていた先輩がネアへ話しかける。
「ネア、君はカズキ君達を呼んできてくれ。私とウサト君、そしてブルリンで様子を見てから、必要とあれば捕縛するから」
「ええ、分かったわ。気を付けてね」
そのまま僕の肩から飛び上がったネアは、空へと舞い上がると夜の空を飛んでいく。
彼女の姿が見えなくなったところで、僕達は遺跡の近くにいるという何者かに近づくことを試みる。
「ブルリン、静かにね?」
「グルゥ」
「ぐるぅ」
余計な鳴き声が一つ。
僕は先輩にジト目を向ける。
「先輩、緊急事態にいらんボケを挟まないでください」
「はい……」
しょんぼりとする先輩。
そのまま気を取り直して、前へと進んでいくと足元にある瓦礫が目に入る。
「荒野といっても、ところどころに瓦礫とかがありますね」
「保全された様子はないから、朽ちる一方なんだろうね。……もしかしたら、中はもっと酷いことになっているかもしれない。一刻も早く、キーラを見つけなくちゃね……」
「ええ」
そのまま遺跡の残骸らしきものに隠れながら物陰を進んで行くと、ネアの言う通り遺跡から少し離れた場所―――遺跡の残骸に囲まれた場所で焚火をしている魔族の女性の姿を見つける。
『ウサト、スズネ、服装から見て魔王軍の兵士だ』
「無関係……ってわけじゃなさそうだね」
「……飛竜に何か話しかけてますね。ちょっと盗み聞きしてみましょう」
一人では心細いのだろうか、焚火の前でぼーっとしていた女性は、自身の傍らにいる赤色の飛竜に話しかけていた。
それを盗み聞きすべく、僕達は瓦礫の裏に移動し聞き耳を立てる。
『あーあ……コーガさん達まだ帰ってこないし、中からドンパチ音がするし、もう帰っちゃおうかなぁ~』
『ギュァー』
『うんうん。いっそのこと、このまま遠い場所にショーンと一緒に旅に出ちゃう? 案外、獣人の国あたりとかいけそうだよね。もし獣人の国にいったら何が食べたい?』
『ギュゥ』
「そっか、牛さんかぁ。獣人の国は自然も豊富だし、きっと野生の牛さんもいるよ」
なんとも僕達の抱えている問題とはかけ離れたなごやかなことを呟いている。
しかし、女性の言葉の中に一つ、聞き逃せない名前があった。
「……コーガ? あいつ、ここに来ているのか?」
『よりにもよってあいつかよ……嫌だなぁ。お前を見たら絶対襲ってくるじゃん……』
「言うな……」
フェルムが辟易しているあたり、コーガの面倒くささをよく理解しているようだ。
でも、あの人がここにいるのなら、ここを通ったであろうキーラを見ているんじゃないか?
「先輩。あの人、もしかしたらキーラのことを知っているかもしれません」
「ここにいたのなら、見ている可能性もあるね。……あっ、魔族モードのウサト君が聞けばいいんじゃないの? キーラを探しに来た体で接触すれば怪しまれないだろうし」
「ナイスアイディアです。じゃあ、さっそく……フェルム」
『ああ』
僕を覆う黒い魔力により、白髪褐色の魔族の姿へと変わる。
未だに髪の色が変わるのは慣れないけど、あくまで見た目だけなので我慢するだけだ。
「……よし。では、聞いてきます」
「頼んだよっ、ウサト君っ!」
「グルゥ」
先輩とブルリンに頷き、物陰から出て魔族の女性へと近づく。
あえて存在を知らせるように、瓦礫を蹴るようにして歩くと、女性と飛竜はすぐさまこちらへ振り返り警戒を露わにさせた。
ちょうど焚火の明かりが影になって、女性の顔がよく見えないが、ひどく警戒されているのは分かる。
「何奴!?」
「ギュァ!!」
なにやつ……?
