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第二百二十四話

お待たせしました。

第二百二十四話です。


ほとんど話題にすら上げていませんでしたが、Twitterにて治癒魔法最新話の更新予告などを行っております(むしろそれしかしてない)

 グレフさんとの話を終えた僕達は一旦、先輩たちがいる方の空き家へ戻ることにした。

 そこでグレフさんと交わした会話の内容と、この集落の近くにあるという遺跡について知らせた。まだこの遺跡がアマコの予知に関係あるのかどうかは分からないが、一度そこを見てみるべきという結論に落ち着いた。

 しかし――、


「私は、行かない方がいいと思う」


 ここでアマコが僕達が遺跡に向かうことを拒否した。


「今回の予知は色々とおかしいの。いいえ、私の予知魔法自体、何者かに干渉されているかもしれない」

「以前、君が言っていた獣人の女の人のことか?」

「……うん」


 この反応を見る限り、夢に出てきたのは一度限りじゃないな?

 だとしたら、どうにも怪しくなってくるな。

 もし、アマコが見た予知の内容がその女性によって操作されたものだとしたら、僕達はあの遺跡におびき出されていると考える方が自然だ。


「ふむ、夢に入り込むね。ネア、そんなことが可能なのかい?」

「魔術ならできなくはないわね。でも今魔術を扱える人間はほぼ皆無だろうし、可能性はゼロと言ってもいいわ。あ、でもファルガみたいな規格外な存在ならできるけど、その可能性もゼロね」


 先輩の疑問にネアが答える。

 現状、アマコの予知魔法に起こっている異変の原因を見つけるのは難しいかもしれないな。

 一旦、会話の流れが止まったところで一人考えをまとめていたレオナさんが静かに口を開いた。


「封印される以前の魔王とその配下たちが根城にしていた遺跡。その上、先代の勇者と魔王の決戦の場所と聞けば、興味がないわけではないが……そんな場所で何もないはずがないだろうな……」

「たしかに、俺と先輩とも関係ありそうですもんね……」


 勇者関連で何があっても不思議ではない。

 というより、絶対何かしら厄介なものがあるに決まっている。


「僕も色々な騒ぎに巻き込まれたり、首を突っ込んだりしてきた身ですが……今回も厄介ごとの匂いがしますね」

「「……!?」」

「ん?」


 ネアとアマコから強い視線を感じる。

 そちらを見ると、二人は深刻そうな様子で顔を見合わせていた。


「ネア、これは……」

「ええ、まずいわね」


 なにそのやり取り。

 そう質問する前に、ネアがレオナさんの方へと顔を向けた。


「レオナ、これは確実になんかあるわよ。何よりウサトが騒動を予感している時点で結構な事態よ」

「そ、そうなのか?」


 首を傾げるレオナさんに、ネアは僕の方を指さす。


「こいつと一緒に旅してると、高確率で面倒事に遭遇するの」

「おい、その面倒事の一つの原因が君だと言うことを忘れるなよ」

「さ、さーて、なんのことかしらねぇ」


 こ、この小娘……!

 声を震わせながら視線をそらしたネアにわなわなと震えていると、隣にいるアマコが口を開いた。


「……ある意味、ウサトの事件に遭遇する体質は私の予知魔法より正確かもしれない」

「アマコ、僕を疫病神か何かと勘違いしてない? ねぇ?」


 別に僕が引き起こしたわけじゃないからね?

 偶然、向かった国や場所で連続してトラブルに見舞われていただけだからね?


「ま、まあ、騒ぎに巻き込まれたのは別にウサトのせいじゃないし、そんなに気にすることでもないと思うぞ?」

「カ、カズキ……」


 この場において僕の味方は君だけだ……!

 その隣で「ウサト君にくっついてると、楽しそう」とか不穏なことを呟いている先輩は直視しないでおく。


「と、とにかく、中に入らないにしても、まずは遺跡の外観だけでも確認するべきだ。フェルム、遺跡の場所は分かるか?」

「ああ、後で教える」

「頼む。場合によっては遺跡の中には入らず、素通りするという選択肢もある。その結果、アマコの予知がどう作用するか分からないが……少なくとも、危険なことにはならないだろう」


 とりあえずは、レオナさんの案が一番安全だな。

 でも、実際遺跡の中に足を踏み入れたらどうなるのだろうか?