時代錯誤な言い回しに引っかかりつつ、両手を上げながら声を投げかける。
「すみません。明かりが見えたので……あの、魔王軍の方でしょうか?」
「……ヒッ!?」
「え?」
僕の声を聞くとなぜか後ずさりする女性魔族。
すぐに我に返った彼女は、ぶんぶんと首を横に振ると、引き攣った笑顔を浮かべる。
「な、なんでもありません。わ、私は魔王軍の兵士です。そういう貴方は?」
「僕は旅の者です。実は……旅に同行している子供がいなくなってしまって……ここまで探しにきていたんです。あの、白髪の十二歳くらいの女の子なんですが……」
「……ショーン、見た?」
「ギュァ……」
女性は飛竜と顔を見合わせると、飛竜はゆっくりと首を横に振る。
すごい、僕とブルリンみたいにコミュニケーションをとっている。
「あの、よかったら、探すのをお手伝いしましょうか? 私とショーンなら空から、その子を探せますし」
「……頼みます」
今は自分の感情よりもキーラの方が優先だ。
もしかしたら、空からなら彼女を見つけられるかもしれないからな。
「とりあえず、こちらへ来てください。そこからじゃ顔もよく見えないですし」
魔王軍兵士と幾度となく戦った立場からしてみれば複雑だけど、普通にいい人みたいだ。
……当然か、魔王軍だって恨みだけで戦っている訳じゃないだろうし。
「あ、立っているのも辛いでしょうし、座ってください」
「え、ええ。でも――」
「まずは落ち着くことが大事ですよ。お子さんの特徴さえ教えてくれれば、私の相棒のショーンと一緒に飛んで探しにいきますからねっ!」
ショーン? 聞き覚えのある名前だ。どこで聞いたっけな?
首を捻りながら、彼女の言葉に頷き焚火へと近づく。
そこでようやく、僕も女性の顔を確認できるが……。
「んん? 君は……」
『あれ? こいつ、見覚えあるぞ』
たしか、魔王軍との戦いの時に戦った第三軍団長のハンナさんの部下……だった人だ。
魔王の攻撃の際に逃げ出したって聞いていたけど、どうしてこんなところに?
―――ちょっと待て、彼女は僕の顔を知っている。
いや、今は魔族モードだから、他人の空似ということで誤魔化せるはずだ。
「でも、特徴的な服装ですねぇ」
「そうですか?」
「私も同じような服を着ている生物を見ましたが、とんでもない動きをしてましたよ。間違いなく人間と定義していい存在ではないです」
「え、えぇ……」
「あ、失礼しました。私は魔王軍、飛竜騎兵隊所属のノノ・ヘレステアで……え?」
そう言って斜め前の石に腰を下ろした彼女―――ノノさんは、自己紹介をしながら僕の顔を見て硬直する。
よし、ここですぐに魔族だと言って、知ったかぶりすれば大丈夫。
「ヒ、ヒェ!? ア、アクマ!?」
「はい?」
「つ、角が生えてる!? 真の姿!? 人間の皮を破り捨てたの!?」
待って、まず前提が成り立たなくなった。
なんで最初っから悪魔って認識なの? なんで正体を現したって発想になるの?
錯乱する彼女に、何も言えずにいると、彼女は後ろに倒れながら恐怖に顔を歪ませた。
「ま、まさか子供を攫いに!? そ、そそそそして、逃した私とハンナ様を探しにここへ!?」
「ちょ、ちょっと落ち着い―――」
「———きゅう」
僕を見て、恐怖の悲鳴を上げた彼女はそのまま気絶してしまう。
困惑する僕に追い打ちをかけるように、ノノさんの傍らにいた飛竜が、四肢を投げ出して地面に倒れた。
翼すらも地面に擦り付ける姿は、まさに五体投地。
想像を超えて混沌とした光景に、僕は何も言えなくなってしまう。
『なんか、ごめん。ウサト』
「なんで君が謝るの……」
『いや、本当にゴメン。あとでネアにも謝らせるよ……』
複雑そうな様子で、フェルムが謝ってくる。
この状況を見かねてか、微妙な表情の先輩とブルリンが物陰から出てくる。
「……う、ウサト君、この子になにをしたの?」
「この人、魔王軍との戦いの最中に僕が捕虜にした方でして……」
「なるほど。大体分かった。それなら……しょうがないね」
そこで納得されるのは納得いかないんですけど……!?