 厄介事の匂いはする、が“もう一振りの勇者の刀”のことがちょっと引っかかる。僕の籠手とも縁の深いものだし、何より魔王との決戦に用いられたであろう強力な武器だ。


「……魔王との戦いに不可欠なもの、なのか?」


 いや、それはないか。

 そもそももう一振りの刀は先代勇者専用のものだ。

 今では扱えるものすらいないだろう。



 皆が寝静まった夜。

 僕は今回の見張り当番のフェルムと共に、外で焚火をしながら集落に魔物が入ってきても対応できるように見張りを行っていた。

 僕の背にはブルリンが静かな寝息を立てて眠っており、丁度いい感じの背もたれ代わりになってくれている。


「フェルム、合言葉を決めよう」

「はぁ?」


 そう口にした僕に、焚火を挟んで対面に座っているフェルムは呆気に取られた表情を浮かべた。


「合言葉ってなんだよ?」

「君と同化している時、腕の形を変えたり、背中から鞭とかを伸ばしたりするよね。その時に、わざわざ説明しなくても、短い言葉で変形できるようにすれば色んな状況に対応できるような気がするんだ」


 動いている最中にいちいち説明してられないからな。

 ワンフレーズで黒い魔力を操作してもらえれば、それだけ隙が減る。


「……珍しく理に叶ったことを言うな。いつもは滅茶苦茶なことしかしないのに」


 滅茶苦茶なことは余計だ。


「まずは、そうだね。『腕モード』って言ったら、背中から腕を生やしてくれないかな?」

「分かった」

「次に、『防御モード』で、両腕に盾を作ってくれ」

「……分かった」

「『全身防御』で、飛竜の炎を超えた時みたいな黒い魔力で全身を覆う感じに」

「ああ、あれか。分かった」

「『コーガ専用!』って言ったら右腕を巨大化させてくれ。拳あたりに相手を逃がさないように捕獲用の黒い魔力を備えとくと尚いい。……それで一撃で奴を落とせるからね」

「ちょっと待て」

「え?」


 なにかおかしかったことでもあっただろうか?

 さすがに腕モードはネーミング的に尖りすぎてたかな?


「名前も何もかもおかしいが、あのバカ軍団長専用があるのがおかしいだろ」

「いや、率先して僕に戦いを挑んでくるコーガへの対策は当たり前だろ。あいつ、僕と戦うために平気で周りを人質にして脅してくるんだぞ……」

「まあ、それは正直同情する」


 そういう手段は取らないのは分かっているが、もしかしたらやりかねないと思ってしまうのが、コーガという魔族の性質の悪さだ。

 伊達に性格最悪を自称している訳じゃない。

 しかし、面倒くさいとは思っていてもコーガという人物を嫌っているわけではない。あいつもあいつで、フェルムと同様に複雑な生い立ちをしているから、憎むに憎み切れないのだ。

 それから、いくつか合言葉を決めた後に、ふと先日聞いた予知の内容を思い出す。

 僕がネアと共に、治癒爆裂波の進化系の技を出す……かもしれないという予知だ。


「僕が今考えている治癒爆裂波の発展型とは別の技なのかな……?」


 それとも、同じものなのか?