こうなってしまったからにはしょうがない。空からの捜索は諦めて、ここでカズキ達を待とう。
飛竜は———ノノさんの傍らで大きな体を丸くして、怯えているから、警戒しなくても大丈夫だろう。飛竜に関しては、怯えられる理由が分かっているからね……。
「ブルリン、キーラのいる方向は分かるか?」
「グルァ」
くんくんと鼻をならしたブルリンは、暗闇の先に前足を向ける。
その先は———瓦礫ではない、唯一形を保った遺跡がある場所であった。
●
カズキ、レオナさん、アマコ、ネアと合流した僕達は大きな遺跡へ入る準備を整えていた。
「ウサト、彼女を放っておいて大丈夫なのだろうか?」
レオナさんが気絶して寝かせられているノノさんへと視線を向ける。
かなりのショックを受けたようだから、しばらくは起きないけれど……まあ、大丈夫だろう。
「問題はないと思います。僕の顔は見られましたが……多分、人間とは認識されてはいないでしょうから……」
「そ、そうなのか?」
自嘲気味に笑いながら言う僕に、レオナさんはやや引いた様子を見せる。
まあ、それ以外にノノさんを害そうとすれば、傍らで怯えている飛竜が全力で抵抗しそうだからって理由もある。
「最悪、コーガとの戦闘になるかもしれない……か」
こんな時にコーガと戦いたくないが、あいつのことだ。
きっとキーラを戦いに巻き込むとか、ベタな脅しをかけて勝負を挑んでくるはずだ。
……最悪、僕達全員でタコ殴りにしよう。
「ウサト」
「……ん?」
そんなことを考えていると、頭にフクロウ状態のネアをのせたアマコが声をかけてきた。
「多分、予知はもう避けられないと思う」
「そう、だろうね」
「それでね。ずっと考えていたんだけど……」
少し言いづらそうに俯いたアマコ。
彼女の視線の高さに合わせて僕が地面に膝をつくと、戸惑いながらも口を開いてくれる。
「私達の行動とか、誰かに誘導されてたんじゃないかって」
「誘導? 君の夢に出る奴にか?」
「もしかしたらだけどね。なんというか、あの人胡散臭いし、なにより怪しいし」
アマコがそう感じるとしたら、相当なんだろうな。
……一気にきな臭くなってきたな。
「私から見ても、キーラはどんどん追い詰められているように見えた。それがウサトに見捨てられるかもしれないって感情からかもしれないけれど……そうじゃなかったら、あの子は何かしらの方法で操られてるかもしれない」
「……ネア、ありえるのか?」
「正直、分からないわ。でも、私の感覚を欺けるとしたら相当な術者でしょうね。……あの子が自発的に行動するように、思考を誘導したとかありえそう」
裏でキーラを操っているやつがいるかもしれないってか。
誰かを傷つけてしまうかもしれないという不安に駆られていたあの子の感情を利用し、僕達をここに誘き寄せようとした。
キーラは自分の持つ闇魔法を怖がり、そして他ならぬ自分自身を信じられずにいた。
それでも、家族であるグレフさん達を傷つけたくない一心で、僕を頼り、闇魔法の扱い方を学ぼうとしたが、彼女自身がそれができないと心のどこかで思い込んでしまっていた。
どこの誰だか知らないが、誰も傷つけたくないという心優しい彼女を利用していたというのなら―――、
「……いや」
下手に先入観を持つのはやめよう。
今はキーラを探し出し、彼女の安全を確保することが先決だ。
魔族モードのせいで、悪魔扱いに拍車がかかるウサトでした。
次回の更新は明日の18時を予定しております。
※新作予告です。
ある程度書き溜めしましたので、更新いたします。
仮題『殴りテイマーの異世界生活~後衛なのに前衛で殴る魔物使い~』
前衛・物理型テイマーな主人公なお話で、ウサトでできなかったことをやる話でもあります。
こちらの更新は明日の16時頃を予定しております。