 技自体は見る前に予知が移り変わってしまったから、どんな技かは分からなかったらしいけど……そんな技を使う機会が来るのならば、万が一に備えて考えておいた方がいいな。


「……一応、治癒爆裂波用の形態も考えておくか?」


 右腕に黒い魔力で大砲のような発射口を形作ることで、衝撃が飛ぶ方向を固定すると言った感じで。

 イメージは打ち上げ花火、名付けるなら治癒八尺弾。

 花火の八尺玉のように治癒魔法の魔力を散らす、見栄えも治癒効果も期待できるミラクル技だ。

 ……八尺玉がどれくらいの花火かはぶっちゃけ知らないけども。


「……フッ、もしかして僕の発想力はずば抜けているのかもしれないな」

「ずば抜けておかしいだけじゃないか?」


 や、やかましい。

 しかし、この治癒爆裂波にも改良の余地はある。

 むしろ弾力付与とフェルムの黒い魔力により、可能性しか感じない。

 試しに右手の籠手で弾力付与した魔力を作り、それを左手に移してから、右手に魔力弾を作り出す。


「爆裂波に弾力付与を使えば……その上で闇魔法で……そして治癒飛拳を……待てよ、ここでネアの拘束の呪術と耐性の呪術を応用して……」

「う、うわぁ……ん?」


 掌の魔力弾をあれこれしている僕を見て、ドン引きしているフェルム。

 そのまま手元に集中していると、不意にハッとした表情を浮かべたフェルムが自身の闇魔法に包まれ、地面を伝って僕へと同化してきた。

 一瞬で魔族状態にされた僕は、驚きながら同化した彼女へと声をかける。


「どうしたの?」

『グレフ達のいる家から誰か出てきたんだよ!』

「なんだって? こんな時間に?」


 背中のブルリンに手をつきながら後ろへ振り返ると、ややおぼつかない足取りでこちらへ近づいてくる人影が見える。

 その身長と朧気に見える輪郭から誰かを判断した僕は、隠すように展開していた籠手を収めながら、その人影―――キーラに声をかける。


「キーラ、いったいどうしたんだ?」

「さっき、起きちゃって。ウサトさんは、どうして起きているんですか?」

「僕は見張りだよ。暗闇に乗じて魔物が襲ってこないとは限らないからね」


 ここは正直に話しても問題ないだろう。

 実際、その通りだし。

 しかし、きょろきょろと周りを見回したキーラは訝し気に僕へと視線を戻す。


「あの……ウサトさんは……誰かと話していたんですか?」

「!」


 窓からフェルムと話していたのを見られていたのか?

 いや、この角度からなら、ブルリンの身体でフェルムの身体は隠されているはずだ。

 見られたのは、誰かと会話している僕の姿のみだろう。

 幸い、僕自身も焚火の明かりで人間だとはバレていないようだ。


「ははは、こいつに話しかけてたんだよ」


 誤魔化すために、寝ているブルリンに手を置く。


「……え? も、毛布じゃない!? ま、魔物!?」

「紹介するよ。僕の相棒のブルリンだ。まあ、ついさっき寝ちゃったけどね」


 ぽんぽんと軽く叩くと「グフゥ」という気の抜けたような鳴き声を零すブルリン。

 その様子に苦笑しつつ、僕は自分の座っている場所を少しだけ移動し、キーラに座るように促す。


「立っていると寒いだろう。座るといい」

「あ、ありがとうございます」


 眠っているブルリンをちらちらと見ながら、僕が座っていた場所に腰を下ろし、ブルリンに背を預ける。


「……温かい」

「グルァ……」

「ひっ……」

「大丈夫大丈夫。人を傷つけたりしないから、心配いらないよ」


 身じろぎしたブルリンに怯える彼女に声をかけ、安心させる。

 落ち着きを取り戻した彼女に、どうしてこんな時間に起きてしまったのか尋ねてみる。


「あまり眠れなかったの?」

「ちょっと怖い夢を見てしまって……」

「怖い夢かぁ」


 エヴァの時を思い出すな。

 実際は、サマリアールに縛り付けられた魂に責められていたところを、彼女の母親と歴代のサマリアールの王達が守っていた話だったけれども。


「昼間に怖い思いをしたんだ。夢に出てもしょうがない」

「……はい」


 気落ちしたように項垂れるキーラ。

 これはどんな夢か聞くのは駄目だな。話題を変えよう。


「闇魔法の扱い方を教えてって言ってたよね?」

「はい」

「それは、どうしてかな?」


 そう訊くとキーラは戸惑いながらも返答する。


「私の闇魔法は、言うことを聞いてくれないんです」

「言うことを聞かない……?」

『この年頃の闇魔法使い手によくあることだな。闇魔法が使い手の感情を直接反映してしまっているんだ』


 囁くように呟いたフェルムの声を聞きながら、相槌を打つ。

 考えて動かしているのではなく、感情で動いてしまっているといった感じかな?


「ある程度は操れるんです。でも、カッとなった時や心細い時とか……嘘をつかれた時に、勝手に動き出して……」

「嘘?」

「……っぁ、いえ、なんでもありません」


 そのことは話したくないのかキーラは辛そうに口を噤む。

 もしかしたら、それがグレフさんの言っていたキーラの事情というやつかもしれないな。

 ここは、夢の話と同様に下手に追求しないほうがいいな。


「私、早く自分の魔法を自分のものにしたいんです。このままじゃ、グレフ達にも迷惑をかけてしまう」

「迷惑? 傷つけてしまうということ?」

「それもありますけれど、私のような闇魔法使いがいると、不気味に思われるのは当たり前だし。それが扱えていないと知られれば……」


 当たり前、か。

 闇魔法使いの境遇は理解しているつもりだったけれど、僕が想像していたよりも彼女達を取り巻く環境は悪いようだ。

 むしろ、フェルムやコーガのような前向きな闇魔法使いが珍しいだけなのかもしれない。

 僕は口元に手を当て思案する仕草を装い、フェルムに小声で話しかける。


「フェルム、どう見る?」

『こいつ、自分から魔法を意識的に遠ざけようとしてる。下手をすれば悪化するぞ』

「そうなると、どうなる?」

『こいつの意志を離れて暴走する。それこそ魔力が見境なしにな。元から自分の魔法にも関わらず、自分のものではないって認識しているから、そういう風に変質してしまうんだ』

「……」


 闇魔法は使い手の感情に左右される魔法。

 今、ここでそのことが頭に思い浮かんだ。


『放っておくって手もあるけど、お前に任せる。手助けするならアドバイスくらいしてやるよ』


 そうぶっきらぼうに口にしたフェルムに素直じゃないなぁ、と思いながら口元を隠していた手を離す。

 傍から見て無言だった僕にキーラが訝し気な視線を向けてくる。


「ウサトさん……? あの、迷惑でしたら断わっていただいても……」

「ごめん。少し考えごとをしてたんだ。闇魔法の扱いを教える話だけどさ、受けるよ」

「え……いいんですか?」

「短い間だけだけどね」


 期間は本当に短く、長くて二日くらいだろう。

 その間に、問題の解決とまではいかないけれど、その切っ掛けをこの子に与えなくてはならない。

 そう決心していると、相変わらずの不安な面持ちのキーラが、焚火越しに視線を向けてくる。その時、僕とフェルムは、彼女の影に異変が起きていることに気付く。


「本当……なんですよね?」


 彼女の影が、その心の不安と高揚を表すかのようにゆらゆらと動いている。

 それにキーラ自身は気づかずに、一心に僕を見て続きの言葉を口にする。

 その瞳は、ほの暗く―――焚火の炎の揺らぎに反射して、彼女自身の影と同じように闇が蠢いているように見えた。


「———嘘じゃ、ないですよね?」


 それは焚火の明かりを避け、タコの足のような動きで地面を這って僕を囲うようにして近づいている。

 こちらを襲おうとする様子はないが、彼女の意志とは別に動いていることは明白であった。


『ウサト。これ、やばくね?』

「……フッ」


 久しぶりすぎて忘れていたぜ……!!

 僕が旅で遭遇する人は高確率でなにかしらの問題を抱えているんだった……ッ!!

 割とネアとアマコの言っていることが正しいんじゃないかって考えて、思わず泣きたくなるのであった。

地雷設置完了ォ!!


今回の更新はこれで以上となります。


※『治癒魔法の間違った使い方』書籍版第十巻についての活動報告を書かせていただきました。

第十巻は今月、4月25日発売を予定しております。

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― 新着の感想 ―
[一言] 地雷処理班ウサト(処理後に嫁フラグが立ったり立たなかったりするオマケ付)
[一言] 地雷設置完了ォ!! ↑ 後は踏むだけだね!
[気になる点] キーラ闇&病み属性 [一言] ヤンデレが許されるのは少女までで成人してたら ホラー物になってしまうからねー(@_@)逆に幼女だと萌えポイントだけど成熟したヤンデレはメンヘラ化しやすい…
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